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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第1章~ワールドフラワレス~
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第5話「合成獣(キメラ)」

*


 アタシ、ハルカ・スカイシーは夢を見ていた。



『これが唯一のチャンスだ。

 あの落とされた真ん中の首の切断面から、俺がヤツの体内に入り、ヤツを体内から電撃で焼き尽くす。

 その後は、ミハル、頼んだぞ』


『嫌だ、嫌だよ、アニぃっ!!

 それだとアニぃが…!』



 これは、アタシ…、いや、伝説の魔獣ハンター【グランドクイーン】ミハル・レーゲンスの記憶。


 ミハルとその兄、【雷神】ヨウ・レーゲンスの両親の仇である最凶最悪の魔獣・ギラドとの戦いにおいて、仲間の二人、【ファイヤーガンマン】のガンジさんと【モノアイス】のカエデちゃんの死という犠牲を払ってまで得た、唯一のチャンス。

 仲間の二人が三本ある首の内の真ん中の一つを命懸けで吹き飛ばし、その吹き飛ばされた首の切断面からヨウがギラドの体内に侵入し、彼の雷の精霊術でギラドを体内から焼き尽くす。

 そして、最後にトドメをさすのが妹のミハルというわけだ。


 だがそれは、ミハルにとって、兄を一人の男性として慕う妹にとっては、あまりにも残酷な役目であった。



『…じゃあな、ミハル、またいつか、来世で会おうな』


『嫌だよ、アニぃいいいいいっ!!

 アタシを一人にしないでぇええええええええっ!!』



 そこでアタシは目を覚ました。



「兄を妹に殺させるなんて、本当に最低な兄だよ、アニぃは……」



 アタシは、頬を伝う涙をぬぐうと、ベッドを降り、洗面所へと向かった。



 突然、アタシのアニぃだと名乗る人物が現れてから三日、あの日から毎晩ミハルの夢を見るようになった。

 それは、これまでにも何度か見てきた夢より、もっと鮮明で、細部までハッキリとした、そう、まさにミハルの記憶を追体験していると言っても過言ではない程ハッキリとした夢だった。


 洗面台に冷たい水を浸し、顔を洗いながら考える。

 そうだ、もう間違いない。


 アタシは、ミハル・レーゲンスの生まれ変わりで、ヨウイチと名乗ったあの男の、“妹”なんだ。



 そう自覚した時、アタシの顔は真っ赤になり、そして自然と頬が緩むのを止められなかった。



「来世で会おうな、か…」



 アニぃ、ちゃんと約束守ってくれたんだ…

 えへへ…♪



「…っと、いやいや、何を笑っているんだ、アタシは!

 あの馬鹿アニぃは、妹のアタシにアニぃを殺させた極悪人だぞ!

 ちゃんとその罪滅ぼしをしてもらわないとな、うん!!」



 冷たい水で数回顔を洗い、真っ赤になった顔を冷やしたアタシは、そのまま着ていた服を脱ぎ、シャワー室の扉を開けて中に入り、頭からシャワーを浴び、全身の汗を流す。


 たっぷり十分程シャワーを浴びてから、とっておきの深紅のワンピース(アニぃは確かワンピースが好きだったはず)を衣装ケースの中から取り出して着る。

 その後、化粧机に座り、鏡とにらめっこしながら苦手のメイクを最低限施す(アニぃは濃い化粧はあまり好きじゃなかったからな)。



「さて、今日はちょうど王国騎士団としての仕事は休みだ!

 敵情視察も兼ねて、アニぃに文句でも言いに行ってやるか!」



 そう、これはあくまでも敵前視察、対人決闘においては未だ無敗を誇るカオル様が万が一にも負けるとは思えないが、しかし相手はアタシの知る限り史上最強の“雷の精霊術師”にして、アタシの自慢のアニぃであるヨウの生まれ変わりだ。

 


「そう、だから別にアタシがアニぃに会いたいからとか、そんな理由じゃないんだからなっ!!」



 ミハルの生まれ変わりであることを自覚したアタシは、新たな任務を自らに課しながら、家を出るのだった。



*


 俺達がこの世界に転移してきてから三日経った。

 その間に、俺とカズヒは兄妹同士でも子供が作れるようになるためのちょっとした遺伝子手術を受けたり、メイさん指導によるスパルタ筋トレ地獄をしたりと、なんやかんやで慌ただしく過ごしていた。

 また、イツキ達とのキスも、朝起きてからと入浴中(あれから毎日俺たちは三人で風呂に入ることになったおかげで、三人の裸を見ても鼻血を出して気絶することは無くなった)と夜寝る前、日に三回行い、少しずつ能力もパワーアップしてきた。


 この日も、朝食を終えた後からイツキとカズヒと共に精霊術の特訓を行うことになっていたのだが、予期せぬ来訪者を迎えることになった。



「ハ…、ハルカさん!?そ、その姿は…!?」


「か、カワイイー!!」



 その来訪者とは、深紅のワンピースに身を包んだ絶世の美少女、我が前世の妹であるミハルの生まれ変わりだと思われる王国騎士団副団長のハルカだった。

 ボーイッシュな見た目に、勝気な性格のハルカが女の子らしい恰好をしているというそのギャップに、俺だけでなく我が現世の妹様であるカズヒも大興奮らしく、思いっきり正面から抱き着いていた。



「ちょっ、いきなり抱き着いてこないで!?」


「ハルカさん、その格好は一体…?

 …いえ、そうですわね、お兄様に会いに来られたんですものね、その格好も納得ですわ」


「ちっ、違っ!?誰がアニっ、いや、その男に会いになんかっ、」


「もういい加減、お認めになってはいかがですか?

 あなたはお兄様の妹であり、わたくし達の姉妹なのですわ」


「い、いや、アタシはっ、」


「でもその格好、俺の好みに合わせて着てきてくれたんだよな?

 とてもよく似合ってるよ、可愛い」


「ア…アニぃ……」



 ハルカは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 うん、前世でもこうだったよな、俺が可愛いって言うと、黙り込んでうつむく癖があった。

 ハルカは恥ずかしがり屋なんだな。



「おやおや、お兄ちゃんにカワイイって言われて照れちゃってる?」


「う、うるさいうるさいうるさい!」


「それよりもハルカさん、お兄様に会いに来られたのはいいのですが、今日は王国騎士団のお仕事はよろしいのですか?」


「きょ、今日は非番の日だったから…

 だからアニぃに…、じゃなくてっ!

 カオル様のために敵情視察に来ただけなんだからっ!

 本当にそれだけなんだからっ!!」


「はいはい、そういうことにしておいてあげますわ。

 …お兄様はどうされます?」


「そうだな、まぁわざわざ俺に会いに来てくれた可愛い可愛い妹を無下に帰すわけにもいかんしな、せっかくだし、今日なハルカと久しぶりに“遊ぶ”か!」


「ア、アニぃ…!うん!一緒に“遊ぼう”!!」


「ハルカちゃんめちゃくちゃ嬉しそう」


「物凄い勢いで尻尾を振っているのが幻視出来ますわね」



 というわけで、俺達は川を挟んだイツキの屋敷の前の広場(俺達の世界における俺達の実家がある場所だ)に集まり、そこでトレーニングウェアに着替えた俺とハルカは入念な準備運動をした後に向かい合う。



「あ、あの~、お兄ちゃん達…?」 

 

「あの、お二人は遊びに行くのではなかったのですか?」


「ん?ああ、俺たちの“遊ぶ”っていうのは、」


「全力で試合をするって意味なの」


「「ええっ!?」」



 とはいえ、お互いにケガをさせないレベルでの試合だ。

 前世での戦績はお互いに五分と五分といったところだったか。

 しかし、今の俺ではさすがに現役の王国騎士団副団長様とまともにやって勝てるとは思っていない。


 だから、



「じゃあ、始めるわよ!」


「ああ、行くぞ、ハルカ!」



 お互いに術の詠唱を始める。



「土の精よ、集いて我が半身となれ!『ハーフスピリット』!」


「雷の精よ、集いて我が身と一体となれ!『スピリット』!」



 ハルカは右腕に土で出来た小手のような防具を纏う。

 同時に俺は全身に雷の精霊を纏うことで“雷化”する。


 “雷化”した今の俺は雷の精霊術であれば無詠唱で使うことが出来る。

 だが、“雷化”の恩恵はそれだけじゃない。

 雷そのものとなり、常人以上の思考速度と行動速度を得た俺は、まるで止まったかのように思える世界の中、ハルカの死角となる場所、左斜め後ろへと回り込んだ。



*


 アニぃが【雷神】と呼ばれる所以の一つ、それがアニぃが持つオリジナル術『スピリット』だ。

 イツキの『スピリット』は炎の精霊と一体化する“炎化”で、その主な特性は全身を炎とすることで物理攻撃の一切を防ぐ、というものらしい。

 一方、アニぃの『スピリット』は雷の精霊と一体化する“雷化”で、その主な特性は思考加速と行動加速。


 要するに加速装置のようなものだ。

 誰よりも速く思考し、動けるということはそれだけで脅威だ。

 何せこちらが一つの動作をしている間に、アニぃは何十もの動作が出来るのだ。

 普通に考えて勝ち目はない。



「でも、アタシには通じない!」



 前世で何度も何度もアニぃと“遊んで”きたんだ、その対処法は心得てる!

 アタシは雷となったアニぃが移動する際に発生する電位差を感じ取るために精神を集中させた。

 わずか一秒にも満たない一瞬、パリィッと左肩あたりに電位差が生じたのを感じる。


 感じるのとほぼ同時、アタシは『ハーフスピリット』によって土を小手状にして強化した右腕をアタシの左斜め後ろへと突き出した。



「やぁあああああああっ!!」



 突き出した拳は確かな手ごたえを感じた。

 だけど、アタシが殴ったのはアニぃの身体ではなく、



「光の、盾…!?まさかっ、」


「悪いな、どんな攻撃も防ぐ光の精霊術『ホーリーシールド』だ」



 次の瞬間には、再びアタシの背後へと回り込んでいたアニぃがアタシの左肩に軽く手を置いた。



「はい、俺の勝ちだな」



*


 今の俺がハルカに勝てるとするなら、前世のハルカが知らない、今の俺にしか使えない技を使うしかない。



「光の精よ、集いて我が身を守れ!『ホーリーシールド』!」



 俺は移動しながら同時に光の精霊術を詠唱し、『ホーリーシールド』を展開した。

 ハルカなら、俺が移動する先を目ではなく、感覚で捉えることが出来るだろう。

 だから、あえて俺の移動場所を分からせた上で罠をしかけた。


 そして、俺の思惑通り、俺が移動した先を捉えたハルカは、それこそ常人離れした反射神経で『ハーフスピリット』で一部だけ“土化”させたその右拳をまっすぐ突き出してきた。

 しかし、ハルカの右拳が殴ったのは光の盾である『ホーリーシールド』。


 【雷神】なんていう大層な二つ名で呼ばれていた頃の俺には使えなかった光の精霊術。

 二つの前世の記憶を思い出し、イツキ達とのキスの効果によりパワーアップした今の俺だからこそ出来る、雷の精霊術と光の精霊術の同時使用。


 ハルカが『ホーリーシールド』を攻撃しているスキに、再びハルカの背後へと回り込んだ俺は、優しく彼女の左肩に俺の左手を置いた。



「はい、俺の勝ちだな」


「…光の精霊術も使うなんて、アニぃはズルい」



 そこで俺は“雷化”を解き、同時にハルカも“土化”させた右腕を元に戻した。



「……え?もう終わり?」


「今の一瞬で何が起こったんですの…?」



 カズヒとイツキがポカーンとした顔で俺たちを見ていた。

 まぁ、それもそうだよな、試合開始からわずかに一秒程しか経過していないのだから。



「そ、それよりも、ハルカさん!

 あなたの使った『ハーフスピリット』という術はなんですの!?

 わたくし、そんな術見たことも聞いたこともないのですけど!?

 ハルカさんそんな術を使えましたの!?」



 我に返ったイツキが早速ハルカに詰め寄った。



「え?あ、ああ、そっか、そう言えばこの術は今まで使ったことなかったわね、というより、記憶を取り戻してからこの術のことを思い出したからこれまで使えなかっただけというか…」


「やはり前世の記憶を思い出してるんじゃないですの」


「はっ!?い、いや、これは、その…!」


「ハルカちゃん、もう今更誤魔化したって意味なくない?

 そもそもお兄ちゃんと“遊び”をしてる時点で、お兄ちゃんの前世の妹であることを認めてるじゃん」


「うぐぅ…」


「そんなことより、術の説明を!」


「うぅ…、分かったわよ…

 『ハーフスピリット』は、アニぃの『スピリット』を真似て編み出したアタシのオリジナル術よ。

 身体の一部を“土化”させることで、防御にも攻撃にも使える術として作ったの。

 一般的な弾丸や魔術攻撃も防げるし、コンクリートくらいなら砕ける程度の強度はあるんだけど、さすがに最強の盾である光の盾には全く通じなかったみたいね」


「なるほど。

 しかしハルカさんは“雷化”したお兄様の動きが見えていましたの?」


「ああ、それは、」



 と、その時、屋敷からセイさんが走りながらこちらへと向かってきた。



「イツキちゃん、ハルカちゃん、大変だよ!」


「まさか、また魔獣が現れましたの!?」


「何の魔獣ですか!?」


「そ、それが、見たこともない魔獣らしいの!」


「なんですって!?」


「なんだって!?」



 それから俺達は、急いで戦闘用の服に着替えて、見たことも無い魔獣が現れたという場所へと向かった。



*


 現場は俺達の家から比較的近い場所だった。

 近づくにつれ、確かに魔獣らしき気配を感じられるようになってきた。

 だが、魔獣にしては魔力の質が悪いのか、先日ガロメが出現した時のようなはっきりとした気配を感じられない。



「一体なんなんだこの変な気配は…?」



 サウスダイリ地区(俺達の世界では門司区新原町あたりのことだ)にあるフラウ王国国営研究施設第2支部(驚いたことにこの建物のある場所は、俺達の世界では小学校のある場所だった、しかも俺達の母校の!)がその現場ということだったが、現場は惨憺たる状況となっていた。


 その研究施設は周りを木々に囲まれた場所にあり、建物は中央をくりぬいた正方形型の作りをしていたようだが、俺たちから見て左側の辺と下側の辺の建物が見事に破壊されており、施設の至る所から煙が上っていた。

 そして、その施設から逃げ出したと思しき、禍々しい獣たち。



「何、あの化物!?」


「うげげ…、犬の頭にヘビの身体をした怪物に、トカゲの頭にあれってコウモリの身体?」


「あっちには猫と犬の頭を持ったキリンのような化物もいますわ」


「他にもよく分からん生物を混ぜ合わせたような化物が複数…、あれらは魔獣と言うより、合成獣、キメラって感じだな」



 そう、まさにアニメやマンガでよく見る複数の生物を掛け合わせた化物、キメラとしか表現しようのない化物達が施設を破壊し、施設から逃げ惑う研究員らと思しき白衣を着た人々を襲っていた。



「この研究施設で何を研究してたのかは後で追及するとして、まずは研究員の人達を助けないと!」


「そちらはハルカさんにお任せしますわ!

 わたくしは周辺の人々の避難を!」


「あたしはイツキちゃんの手伝いを!」


「なら、俺はハルカと一緒に、あの化物どもの相手だな」


「大丈夫だよアニぃ、あの程度ならアタシ一人でも十分!」



 そう言うとハルカは右手を地面につき、詠唱を始めた。



「土の精よ、集いて我が私兵となれ!『ゴーレムクリエイト』!」



 詠唱が終わると、ハルカを中心に地面がボコボコと浮き上がり、次第に人型を為していく。

 ハルカが前世でも得意としていた、もう一つのオリジナル術『ゴーレムクリエイト』により、五体の土人形“ゴーレム”が創造された。



「『ゴーレムクリエイト』ですって!?

 ハルカさんはそんな精霊術まで使えたんですの!?」


「まぁね、これは『ハーフスピリット』みたいな物真似じゃなく、正真正銘、アタシにしか使えないアタシのオリジナル術!

 さぁ、かわいいアタシのゴーレム達よ、あの化物達をやっつけちゃいなさい!」



 ハルカが命じると、五体のゴーレム達がまるで各々の意思をもっているかのごとく、キメラ達に向かって行く。



「なっ…、しかも、一体一体が別々に行動しているですって…!?

 どうやってあんなに正確に操作しているんですの!?

 いえ、そもそもどうやってゴーレム達を動かしているんですの!?」


「ん~、その辺はアタシにもよく分からないんだよね」


「わっ、分からないぃーっ!?」


「まぁ、細かいことはいいでしょ。

 そんなことよりイツキは早く周辺の住人の避難を!」


「え、ええ、分かりましたわ…」



 なおもハルカのゴーレムに興味津々な様子のイツキだったが、やるべきことをするために『スピリット』を唱えると、カズヒと共に住人の避難誘導に向かった。


 イツキも気になっていた通り、ハルカのオリジナル術『ゴーレムクリエイト』には謎な部分がある。

 土の精霊の力でゴーレムを作ること自体はやろうと思えば出来なくはない術だ。

 だが、それはあくまで土の人形を作るだけで、それを動かすとなると話は別だ。

 ただ土を固めて作っただけの人形が普通は動くはずがない。

 ましてや、術者の命令を受けて自由自在に動くなど、本来ならばありえない。

 だからこそ普通の術者は『ゴーレムクリエイト』なんて術は使わない、使うだけ無意味なのだ。

 ハルカの創造したゴーレムが何故動くのか、その理由は分からない。

 ひょっとすると、カズヒが目覚めたという超能力のような、精霊術とは違う別の能力によるものなのかもしれないが、今気にすべきはそこではない。



「あのキメラたちじゃない…」


「え、何が?」


「いや、確かにこの辺で微量な魔力のようなものを感じるんだが、あのキメラ達からは魔力を一切感じないんだよ…」


「魔力を感じる?アニぃは魔力を感じられるの?」


「あ、ああ…、何故かは知らないけど感じるっていうか…、恐らく俺の別の前世に関わってることが理由だとは思うんだけど…」



 そうだった、普通の人間や精霊術師には魔人、及び魔獣の持つ魔力を感じる能力は無い。

 だから恐らくこの魔力を感じる能力は、俺の別の前世が関わっているとは思うのだが、それもまた今考えるべきことではない。



「それよりも、この近くにはまだ別の何かがいる、魔獣ではないけど、魔獣に似た何か、微小な魔力を持った何かが…」



 そう言っている間に、ハルカの作ったゴーレム達が次々とキメラ達を倒していく。

 このキメラ達の戦闘能力自体は普通の獣に毛が生えた程度しかないようだ。

 とはいえ、戦う力を持たない一般人には十分脅威ではあるが。


 ある程度のキメラ達を倒したところで、俺達は建物の方へと近づいていき、そこで倒れていた白衣の研究員と思しき男に声をかけた。



「大丈夫ですか!?」


「う…、あ、ああ…、なんとか…」


「ねぇ、ここで何が起こったの?

 それにあのキメラ達、あんた達ここで何の研究をしていたの?」


「わ、我々は…、魔人達に対抗すべく、新たな戦力を生み出そうと…、魔獣達の、細胞を使って……、」



 と、その時、建物の奥から、先ほどから感じていた微小な魔力を感じた。

 同時に、不気味な金属音のような、獣の鳴き声も聞こえてきた。


 この鳴き声…、まさか……!?



「ア…、アニぃ、今の鳴き声って……!?」


「ああ、嫌な予感がする…!」



 俺とハルカは研究員をその場に残し、瓦礫と化した建物の中を鳴き声の聞こえた奥へと向かって進んでいく。


 奥の方で激しい爆発が起こった。

 建物のスプリンクラーがその役目を思い出したかのように発動し、辺り一面が煙とスプリンクラーの雨に覆われる。

 その中から、わずかに見えた二枚の巨大な翼と、赤く光る六つの瞳。



「やっぱり、間違いないみたい、だな…!」


「まさか…、なんでアイツがこんな所に…!?」



 二枚の巨大な翼が煙を吹き飛ばすと、中から三本の首を持った獣が金属音のような咆哮をあげた。



『『『ギャオオオオオオオオオオオオオッ!!』』』


「魔獣ギラド…!

 なんでアンタがこんな所にいるのよッ!?」



 そいつは、かつて俺達兄妹(きょうだい)を死別させた原因となった、三つ首の最凶魔獣ギラドだった。

 だが、俺たちが戦ったギラドは体高が100メートルくらいで、頭からしっぽまでの全長が200メートルくらいはあったが、今目の前にいるギラドは体高3メートルほど、全長は5メートル程度しかない、かなり小さい個体だった。

 いや、違いはそれだけではない。



「ねぇ、アニぃ、あのギラド、何か変…」


「ああ、確かに」



 首が三本ある点は共通しているが、その頭部は本来のギラドのような龍を思わせるものではなく、右の首がトラ、真ん中の首がタカ、左の首がバッタという実に奇妙な組み合わせをしていた。



「タカ、トラ、バッタ…、タトバ……」


「タトバ…?何、それ?」


「ああ、いや、こっちの話だ。

 首だけじゃない、本来のギラドは尻尾が八本あったが、一本しかない」


「ねぇ、アイツもひょっとしてキメラ、ってこと?」


「ああ、そうだろう。

 だけどただのキメラじゃない、恐らくは本物のギラドの細胞が使われた、“キメラギラド”ってところだろう」


「本物のギラドの細胞が…!?」


「じゃなきゃ、わずかにヤツから感じる魔力の説明がつかない!」


「…ッ!!」



 そこで、ようやく俺達の存在に気が付いたというかのように、キメラギラドの真ん中のタカの首が俺達へと向かって電気をまとった魔力光線を吐いた。



「光の精よ、集いて我らが身を守れ!『ホーリーシールド』!!」



 俺とハルカの前に二人を守れるだけの広範囲版『ホーリーシールド』を張り、ヤツの放った電撃を防ぐ。

 そのスキにハルカがキメラギラドを攻撃するべく詠唱を行う。



「土の精よ、集いて敵を討て!『サンドエッジ』!!」



 土の塊を生み出し敵を攻撃する、土の精霊術の中の基本術『サンドエッジ』がキメラギラドの皮膚を抉っていく。



『『『キュララララララァアアアアアッ!!』』』



 キメラギラドが悲鳴をあげながらわずかに後ずさる。



「アイツの皮膚、本物よりも脆い!」

 


 本物のギラドであれば、あの程度の術では傷一つ付かなかっただろう。



「ああ、だが…!」



 しかし、キメラギラドの傷ついた皮膚はゆっくりと元に戻っていった。



「再生力が高い?ギラドにそんな能力なんてあったの?」


「どうだったかな…

 確かに、ギラドは首を一本失ったくらいじゃ死ななかったが…」



 俺達がギラドを倒せたのは、失った首の切断面から体内へと入り、ヤツの全身を体内から電撃で焼き尽くし、炭となりかけていたところをミハルの術で地中深くへと埋めて封印したからだ。

 もし、ギラドに再生能力があったというのなら、あの時俺達がヤツを倒せたのは、俺達の攻撃がヤツの再生能力を上回れたから?



「だとするなら、同じことをするだけだ!ハルカ、一気に決めるぞ!」


「分かったよ、アニぃ!」



 俺は左手で『ホーリーシールド』を維持しながら、右手に今度は雷の精霊力を集めるため詠唱を始めた。

 それと同時にハルカも両手を前に突き出し、土の精霊力を集めるための詠唱を始めた。



「雷の精よ、集いて矢となり敵を討て!」


「土の精よ、集いて我が槍となり敵を討て!」



 俺の右手を中心に五本の雷の矢が、ハルカの周囲に1メートルくらいの長さの土で出来た槍が十本出現した。



「『サンダーアロー』!!」


「『グラウンドジャベリン』!!」



 同時に術名を叫ぶと、五本の雷の矢と十本の土の槍がキメラギラド目掛けて飛んでいく!



『『『ギュラララララアァアアアアアアアッ!!??』』』



 全身を雷の矢と土の槍で貫かれたキメラギラドは断末魔の悲鳴をあげながら床へと倒れていく。



「ハルカ!とどめだ!」


「うん、まかせて!来れ千の精霊!」



 ハルカが両手を地面につくと、ハルカを中心に周囲の土の精霊たちが集まってくる。

 土の精霊術の最強術『グラウンドオーバー』、これを放つためには莫大な精霊力を集めるために、それなりの時間をかける必要がある。


 その間、俺はハルカの盾となり、ハルカをキメラギラドの攻撃から守りながら、『サンダーアロー』でキメラギラドに少しずつでもダメージを与えていく。

 やがて、充分な精霊力がハルカの元に集まると、ハルカは仕上げの詠唱を始めた。



「集いし千の土精よ、我が力となりて敵を討て!『グラウンドオーバー』!!」



 キメラギラドを中心とした床が地面ごとひっくり返り、キメラギラドをその大地の下へと封じ込めた。

 この術は、かつてハルカが俺ごとギラドを大地に封印する際に使った土の精霊術最強の術であり、相手を地面と一体化させて封印することで、時間をかけて土の精霊へと浄化させるというものだ。

 かなり強力な効果の術ではあるが、封印するべき相手が瀕死状態でなければ効果は薄く、完全に大地に封印される前に地面から抜け出されてしまう。

 おまけに先ほど言った通り、莫大な土の精霊力を集めるための時間が必要であるため、単独ではおいそれと使えない術でもある。

 この辺りのデメリットはどの属性の最強術においても同じだ。

 

 だからこそ、イツキの“炎化”はかなり異常なのだ。

 詠唱もいらずほとんど時間をかけずに最強術『インフェルノバースト』と同程度の威力である『バーニングエンド』を使えるのだから。



「…やったか?」


「ちょっとアニぃ、そのセリフはフラグだから止めて」



 だが、キメラギラドは地面から飛び出してくることも無く、無事に封印されたようだ。



「ふぅ、無事封印出来たみたいだな」


「本当に…

 『グラウンドオーバー』なんてあの時使って以来だったから不安だったけど、なんとか使えて良かったわ」


「そうか、それはそうだろうな、『グラウンドオーバー』を使わなきゃいけない相手なんてそうそういないだろうからな」


「まぁね。

 さて、とりあえずここの生き残った研究員から色々と話を聞きたいところだけど…」


「その前にイツキたちと合流しよう。

 もう魔力は感じないから大丈夫だとは思うけど」


「そうね。住民の被害状況も気になるし」



 ちょうどそこへ王国騎士団の兵である少女達が数人到着したため、この場を彼女らに任せて俺とハルカはイツキとカズヒと合流するために建物を後にした。




*


 その後、イツキ達と合流した俺達だったが、詳しい状況を知りたいという王国騎士団側の要求で、キメラギラドを相手にした俺とハルカは王都小倉(こくら)タウンセントラル地区にある王国騎士団小倉(こくら)本部(驚くべきことに、そこはなんと俺達の世界においては小倉(こくら)城のある場所だった)へと赴き、簡単な事情聴取を受けた後、ハルカは非番でありながらその後の後処理のために基地に残り、俺一人が帰路に就いた時にはもう夕方を過ぎていた。


 ちなみに、被害に遭ったのはフラウ王国国営研究施設第2支部の建物と、そこで働く研究員数名が重軽傷を負った程度で、一般市民の被害は皆無だったという。



「はぁ~…、しかし事情聴取なんてのは何処の世界でも似たようなもんなんだな…

 やたらと細かいことを聞かれては、小難しい文章に訳されてそれを何度も復唱させられて間違いがないことを何度も確認させられる…」



 まぁ、俺よりかわいそうなのはハルカの方だな。

 非番の日にわざわざ可愛らしい深紅のワンピースを着て俺に会いに来てくれたのに、事件に巻き込まれたせいで休日返上で働かされてるんだから。

 今度会ったら、思いっ切り可愛がって労ってやろう。



 そう思っていた翌日(俺達がこの世界に来てから四日目)の朝、再びハルカが俺達の家にやってきたのだった。

 今回はワンピースでこそなかったが、白いノースリーブシャツに赤いハーフパンツという明らかに私服スタイルだった。



「あらハルカさん、今日もお休みですの?」


「ううん、昨日が休日出勤みたいな形になっちゃったから、今日はその振替で休みをもらったんだ」


「へ~、王国騎士団ってホワイト職場なんだ!」


「というより、カオル様の温情…、ううん、違うわね、女の子に優しくすることで自分の株をあげておきたい、というようなところじゃないかしら?」


「ま、理由はどうあれ休みがもらえたんなら良かったじゃないか」


「そうね、おかげ様でこうしてアニぃにまた会え…、ゴホンッ!

 敵情視察が出来るわけだし!!」


「「相変わらずハルカさん(ちゃん)はツンデレですわね(だね~)」」


「誰がツンデレよ!?」



 相変わらず可愛い我が妹だ。

 俺は無意識の内にハルカの頭を撫でていた。



「あ…、アニぃってばいきなり…、もう、恥ずかしいよアニぃ……」



 口では否定的なことを言いつつも、満更ではなさそうな表情を浮かべるハルカ。

 そんなハルカをイツキは微笑ましく見守りながら、昨日から気になっていたことを尋ねた。



「それよりもハルカさん、昨日の件なのですけど、あのキメラたちは結局何だったんですの?」


「え?ああ、あれはまだ調査中、というか、カオル様が調査に関する全権を預かることになってて、アタシもまだ詳細は分からないのよね」

 

「そうなんですか」



 そう答えるハルカの頭を撫でながら、俺はあの時助けた研究員の言葉を思い出していた。



『わ、我々は…、魔人達に対抗すべく、新たな戦力を生み出そうと…、魔獣達の、細胞を使って……、』



 魔獣達の細胞を使ったキメラ実験、それがあそこの研究施設で行われていた実験だったのだろう。

 王国騎士団であるハルカが知らなかったという王国国営研究施設でのキメラ実験。


 とはいえ、魔獣の生体や弱点などを研究する目的で、あえて生け捕りにした魔獣を使った生体実験などは普通に行われているらしい。

 だが、それら魔獣の細胞を他の生物の細胞と掛け合わせたキメラを作り出すことは明らかな禁忌であり、違法である。

 そんな違法性の高い実験を誰が指示し、許可したのか?

 そして、それ以上に気になっていることが俺にはあった。



「少し気になったんだが、この世界の歴史において俺達が倒した魔獣ギラド以外に何匹出現してるんだ?」



 魔獣と言うのは一種類につき一匹しかいないというわけではない。

 例えば俺たちがこの世界に転移してきて初めて見た魔獣ガロメなんかはかなりメジャーな魔獣で、過去に何度も出現しているし、同時に複数体出現することもある。

 ただ、強力な力を持った魔獣ほど、その目撃回数や出現回数は低くなっている。


 ギラドに関しては俺たちが倒した個体が歴史上で初めて確認された個体だったハズだ。



「え~っと、確かギラドはあの時倒した個体以外は確認されていないハズよ」


「ええ、ハルカさんの仰る通りですわ。

 あれほど強大な魔獣が歴史に残らず葬り去られるなんてことはないはずですわ」



 ハルカとイツキがそう言うのなら間違いはないだろう。 

 となると、疑問が一つ生まれてくる。



「と、なると今回の実験に使われたギラドの細胞は、一体どこから手に入れたんだろうな…?」


「あ!」


「確かに…

 ギラドが出現したのはおよそ1500年前、そんな昔の細胞が今も残っているというのは考え辛いですわね」


「ま、まさかアタシの封印が甘くてギラドが復活してるなんてことは…!?」


「いや、それはないと思う。

 土の精霊術最大の術である『グラウンドオーバー』で一度でも地面と一体化してしまえば、その肉体は土に還り、魂は土の精霊として浄化される。

 その威力は絶対で、失敗があるとすれば封じようとした対象へのダメージが不十分だった場合で、その場合は術をかけたかなり早い段階で封印が破られてるハズだ。

 ハルカがギラドを封印した時はそんなことはなかったんだろ?」


「…うん、あの時は辛かったけど、アニぃたちの犠牲を絶対に無駄にするわけにはいかなかったから、確実に封印がされたことを確認するまで丸二日間はその場に留まっていたから」



 ハルカはその時のことを思い出したのか、少し目に涙が浮かんでいた。



「そっか、辛いことを思い出させてすまなかったな。

 でも、それならあの時のギラドは間違いなく封印されて土に還ったはずだ。復活はありえない」


「ええ、わたくしもそう思いますわ。

 第一、先ほども言いましたがギラド程の大魔獣が復活したとあれば、歴史上にその事実が残らないはずがありませんわ」


「そ、そうだよね…」



 俺たちの言葉にホッと安心したような表情を見せるハルカ。

 と、ずっとこれまで俺たちの話を聞いていたカズヒがポツリと一言呟いた。



「首は?」


「「「え?」」」


「いや、えっとなんだっけ、【ファイヤーガンマン】のガンジさん?と【モノアイス】のカエデさん?だっけ、その二人が命懸けで切り飛ばしたって言う、ギラドの真ん中の首、それはどうなったの?」


「…そういや、あの首どうなったんだ?」


「え、あ、アタシ分かんない…

 あの時はとにかくギラドの本体の方を封印するのに必死だったから…!」


「まさか、その時の首が何者かに回収されていて、今もどこかに保管されている、ということですの…!?」



 1500年前のギラドの首が何処かに保管されている…!?

 そんな突拍子もないことがありうるのだろうか?

 しかし現実問題として、キメラの合成実験にその細胞が使われている可能性が高い以上、それ以外に考え辛い。



「ちなみに、研究施設からは発見されていないのか?」


「えっと、アタシが見た報告書にはそんなこと書かれてなかったよ。

 ガロメとかバルンガとかガメバなんかの下等魔獣の体細胞はいくつか押収されてるみたいだけど、でもそれらの魔獣の細胞はどこの王国国営研究施設にもあるものだし…」


「すでに何者かに持ち去られた後なのか、あるいは…?」


「いずれにせよ、わたくし達が今ここで議論しても結論は出ませんわ。

 カオル様の調査結果を待つしかありませんわ」


「…それもそうだな」


「それよりもお兄様、今は三日後の決闘のための準備を進めなくては」



 イツキの言う通りだ。

 色々と気になることが多いが、今は三日後に迫ったカオルさんとの決闘に向けて特訓をしなければ。

 

 この四日間の特訓(と妹たちとのキスによるパワーアップ)で、前世の頃の勘を少しずつ取り戻してきた俺は、そこそこの術者相手や下等魔獣クラスとならば普通に戦えるレベルにはなってきた。

 しかしこのレベルではバリバリ現役の王国騎士団団長のカオルさんには到底敵わないだろう。

 妹二人をかけた今回の決闘、俺は絶対に負けるわけにはいかない。そのためには何だってしなければ。



「なぁ、ハルカ、つかぬことを聞くが、カオルさんの弱点とかって何かないのか?」


「ないと思うけど」



 即答か。



「カオル様は現フラウ王国における最強の精霊術師と言われてるわ」


「現役最強?イツキよりも強いのか?」


「…あくまでも決闘の範囲内でって意味ではそうですわね。

 事実、カオル様との決闘で敗れてしまったことで半ば強引に婚姻させられてしまったようなものですし…」


「ええっ!?イツキちゃんより強いって信じられないんだけど?

 だって、昔の話とか聞く限りじゃイツキちゃん無敵の強さじゃん!!」



 カズヒの言う通りだ。

 あのイツキに限って、現役最強程度の精霊術師に負けるわけがない。

 となれば、ルールの方に何かイツキが不利になるような内容が含まれているのか?



「ちなみに、決闘のルールってのはどんなものなんだ?」


「至極単純ですわ。

 お互いにコインを胸に付けて、相手のそれを用意された剣か術で斬ることが出来れば勝利ですわ」


「用意された剣ってのは?」


「それはね、あらかじめ王国側の用意した剣がいくつかあって、自分の体格や扱いやすさなどから自由に選ぶことが出来るの」


「ふ~ん、それだけだとイツキが勝てない理由には弱そうだけど…」


「カオル様が最強たる所以は、下位術であれば無詠唱で使えるという点ですわ」


「無詠唱で!?」


「え、それってカオルって人も『スピリット』を使えるってこと?」


「いや、そうじゃないんだ。

 あの人は精霊化せずに無詠唱で術を使える特異術者なんだ」


「と言っても、『アイスエッジ』や『アイスホールド』程度の下位術に限りますけれど。

 上位術になるとさすがに詠唱が必要になるようですが」


「だけど、無詠唱で決闘開始と同時に『アイスエッジ』を放っていきなりコインを攻撃できるし、『アイスホールド』で相手の身体を凍らせて動きを封じ、その隙にコインを攻撃できる。

 決闘というルールに関してはさすがのイツキでも分が悪いというわけよ」



 なるほど、そういうわけか。

 下位術とはいえ、相手より確実に先制攻撃が出来るのであれば、そりゃ決闘のルールにおいては強いわけだ…

 おまけにカオルさんが使うのは氷の精霊術、初手で相手の身体を凍らせて動きを封じてしまえば、相手はもう何も出来なくなるってわけか。



「え~、なんかそれズルくない?」


「ズルいも何もそういう能力を持って生まれたからとしか…」


「無詠唱で術が使える方は、現世ではカオル様くらいですが、過去にも何人かカオル様同様無詠唱で術が使えた者がいたそうですよ?」


「え、そうなの?」


「ええ、1680年代頃だったかしら、第192代王国騎士団団長のサクっていう人が無詠唱で水の精霊術を使っていたそうね」


「そうでしたわね。

 わたくしはその時代には転生しておりませんでしたが、話は聞いておりますわ。

 何でも魔獣ビランテという植物型の魔獣との戦いにおいて……、」



 イツキとカズヒとハルカが話を続けている間、俺はカオルさんに勝つための作戦をずっと考えていた。

 俺が優位な点があるとすれば、転生者であるが故に雷と光の精霊術を同時に使える点と、イツキ達とキスを重ねることで詠唱を短縮出来る能力に覚醒出来るかもしれないという点だ(現状まだ俺は詠唱短縮までは出来ていないが、なんとか決闘までに詠唱短縮できるようになりたい)。


 

「…しかし、キスをしても必ずしもパワーアップするというわけじゃない。

 単に回数を増やせばいいというものでもないだろうし…」



 と、そこで俺はあることに気付いた。



「そうだ、まだハルカとはキスしてないじゃん!!」


「はっ!?」



 いきなり俺が変なことを叫んだものだからハルカは顔を真っ赤にしながら驚いた表情を見せた。



「ちょっ、お兄ちゃんこんな時にいきなり何を、」


「なるほど、分かりましたわ、お兄様!

 ハルカさんともキスをすることでさらなるパワーアップを図るおつもりなのですね!!」


「は!?パワーアップ?キスで!?いきなり何言ってるの!?」



 イツキとカズヒがハルカに説明する。



「アタシ達兄妹(きょうだい)がキスをしたらパワーアップ出来る…?

 ばんなそかな…」


「正確にはお兄ちゃんとだけでなく、あたし達姉妹同士のキスでもイケるよ」


「論より証拠ですわ、見ていてくださいまし。

 炎の精よ、集え!『スピリット』!!」



 イツキがハルカの前で詠唱短縮による『スピリット』を発動させてみた。

 イツキとカズヒはあれから順調にパワーアップしていって、今では二人とも詠唱短縮が出来るようになっていた。

 なんで俺だけまだ出来ないんだろうね………



「えっ、イツキ今なにしたの!?詠唱省略!?」


「ええ、お兄様やカズヒさんと毎日朝昼夜とキスをしていましたら出来るようになりましたわ」


「ば…、ばんなそかな…」


「まぁそんなわけだからさ、ハルカ!俺とキスをしてくれないか!?

 俺も詠唱短縮出来るようになれば、それだけカオルさんに勝てる確率は上がるわけで」


「そっ、そんな急にきき、キスをしてくれなんて言われても、こ、心の準備が……」



 ハルカは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。



「ハルカさん、お兄様がカオル様に勝つためですわ。

 ハルカさんだって、前世の記憶を取り戻した今、カオル様と結婚するのは嫌でしょう?」


「それは…、そう、だけど……」


「ね、ハルカちゃん!お願い!

 お兄ちゃんがカオルって人に勝つためにも!ね?」


「う…、うぅ~~……」



 ハルカは視線を左右に躍らせながら、両手の指をへその前あたりで交差させている。

 やがて、意を決したのか、先ほどよりもさらに顔を赤くさせて、上目遣いで俺の方を見ながら、ぼそっと呟いた。



「…ゃさしく……、してね……」


「あ、ああ…!」



 ツンデレ妹のデレた瞬間、めちゃくちゃカワイイ!!

 思わず理性が吹っ飛んで抱き着きそうになったが、やさしくしてと言われたのでそこは自重し、ゆっくりとハルカを正面から抱き寄せた。



「……んっ」



 そうすると、ハルカは目を閉じ、その柔らかそうな唇を近づけてきた。



「ハルカ……」



 俺もまた目を閉じると、ハルカの唇に優しく口づけをした。



「んんっ…!!」



 自然とお互いが舌を出し合い、唇を割って口腔内に入り、絡み合う。

 思えば、前世においてもハルカ(ミハル)とは口づけをしたことはなかった。

 というより、ハルカ(ミハル)とは自他ともに認める仲の良い兄妹ではあったが、そこそこケンカもしたし、少なくとも俺はハルカ(ミハル)のことを妹以上に想ってはいたが、ハルカ(ミハル)は俺のことを兄以上には想っていないのだろうと思っていた。

 

 こうしてハルカとキスをしている間にもだんだんと記憶が蘇ってきた。

 そうだ、この時代においても男性の出生率の問題があり、ハーレム制度はすでに出来上がっていた。

 だが、まだ兄妹きょうだい姉弟きょうだい同士による近親相姦は技術的な改善がされておらず、表向きにはタブー視されていた時代だった。

 そういう時代だったからこそ、俺のハルカ(ミハル)への想いは異常なものであり、墓まで持っていくものだと思っていた。


 でも、今なら分かる、恐らくハルカ(ミハル)も俺のことを……



 どちらからともなく、俺達はお互いの唇を離した。

 つっと透明な糸がお互いの唇と唇を繋ぐ。



「やっと、アニぃと………」



 ハルカの目にうっすらと涙が浮かんでいた。



*


 いきなりアニぃからキスをしてくれと言われた時には心臓が飛び出そうな程に驚いた。


 前世ではアタシが思わせぶりに誘っても、鈍感だったアニぃはまっっっったく気付かず、キスどころか抱きしめてくれたことさえ無かった(軽い挨拶代わりのハグくらいなら何度かあったけど)。

 そんなアニぃからいきなりキスしてくれという言葉が出てきたのだから、何の冗談なのかと思った。


 しかし、聞けばアタシたち兄妹は転生特典としてキスをしただけ強くなれるらしい。

 転生特典ってそんな馬鹿なと思ったが、実際に目の前でイツキが詠唱省略による精霊術を使った所を見ると、信じざるを得ない。


 しかし、そのためにはキスをしなくちゃいけないのか…

 いや、アニぃとキスをすること自体はやぶさかではない。

 でも、なんというか、ファーストキスくらいはロマンチックなシチュエーションでしたかった…

 だけど、アニぃがカオル様に負けちゃったら、アタシとイツキはカオル様のお嫁さんになって、アニぃとはキスすら出来なくなっちゃうだろうし…

 


 仕方がない、背に腹は代えられないもんね……



「…ゃさしく……、してね……」


「あ、ああ…!」



 ゆっくりと正面から抱きしめてくれたアニぃ。

 優しいアニぃの温もりを感じながら、アタシは目をつむった。




「ハルカ……」


「んんっ…!!」



 アタシのファーストキス…!

 アニぃと、前世の頃から大好きだったアニぃと、アタシ、今キスしてる!!


 そこから先はよく覚えていない。

 気づいたら、お互いに唇を離していて、見つめ合っていた。



「やっと、アニぃと………」



 嬉しくて泣きそうになる。

 同時に、胸の奥から力が湧いてくるような感覚があった。



「アニぃ、アタシ…!」


「ああ、俺も感じる。どうやら、パワーアップ出来たみたいだ!」



 胸の奥から感じるこの感覚…、精霊の声が聞こえる……

 アタシは心の中に思い浮かんだままのフレーズを唱えた。



「土の精よ、集え!『サンドエッジ』!!」



 アタシは掌の土の塊を生み出し、それを地面へと向けて放った。



「なんと!ハルカさんはいきなり術式短縮が出来るようになったのですか!?」


「すごい…、本当にパワーアップしちゃった……」


「じゃあじゃあお兄ちゃんは!?」


「ああ、俺も出来るようになったみたいだぜ、行くぞ!

 光の精よ、集え!『ホーリーシールド』!」



 そう言ってアニぃも詠唱を省略して光の盾『ホーリーシールド』を出現させていた。



「おお!」


「やりましたわね、お兄様!これでまた一歩、お兄様が最強に近づきましたわ!」



 正直、アニぃの前世を知ってるアタシやイツキはアニぃがカオル様に実力で負けるわけがないとは思っている。

 だけど、決闘と言うルールにおいては、やはり無詠唱で術を発動できるカオル様に分があることは認めざるを得ない。

 事実、アタシもイツキもカオル様には決闘で勝てた試しがない。


 でも、詠唱省略が可能となった今なら、作戦次第ではカオル様に勝てるかもしれない。

 いや、勝ってもらわなくちゃいけない!



「よし!こうなったらアニぃ、今日はアタシとも特訓してもらうよ!

 アニぃには何としてでもカオル様に勝ってもらって、アタシのファーストキスを奪った責任取ってもらうんだから!」


「ああ、分かってるよ、ハルカもイツキも、そしてカズヒも、俺の大切な妹で、俺の大切なお嫁さんだ!!」


「うん!!」



 えへへ、アタシがアニぃのお嫁さん、か…♪

 思わずニヤけた表情になっちゃうアタシ。



「おっと、その前に、ハルカさん?」


「ん?どうかしたの、イツキ?」


「うふふ、お兄様とキスをされたのですから、今度は、」


「あたし達ともキスしてくれなくっちゃ!!」


「はいぃっ!?」



 言うやいなや、左右からアタシに抱き着いてくるイツキとカズヒ。

 ちょっ、二人ともおっぱい柔らかいし、大きいし、それにすごくいい匂い!!



「ま、待って…!?

 ア、アタシはそんな、女の子同士、ましてや姉妹同士でなんて、そんな趣味は…!」


「大丈夫ですわ、ハルカさん♪」



 むにゅ♪

 イツキの双乳(おっぱい)がアタシの右腕を挟みこむ。



「姉妹同士ってのもいいものだよ♪」



 もにゅ♡

 カズヒの双乳(おっぱい)がアタシの左腕を挟みこむ。


 …アタシの胸は小さい方じゃないとは思っているけど、二人のに比べると小さい。

 アニぃは、やっぱりおっぱい大きい妹の方がいいのかな…?



「大丈夫、ハルカさんのおっぱいも素敵ですわよ♪」


「うんうん、81もあるんだから自信もっていいよ!

 それにお兄ちゃんはおっぱいの大きさじゃなくて、姉妹のおっぱいかそうでないか、でしか判断してないから」


「酷い言われようだが…、まぁ、姉妹のおっぱいであればなんでもヨシ!」


「変態アニぃ!

 いや、っていうかその前にカズヒ、どうしてアタシの胸のサイズ知ってんの!?」


「そんなの見たら分かるでしょ」


「分かんないわよ!!」


「そんなことよりも、ハルカさん、お覚悟はよろしくて?」


「う…、あ……!」



 どうあっても逃げられそうにない、そう覚悟を決めたアタシは、その後二人ともアニぃとしたような大人のキスをしたのだった。



 ……姉妹同士ってのも、そんなに悪くないのかもしれない。

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