第5話「ハルカ&キョウカVSクレヘラス」
*
『ほほうほほうほほほほほっ!!
お主ら、想像以上にやるのうっ!!
自慢の我が“使い魔”達がこうもあっさりと倒されていくとはっ!!』
神湖の前から転移させられたアタシことハルカとキョウカは、気付いたら森に囲まれた一面緑の平野が広がる部屋にいて、目の前にはここへ来る前、“ワールドフラワレス”で出会った魔人、【魔獣使い】クレヘラスがいた。
クレヘラスが言うには、アタシ達以外の他の姉妹も別の部屋(この一見して外にしか見えない場所も、無限の広さを持つ部屋で、魔王ヤミから六魔皇達に与えられた魔王城内の一部屋らしい)、で、他の六魔皇と戦わされているようで、その六魔皇に勝つことが出来れば、魔王ヤミのいる間へと進めるらしい。
で、クレヘラスへの勝利条件、それは、
『ワシのかわいい“使い魔”達を全員倒すことが出来れば、お主らの勝ちじゃ。
素手で殴りあってもワシがお主らに勝てぬことは分かりきっておるでな、じゃからワシの命までは勘弁して欲しいのじゃよ。
なに、魔王様に誓って嘘は言わん。
ワシの全ての“使い魔”が倒されれば潔く敗けを認め、お主らに対するそれ以上の戦闘行為は行わず、魔王様の部屋に案内しよう』
というわけで、先程からクレヘラスが何十体という“使い魔”を次々と繰り出してくるのだった。
最初は身長2メートル前後の小型魔獣“ラプレックス”。
ラプレックスは群れで行動し、獲物を狩る習性があることから、同時に十数体現れてアタシ達に襲いかかってきたが、アタシは土の精霊術で、キョウカが腕と足だけを“妖狐”化した状態で繰り出す炎雷の妖術で、各個撃破していった。
続いて現れたのは三体の狛犬型の魔獣“シーザー”と三体のカブトムシ型の魔獣“ガロメ”。
ガロメは虫の姿をしているだけあって炎が致命的な弱点のため、キョウカの尻尾から放たれる九つの青い炎の刃、『獄炎刃』でキレイに三等分ずつされて灰と化した。
一方のシーザーは、巨大な牙と爪にさえ気を付ければどうということはない(あと動きが速いというのもあるけど)ので、アタシが『ハーフスピリット』で“土化”させた腕で牙と爪を砕き、最後はキョウカの『雷撃爪』で全身を切り裂いて倒した。
『ならばっ!こやつでどうじゃ!?
『“使い魔”召喚』!出でよ、我が愛しき魔獣、“バラギラス”っ!』
クレヘラスが地面に描いた巨大な魔法陣から出現したのは、四足歩行の巨大魔獣“バラギラス”。
体長が9~10メートル、体高が4~5メートル程もあるその魔獣は、背中に無数のトゲの生えた甲羅を持ち、鼻の頭からも2メートルはあろうかという長い角が生えている。
中途半端な攻撃は、そのトゲの甲羅で受けきられるし、おまけに鼻の上の角をドリルのように回転させることで地面に潜り、地中から飛び出してきて不意をつくという頭を使った攻撃もしてくる厄介な相手だが、
「相手が悪かったわね、土ならアタシの得意分野よ」
早速バラギラスは鼻の上の角を回転させて地面に潜ろうとするが、
「土の精よ、集え!『グランドジャベリン』っ!!」
アタシは地面に手をつくと、バラギラスの腹の下の地面から、無数の土の槍を出現させて、バラギラスの腹を貫いた。
『グギャアアアアアアアアッ!?!?』
確かに背中の甲羅は硬いが、腹はそこまで硬くはない。
バラギラスは腹から大量の緑色の血液を流しながらも、鼻の上の角の回転を止めず、そのまま地面に穴を開けて潜っていった。
「あ!逃げられちゃったぞ、ハル姉ぇ!?」
「問題ないわ、土はアタシの得意分野なんだから」
地面に潜ってくれたなら、むしろ好都合だ。
再びアタシは地面に手をつくと、ありったけの土の精霊を集め、地面の中へと向けて術を放った。
「千の土精よ、集え!『グランドオーバー』ッ!!」
この術は、土の精霊術最強の術であり、相手を地面と一体化させて封印することで、時間をかけて土の精霊へと浄化させるというもの。
かつて、アタシがアニぃと瀕死のギラドを封印する際に使った術だ。
強力な術だが、使用には莫大な精霊力と、そもそも対象が瀕死状態でなければ効果は薄く、完全に大地に封印される前に地面から抜け出されてしまう恐れがあるというデメリットがあるが、アニぃ達とのキスによってパワーアップしたアタシは精霊力を集めるための詠唱時間の短縮が可能となっている上に、対象がすでに土の中にいるためアタシが周囲から集めるべき精霊力はほとんどいらない(その場にあるからだ)、そして対象は先程の『グランドジャベリン』で瀕死に近い状態だ。
『グギャギャガァアアアアアアアッ!?!?』
地面の中からバラギラスの断末魔の叫びが聞こえた。
『ほほうほほうほーほっほほほっ!!
やるのぅ、やるのぅ!なんだか楽しくなってきおったわい!!
では次の相手はどうかの!?』
「ちょっ、まだいるの!?」
『当たり前じゃ!ワシを誰じゃと心得る?
ワシは【魔獣使い】じゃぞ!?
というわけで、『“使い魔”召喚』!出でよ、我が愛しき魔獣、“イカゲッソー”っ!!』
海生魔獣“イカゲッソー”、その名の通り体高10メートル近くもある巨大なイカの化物だ。
ちなみに発音はイカ↑ゲッソー↓、サルガッソーと同じと覚えればいい。
「海生魔獣だろうが関係ない!
土の精よ、集え!『サンドエッジ』!!」
アタシは土の精霊術を発動しようとしたが、術が発動しなかった。
「しまった!精霊力切れ!?」
すっかり忘れてたけど、ここは精霊力が無限に存在する“ワールドフラワレス”ではなく、精霊力の少ない“ワールドダークネス”。
『ほほほほっ!!どうやらお主の方はタマ切れのようじゃな!!』
「くっ、まさかこれを狙って雑魚魔獣ばかりを大量に!?」
術が不発に終わったアタシは、イカゲッソーの十本ある足の一つに捕らえられてしまった。
「くっ、不覚…っ!っていうかヌルヌルして気持ち悪いっ!!」
「…まったく、ハル姉ぇも世話が焼けるぞ~」
そう言いながら、キョウカが右手の爪に纏わせた炎で、アタシを捕らえていた足を切り裂いた。
「『炎撃爪』っ!!」
『キュオオオオオオッ!?!?』
「あ、ありがと、キョウカ!」
「どういたしましてだぞ!
それと、あのイカは自分が相手をするから、ハル姉ぇは下がっててね」
「あ、はい…」
キョウカに言われて下がるアタシ。
そうこうしている間に、キョウカが切り裂いたイカゲッソーの足が新たに生えていた。
「うげげっ、再生するの!?」
『ほほほほっ!!再生力の高い魔獣は数多いが、このイカゲッソーとビランテの再生力はダントツでのぅ』
「だったら、再生されるより早く倒すだけだぞ!」
キョウカは両手を地面に付き、九本の尻尾をピンと伸ばしてイカゲッソーへと向けると、尻尾の先に妖力を収束させる。
「『雷刃獄炎弾』っ!!」
九本の尻尾の先それぞれに、雷の刃を纏わせた青い炎の球が出現し、それらがイカゲッソー目掛けて放った。
『雷刃獄炎弾』は、炎の周囲に纏った雷の刃が対象の皮膚を焼き裂き、体内に入った炎が対象を中から焼き尽くすというなかなかにエグい術だ。
イカゲッソーは、十本の足で炎の球を弾こうとするが、纏った雷の刃が足を焼き切り落としていく。
結果、九つ全ての炎がイカゲッソーの胴体に当たり、その外皮を焼き切って、イカゲッソーを内部から丸焼きにしてしまった。
『キュオオオオオオッ!?!?』
さすがの再生力を持ったイカゲッソーでも、体内から核ごと燃やされてはどうしようもなく、黒い灰となって消えていった。
『ほほほほぅほほほぅほほほほほっ!?
まさかまさか!?ワシのとっておきのイカゲッソーが一撃で倒されるとは!?
さすがに、そこまでの力とは想像だにしておらんかったわい!』
「あ、あれ、一撃?
そんなに弱そうには見えなかったけど…?
当たり所が悪かったのかな?」
驚いているのはクレヘラスだけでなく、キョウカ本人もだった。
確かに、イカゲッソーは海では相当に厄介な魔獣だけど、陸上であっても決して雑魚ではなく、精霊術師数人がかりで倒すような相手だ。
そんな相手をただの一撃(九つの炎の球による攻撃だが、一撃は一撃だ)で倒したキョウカの実力は間違いなくアタシ達姉妹の中でも最強クラスの力を持っている。
「キョウカ、あなたの術の威力が強すぎたのよ。
自信を持っていいわ!」
「そうなの!?自分、ハル姉ぇよりも強い!?」
「そりゃ間違いなくね。
ひょっとしたらイツキにだって勝てるかもよ?
セイラは…、ちょっと底が知れないから分からないけど」
『うむうむ!間違いなくキョウカ殿は強いぞ!
それでいて未だ本気では無いというのじゃから末恐ろしいわい!
さて、ではそうなると、こちらも最後の切札を切らざるを得んのぅ』
すると、クレヘラスの魔力が急激に復活したのを感じた。
先程までに消耗した自身の魔力を、周辺のマナと呼ばれる自然魔力を吸収して補ったのだろう。
「キョウカ!気を付けて!
多分、これまでにないクラスの、最強クラスの魔獣が出てくるわ!」
「あわわわわっ!?よくは分からないけど、自分の尻尾がいつもよりピーン!てなってるからなんとなく感じるぞ!
とんでもなくヤバい、って…!」
『ほほほほほっ!!さぁ、魔獣の中でも最強クラスと呼ばれるコイツにお主らは勝てるかの!?
『“使い魔”召喚』!出でよ、我が愛しき最強の魔獣、“ガイガーン”ッ!!』
なっ、“ガイガーン”ですって!?
ガイガーンは妖怪“鎌鼬”を怪獣にしたような魔獣で、両手の鎌や腹部にノコギリのように並んだ鋭いトゲやバイザー型の単眼から照射されるレーザーなど、全身が武器となっている。
アタシも前世において魔獣ハンターの仲間達“デスサイス”のメンバー総掛かりで討伐したことがあったけど、曲者揃いの“デスサイス”でさえ苦戦を強いられた相手だ。
王国騎士団クラスの術師達でも最低十人は必要になるくらい強い魔獣だ。
だが、そこで予想外のことが起きた。
『…む!?どうしたことじゃ、これは……!?』
クレヘラスがガイガーンを召喚するために地面に描いた魔法陣が、まるで意思を持ったかのごとく、勝手に書き変わり始めたのだ。
と同時に、周囲のマナがさらに魔法陣の中心へと集まり始めたのだ。
『な、なんじゃこれは!?
こんな魔力、ワシには扱いきれんぞ!?
こんな魔力…、一体何処から…、ま、まさか魔王様が…?いや、しかし…、』
「ちょっとクレヘラス!一体何が起きてるの!?」
『分からん!!魔法陣が勝手に書き変わり、ワシの制御を離れおったんじゃ!!』
「制御不能ってこと…!?」
「はっ、ハル姉ぇ…っ!!なんかヤバいぞ!!さっきよりもヤバい感じがビンビンしてるぞ!!」
何が起きたのかは分からないが、少なくとも今魔法陣から召喚されようとしているのは、クレヘラスの魔力で制御出来ない程の魔獣、つまりガイガーン以上の強さの魔獣、というわけだ。
ガイガーン以上となると、アタシの知る限りギラドくらいしか……、いや、待って、そういえば噂で少し聞いたことがある。
史上最強最悪の最凶魔獣の存在を……
まさか…!?
『い、いかん!!お主らも逃げよっ!!これは…、コヤツとは戦ってはなら、』
次の瞬間、魔法陣から灼熱の放射熱線が周囲に放たれた。
魔法陣の制御に全魔力を費やしていたクレヘラスは、防御する間も無く、その熱線に巻き込まれて跡形もなく消滅してしまった。
アタシも咄嗟に土の盾である『サンドシールド』を張ろうとしたが、土の精霊力が切れていることを思い出し、万事休すかと覚悟を決めかけた時、キョウカがアタシの目の前に立った。
「キョウカ!?」
「光の精よ、集いて我らが身を守れ!『ホーリーシールド』ッ!!」
間一髪、キョウカが使用した光の精霊術『ホーリーシールド』によって、アタシ達は灼熱の熱線から身を守ることが出来た。
「ふぅ~…、間に合って良かったぞ…」
「今のはアニぃの加護で…?」
「うん、そうだぞ!とっさだったから上手くいくか分からなかったけど、なんとかなって良かったぞ!」
「キョウカ…、ありがと、助かったわ」
「くふふ~♪どういたしましてだぞ!」
本当にキョウカの判断力のおかげで助かった…
アタシはどうしても前世の戦闘経験が多いせいで、精霊術に頼りすぎてしまっている。
“ワールドフラワレス”ではそれで問題なかったのだが、こういう精霊力の限られた場面での戦いにも対応していかないと…!
「それよりも、アレ…、どうする…?」
キョウカが見上げているアレ、その魔法陣から召喚された巨大な魔獣は、体高20メートルくらいはあるだろうか、肉食恐竜、ティラノサウルスを思わせるようなフォルム、口からは鋭い牙、両手両足には鋭いカギ爪、首から尻尾にかけて並ぶ凶悪な背鰭、全身を覆う濃緑色の鱗、そして真っ赤な血管のような線が胸部を中心としてそこから全身に浮き上がっており、その線上からは真っ白な蒸気が漂っていた。
「間違いない…、アレは最強最悪の最凶魔獣、“ジラス”…っ!」
『グルゥオオオオオオオオオッ!!!!』
コントラバスの弦をコマから外した状態で、松脂を塗った手袋でしごいたような“ジラス”の咆哮が空気を震わせた。
*
先程の改変された魔法陣から出現した最凶魔獣ジラス。
いくらクレヘラスと言えど、ジラスを“使い魔”に出来る程の魔力は無い、というかジラスを“使い魔”に出来る程の魔術師なんて存在しないだろう(カナン姉ぇのように無限の魔力を持っていても、ジラスを制御出来るかどうか…)。
では何故、ジラスが召喚されてしまったのか?
一体何が起きたというのか?
「…考えていても仕方がないわね、脱出するための出口も見当たらないし、やるしかない!」
「で、でもハル姉ぇ?あんなのどうやって…、」
「核をピンポイントで破壊するしかないわ。
話でしか聞いたことないけど、ジラスの成体は50メートルから100メートルくらいにまでなるってことだから、あのサイズならまだ幼体、であるなら核も一つだけの可能性が高い」
魔獣は成長するにつれて核が増えていき、一つの核を破壊しただけでは、完全に倒すことが出来なくなる。
そのため、あのジラスがまだ幼体なら核は一つしかない可能性が高く、一つだけならやってやれないことはない。
「キョウカ、出し惜しみはなしよ、ここからは本気の本気でいくわよ!」
「分かったぞ!」
そう言うと、キョウカは着ていた戦闘スーツを早業で脱ぎ、裸になって両手を地面につくと、
「最初っからクライマックスでいくぞ!!『“銀毛”化』っ!!」
キョウカの全身を銀色の毛が覆っていき、狐の姿へと変化しながら大きくなっていく。
そして、体長4メートル程、体高2メートル程になったところで変身が完了した。
『コォオオオオオオオオンッ!!』
キョウカの全力全開の姿、“銀毛の九尾”だ。
キョウカが“銀毛”化すると同時に、空に雷雲が出現し、周囲に強風が吹き荒れ始める。
炎、雷、水、風、全ての属性の術を操るだけでなく、天候すらも思いのままに変える“銀毛の九尾”の力の影響だ。
『グルルルゥ…ッ!』
突然変わった天候に、ジラスは不快感を覚えたのか、その原因となったキョウカへと視線を向けると、口を開き、熱線を放射した。
『コォオオオオオオオオンッ!!』
対してキョウカは咆哮するだけで竜の形をした水流に竜巻を纏わせながら放ち、熱線にぶつけて相殺した。
『グルゥオッ!?』
『コォオオオオオオオオンッ!!』
まさか相殺されるとは思っていなかったのか、ジラスが一瞬驚いたような表情を見せたスキに、キョウカは、ジラスの頭上の雷雲から雷を落とすのと同時に、九本の尻尾の先から風の刃を纏わせた炎の球を連続でいくつも放った。
『グルゥアアアアアアッ!?!?』
並の魔獣なら、いや、例えガイガーンであっても、今の攻撃をまともに食らえば跡形もなく燃え尽きているところだろうが、ジラスはほんのわずかにダメージを受けただけで、その皮膚には傷らしい傷がついていなかった。
『くっ…、全然効いてないぞ、ハル姉ぇ!』
「ま、予想通りね…、だけど、ダメージは与えられてる。
これなら勝機はあるわ!」
ダメージを与えられるということは、スキも作れるということ。
そのスキさえあれば、核を一撃で仕留められる、そのための切札がアタシ達にはある!
さて、キョウカばかりに任せてはいられない。
アタシも本気を出すべく、体内の魔力を全身に集中させた。
「『“ギラド”化』ッ!!」
アタシは全身に金色の鱗と、背中から金色の翼、そして両手両足に鋭い爪を生やして、“ギラド”化を完了させた。
アニぃとの“使い魔”契約や、キスによるパワーアップなどでギラドの力をかなり使えるようにはなっていたが、それでも完全に意識を保ったまま行動出来るのは数分が限度で、完全なる“ギラド”化はまだ無理だ。
でも、その数分あればなんとかなる!
「キョウカ!あと少し時間を稼いで!
その間にアタシがアイツの核を見つける!」
『分かったぞ!!』
アタシは目に意識と魔力を集中させ、ジラスの体内を観察した。
魔獣には、本能的に相手の核の位置を察知する能力があるらしい。
だけど、完全な魔獣ではない、合成獣であるアタシにはそこまでの本能的察知能力はない。
だから、意識的に魔力を集中させ、超感覚をさらに研ぎ澄まして探さなければならない。
その間、無防備になってしまうため、単独での戦いでは致命的なスキとなってしまうが、今は頼れる妹がいるから安心して核探しに集中出来る。
アタシが核を探している間、キョウカは炎と雷を纏った右手の爪と、水と風を纏った左手の爪でジラスの皮膚を交互に切り裂いたり、水の刃を纏わせた炎の球を口から放射したり、風の刃を纏わせた雷の尻尾など、多種多彩な技でジラスを攻撃したが、頑丈なジラスの皮膚には傷一つ付かなかった。
一方のジラスは、口からの放射熱線や、熱を帯びた尻尾による攻撃、さらには体内の熱核融合炉を暴走させた体熱放射などで広範囲に攻撃してくる。
おかげで周囲の地形は様変わりし、一面に広がっていた森は燃え尽き、地面はまるで溶岩のように熱を持って脈動していた。
そんな中で、キョウカは本当によく戦ってくれていた。
無防備なアタシへと飛んでくる熱線を、水と炎で作った分厚い盾で防ぎつつ、的確に反撃してはダメージを与えていた。
しかし、いかに伝説クラスの神獣である“銀毛”であろうと、妖力には限界があり、先に力尽きるのは間違いなくキョウカだろう。
『くぅ…、さ、さすがに、そろそろ限界、だぞ……!』
「ゴメン、キョウカ…!あと少し…、もう少しで……!」
超感覚の酷使で脳がチリチリと焼けるような痛みを感じながらも、アタシの目はジラスの体内を隈無くスキャンしていく。
そして、ついに見つけた。
ジラスの脚の付け根、腰の辺りに一際黒く輝く塊。
間違いない、これがジラスの核だ!!
瞬間、ジラスの全身が沸騰したかのように熱を帯び、全身から白い水蒸気を撒き散らしながら、背鰭が尻尾の先から首に向かって徐々に青白く光っていく。
ジラスの最大術、『ハイパー・ハイドロジェン・デストロイ光線』、要は水素爆発を巻き起こす熱線だ。
あんなもの使われたら一貫の終わりだ!
でも、幸いなことにチャージに時間がかかる。
あの青白い光が首の後ろの背鰭に到達したら終わりだ。
「キョウカっ!!あの攻撃を全力で防いで!!」
『りょ、了解だぞっ!!』
キョウカが四本の足を地面に付き、九本の尻尾を一束にまとめてジラスへと向け、ありったけの妖力をそのまとめた尻尾の先に収束し始めた。
『これが自分の全力全開っ!!
『炎竜牙水爪風刃雷咆波』ッ!!』
水の爪と風の刃を纏った炎の竜が、口から雷を放ちながらジラスの首筋へと噛み付いた。
『グルゥオオオオオオオオオアアアアァアッ!?!?』
そこで初めて、ジラスの皮膚から僅かに緑色の血が吹き出た。
あのジラスの皮膚を傷付ける程の力を持つキョウカに驚きつつも、逆に言えば史上最強クラスの人間による最大最強の術を食らっても、たった1メートル程の傷しか付けられないジラスの防御力に驚嘆すべきか。
どちらにせよ、キョウカの攻撃で、チャージが一瞬止まった。
このわずかなスキを逃さない手はない。
アタシは切札であるアニぃからの加護を使った。
「光の盾よ、収束し、我が槍となりて敵を穿て!『ホーリージャベリン』ッ!!」
アタシはありとあらゆるモノを貫く最強の矛、『ホーリージャベリン』。
同じく槍型の『ホーリーランス』との違いは、『ホーリージャベリン』は基本投げるのに特化した術で、『ホーリーランス』には持ち手があって、それを武器として持って近接戦闘に使う術、らしい(まぁ、『ホーリーランス』も投げられなくはないけど)。
それはともかく、アタシはその『ホーリージャベリン』をジラスの核目掛けて力の限り投擲した。
『グルゥオオオオオオオオオアアアアァアッ!?!?』
『ホーリージャベリン』はその硬い皮膚を貫いてジラスの核に…、ギリギリ届かなかった…!
『グルルルルゥ…ッ!』
自らの急所に光の槍が突き立てられ、恨みがましい視線をこちらへ向けてくるジラス。
「くっ、なんつー硬さなの…っ!
だったら…っ!!無理矢理にでも…っ!!」
アタシは背中の翼で空へと舞い上がり、残った魔力を足へと集中させる。
ギラドの扱う魔術の属性は雷。
アタシは雷を纏わせた右足を下に向け、ジラスに刺さったままの『ホーリージャベリン』目掛けて急降下した。
「はぁあああああああっ!!
『ライジングサンダーキィイイイイック』ッ!!」
“擬似雷化”と重力加速度も加えた、目にも止まらぬ速度によるアタシの必殺キックが『ホーリージャベリン』の先端を押し込む。
そして、ジラスの体内に刺さった『ホーリージャベリン』の先端が押し込まれていき、ついに核へと到達した。
『グギャァアアアアアアアアアッ!?!?』
断末魔の悲鳴をあげながら、ジラスは頭から溶けるように消滅していった。
「や、やった…!」
「ハル姉ぇ、スゴいぞ…!」
全ての魔力を使い果たしたアタシと、全ての妖力を使い果たして元の姿に戻ったキョウカは、黒焦げた地面に横たわったまま拳と拳をぶつけて、しばらく勝利の余韻に浸っていた。
というより、お互いに力を使いすぎて全く動けないだけだったのだが。
…しかし、アタシ達は知らなかった。
アタシ達が倒れて動けずにいる今この時、もう一人の六魔皇がその場にいて、秘かに死んで消え行くジラスの細胞を回収していたことを。
*
ジラスを倒し、精魂果てたハルカとキョウカが床に倒れている側で、一人の男が溶けたジラスの体細胞を回収していた。
ちなみに、ジラスを倒した時点で特殊な空間は消えており、彼らがいるのは何も無い部屋、魔王城内の一部屋へと変わっていた。
『まさか本当にジラスの細胞が手に入るとは。
しかし魔王ヤミは何を考えているのか。
…まぁ、我には関係ないことか、彼女とは関わらないことを条件に自由にさせてもらってるんだからな』
その男は魔人だった。
六魔皇の番外位とされる、魔人の中でも異端中の異端、“ハゼス”、それが彼の名だった。
何故、今この場に彼がいるかというと、目的はただ一つ、最強最悪の最凶魔獣ジラスの細胞を手に入れるためだ。
この機会を逃せば後にも先にも二度とジラスの細胞を手に入れる機会など訪れないだろう。
では何故、今この時この場所にジラスが現れると知っていたのか。
それは、呼ばれたからだ。
『無事に回収できたようですね』
何処からともなく、彼の隣に現れた少女、彼女こそが彼をこの場に呼んだ張本人であり、ジラスをこの場に召喚した張本人、魔王ヤミだ。
『これはこれは、魔王ヤミ様、ご機嫌うるわしゅう』
『私に丁寧語など不要です、魔人ハゼス』
『それもそうだな、我らの関係は主従関係ではないのだからな。
お前さんのその喋り方も、そのためかい?』
『…コホン、そうだったな、この時の我はこういう喋り方だったか』
『?何の話だ?』
『こっちの話だ。
それより、手に入れたジラスの細胞から、核を培養し、それをもって合成獣を作ることは可能そうか?』
『…さてな、そればかりはやってみなきゃ分からないが、おそらくは出来るだろうさ。
しかし、何のために…、いや、これ以上お互いに干渉するのは契約違反だな、我はこのまま大人しく“ワールドシルヴァネア”へと帰るとしよう』
『うむ、健闘を祈っておるぞ』
直後、ハゼスは姿を消し、その場には魔王ヤミだけが残った。
『…さて、これで種は巻いた、後は芽吹くだけ。
願わくば、これで未来が変わりますように………』
直後、ガクン、と一瞬意識を失ったかのように項垂れた魔王ヤミだったが、すぐに立ち直った。
『…ん?我は何故ここにおるのだ?
……そうか、クレヘラスの奴が調子に乗って魔力を暴走させたせいでジラスなどという化物を呼び出しおったから、
さすがにマズイかと思って、いざとなれば手を貸すつもりでここに来たんだったが、どうやら無駄だったらしいな』
そう言いながら、ハルカとキョウカの側へと近付く魔王ヤミ。
どうやら、二人は力尽きて眠ってしまっているようだ。
『ふむ、であるなら好都合、このまま二人を連れて行こう』
魔王ヤミがパチンと指を鳴らすと、床から触手が現れ、二人を拘束すると、そのまま魔王ヤミ共々床の中へと消えていった。




