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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第5章~ワールドカシミウラ~
59/103

第8話「鎌鼬島殺人事件4」

登場人物


・カナミバディーズ(A棟301号室)

  カナミ・タケシタ(属性:炎、戦武器:弓)

  ノリエ・ビューイング(属性:風、戦武器:刀)

  ナギサ・ツキミヤ(属性:水、戦武器:鞭)


・アミナバディーズ(A棟203号室)

  アミナ・タチバナ(属性:炎、戦武器:レイピア)

  キリコ・ナカジマ(属性:風、戦武器:弓)

  ソフィア・リー(属性:水、戦武器:銃)


・ランカバディーズ(A棟305号室)

  ランカ・カンザキ(属性:水、戦武器:ライフル)

  シノブ・サイファー(属性:風、戦武器:片手剣)

  リオ・ウィスキー(属性:炎、戦武器:斧)

*


「ああ、謎は全てまるっとお見通しだ!、ってね」



 ヨウ君がどこぞの売れないマジシャンのような決め台詞を言ったかと思うと、そのまま宿舎へと戻っていった。

 ミステリ小説的には、ここから容疑者全員を集めて謎解き、という展開なのだろうが、ヨウ君はそんなことはせず、真っ直ぐ303号室へと向かっていた。



「あ、お帰りなさいませお姉様」


「何か分かった、お姉ちゃん?」



 出迎えてくれたのはイツキちゃんとカズヒちゃん。

 二人の側のベッドにはナギサちゃんが寝ている。

 ミチコ先生は、これから警察を迎える準備をするためにB組の担任の先生と合流して船着き場へと向かったようだ。


 ヨウ君はイツキちゃん達のいる側とは反対側のベッドサイドに行き、ナギサちゃんに話しかけた。



「ナギサさん、今少しだけお話出来ますか?」



 ヨウ君の問いかけに、ナギサちゃんはゆっくりと起き上がり、背中をベッドのヘッドボードにもたれさせてからゆっくりと口を開いた。



「ええ、何か気になることでもありましたか?」


「そうですね。

 単刀直入に言いますが、カナミさんとノリエさんを殺害したのはあなたですね、ナギサさん?」


「え…っ!?」


「おっ、お姉ちゃん!?いきなり何を…!?」



 イツキちゃんとカズヒちゃんが驚いた顔をしている。

 ウチは何となくそうなんじゃないか、と考えていたからそこまで驚きはしなかった。



「…何か、証拠でもあるんですか?」



 ヨウ君の追及に、ナギサちゃんは否定も肯定もせず、淡々と質問をした。



「物的証拠はありません、しかし、無くなっていることが状況証拠にはなると思います」



 ナギサちゃんの問いに対してそう返すヨウ君。



「お、お姉様?それは一体どういう意味ですの?」



 今度は、未だ動揺が隠せないイツキちゃんが質問した。



「順番に説明するよ。

 まず、ナギサさんは睡眠薬入りのコーヒーをカナミさんとノリエさんに飲ませて眠らせた。

 そして、コーヒーを飲み干したカナミさんのカップはそのままに、一方ノリエさんの飲み干したカップは、綺麗に洗って新しいコーヒーを注いでそのまま放置した」



「それから、一度部屋を出てから宿舎入口の扉の鍵を開けて、さも誰かが出ていったかのようにみせかけるために、扉を開いて、雨を降り込ませた」



「それから部屋に戻り、ノリエさんのズボンのポケットに部屋の鍵を入れて、ノリエさんを窓から外に出した後に、部屋を密室にした」



「それから、ナギサさんの首を切断する準備と、自らの腕を切断する準備を整えてから、新しいコーヒーカップにコーヒーと睡眠薬を入れて飲み干した」



「後は仕掛けが発動して、勝手にカナミさんの首と自らの腕が切断されて、犯行完了、というわけだ」


「………」



 ナギサちゃんは黙ってヨウ君の話を聞いていた。

 ナギサちゃんの様子を見る限り、抵抗する意思はなさそうに思えた。


 一方、ヨウ君の説明に納得いっていないウチを含めた三人を代表して、カズヒちゃんがウチらの思っている疑問をヨウ君に尋ねた。



「いやいや、お姉ちゃん、全く説明になってないよ!?

 まず、ノリエさんを外に出したって、そっからどうやってあの鎌鼬かまいたち像の鎌の先に突き刺したん!?

 それに、首や腕を切断する仕掛けって言うけど、あの部屋にはそんな人の首やら腕を切断出来るような仕掛けなんか残って無かったよ!?」


「確かにそうだな。

 だけど、鎌鼬かまいたち像の下に、その仕掛けの一部が落ちてただろ?」


鎌鼬かまいたち像の下に落ちてた、というと、例の水溶性の釣り糸ですか?」


「ああ、イツキ、正解だ」


「まさか、釣り糸で首や腕を切断したって言うん?

 まぁ、確かに一気に力を加えたりすれば切断出来なくはなさそうっちゃけど…」



 細い糸で敵の体の一部を切断するというのは、漫画やアニメなんかではよく見るシチュエーションだが、普通の人間の技術ではまず無理だろう。

 何かしらの能力を使って、瞬間的にものすごい力を加えて締め上げたりすれば、首を切断することも出来るかもしれないが…



「うん、実はその首や腕を切断した方法と、ノリエさんを鎌鼬かまいたち像に刺した、いや、()()()()のは、

 ()()()()()()()()で説明出来るんだ」


「えっ、ええっ!?」


「全く同じって…、」


「どういうことですの、お姉様!?」


「………ッ!」



 その時、ちらっとナギサちゃんの表情が目に入ったけど、その表情からは「トリックがバレた」ショックというよりは、ウチらと同じ「どういうこと!?」と驚いているように思われた。


 そう言えば、ヨウ君は「像に()()()()」というような表現をしていたようだが…



「簡単なことさ。

 この島ならではの強風と、パラシュートを使えば、ね」



 そして、ヨウ君がトリックの説明を始めた。



「まず、眠らせたノリエさんを、ベッドやスーツケースなんかを利用して簡易的に作った台に乗せる。

 この台の高さは、窓枠とほぼ平行な高さだ。

 その台にノリエさんを寝かせた状態で、ノリエさんの身体に水溶性の釣り糸を巻き付かせ、その釣り糸とパラシュートの紐を結びつける。

 ああ、ちなみに水溶性の釣り糸は予め数日かあるいは数ヶ月前から水に浸けておいて、あと数日もすれば完全に溶けるような、そんなギリギリの状態にしていたんだと思う」



「そして、窓を開けてパラシュートを思いっきり窓から外に投げ出せば、

 風によってパラシュートが開き、パラシュートにくくられたノリエさんはそのままパラシュートに引っ張られ、

 強風に乗って海の方へと向かって飛んで行くわけだ」


「あ!一つだけ水で濡れた跡を拭いて隠そうとした痕跡のあった窓があったけど、そこからノリエさんを?」


「ああ、カズヒの言う通りだ。

 そして、計画ではそのまま島の外まで飛ばされ、やがて雨によって釣り糸が溶け、ノリエさんはパラシュートから切り離されて関門海峡に真っ逆さま、となるハズだった」



「が、想定外にもノリエさんを縛る釣り糸は島を出る前に切れてしまった。

 しかも、それがたまたまあの鎌鼬かまいたち像の真上だった………」


「えっ、じゃあ、つまりノリエさんの遺体が像に刺さっていたのは、単なる偶然、事故だったと…!?」


「ああ、イツキの言う通りだ。

 散々皆が考えた通り、ノリエさんを自殺に見せかけた行為と、

 ノリエさんを鎌鼬かまいたち像に突き刺した行為には、明らかに矛盾がある。

 そこまで何らかの策を弄して像に遺体を突き刺しても、犯人には何のメリットも無いどころか、デメリットでしかない。

 となれば、ノリエさんの遺体が鎌鼬かまいたち像に刺さっていたのは、単なる偶然、犯人も想定していなかった事故によるもの、と考える方が自然だろう」



 不可能なものを消去していって、最後に残ったものが如何に信じられないことであっても、それが真実である。


 ヨウ君の言う通り、あの像の鎌の先に遺体を突き刺すのは、犯人にとって全くメリットがない。

 というか、それ以前にカズヒちゃんの超能力でもない限り、あんなことをするのは、人間には不可能なのだ。

 であれば、狙ってあそこに突き刺したのではなく、偶然刺さってしまった、と考えるしかない。



「そして、ノリエさんを窓から外に出した後、

 雨の降りこんだ窓枠などを拭いて、再び窓の鍵を閉め、

 次に眠らせたカナミさんの首に、こちらは普通の釣り糸か、もしくはより細くて強いテグスか何かを巻き付けて、その糸の先に別のパラシュートを結びつける。

 今度はそのパラシュートを先程と同様に、より早く水で溶けるよう調整した水溶性の釣り糸で縛っておく」



「そうして、カナミさんを窓枠に背中をもたらせるように座らせ、水溶性の釣り糸で縛ったパラシュートを窓の外に出し、窓を閉めて鍵をかける」



「その後、ナギサさんも自ら睡眠薬を飲み、同様の仕掛けを右腕に施して眠りについた」



「後は時間が来て、パラシュートを縛る釣り糸が雨で溶ければ、パラシュートは開き、強風によってパラシュートはあおられ、パラシュートに結ばれた釣り糸に強い力が加えられ、首と腕を一瞬にして切断した」



 普通の風であおられたくらいでは、いくら女性の細い首とはいえ切断するのは難しいだろうが、鎌鼬かまいたち島の、特に深夜に吹き荒れる強風程勢いのある風であれば、確かに可能かもしれない。

 そして、証拠となるパラシュートは風で飛ばされて関門海峡に沈み、証拠隠滅となる。


 だけど、一つだけ疑問が残る。

 ウチはそのことをヨウ君に尋ねた。



「でも、それやとナギサちゃんは自ら自分の命を危険にさらしたことになるっちゃけど、

 ヨウ君の精れ…、特殊な力が無かったらナギサちゃんは助かってなかったかもしれんっちゃろ?」


「ああ。恐らくは、ナギサさん自身、助かるつもりは無かったんじゃないかな?」


「え!?」


「そうなんじゃないですか、ナギサさん?」


「………」



 ナギサちゃんはうつむき、沈黙したままだった。

 沈黙したナギサちゃんに代わって、再びヨウ君が口を開いた。



「恐らく、ナギサさんは自らも死ぬ覚悟でこのトリックを使った。

 仮に生き延びても、ノリエさんに全ての罪を着せて、罪を逃れられるように遺書なんかも残してね。

 計画通りノリエさんの遺体が関門海峡に沈んでいれば、警察も仮に遺書に不自然さを感じても、まさか自らの腕を切断した人物が犯人だとは考えないだろうし」


「…ちなみに、最初にあなたが仰っていた、私が犯人であるという状況証拠とは何ですか?」



 そこで久しぶりにナギサちゃんが口を開いた。

 口調的に、自らの犯行を否定するというよりは、何故バレたのかを確認したい、という感じだった。



「あなたの持ってきた旅行カバンです。

 あなたはそれこそ人が一人入りそうな程大きなカバンを持ってきていましたが、その理由を三人分の着替えなどが入ってるから、という風に説明していましたが、

 先程カバンの中を確認させてもらったところ、中には確かに最低限の着替えなどは入っていましたが、容量にはかなり余裕があり、あれだけ大きなカバンである必要は無いように思われました。

 しかし、中身が無くなっていると考えれば説明がつきます」


「あ、そうか、パラシュート!」


「ああ、カズヒの言う通り。

 パラシュート三人分となるとかなりの容量が必要となる。

 だからこそ、あれだけ大きなカバンが必要だったんだ。

 逆に言えば、それだけの大荷物をこの島に持ち込めない他の人達は犯人では無い、ということにもなる」



 何も無いことが犯人である状況証拠となる、というのはそういうことか。



「さて、他に何か説明し忘れたこととかあるかな?

 と、そうか、動機に関しては恐らく、というか間違いなく二年前にこの島で行方不明になり、首と右腕が失われた状態で発見されたミスズ・ハナガキさんに関係すること、ですよね?」


「………」



 ヨウ君の問いかけに、しばらく無言で応えていたナギサちゃんだったが、やがてポツリと独り言を言うかのように静かに語り始めた。



「ミスズ・ハナガキは、私の姉でした。

 両親が5年前に離婚し、私は父に、お姉ちゃんは母に引き取られ、離れ離れに暮らしていました」



「父の実家がアマクサの方(※ヨウ君達の世界で言う熊本県のこと byツキヒ)だったため、私は昨年までそちらで暮らしていましたが、お姉ちゃんの活躍はよく耳にしていました。

 私にとって、とてもカッコよくて、優しくて、強くて、本当に自慢の、大好きなお姉ちゃんでした…」



「だからこそ、二年前に起きた事件は信じられませんでした。

 お姉ちゃんに限って、規則を破ってまで危険な行為をするハズがないと…」



「私は真実を知るために、この学院に入学しました。

 実家からは離れていましたが、元々この学院に入るつもりでいたので、入学自体は問題ありませんでした」



「入学してから、当時お姉ちゃんとバディーズメイトだったという二人に近付きました。

 まず間違いなく、お姉ちゃんの死に二人が関わっているのは間違いない」



「真実を知るには時間がかかるだろうと思っていたのですが、昨年の合宿の時にあっさりと分かったんです」



「アイツらが、お姉ちゃんを殺し、事故に見せかけるために関門海峡にその死体を捨てた、ということを………」




*


 合宿の初日の夜、私はベッドに入り寝ていましたが、深夜頃、ふと目が覚めたんです。

 すると、ひそひそと話し声が聞こえました。

 耳を済ませてみると、カナミとノリエの二人が何かを小声で話しています。

 私は、何かの予感がして、寝たフリをしながらその話に聞き耳を立てました。



「はぁ…、また一年生としてこの島に来ることになっちゃったわね」


「ま、それは仕方がないでしょう。

 むしろ、半年の停学と留年だけで済み、再びこの島に学院生として来られただけでもラッキーと思わなければ」


「それもそうね。

 おまけに、カリヤザキ様の新たな婚約者にも無事内定したし、プラスかマイナスかで言えば十分プラスよね」


「その通りです。

 むしろ、彼女の死に罪を感じ、自らの処遇を申し出たカナミ様に同情し、普通に婚約者の座を奪う以上によい形での婚約内定となったと思いますよ」


「あははは!確かにその通りね!

 まさかその元婚約者を私自身が殺したとも知らずにね!」


「…しーっ、彼女が起きてしまいますよ?」


「おっと、失礼。

 さすがにこんな話はナギサに聞かせられないもんね」


「はい、いくら私達にゾッコンだからと言って、人殺しだと知られればさすがにその愛情も薄れるでしょう。

 何より、他の人達にバラされるのがもっとマズイ」


「ま、そん時はまた殺せばいいんじゃない?

 ミスズの時みたいに殺して首をはねて関門海峡に捨てちゃえば、また事故として処理されるでしょ。

 あ、でも今回は腕も一瞬に切った方がいいかしら?

 その方がミスズの悲劇再び!みたいな感じでドラマ感が増すんじゃない!?」


「…さすがに、そこまで偶然が重なるとは警察も考えないでしょうから、今度こそ事件としてきちんと捜査されるかもしれませんよ?

 それに、昨年より“汎用主人石オルタマスターアイ”の管理が厳しくなってますので、盗み出して『武装化ヴァルキライズ』し、私の能力『カザキリ』で首を切断するなどという行為は出来ないかと」


「あー、それもそっか。

 でも、頭の傷を誤魔化すために、咄嗟とっさに頭を切断して海に捨てた上に、

 “汎用主人石オルタマスターアイ”を盗み出したのもミスズの仕業にしようなんてよく思い付いたわよね。

 その結果、海流だか船のスクリューだか分かんないけど、右腕まで千切れてたことで首が切れてる理由も詳しく調べられなくて済んだし」


「運も多少は味方についてくれた、ということでしょうね」


「ふふ、そうね。

 まぁ、経歴に停学や留年っていう傷が付いちゃったけど、その程度で済んで良かったと思うべきね」



 それ以降も何かを話していたようでしたが、最早私の耳には何も入ってきませんでした。

 お姉ちゃんが、コイツらに殺された挙げ句、ゴミでも捨てるかのように首を切って関門海峡に……!



 それからの一年、私はアイツらにどうやって復讐するか考えながら、一方で本当お姉ちゃんは殺されたのかを慎重に探っていました。

 お姉ちゃんを死なせたことに罪悪感を持っていないアイツらに復讐することは決定事項でしたが、例えば言い争った結果事故で死なせてしまった、ということであれば、命までは取らず、しかし将来的に再起不能となるていどの罰は与えてやろうと考えていました。

 お姉ちゃんの復讐とはいえ、私も好き好んで人殺しになるつもりはありませんでしたから。



 しかし、探りを入れていった結果分かったのは、お姉ちゃんがカナミの惚れていたカリヤザキ氏の婚約者になったことや、自分よりも才能も人望もあるお姉ちゃんに嫉妬したカナミが、合宿中に事故に見せかけて殺そうとしていたことが分かりました。


 当初の計画では、早朝に三人で自主トレ中、気分転換に崖から海を眺めていたら急に突風が吹き、お姉ちゃんが海に落ちた、という建前でお姉ちゃんを殺そうと計画していたそうです。

 そのために、海水を貯めた浴槽にお姉ちゃんを沈めて溺死させようとしたそうなんですが、必死に抵抗するお姉ちゃんに、痺れを切らしたカナミが、部屋の机の角でお姉ちゃんの頭を殴り、撲殺した、と。

 その後、死体を関門海峡に遺棄して、万が一見つかってしまえば、頭の傷から殺人事件として捜査されるかもしれない、ということで首を切断し、胴体だけを関門海峡に遺棄した。

 胴体だけであれば、発見されても死因特定は難しくなり、事件としての立証はさらに困難になるのではないか、と考えたノリエが“汎用主人石オルタマスターアイ”を盗み出し、その後の細工をしたという。



 ここまでの情報を得るのは本当に大変だった。

 そのために、アイツらに媚を売り続け、思ってもないことを口にしてはアイツらの味方、絶対的信奉者だと信じこませ、ここまでの情報を知ることが出来ました。



 私はアイツらを殺すことを決意しました。

 しかし、殺すのはいいとして、万が一私が犯人だとバレた場合、父はもちろん、母にも迷惑をかけてしまう。

 なので、私が犯人だと疑われない方法を考えた末に、今回の計画を思い付きました。

 私も犯人に殺されたと思わせることが出来れば、両親を悲しませることはあっても、少なくとも犯罪者の両親として周囲から後ろ指を指されることはないでしょう。

 運良く助かったとしても、被害者として扱われ、犯人と疑われる可能性は低い。



 後はハルヒさんの推理通りです。

 トリックに使用した水溶性の釣り糸に関しては、単にノリエの死体がパラシュートに繋がれて見つかる可能性を少しでも下げるために利用しました。

 雨が降ることまでは想定していませんでしたが、まさかそのせいでノリエを縛っていた釣り糸が早めに切れて像に刺さってしまうなんて…




*


「以上です。

 …それで、皆さんはこれから私をどうするつもりですか?

 これから来る警察に私を突き出しますか?」



 犯行を認めたナギサちゃんの告白が終わり、最後にこう言ったナギサちゃん。

 それに対してヨウ君はこう答えた。



「いや、そんなことはしないよ。

 お…、いや、私がこの部屋に来たのは真実を明らかにしたかっただけだから」


「え…?」


「ノリエさんの遺体が関門海峡に落ちず、像に刺さった状態で発見されてしまったことで、警察は遅かれ早かれこの事件の真実には辿り着くハズだ。

 そうなる前に自首することをオススメはするけど、警察の捜査が杜撰で、君は逮捕されずに済むかもしれない」


「………」


「私は探偵でも、ましてや警察でもない。

 だから君の罪を裁くことはしない。

 むしろ、君の勇気には敬意を表するよ」


「け、敬意を…?」


「お姉様の言う通りですわ」


「い、イツキさんまで…?」


「勿論、人殺しは良くないという前提での話ですよ?

 人間社会のルールとして、犯した罪は、きちんとした法の下で裁かれる必要があります。

 ですが、人間の感情というのは、そんなに単純なものではありません」



「ましてや、あなたの大好きなお姉様が私利私欲のために殺され、しかもその犯人がほとんど罰を受けず、罪の意識を感じてすらいないとなれば…

 わたくしもあなたと同じ立場でしたら、間違いなく同じ事をしていたでしょう、ただし、」



「わたくしの場合は、死体の髪の毛一本すら残さずに燃やし尽くしてしまいますけどね」



 イツキちゃんの場合、冗談抜きでやりそう(というか実際にこの世界に来る前に、ハルカちゃんを合成獣キメラに改造した男を文字通り蒸発させたと聞いた)なのが怖いんだよね…


 イツキちゃんの放ったその一瞬の殺気に、ナギサちゃんは背筋を震わせて言葉を失っていた。

 そんなナギサちゃんに対して、今度はカズヒちゃんが声をかけた。



「あたしも同じ思いだよ!

 ミステリものなんかだと、探偵は『こんなことしてあんたのお姉さんは本当に喜んでると思うのか!?』って言う場面だろうけど、

 あたしがミスズさんの立場だったら、『よく頑張ったね!』って褒めてあげたい!

 勿論、自分のせいで妹が罪を犯してしまったことは辛いけど、でも自分のためにここまでしてくれた妹のことを抱き締めてあげたい!

 えっと、何が言いたいのかよく分からなくなったけど、少なくともあたし達はナギサちゃんの味方ってこと!

 あたし達はナギサちゃんのしたことを責めないし、警察にチクったりもしないから!」


「カズヒさん…」


「それに、妹達の復讐のために国一つ滅ぼした人も世の中にはいるんだし、ナギサちゃんのやったことなんて小さい方だよ!」


「く、国を滅ぼした…!?」


「いや、カズヒちゃん、それはちょっと違うと思うよ!?

 殺人の規模が違うというだけで、どちらも罪は罪なんだからね!?」


「…はい、ごもっともです」



 というか、ウチの家族きょうだい、家族のために人を蒸発させたり、国を滅ぼしたり、世界そのものを消しかけたり、とんでもない子達ばかりね…



 それはともかく、イツキちゃんとカズヒちゃんの言ってること、なんとなく分かるな。

 確かにウチはミステリ小説自体は好きだけど、時々犯人に対して探偵がする説教が他人事過ぎるなと思うことはある。


 人殺しがいけないというのは、人間が人間として自由に平和に生きるための最低限のルールとして人間が定めたもの。

 当然、ルールを守ることは大事だ。

 人殺しがいけないというルールが無ければ、人間の住む社会は無法地帯になってしまい、とても自由に平和に生きることなんて出来なくなってしまう。


 だが、時に人の感情というのはそんな杓子定規に測れないことがある。

 大切な人、愛する人を奪われた怒りや悲しみ、憎しみはその人にしか分からない、その人だけのもの。

 その想いは、ルールだから、では縛れないこともある。



 イツキちゃん達の話を聞いて、憑き物が落ちたのか、ナギサちゃんはすっきりした顔をしてこう言った。



「…私、自首します。

 両親には迷惑かけてしまうと思います。

 でも、お姉ちゃんに胸を張って抱き締めてもらうために、きちんと罪を償って、やり直そうと思います」


「そっか…」


「ナギサさんのその決意はとても立派だと思います。

 事情はどうあれ、世間的には人を殺したということで、非難されることもあるでしょう。

 ですが、家族のために怒り、悲しみ、その手を汚したあなたを、わたくし達は許します」


「うん、ありがと、イツキさん、カズヒさん、ツキヒさん、それにハルヒさん…!」



 こうして、巌風島がんぷうじまで起きた殺人事件は幕を下ろしたのだった。

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