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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第1章~ワールドフラワレス~
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第4話「特訓」

*


「というわけで、早速お買い物に行きましょう」



 魔獣ガロメを倒して家に帰るなり、イツキはそんなことを言い出した。



「え?特訓するって話じゃなかったか?」


「お兄様、その服でまともに特訓できるとでも?」


「ああ、そういうことね…」



 確かに、俺たちは元々通学途中の事故に巻き込まれ、なんやかんやでこの世界へとやって来たのだった。

 当然、俺とカズヒの着ている服は学ランにセーラー服だ。



「それに、特訓でなくとも、いずれは魔王ヤミとも戦わなければならないのでしょう?

 でしたら、トレーニング服以外にも最低限の戦闘用服に、普段着用の服、寝間着、それに下着もいくつか買っておく必要があります。

 もちろん、カズヒさんの分もですわ」


「でも、あたし達お金とかそんなに持ってないけど…、っていうか、あたし達の世界のお金ってこっちで使えるのかな?」


「お金のことは心配ありません、王国騎士団予備騎士としてのお給料がありますので」


「いや、でも…、」


「遠慮なさらないでください、わたくしの稼いだお金を家族のために使うのですから、何も気になさる必要はありませんわ」


「そ、そうか?まぁ、どの道今の俺らには選択肢はないわけだしな…

 サンキュー、イツキ、いつか必ず何かしらの形で返すから」


「ふふ、それは楽しみにしておきますわ♪」



 というわけで、俺達は門司タウン(つまり俺達の世界で言う所の北九州市門司区)の中心地域ともいえるダイリ地区(つまり俺達の世界で言う所の大里と呼ばれる地区)にある商業施設が集まっている地域へとやって来た。



「この辺の街並みは俺らの世界とほとんど変わらねぇな…」


「そうだね~、違いと言えば自然がちょっと多いくらいかな?」


「お兄様達の世界でも、やはりこの辺りは商店街なのですか?」


「ああ、入っている店とかは変わったりしてるみたいだが、ずっと昔からこの辺はこんな感じで商店が並んでいたらしい」


「個人商店も多いけど、大手スーパーやら全国チェーン店の洋服屋さんとか、結構そろってるから地元の人にとってはありがたい地域だよね~」


「その辺も変わらないようですわね」


「ということは、今から俺達が行く店ってのは、」


「ええ、全国チェーンの格安衣料量販点“黒島(くろしま)”ですわ!」



 俺達がイツキに連れられてやって来た衣料量販店“黒島(くろしま)”。

 そこは、カジュアルから戦闘用防護服まで、ここで買えない種類の服は無いと言えるほどの品揃えを誇り、その上で庶民の味方という超低価格帯を実現、なおかつ品質は国内最高基準のものを揃えているという、衣料量販店では圧倒的シェアを誇る超大手企業とのこと。



「ここで買える服は、全て特殊繊維で編まれていますので、ちょっとやそっとの術や攻撃では傷つかないようになっていますわ」


「具体的にはどれくらいの性能なんだ?」


「普段着でも、物理面では一般兵士の扱う銃の銃弾くらいは弾きますわ。

 特殊面では一般の魔獣クラスの魔術程度は防げます。

 ただ、あくまでも衣服の耐久度であって、身体に与えるダメージを全て無効化するわけではありませんのでご注意を」


「つまり、仮に銃弾を受けたとして、銃弾が直接体内に入ってくることは防げるが、銃弾が当たったことによる痛みや衝撃は防げない、ってことだな?」


「ええ、その通りです。

 それでも、致命傷は防げるわけですから、大分マシですけどね。 

 ああ、勿論戦闘用衣服とかになってくると、当然その辺りのダメージも防げるものになってきますけどね」



 ふ~む、普段着で防弾仕様とかすげぇ技術だな。

 よく考えれば、イツキもさっきのガロメ戦では、今も着ている白いワンピースのままだったもんな。

 普段着でもある程度は魔獣と戦える程度の耐久性能があるってのは納得だ。


 とりあえず、俺はあまり服にこだわりが無いから服はテキトーでいいよと言ったら、イツキとカズヒが大量に服を選んできて、散々試着させられた挙句、結局全部買ってきてしまった。

 イツキとカズヒの趣味はその辺でもあうようで、普段着は寒色系で、戦闘用衣服は暖色系、寝間着は何故か面白Tシャツ系という感じで統一されていた。

 二人なりに何かこだわりがあってのことなんだろうが、正直よく分からん。



 まぁ、男の俺の服なんてどうでもいいだろう。

 ここからは、妹達女性陣のターンだ!



 まずはイツキから。



「せっかくお兄様と再会できたのですから、どうせならわたくしの新しい服もお兄様好みで選んでくださいますか?」



 イツキにそう言われては断り切れない。

 俺の服はどうでもいいが、妹の服となるとどうでもはよくないからな!

 やはり、カワイイ妹の魅力を200%以上に引き出してあげられるような最高最善の服を選んであげたい!


 しかし、俺一人ではやはりセンスに問題ありなので、カズヒの意見も参考にしながら慎重に選んでいく。



「やっぱりイツキちゃんには清楚系!

 純白以外はありえないと思います!」


「ああ、それには俺も賛成だ、普段着や戦闘用衣服はそれでいいと思う。

 だが、寝間着は、」


「「セクシー系!!」」


「さすがカズヒ、分かってるな」


「そう、普段は清楚な女の子だけど、夜だけはその隠された本性が現れる…!

 そのギャップがイツキちゃんにはある!

 あたしの勘は当たる!」


「お前本当にスゴイな、確かに俺の記憶の中の前世のイツキはそんな感じだった」


「いや~、ほら、あたしとイツキちゃんって精神的な部分が似てるからさ、なんとなく分かっちゃうんだよね~」


「ふ~ん、そんなもんかね…」


「というわけで、あたしがいくつか選んできた服がこちらです」


「おまっ、いつの間に…!?」



 カズヒが選んできたというイツキの服を早速確認。


 普段着は、今も着ているワンピースのイメージがあまりにもピッタリすぎるため、そこから大きく変わらないデザインのものが多く選ばれていた。

 その全てが白を基調としたワンピースで、ワンポイントで花柄や星柄などが入っており、丈も膝下までカバーしたものから、膝上ちょい上くらいのものまでと様々なバリエーションのものが取り揃えられていた。


 そして戦闘用衣服も白を基調とした、気高き女性騎士をイメージさせる王道なものが揃えられていた。



「おお、まさにこんな感じだったよ!

 前世のイツキも、こんな感じの騎士服を着て戦ってたよ。

 白の騎士服に紅蓮の炎を纏いし【精霊姫】、あれはカッコ良かったな~…」



 そして寝間着は、大胆に胸元が開いた漆黒のベビードールだった。



「カズヒ、お前は天才だ!よし、これら全部着てもらおう!!」


「でも、イツキちゃんはお兄ちゃんが選んだ服を着たいんじゃないかな?

 あたしが選んだのばかりじゃなくて、お兄ちゃんも選んでみたら?」


「いや、イツキは俺好みで選んでくれと言っていた。

 そして、カズヒが選んだ服は見事に全て俺好みのものだった。

 正直、俺にはこれ以上にイツキに似合う服は思い浮かばない。

 だから、これでいい!」


「そう?お兄ちゃんがそう言うなら…」



 ということで、選んだ服をカズヒに試着室で待つイツキの元へと持って行ってもらった。

 イツキは実際に着た服を(寝間着も含めて)俺に見てもらいたかったようだが、さすがに公の場で女性の入っている試着室の前をじーっと待つ勇気は俺には無かったので、離れた場所で待機し、実際に着た姿を見るのは家に帰ってからのお楽しみにさせてもらうということでその場は勘弁してもらった。


 試着を終えて出てきたイツキは大変満足そうな顔をしていた。



「お兄様とカズヒさんが選んでくださった服、大事にさせてもらいますわね♪」


「ああ、気に入ってくれたなら良かったけど、出来れば俺が自分の金で買ってやりたかったな」


「それは仕方がありませんわ、お兄様はこちらの世界のお金を持っていないのですから」



 ちなみに、この世界でのお金の単位は俺たちの世界と同じ“円”だが、支払いは全て電子マネーとなっているらしい。

 


「え、紙幣とか硬貨とかこの世界にはないんだ!?」


「ええ、百年ほど前までは使われていましたけど、今は全て電子マネー化されていますわ」


「は~…、その辺も俺がいた(前世)とは変わってるんだな」



 そんなこんなでイツキの買う服も決まり、最後はカズヒの服だ。



「それじゃお兄ちゃん、イツキちゃん、あたしにピッタリな服を選んできてね♪」



 さて、カズヒの服だが、



「アイツは普段からスポーティな服を着てたな。

 下は短パンで、上は胸のあたりに文字の入った、野球のユニフォームみたいなTシャツのイメージだ」


「確かにカズヒさんらしいですわね。

 でしたら普段着はそういった服でいくとして、戦闘用衣服はどうしましょう?」


「カズヒの?でもアイツ精霊術とか使えるのかな…?」


「わたくし達の妹ですから、きっと使えると思いますわよ」


「そういうもんかね…?

 まぁ、いいや、アイツは青系の色が好きだから、イツキと色違い、青系の騎士服でいいんじゃないか?」


「いいですわね!双子コーデ、わたくし憧れていましたの!」


「よし、そんじゃ後は寝間着だけど」


「ちなみに普段はどのような格好をされていたんですの?」


「家だとあいつ結構だらしないというか、どうせ俺しか見ないんだし、とか言って、下はブルマに、上はぶかぶかのアニメTシャツとか着てたな。

 丈が長くてブルマが隠れるせいで、下に何も穿いてないように見えるっていう、もはや狙ってるとしか思えない格好だったが…」


「それでいきましょう!!」


「うおっ、びっくりした!?」


「いいじゃないですかブルマ!!

 しかもぶかぶかTシャツで穿いてないアピール!!

 でも安心してください、ブルマ穿いてますよ!!っていう焦らしプレイ!!

 パンツじゃないから恥ずかしくないんですのよ!

 さすがはカズヒさん、お兄様好みのエロティシズムを分かってらっしゃいますわ!!」


「うん、俺の性癖をよくご存じで、俺の心の声の代弁ありがとう。

 だけど、出来ればここ公の場なんで、音量下げてもらえるとありがたいかな~って」


「っと、これは失礼いたしましたわ、つい妄想が暴走してしまいました…

 では、早速カズヒさんのための服を選んでまいりましょう!」



 それから、俺とイツキはいくつかの服を選び、それらを実際にカズヒに着てもらい、その中からカズヒの気に入った服をいくつか買った。


 その後、トレーニングウェア用に色違いのジャージ上下(イツキが白で、カズヒが青、俺は左半分が赤で右半分が青といういわゆるキカイダーカラー)も購入した。


 最後に、下着を選ぶことになったわけだが、これに関してはイツキもカズヒも自分たちだけで選びたいということだったので、俺は一人店の休憩室で待つことになった(ちなみに俺のは五枚組セットとかの安い奴ですませた。昔からブリーフよりもトランクス派だ)。




*


 妹達の長き戦い(下着選び)が終わり、全ての買い物を終えた俺達はイツキの家へと帰った。

 時刻はすでに夕方5時を回っていた。 



「本格的な特訓は明日からにして、夕飯までまだ少し時間がありますから、今日は簡単な筋トレを行いましょう」



 イツキにそう言われ、俺達は早速先ほど購入したばかりのお揃いの色違いジャージに着替えて、広い中庭に集合した。



「では、メイさん、よろしくお願いします」


「はい、お嬢様」



 そう言ってメイド服のままのメイさんが俺達の前に出てきた。

 ちなみにセイさんの方は夕飯の準備をしていて、ここにはいない。



「それではまず軽く腕立て200回、腹筋200回、背筋200回、スクワット200回から」


「「無理ですっ!」」



 俺とカズヒが同時に叫んだ。



「お兄様、根性ですよ、根性!」


「いや、根性でどうにかなるレベルじゃ…」



 2000年前の俺ならまだしも、現世の俺は普通の高校生だ。

 普段から運動する習慣のなかった今の俺にはさすがにハードルが高すぎる…



「出来るか出来ないかではなく、やるかやられるか、の二択ですよ、ヨウイチ様?」


「やるかやられるか?」

 

「(筋トレを)やるか、(わたくしに物理的に)()られるか、の二択です」


「はい、全力で筋トレをやらせていただきます!!」


「あ、あたしも本当にそのメニューやらなきゃダメ…?」


「カズヒ様も筋トレはやっていて損はないと思います。

 お二人の話が本当なら、いずれカズヒ様もどこかで戦う必要が出てくると思いますし。

 ですが、まずは精霊術の取得が先決でしょうね。

 戦うための力がなければ、いくら筋トレしてもあまり意味はないですし」


「それもそうですわね。

 でしたら、カズヒさんはわたくしと精霊術の特訓をしましょう。

 お兄様の妹であるなら、きっとカズヒさんも精霊術を使えると思いますし」


「え、そういう理屈なの?

 精霊術を使えるか使えないのかの基準って」


「少なくとも、精霊術を使える家系の者は、ほぼ全ての者が使えますね。

 勿論、そういう家系じゃなくとも、突然使えるようになる方もいますし、逆に姉妹でも使える者と使えない者がいたりします」


「わたくしとセイがそうですね。

 わたくしは光の精霊術を使えますが、セイは一切の精霊術が使えません」


「あ、そうなんだ」


「そういうわけですから、わたくし達はあちらへ行きましょう。

 ではメイさん、お兄様を頼みましたわね?」


「了解いたしました。

 では、ヨウイチ様、早速腕立てから始めてください」


「りょ…了解です……」



 こうして俺はひたすら地道に筋トレをすることになったわけだが、正直言って地味な絵面過ぎるので、読者の皆様もあまり読みたくはないだろうから、ここからは一人称をカズヒに譲って、姉妹同士のキャッキャウフフで美しい百合の花をバックにしているかのような美しい特訓の場面を見ていただくことにしよう…



「ヨウイチ様、もうバテたのですか!?

 まだたったの20回ですよ!?」


「も、もう勘弁してくりゃれー!!」



 意外とスパルタなんだな、メイさんって………




*


 というわけで、ここからはあたしとイツキちゃんのラブラブ精霊術特訓の場面をお送りしていきます!



「?カズヒさん、何か言いましたか?」


「ううん、こっちの話!

 それより、もう一度説明してもらっていいかな?」



 あたし達はお兄ちゃん達の邪魔をしないよう、家の敷地から出て、目の前にある広場(つまり元の世界におけるあたし達の家があった場所だ)にやって来ていた。

 そこであたしはイツキちゃんから精霊術の使い方を習っているわけなのだが、



「目を閉じ、意識を自然と一体化させるんです。

 そうすれば、カズヒさんの魂と共鳴した自然精霊がカズヒさんの周囲に集まり、無意識の領域に精霊術を紡ぐための言の葉、つまりは詠唱式が流れ込んでくるはずです」



 なるほど、言っていることはなんとなく分かるけど、具体的にどうすればいいのかがサッパリ分からない!

 あたしはとりあえず言われた通りに目を閉じているのだが、どうにも自然と一体化するという感覚がピンと来ない。



「んん~…、むむむむ~ん…?」


「やはりピンと来ていないようですわね…

 ならば、奥の手を使いましょう。

 炎の精よ、集いて我が身と一体となれ!『スピリット』!」



 そう言うとイツキちゃんは『スピリット』の詠唱式を唱えて、全身に紅蓮の炎を纏って“炎化”した。



「え、いきなり“炎化”しちゃってどうしたの!?」


「この状態のわたくしは精霊と一体化した状態、つまりほぼ精霊といっても過言ではありません」


「いや、それは分かるんだけど、それでどうして、」


「つまり、こうするのですわ♪」



 そう言うとイツキちゃんがいきなりあたしの正面から抱き着いてきた!!



「うひゃっ!?」


「さぁ、カズヒさん、わたくしを全身で感じてくださいませ♪」


「い、イツキちゃんを、全身で…!」



 や、柔らかいし、とってもいい匂い…!


 じゃねぇ!!

 今は集中する時だよっ!!


 “炎化”してると言っても、イツキちゃんの身体は熱くない(どうやらその辺は術者の意識で調整できるらしく、敵とみなした相手には容赦ない灼熱の炎として感じられるらしい、ポケモンのポニータみたいな感じなんだろう)。

 あたしはイツキちゃんに抱かれたまま、意識をイツキちゃんに、その炎に集中させていく。

 

 ああ、なるほど、これが自然精霊の“形”…!

 あたしは理屈でなく、感覚で“それ”を理解した。


 そして、あたしに使える自然精霊の“形”も、ハッキリと見えた…!



「どうやら、カズヒさんにも見えたようですわね?」


「うん、イツキちゃんのおかげだよ」



 イツキちゃんがあたしからそっと離れていき、そこで“炎化”を解除した。

 ああ、極上の時間の終わり…


 いやいや、今は精霊術を使うための特訓中!

 お楽しみ時間(タイム)はこの後!夜はまだまだ長いんだから!



 あたしはコホンと一つ咳払いをして意識を切り替えると、先ほど心の中に入って来た詠唱式を口にした。



「……風の精よ、集え!『ウィンド』!!」



 すると、あたしの両手から小さな風が起こったのだ!



「おお、出来た!!」


「お見事ですわ!!

 さすがはお兄様の妹さんですわ!!」



 そう言ってイツキちゃんはまたあたしに抱き着いてくれた。



「いや~、イツキちゃんのおかげだよ!

 にしても、あたしも本当に精霊術が使えちゃうなんてね~」


「カズヒさんが先ほど使われたのは風の精霊術ですわね」


「ってことは、あたしは“風の精霊術師”ってこと?」


「ええ、その通りですわ。

 風の精霊術には、空気を操り、刃として敵を切り裂く術や、空気の層を作り出して盾とする術、さらには風に乗って空を浮遊する術など、様々な用途に応用できる万能な術です。

 ですが、それだけに力の制御が難しく、一流の使い手がほとんどいないという難しい精霊術です」


「なるほど、ということはこの力を使いこなせれば、女の子のスカートとかめくり放題ってわけだね!?」


「なっ…!?あなたは、なんという…、」



 あ、さすがにふざけ過ぎた?



「あはは、さすがに冗だ、」


「天才ですか…!?」


「へ?」


「風の精霊術にそのような使い方があったなんて…!?まさに盲点でしたわ!!

 確かに、力の加減が難しいだけに、例えばわざと加減を間違えたふりをして合法的に女性のスカートをめくり放題ではありませんか…!!」


「だよね、だよね!?やっぱりあたしって天才!?」



 ああ、良かった、イツキちゃんがあたしと同じ残念美人ちゃんで。

 


「では早速今から特訓しましょう、カズヒさん!!

 一刻も早く、その力をわたくしたちの、ああいえ、カズヒさんのものにしてみせましょう!!」


「あ~、でもあたしもイツキちゃんも今はジャージだから、さすがにこの状態でスカートめくりの練習は出来ないよ?」



 我ながらなんちゅうこと言ってるんだって感じだな。



「でしたら、わたくし今すぐ着替えてきます!!」



 そう言ってものすごい速さで屋敷へと戻っていくイツキちゃん。

 全世界を探しても、自分のスカートをめくってもらうために、わざわざスカートに着替えてくる女の子なんて彼女くらいだろうとか思いながら待つこと一分、一番最初に会った時にも来ていた純白のワンピースに着替えたイツキちゃんが戻ってきた。



「さぁ、カズヒさん!!

 わたくしのスカートをその術で見事めくってみせてくださいませ!!」



 本当、この残念美少女ちゃんは何を言ってるんだろうか。

 まぁいいや、イツキちゃんのパンツを合法的に見られるいい機会なのも事実!

 あたしはかつてない程に意識を集中させ、詠唱式を唱えた。



「風の精よ、集え!『ウィンド』!!」



 ふわっと、あたしの起こした風は絶妙な加減でイツキちゃんの足元を駆け抜け、その純白のワンピースを翻し、その下に隠された乙女の聖遺物(パンツ)をさらした…!



「白っ!!」



 イツキちゃんのパンツはやはり清純な白だった。



「なんと絶妙な力加減…!

 まさか、たった二回目でこれほどの力の制御が出来てしまうなんて…!

 素晴らしいですわ、カズヒさん!!」



 満面の笑みで拍手をしてくれるイツキちゃん。

 自分のスカートをめくられてパンツまで見られてここまで満面の笑みを出来る女の子はイツキちゃんくらいだよと思いつつ、あたしは先ほど見たイツキちゃんのパンツが未だ忘れらずにいた。

 思えば、学校の体育の授業などで着替え中に同級生の下着姿を見るということは当然あったわけなのだが、姉妹の下着を見るというのはこれが初めてだ(まぁ、兄しかいなかったから当然なのだが)。


 あたしはもちろんお兄ちゃんが大好きなブラコンではあるのだが、同時に姉妹というのものにも強い憧れがあった。

 ブラコンでシスコンという、本当にどうしようもない性格なのだが、それも両想いであるから周りにどう思われようが関係ない。


 それはともかく、つまり何が言いたいかと言うと、



「イツキちゃんのパンツ最高っ!!」



 あたしが思いのたけを吐き出した、その次の瞬間、あたしにもイツキちゃんにも予想外のことが起きた。


 突然あたしの手の中に暖かい布のようなものが出現したのだ。



「…へ?」



 思わずあたしはその布を両手でつかんで目の前で広げると、なんとそれはあたしが先ほど目にしたばかりの、イツキちゃんがはいていたパンツだったのだ!!



「…あ、な、なんでわたくしのパンツが!?」



 咄嗟にイツキちゃんが自らの股間に手を当てて確認する。



「なっ、無い!?わたくしのパンツがありませんわ!?」


「ええっ!?

 じゃ、じゃあ、これ、本当にイツキちゃんがはいていたパンツなの!?」


「か、カズヒさん、今あなた何をしたんですの!?」


「い、いや、あたしにもサッパリ…

 ただ、頭の中でイツキちゃんのパンツ姿を想像してて、イツキちゃんのパンツ触りたい、むしろ欲しい、とか考えてたら、突然あたしの手の中に…」



 あたしはイツキちゃんにパンツを返しながらそんな説明になっているのか、なっていないのか分からない説明をした。 

 あたしから受け取ったパンツをはいているイツキちゃんにあたしは尋ねた。



「これも、風の精霊術の力だったりするのかな?」


「…いえ、違うと思いますわ。

 精霊術が使われたのだとすれば、精霊の力が発動したハズです。

 ですが、わたくしにはそんな力は感じ取れなかった。

 突然パンツがワープした、テレポートしてしまったかのような、そんな感じでしたわ」


「テレポート…、まさか超能力…?」



 一度死にかけた主人公が次に目覚めた時、超能力を使えるようになっていた、というような設定のアニメや漫画はよくある。

 まさか、あたしにもそんなご都合主義的な展開が…!?



「カズヒさん、もう一度やってみてくれませんか?」


「え?」


「もし、本当にカズヒさんが超能力を使えるというのであれば、それは精霊術以上にすごいことです。

 使い方や、その能力次第では、とんでもない戦力になると思われます」


「た、確かにそうだよね…

 でも、イツキちゃんは大丈夫?

 パンツを見られるだけじゃなく、他人にパンツを触らせるなんて、嫌じゃない?」


「何故です?

 わたくしたちは血の繋がりこそありませんが、魂で繋がった姉妹ではありませんか?

 逆に聞きますが、カズヒさんはわたくしにパンツを見られたり、触られたりすることを嫌だと感じますか?」


「いえ、全く、むしろパンツだけじゃなく、もっと色々イツキちゃんには見たり触ったりして欲しいです!!」


「では、始めましょう!

 わたくしたちの秘密特訓、第二部を…!!」


「イェス、サーッ!!」



 そんなこんなであたしの超能力検証が始まるのでした。




*


 というわけで、色々と検証した結果、あたしが超能力で出来ることは以下の通りと判明。



①あたしが認識として知っているものであれば、距離や大きさに関係なく手元に取り寄せることが出来る。

 (この場合の距離は、世界をも超える。つまり、元いた世界のあたしやお兄ちゃんの私物なんかも取り寄せられる。)

 逆に言えば、あたしが知らないもの、見たことがないもの、認識が曖昧なものは取り寄せられない。

 

②ものを取り寄せるだけでなく、あたしが今持っているもの、触れているものを別の場所(ただし、自分が知っている場所、記憶にある場所、はっきりと認識できる場所)に移動させることも出来る。

 この場合、触れているのは爪の先とかの、ほんのわずかでもよい。


③ただ、重量制限はあるみたいで、あたしが両手に抱えられる程度の重さのものを移動させるのが限界の様だ。

 

④そして、人や動物は移動させられない。

 だが、これには一部例外もあるようで、眠っている動物は移動させることが出来たり出来なかったりした。



「ふむ、これは対象がレム睡眠の状態か、ノンレム睡眠の状態にあるかで変わってくるようですわね」


「え、何?ラム睡眠?」


「姉の方ではなく妹の方ですわ」


「ああ、レム睡眠…、ってこっちの世界でもあのアニメやってるの?」


「ええ、有名ですわよ?

 『イチから始まってしまった異世界冒険:ReLOAD』、略して『イチリ』」


「何か微妙に違う!?」


「円盤持ってますので、後で見ますか?」


「メッチャ見たいッ!!

 ああいや、今はそれよりも、そのレム睡眠ってのは何なの?」


「Rapid eye movement sleep、REMレム睡眠とは、急速眼球運動を伴う睡眠のことで、」


「ごめん、三行で」


「脳が覚醒状態で、

 俗に夢を見ている

 睡眠状態のことですわ」


「てことは、ノンレム睡眠はその逆で夢を見ない状態ってことだね」


「ええ、ざっくり言うとそんなところですわね。

 厳密には、脳が覚醒していないため、夢を見ていたかどうかの確認がとれない状態ですが」


「ふむふむ、だいたい分かった。

 つまり、あたしがテレポートで連れてこれた、この眠っているネコちゃんはノンレム睡眠状態にあるということかな?」


「ええ、恐らくそういうことなのでしょう。

 カズヒさんの超能力で移動させられるのは、意思を持たないもの、生物に関して言えば、意識がない、覚醒状態にないものに限る、ということなのでしょう」


「なるほどね~…

 使えそうで、微妙に使えない能力だな~…」


「いえ、精霊の力を借りない能力、超能力が使えると言うだけでもスゴイことだと思いますが?

 それに、カズヒさんが認識するものであればありとあらゆるものを移動させられるわけですから、かなりチートとも言えますよ?

 まぁ、質量制限はあるようですが」



 確かに。

 実際、試してみたところ、あたしの大好きな日本刀“大倶利伽羅(おおくりから)”の本物とかもお取り寄せ出来たし(ただし、すぐに元の場所に戻しました)、その気になれば日本銀行に保管されてるお金とかもお取り寄せ出来そうだ(いや、さすがにそんな犯罪行為はしませんけどね)。



「使い方はしっかり考えないとね…

 誰かが困ったり、悲しんだりするような使い方は避けないと」


「そこは、カズヒさんを信用していますわ。

 さて、もうそろそろいい時間ですわ、今日の特訓はここまでにして、家に戻りましょう」


「あ、うん、そうだね!

 あ~、あたしもうお腹ペコペコだよ~」


「ふふふ、食事の前に、まずは汗を流しませんと♪」


「あ、そうだね。

 じゃあ、イツキちゃん一緒にお風呂入っちゃう!?」


「当然、家族は皆で一緒にお風呂に入るのがルールですわ!」


「うんうん、そうこなくっちゃ!

 …ん、家族ってことは、まさか、」


「当然!!お兄様とも一緒ですわ!!」


「おっ、お兄ちゃんと!?」


「カズヒさんは普段からお兄様と一緒ではありませんの?」


「いや~、あたし的には全然問題ないんだけど、誘ってもお兄ちゃんがヘタレちゃってね~…

 小学校卒業してからは一度も一緒に入ってないな~」


「小学校と言うと、私たちの世界で言うプライマルスクールのことですわね?

 こんなにカワイイ妹から誘われているのに、それを断るとは、お兄様は頭がおかしいのではありませんの?」


「世間一般的には、あたし達の方が頭おかしいんだけどね」


「こうしちゃおれませんわ!

 今すぐお兄様をまともなシスコンに戻してさしあげませんと!

 お兄様ーーっ!!」


「え?あ、ちょ、イツキちゃん!?」


 

 まともなシスコンに戻す、というパワーワードを残してイツキちゃんは、目の前の自分の家へと駆けていった。




*


「に…200…ッ!!」



 スクワット200回を終えた俺は、その場に背中から崩れ落ちた。



「さすがはヨウイチ様、見事、腕立て200回、腹筋200回、背筋200回、スクワット200回をやり遂げましたね。素晴らしいです」


「そりゃ、どうも……」



 正直、俺も初日からここまで出来るとは思っていなかった。

 これもメイさんの指導力のたまものだろう。



「しかし、わたくしの持つお嬢様の秘蔵ブロマイド(下着姿もあるよ)がそんなに欲しかったのですか?」


「そりゃ、ね……」



 目の前にニンジンをぶら下げられた馬の気持ちがよく分かりました。



「分かりませんね、目の前に本物のお嬢様がいて、わたくしとは違って両想いで、いつでも言えばお触りどころかそれ以上の行為もOKされるでしょうに、今更ブロマイドなど、そこまで欲しいものですか?

 そのブロマイドで釣っておいてなんですが…」


「カワイイ妹の秘蔵ブロマイドを欲しがらない兄なんて、そんなの兄とは言わないでしょ?」


「…そういうものですか」


「そういうものです。

 …そんなことより、気になることが」


「何ですか?」


「さっき、メイさんは『わたくしと違って両想い』って言ってましたけど、まさかメイさんはイツキのことを、」


「さ、特訓後はマッサージです。

 腹ばいになってもらえますか?」


「え、いや、ちょっ、」



 俺の質問に答えるより早く、メイさんは仰向けに倒れていた俺を力づくでひっくり返し、俺を強引に腹ばい状態にしてから、いきなり俺の背中に跨ってきた!



「メ、メイさん!?」


「勘違いしないでください、わたくしがお慕い申しているのは、ヨウイチ様の推察通り、あくまでもお嬢様だけです。

 これから施すのは、わたくしだけが使える固有術を使った、特殊なマッサージです」


「こ、固有術だって!?」



 固有術とは、その人にしか扱えない特殊な精霊術のことだ。

 現在確認されているだけでも数種類しかない、本当に超希少な精霊術だが、それ故にリスクも大きく、術を使うには、命を削る必要がある。

 そんな術を、マッサージなんかのためだけに使ってしまうのは、



「安心してください、わたくしの固有術では命を削ることはありません」



 俺が言いたいことを察して、先回りしてそう答えたメイさん。

 そして、メイさんの両手に光の精霊術が集まっていく気配を感じたかと思うと、その両手を俺の背中に優しく押し当てた。



「光の精よ、我に奇跡の力を示せ、集い来りて彼の身に宿り、その身を癒し、その身をありし状態に修復し、さらにその先に到達せし状態に“復元”せよ、『パーフェクトヒール』」


「こ、これは…!?」



 俺の全身を精霊の光が優しく包み込んだかと思うと、全身の筋肉痛がたちまちに消えていった。



「すげぇ…、筋肉痛が一瞬で治っちまった…」


「それだけではありません。

 わたくしの『パーフェクトヒール』は、ただ体の異常を治すだけでなく、将来の成長の可能性まで含めて“復元”するのです」


「将来の成長の可能性?」


「はい、筋トレによって筋肉は成長していきますが、その効果が出始めるのに一週間くらいはかかります。

 目に見えて成長が分かるようになるにはさらに数ヶ月要します。

 ですが、わたくしの『パーフェクトヒール』を使えば、一週間後に成長する分の筋肉まで含めて“復元”させることが出来るのです」



 言われてみれば、確かにちょっとだけ筋肉がついたような、気がする。



「そ、そんなことが…?

 でも、こんなすごい固有術がノーリスクで使えるなんて」


「その代わりに、わたくしにはこれ以外の精霊術が使えません」


「なるほど…

 あれ、でも『ホーリーヒール』は使えてたような?」


「『パーフェクトヒール』は『ホーリーヒール』の完全上位互換版なので、詠唱を一部省略することで下位術である『ホーリーヒール』を疑似的に使用しているのです」


「な、なるほど…」


「筋トレと『パーフェクトヒール』を一週間、カオル様との決闘の日まで続ければ、少なくとも身体的にはカオル様と十分にやりあえるくらいには成長できると思いますよ?」


「まるで死にかけからの蘇生でパワーアップしていくサイヤ人みたいな話だな」


「あら?ヨウイチ様たちの世界でもそのネタは通じるのですね?」


「え?こっちの世界にもあるのか、あのマンガ?」


「はい、『ボールオブドラゴン』ですよね?」


「龍の球であることには違いないんだけども!」



 というような話をメイさんとしていたら、イツキとカズヒが帰ってきているのが見えたので、声をかけた。



「お、イツキにカズヒ、お帰r」


「お兄様ッ!!妹の裸が見たいとは思いませんか!?

 見たいでしょう!?そうでしょう!?ならば一緒にお風呂に入りませう!!」


「いきなりどうした!?」



 イツキってこんな子だったか?



「…コホン、取り乱しましたわ。

 2000年分の思いが爆発してしまいました」


「要約すると、イツキちゃんはお兄ちゃんとお風呂入りたいんだって」


「い、いや、それはさすがにマズいだろ…」


「お兄様はわたくしの裸が見たくないんですの?

 わたくしは見たいですわ!!」


「素直だな君は」


「まぁまぁ、いいじゃん、お兄ちゃん♪

 あたし達兄妹なんだし」


「カズヒも一緒に入る気満々なのかよ。

 いや、と言ってもな~…

 そもそも、三人一緒に入れるだけの風呂場なんて、」


「20人くらいまでだったら余裕で入れますわよ?」


「マジか」


「あたし、イツキちゃんの妹になれて良かった」


「わたくしもカズヒさんという妹が出来て最高ですわ」



 そりゃ本音を言えば俺だって妹達と一緒に風呂に入りたいさ!!

 でも、だからと言ってここで安易に流されてしまっては男のプライドが、



「ではお兄様、いきますわよ♪」


「お兄ちゃんと一緒のお風呂なんて小学校以来だね~♪」


「うん、プライドなんてクソくらえだ、読者サービスも必要だよな、うん」


「ヨウイチ様のそういう欲望に忠実なところは、わたくし嫌いではありませんよ?」



 まぁ、妹達の頼みを無下に断るわけにもいかんしな、うん。

 



*


「…と、欲望のままに流されてしまったが………」



 とてつもなく広い大浴場の湯船に一人でつかり、妹二人を待ちながら早くも後悔し始めた俺。

 さすがに早まったことをしてしまったか…


 俺は落ち着かない気持ちを少しでも抑えるために、改めて大浴場の中を見渡す。

 そこはまさに絵に描いたようなお金持ちの家の大浴場で、湯船には20人どころか学校のクラス一つ分の人数が余裕で入れるくらいの広さがあり、その中央にはお湯の流れる水瓶を抱えた半裸の女神像が、



「って、この女神像よく見たらルナじゃないか!?」



 【精霊姫】ルナの像、つまりは前世のイツキの像なわけだが、自分の像を浴場に作るなんて、



「ああ、それはメイさんの指示で作られたそうですの。

 わたくしは恥ずかしいからやめて欲しいと言ったのですけれど…」


「なるほど、メイさんの…

 そういやあの人、イツキのことを、って、」



 声に振り向くと、そこにはバスタオル一枚を巻いただけのイツキとカズヒの姿があった。



「お待たせしましたわ、お兄様♪」


「待ちくたびれちゃったかな、お兄ちゃん♪」


「お…、おお……!」



 バスタオル越しでも分かる妹二人のナイスなバディ!

 キュッとしまったウエストに、セクシーな曲線を描くヒップ、そしてほんのり尖った先っぽを主張するバスト…!



「どうどう?興奮した、お兄ちゃん?」


「ああ、いや、えっと…」


「まぁ、聞かずとも、お兄様のお兄様を見れば一目瞭然ですわ♪」



 言われて俺は慌てて股間に手を当てる。

 浴槽内にはタオルは付けないのがマナーだから、当然俺のそこは丸見えになっていたわけで…



「あはは、いや~、さすがに小学生の頃に比べると、やっぱりお兄ちゃんも成長してるんだね~」


「そりゃこっちのセリフだっての!

 本当、俺にはもったいないくらいにいい女に成長しやがって」


「それは違いますわよ、お兄様?

 わたくしたちはお兄様だけの妹ですから、お兄様以外の殿方には興味ありませんのよ、ねぇ、カズヒさん?」


「うんうん、イツキちゃんの言う通り!

 あたしたちを好きにしてもいいのは、お兄ちゃんだけなんだからね?」



 もう、ゴールしてもいいよね…?

 俺の理性が限界突破しかけたその時、イツキが申し訳なさそうな顔で話を続けた。



「それで、本当は今すぐこの場でお兄様にこの身を奉げたいところではありますが、カズヒさんを差し置いてというのは気が引けますし、それに他の姉妹の皆さんもいますから、そういう行為は、姉妹全員が揃ってから、ということでいいでしょうか?」


「へ?」


「いや~、あたしは遠慮なんてしなくていいよ、って言ったんだけどね?

 何せイツキちゃん、2000年もお兄ちゃんのために貞操を守ってきたわけじゃん?

 だからもうあたしのことなんか気にせずお兄ちゃんと好きなだけヤっちゃいなYO!って言ったんだけど、イツキちゃんってば本当に真面目だから…」


「こういうのはやはり、姉妹平等にあるべきです。

 きっと他の姉妹の皆さんも、お兄様のことを大好きなハズなのですから。

 わたくしだけ抜け駆けをするわけにはいきませんわ」


「というわけだからさ、まぁ、盛り上げちゃったお兄ちゃんには悪いけど、もうちょっと我慢してね♪」


「え…、あ、いや~、うん、そうね…、そういうことなら、まぁ、ちかたないよね、うん」



 目の前に高級料理があるのにお預けされる気分ってこういう感じなんだな…

 残念なような、少しホッとしたような、そんな複雑な気分だ。



「では、お兄様、わたくし達と背中の流しあいをしましょう♪」


「喜んで」


「こっちの世界に来てからお兄ちゃん、少し積極的、というか素直になったね?」



 俺は湯船から上がり、イツキに促されるまま洗い場の風呂椅子に腰かけた。



「まぁ、もう今更自重する意味もないかな~って」


「うんうん、人間欲望に素直が一番だよ」


「君達は素直すぎるんだよ」


「さ、それではカズヒさん、わたくし達二人でお兄様のお身体を綺麗にしてさしあげますわよ♪」


「オッケー♪」


「うん?二人で?」



 俺の疑問に答える代わりに、パサリと二人の妹の身体からバスタオルがタイルに落ちる音が聞こえた。

 すると、俺の目の前には一糸まとわぬ姿となったイツキの姿が…!

 そして俺の背後には同じく一糸まとわぬ姿のカズヒが立つ。



「ちょっ、二人ともさすがにそれはドウテイの俺には刺激が強すぎ…ッ!?

 っていうか、タオルは!?」


「タオルは…、」


「あたし達、だよ、お兄ちゃん♪」



 そう言うと二人の妹はボディソープを自分達の身体全体になじませるようにかけていった。



「では、失礼いたしますわね、お兄様…♪

 んん…っ」



 二人の妹の柔らかなふくらみが、俺の胸と背中にゆっくりと当てられた。



「…ッ!?」


「ああ…、お兄様の胸板…!

 素敵ですわ、お兄様…!ああ…♪」


「お兄ちゃんの背中、おっきい…!

 やっぱり子供の頃とは大違いだね…」



 こ、これがこの世の天国、か…っ!!


 直後、俺の視界が赤い世界へと染め上げられ、そのまま俺の意識は深い闇の底へと落ちていった…



「お、お兄ちゃん!?」


「キャー!?お、お兄様がものすごい量の鼻血を噴き出して気絶してしまいましたわ!?」


「え、衛生兵ー!衛生兵ーー!!」


「やれやれ…、この程度で気絶されてしまうとは、ヨウイチ様はとんだチキン野郎でございますね」


「にゃははは、【建国の王子】も妹の裸には弱かったわけだ♪」


「ああ、メイさん、セイさんいい所へ!

 お兄様を運ぶのを手伝ってくださいませ!!」




*



 えー、お兄ちゃんが気絶してしまったので、ここからは再びあたし、カズヒ視点でお送りいたします。


 メイさんとセイさんがお兄ちゃんを風呂場から救出し、パジャマを着せてから談話室のソファに寝かせ、メイさんが光の精霊術である『パーフェクトヒール』の詠唱省略術『(疑似)ホーリーヒール』(聞いたところによれば、この精霊術はメイさんの固有術であり、あたしが鼻血を出して気絶してた時にも使ってくれていたらしい)を使ってお兄ちゃんを介抱してくれている間、あたしとイツキちゃんは改めてお風呂に入り直していた。



「お兄様、大丈夫でしょうか?」


「いや~、さすがにいきなりアレは刺激が強すぎたみたいだね~」


「むむ~、わたくし達のご奉仕で喜んでいただこうと思ったのですが…」


「喜んでくれていたとは思うよ?

 ただ、いきなり段階をすっ飛ばし過ぎちゃったのかもね」



 やはり最初は普通にタオルを使ってのご奉仕にしておくべきだったか~

 …にしても、改めてイツキちゃんの身体をじっくり眺めてみると、本当にキレイな身体だと感心する。



「あら、カズヒさんのお身体も十分キレイだと思いますわよ?」


「え~、そうかな?

 体型は負けてはいないと思うけど、でも肌の色とか質とかはイツキちゃんに敵う女の子はいないって思うな~」



 そう言ってイツキちゃんの身体に触れるあたし。



「あん♪

 もう、急に触らないでくださいまし♪」



 そう言いながらもまんざらでもなさそうな表情を見せるイツキちゃん。

 ん~、端的に言ってエロイ。

 あたしが男の子だったらまず間違いなく襲ってるところだ。



「うふふ♪

 カズヒさんにでしたら襲われても構いませんのよ?」


「そういや、この世界だと女の子同士でも子供作れるんだっけ」


「ええ、とはいえ、そのためにはどちらかの体細胞からiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞を用いて精子を作りだし、それをもう一方の卵子と受精させ、どちらかの胎内にて着床させるという手順を踏まねばなりませんが」


「ごめん、一行で」


「iPS細胞はすごい」


「なるほど、だいたい分かったよ」


「カズヒさんはもう少しお勉強しないといけないようですわね」


「数学だけは得意なんだよ?本当だからね?」


「まぁ、いいですわ。

 それで思い出したのですけれど、カズヒさんとお兄様の手術を明日の午後に行うことになりましたわ」


「手術…?

 って、ああ!兄妹きょうだい同士でも子供が作れるようにするための?」


「ええ、メイさんに手術の予約手続きを頼んでいたのですけど、運よく明日の午後がちょうど空いていたみたいで」


「へ~、そ、そうなんだ…」



 あ、改めてお兄ちゃんとの子供を産めるようになるんだって考えると、急に恥ずかしくなってきた…



「え、えっと、ちなみにその手術って結構大変なの?

 時間とかかかったりする?やっぱ結構痛かったり?」


「わたくしも詳しくは知りませんが、そこまで時間はかからないようですわよ。

 お二人の体から生殖細胞を抽出して、その遺伝子配列を少し改変して注入するだけ、と聞いています」


「聞いただけじゃ何をどうするのかサッパリ分からないけど、遺伝子配列の改変とかって、それだけで数日とかかかりそうなんだけど?」


「そうですか?

 わたくしたちの世界ではその手の技術に関してはかなり進んでいますので半日もあれば終わってしまいますわ」


「ほへ~、そうなんだ…」


「まぁ、精霊術の応用技術も使われていたりしますから、カズヒさんたちの世界とはその辺の常識が違うのでしょう」


「それもそっか。

 にしても、あたしの思ってた異世界とイメージが違うな~」


「うふふ、それはアニメやゲームの異世界、ですか?」


「そうそう!

 アニメやゲームの異世界って言うと、大体文明レベルがあたし達の世界よりも低かったりしてさ、『異世界人のあたしすげー!』って感じじゃん?」


「ええ、分かりますわ」


「なのに、この世界はあたし達の住んでた世界とほとんど変わらない上に、一部文明技術に至っては、あたし達の世界より進んでるじゃん?」


「それは、わたくし達とカズヒさん達の世界が、異世界ではなくパラレルワールドだから、でしょうね」


「ん?異世界とパラレルワールドって違うの?」


「パラレルワールドというのは、いわゆる並行世界、並行時空のことで、ある世界、時空から分岐し、それに並行して存在する別の世界、時空のことを言います。

 それに対して異世界は、わたくし達の住む世界とは根本的に法則などが異なる、わたくし達の認識の外側の世界のことを言います」


「なるほど、だいたい分かったよ」


「カズヒさんの言うだいたい分かったは、ほとんど分かっていないということが、わたくしにはよく分かりましたわ」


「あははは…」



 ま、まぁ、こまけぇこたぁいいんだよ、うん!

 とりあえずイツキちゃんの身体がエロイってことが今は一番大事なことだよ、うん!

 こんなカワイイお姉ちゃん、いや、妹…?

 そう言えば、同い年ってのは聞いてたけど、誕生日とかは聞いてなかったな。



「あ、ところで話は変わるんだけど、イツキちゃんの誕生日っていつなの?

 ちなみにあたしとお兄ちゃんは8月12日だけど」


「わたくしも8月12日ですわ」


「うそ、一緒!?」


「そういえば、ハルカさんも8月12日だと聞いていますわね。

 ひょっとすると、わたくし達姉妹は皆同じ誕生日なのかもしれませんわね」


「それって、すごい偶然…、いや、元々前世でもお兄ちゃんとイツキちゃん達は双子だったわけだし、その辺りも運命レベルで決まってたりするのかな?」


「かもしれませんわね」


「あ~、だとすると生まれた日付でどっちが姉か妹かは決められないか~」


「ああ、そういうことだったのですね。では、生まれた時間などは?

 ちなみにわたくしは日付が変わって深夜1時半ごろだったと聞いていますわ」


「あ、それならあたしの方が少し遅いかも!

 あたしは深夜2時少し前くらいだったって聞いてるよ。

 んで、お兄ちゃんが1時少し前くらいだったって」


「では、わたくしが姉、ということになりますわね」


「じゃあ、あたしが妹、だね!えへへ~、お姉ちゃ~ん♪」



 そう言ってイツキちゃんのおっぱいに顔をうずめるあたし。

 ん~、柔らかいし、いい匂い!



「あらあら、甘えん坊さんな妹ですわね♪」



 イツキちゃんがあたしの頭をなでなでしてくれる。

 あ~、これが長年憧れていた姉妹のスキンシップ…ッ!

 夢なら覚めないで…!



 なんてことを考えていると、お風呂場の扉が開き、そこからセイさんが顔を出した。



「お楽しみの所ごめんね、お二人さん、夕飯の準備が出来ましたよ~」



 その後、復活したお兄ちゃん含めて皆でセイさんの作った豪華な夕飯を楽しくいただいた。

 レストランのフルコースかって思えるくらいの豪華な食事は全てセイさん一人の手作りだそうで。

 聞くところによれば、メイさんは一切の料理が出来ない代わりに、掃除や洗濯のエキスパートで、逆にセイさんは掃除や洗濯をさせると何故か逆に前よりも汚くなるという特技があるそうだ。



 夕食が終わった後は、自分でも思ってた以上に疲れていたのか(肉体的疲労と言うより、精神的疲労と言った方が正しいかもしれない)、すぐに眠気が襲ってきてしまい、もっとイツキちゃんと色々(妹同士の)内緒のお話をしたかったのだが、翌日以降に、ということでメイさんに用意してもらったあたしの部屋(なんと使っていない部屋が20近くもあるそうで、あたしとお兄ちゃんの部屋も個室で用意してもらっていた)でぐっすりと眠ってしまった。


 ちなみに一部屋は10畳くらいで、家具はベッドと、鏡付きの化粧机に、本棚(この中にはあたしが超能力で元のあたしの世界から持ってきたマンガやラノベなんかが並んでる)、スライド式のワードローブに大型テレビまで完備されていた。


 今日買ってきたパジャマに着替えたあたしは、そのままベッドにもぐりこみ、眠りにつくのだった。



*


 風呂場で盛大に気絶してしまった俺は、その後目覚めてからセイさんの用意してくれた豪華な夕飯を食べた後、自分の部屋に戻ると、強烈な眠気に襲われてそのままベッドに倒れ込み、眠りに落ちた。

 パラレルワールドに転移してきて、おまけに前世の記憶まで取り戻したり、メイさんからのスパルタ特訓を受けたり、愛する二人の妹に風呂場で迫られたりとかなり濃い一日を過ごしたせいか、思ってる以上に疲れていたようだ。



 そんな眠っている俺の夢の中に、一人の少女が現れた。



『ヨウイチよ、目覚めるのだ…』


「その声は、ヨミ、だな?」



 その少女、いや厳密にはその姿は曖昧としていてかろうじて女性っぽい、としか分からないシルエットだったが、その声は俺が転移する時に聞いた声と同じだった。

 ということは、つまりそのシルエットの正体はカズヒの言う所のカワイイ女の子、ヨミだろう。



『いかにも、我が名はヨミ、お主らを誘う使者じゃ』


「ようやく俺の前にも姿を現してくれた、ってわけか。

 最初の時は声だけだったもんな。

 だけど、まだはっきりとあんたの顔が見えないな…?」


『まぁ、我は美少女故、男のお主の眼には毒となろう』


「残念だが俺は根っからのシスコンだから、姉妹以外の女性には興味がないぞ」


『それはそれでムカツクのう…』


「で、俺の夢の中にまで現れて何の用だ?」


『何、お前さんたちに一つ伝えていなかった重要事項を伝えに来たまでよ』


「…重要事項?」


『そう、いわゆる転生特典、というやつだ』


「転生特典、だと…?」



 それって、異世界転生ものとかでよくあるやつか。

 確かに、俺は2000年間で何度か転生してきて今の俺になっているわけだが。



「つまり、俺に何かチート能力でも授けるって言うのか?」


『チート能力と言えばチート能力かもしれんが、直接的に敵を倒せるような能力ではないぞ?』


「じゃあ、どんな能力なんだ?」


『それはな、お前たち姉弟兄妹(きょうだい)のみに有効な能力で、お互いの唾液を交換し合えばお互いの能力が徐々に強化されていく、というものだ』


「…はい?」


『端的に言えば、姉弟兄妹(きょうだい)で接吻、キスをすればどんどん強くなっていくという能力だ』


「キッ…!?」



 またとんでもない設定でてきたな、おい!?

 いや、だがそういう設定のアニメや漫画がないわけでもなかったけども!?



「そんな安直な設定を出されても…

 それこそラノベとか漫画のハーレム作品ものみたいな…」


『それぐらいしなければ魔王ヤミは倒せんということだ』


「…あんたは本当に一体何者なんだ?」


『今はまだ我が正体については話せぬ』


「そう言うだろうとは思ってたけどさ。

 まぁ、いいや、それで?具体的にパワーアップって言われても、どう強くなるんだ?」


『そうだな、例えば精霊術で言えば詠唱の省略が可能になったり、あるいは新たな術を使えるようになったり、といったところか』


「詠唱の省略…!?そんなことが可能になるのか!?」



 詠唱の省略は、メイさんが『パーフェクトヒール』を意図的に略すことで下位術である『ホーリーヒール』を疑似的に使うため行っていたが、あれは固有術だからこそ出来るものであって、通常の術は詠唱を省略してしまうと術そのものが発動しなくなってしまう。



『そうだ。

 それと、これは特にお前さんにあてはまるが、二種類以上の能力の同時使用が可能になったり、とかな』


「二種類以上の能力の同時使用、だって!?

 それってつまり光の精霊術と雷の精霊術を同時に発動出来るようになるってことか!?」



 基本、一人の人間が扱える精霊術は一種類だけだ。

 ごくまれに二種類以上の精霊術を扱える者が存在する、という噂を聞いたことはあったが、それらを同時に発動させるという話は聞いたことが無かった(二種類以上の術を同時に発動出来るのであれば、相当の実力者として歴史にはっきりと名前が残っているはずだ)。



「二種類以上の術を同時に発動出来るってことは、それだけ攻撃のバリエーションが増える、つまり…、」


『魔王ヤミを殺せる手段がそれだけ増える、というわけだ』



 魔王ヤミは無限に近い魂を持っている。

 奴を殺すだけならばある程度の実力を持つ者であれば可能だが、一度殺された手段に対しては耐性を得て、二度と同じ手段では殺せなくなってしまう(抗原と抗体のようなものだ)。

 だから、奴を完全に殺しきるには無限に近い方法でもって奴を殺さなければならない。

 それが前世では不可能だったため、苦肉の策として奴を封印するしかなかった。


 しかし、2000年の間に何度も何度も転生を繰り返したことで、多くの姉妹たちと縁を結んできただけでなく、様々な力を俺は手に入れてきた。

 光の精霊術と雷の精霊術だけじゃない、俺にはもっともっと他に使える能力、使えていた能力があったハズだ。

 それらをいくつも組み合わせて同時に発動出来るようになれば、ヤミを無限に殺すことも可能になるのかもしれない…

 俺の能力だけで仮に足りなかったとしても、俺には頼れる姉妹が11人もいる。

 彼女たちの能力も組み合わせれば、魔王ヤミを完全に殺しきるのは確かに夢でなくなるだろう。



『そんなわけだから、魔王ヤミを倒すために、思う存分姉妹たちとキスをしてパワーアップしておくのだぞ』


「い、いや、ちょっ、ヨミ!?」


『ああ、それと、キスをしてすぐに効果が出るとは限らない。

 言えるのはキスをした分だけ強くなる、ということだ』


「そんな努力しただけ強くなるみたいに言われても…」


『では、健闘を祈るぞ。

 ああ、あと出血大サービスでもう一つ教えておこう、この世界にはあと一人、お前の“姉”が転生しておるぞ』


「えっ、姉ちゃんが!?それは一体どこの誰…っ、」



 ヨミは言うことだけを言い終えると、そのまま姿を消し、俺の意識もまた深い闇へと吸い込まれて行き、深い眠りに落ちていった。



*


「…という夢を見たんだけど……、」


「奇遇ですわね、お兄様、」


「あたしたちも全く同じ夢を見たんだよ」



 翌日、目を覚ました俺の両端には二人の美少女、我が愛しの妹たちが下着姿で、その胸に俺の腕をホールドする形で寝ころんでいた。

 両腕から伝わる柔らかい感触がたまらなく心地よい。



「同じ夢を見たのなら話は早いですわ、早速お兄様の唾液をわたくしたちにいただけますか?」


「要するにキスして、ってことだね」


「いや、えっと…、」


「まぁ、ちょっと恥ずかしいけど、でも強くなるためだもん、仕方がないよね♪」


「ま、まぁ…、うん、分かってはいるんだが…」



 イツキとカズヒの顔が俺の目の前に迫ってくる。


 キスくらいならば、前世でも経験がある。

 兄妹同士のキスと言うと、現代日本ではかなり犯罪的に聞こえるかもしれないが、そもそも家族同士で挨拶のためのキスをするのは欧米では普通の文化として存在している。

 だから兄妹でキスをすることは何も問題ではないハズなのだ。 



「…よし、分かった、俺もお前達の兄だ、覚悟を決めた!!」


「お兄ちゃん…!」


「ああ、お兄様…♪」


「二人を強くするため、そして俺自身も強くなるためだ!!

 やってやろうじゃないかっ!!」


「ええ、そうこなくては♪」


「よっしゃ!じゃあ最初はどっちからだ!?」



 恥ずかしさを誤魔化すために無駄に大声を出して気合をいれる。

 …とても今からキスをするような雰囲気には見えない。



「では、わたくしから」



 そう言ってイツキが目を閉じ、唇を近づけてきた。

 ほのかにピンクがかった、柔らかそうな唇。


 俺も目を閉じ、そっと唇を近づける。

 お互いの息遣いが聞こえる距離で、唇と唇が触れ合う。



「んっ……!」



 やがて、どちらからともなく舌を出し、お互いの舌を絡め合う。

 さすがに前世でもここまで濃厚なキスをした経験は無かったな…

 それはイツキも当然同じで、お互いに拙い舌使いではあったが、心地よい感情の高ぶりと、身体の奥底で何かが変わったような感覚があった。


 そうして無限にも思える時間が経過し(実際には一分強程しか経っていなかったが)、どちらからともなく離れた。



「はぁ、はぁ、お兄様…」


「イツキ…」



 唇を離してしばらく見つめ合う俺達だったが、すぐ隣でお預けを食らったままのもう一人の妹がいることを思い出し、俺はそのもう一人の妹の方に話しかけた。



「それじゃあ、次はカズヒだな」


「え…、あ、う、うん……」



 普段は積極的なカズヒだが、いざ本番となるとやはり恥ずかしいのか、急にしおらしくなりやがった。

 昨日は風呂場であれだけ大胆に迫って来たのに、乙女心は複雑、ってやつなのか?


 俺はもじもじするカズヒの背中に手を回して強引に顔を近づけた。



「あっ…!」


「カズヒ」



 目を閉じたカズヒの唇に、強引にキスをし、舌を入れる。



「ん……!」



 一瞬ビクッと跳ねたカズヒの身体だったが、俺の舌を拒絶することなく、カズヒも舌を絡ませてくる。

 というか、勢いでイツキと同じように舌を絡ませたキスをしてしまったが、カズヒはイツキと違って血の繋がった現在の妹なんだよな…

 背徳感が半端ない……!


   

「んん…っ!お兄ちゃ……っ!」



 なんてことを考えながらキスをしていたら、ひと際大きくカズヒの身体が跳ねた。

 …どうやら、今のキスでイってしまったらしい。



 俺はカズヒの唇から離れると、カズヒは脱力したようにくたっとしてしまった。



「はぁ、はぁ、はぁ…、お兄、ちゃん……」


「あらあら、カズヒさんってば、お兄様とのキスだけでイってしまったんですのね」



 そんな脱力したカズヒに覆いかぶさり、顔を近づけていくイツキ。



「い、イツキちゃん…」


「ふふ、カズヒさん、まだまだキスは終わっていませんでしてよ?」



 そう言うと、今度はイツキがカズヒの唇にキスをした。



「んん…っ!」


「イツキさん……っ!」



 姉妹同士の濃厚なキスを見ながら、俺は心底思うのだった。



「ああ、2000年来のシスコンで良かった…」



*


 その後服を着替えた俺達は、食堂に向かい、セイさんの作った朝食を頂きながら、今日の予定を話し合った。



「今日は午後からお兄様とカズヒさんの生殖手術を行いますわ」


「ん?生殖手術って言うと…、」


「ああ、あたしとお兄ちゃんとの間で問題なく赤ちゃんが作れるようにする手術だね?」


「ええ、そうですわ」


「ああ、本当にするんだな、その手術…

 っていうか、その手術って具体的にはどうするんだ?」


「昨日、カズヒさんには少し説明をしましたが、お二人の体から生殖細胞を抽出して、その遺伝子配列を少し改変して注入するという簡単な手術の様ですわ」


「いや、聞く限り全然簡単そうじゃないんですけど!?」


「その辺りの技術はお兄様達の世界より進歩しているのですわ。

 精霊術の応用術も使われていますし」


「へ~…、そういうもんなのか。

 まぁ、この世界は男の数が極端に少ないという事情があるから、子孫を残すためにその辺の生殖に関する研究や技術が進んでいるってのは理解できるかな…」


「それじゃあ、その手術の時間までは何をしよっか?」


「それなのですが、先ほどの行為でわたくし達が本当にパワーアップ出来たのか、確かめてみませんか?」



 そういうわけで、朝食を終えた俺達は、家の前の広場にやって来た。



「夢では詠唱の省略が可能になったり、新たな術を使えるようになったり、と言っていましたわね?」


「ああ、そう言っていたな、

 ただキスをしてすぐに効果が出るとは限らない、とも言っていたぞ」


「ええ、ですがお兄様やイツキさんとキスをしていた時、こう、身体の奥底に何かが入ってくるような、何かが生まれてくるような感覚があったのは間違いありませんわ」


「あ、それ、あたしも感じたよ!

 気持ちいいのとは別に、何か別のものが入ってくる感覚、あれがパワーアップの感覚だったのかも!」


「ものは試しですわ、ちょっとやってみましょう」



 そう言うとイツキは俺達から離れ、右手を胸にあてて目を閉じた。

 精神を集中し、己と契約している精霊と交信しているのだろう。



「…なるほど、確かにパワーアップしているようですわね。

 炎の精よ、集いて敵を討て!『ファイアボール』!!」



 イツキが右手を前に突き出すと、その掌にバスケットボール程の大きさの火球が出現した。

 炎の精霊術の基本術『ファイアボール』だが、俺の前世の記憶では『ファイアボール』はせいぜい野球ボール程度の大きさだったはずだ。

 基本術である『ファイアボール』は威力こそ低いが、一回の詠唱で火球を連続で複数出現させて敵を攻撃することが出来るのが特徴だった。



「なるほど、基本術の『ファイアボール』ですが、威力はかなり上がっているようですわね。

 おまけに、この状態でも連続で発射することが可能の様です」



 そう言うとイツキは、さらに三つほど火球を右手から出現させて、地面に向けて放った。

 『ファイアボール』の直撃を受けた地面には半径1メートル程の半球状のクレーターが出来た。



「おお、すごい威力…!」


「さすがイツキだな」


「お褒めにあずかり光栄ですわ。

 一応これでも威力はかなり抑えたつもりなのですが、パワーアップした分、調整が思ったように上手くいきませんでしたわ」


「え、これで威力抑えてるの!?」


「はい、本気でやってしまえば、トノウエ山くらいなら吹き飛ばしてしまいそうですわ」


「マジか…」


「それも『ファイアボール』で、って話だよな?

 じゃあ、最大術の『インフェルノバースト』だったら…、」


「ここキュウシュウ本島くらいは消し飛ばしてしまうかもしれませんわね」


「ねぇ、お兄ちゃん、イツキちゃんが味方で良かったね…」


「ああ…、イツキ相手だと何をやっても勝てる気がしねぇよ…」


「あらお兄様ってば、そうは言いますけど、これだけの威力をもってしても、お兄様のバリアー、『ホーリーシールド』を貫ける自信はありませんわ」


「まぁ、それはそうだろうな。

 だけど、こっちもイツキを倒すための術がないから、負けることもなければ勝つことも出来ないってわけだ」



 光の精霊術の基本術である『ホーリーシールド』はありとあらゆる物理、魔術的ダメージから身を守る、基本術でありながらも究極の盾だ。

 それにはどんな例外も存在しない。

 これだけ聞くと光の精霊術はかなりチートのように聞こえるが、光の精霊術には盾以外には回復技である『ホーリーヒール』と飛行術である『フライ』くらいしかなく、攻撃するための術が存在しないため、相手を倒すことが出来ない。

 

 まぁ、俺に限って言えば例外的に光の精霊術で攻撃するための術を使えなくはないのだが…

 


「そんなことは無いと思いますけど、そもそも前提としてわたくしとお兄様が戦うことがあり得ないことですしね」


「その通りだな。

 ところで、カズヒの方はどんなパワーアップしたか分かったか?」


「ちょっと待ってね、えーっと…」



 カズヒもまた右手を胸にあてて目を閉じ、精神を集中させ始めた。



「…うん、分かったよ!あたしはこの術が使えるようになったみたい!

 風の精よ、集いて我が身と一体となれ!『スピリット』!」



 カズヒの全身を緑色の風の精霊が覆い、カズヒと一体化した。



「ス、『スピリット』ですって!?」


「おお、“風化”の術とは…、これまた珍しいものを…」



 『スピリット』は精霊と一体化する術で、扱える者はごく少数に限られている。



「さすがはカズヒさんですわね、超能力と言い、わたくし達とはまた違う方向でかなりの実力者になりそうですわね」


「おお、これなんかスゴイよ!身体が軽くなったみたい!」



 そう言うカズヒの周囲には風に混ざって小石や砂ぼこりが舞っている。



 精霊化には呪文の詠唱を省略できるというだけでなく、それぞれの属性ごとに独自の特徴がある。

 例えばイツキのように“炎化”した場合、一切の物理攻撃を無効化(あくまで物理攻撃だけであり、魔術などによるダメージは受けてしまう)といった感じだ。

 カズヒの“風化”の場合、どうやら自分を含めた周囲の重力を低減させることで、周りのものを浮かせることが出来るようだ。そして、それだけでなく、



「カズヒさん、それ以外には何か出来ますの?」


「うん、ちょっと見ててね」



 そう言うと、俺達の目の前から一瞬で姿を消したカズヒ。



「消えた!?」


「いや、これは…!」



 直後、再び俺達の目の前に姿を現したカズヒ。



「どう!?」


「え、いや、どう、と言われましても、一体何が…?」


「イツキ、カズヒの足元を見ろ」


「え?」



 カズヒの足元、正確には地面にはいくつもの何かが通ったような跡が出来ていた。



「まさか、高速移動、ですの!?」


「正解!」


「なるほど、“風化”には重力低減だけでなく、高速移動の効果も付与されるのか」



 高速移動能力、これはかなりの戦力となりそうだ。



「じゃあ、最後はお兄ちゃんだね!」



 カズヒが“風化”を解除しながら言った。



「そうだな、まぁ、俺の場合は二人のように術の威力アップや新しい術を使えるようになったり、といったものじゃないけど…」



 俺は右手と左手にそれぞれ別の精霊を集める意識をする。

 そして両手を前に出し、詠唱する。



「光の精よ、集いて我が身を守れ!『ホーリーシールド』!

 雷の精よ、集いて矢となり敵を討て!『サンダーアロー』!」



 左手には光の盾『ホーリーシールド』を、右手からは雷の矢を出現させて地面へと向けて放った。



「おおっ!」


「なんと、光と雷の精霊術の同時使用…!

 さすがはお兄様ですわ!!」


「まぁ、威力の上昇はさすがにしていないみたいだけど、二つの違う属性の術を同時に使用できるようになった、というだけでも十分だな」



 それに、ヨミは『キスをした分だけ強くなる』、とも言っていたし、今後は詠唱省略や術の威力アップなんかにも期待できるかもしれない。


 何にせよ、これからも積極的に彼女達とキスをしていかなければならないな、うん。

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