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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第4章~ワールドブラディ~
43/103

第4話「とある姉妹達の休日計画~姉妹一武闘会(前編)~」

*


 “チャチャしてぃ”でショッピングを楽しんだ翌日、5月15日の水曜日。

 ちょうど週の真ん中である今日はあいにくの雨ということで、屋敷で一日を過ごすことになった。


 マコトとモトカは、いい機会だということで、念のためサイボーグの身体のメンテナンスを行うこととなり、研究室のメンテナンス装置に一日入ることになった。


 イツキはカズヒに野球のルールを教わりながら、カズヒが超能力で自分の世界から取り寄せたホークスの名試合を集めたDVDを見ることになった。


 ハルカとキョウカとリンとカナン姉ちゃんは、部屋でアニメや特撮のDVD鑑賞会をするそうだ。


 サクヤ姉ちゃんとセイラはメイさんやセイさんと一緒に優雅にお茶会を楽しんでいる。

 

 そして俺は、とある訓練用の機械を作ろうと思い、レイさんに手伝ってもらいながら一日地下の研究室に籠っていた。



 その訓練用の機械を作ろうと思ったのは、昨日の夜、皆でセイラの歓迎パーティー(例によって大浴場で)の時に皆の中で話題がきっかけだった。



「そう言えば、姉妹の中ではセイラちゃんが最強だって話だったけど、

 あたし的にはなんだかんだでマコト君やモトカちゃんがやっぱ最強なんじゃないかと思うんだけど」



 皆で湯船に浸かっている時に、唐突にカズヒがそんなことを言い出したのだ。



「え、カズヒってば何を急に言い出すのさ?」


「いや、ふと気になっちゃって」


「ん~、姉ちゃんはまだしも、ボクは最強とはほど遠いと思うけどな~」


「だって二人とも“加速装置”使えば誰も対応出来なくない?」


「確かに“加速装置”は反則クラスの能力ですわね。

 少なくともわたくしでは対応出来ませんが、ハルカさんならギラドの能力で対応可能なのでは?」



 イツキに話を振られてハルカが答える。



「んー…、まぁ、なんとかならなくはないと思うよ。

 というか、そもそもイツキは“加速装置”に対応する以前に、

 “炎化”してしまえば、物理攻撃が主体のマコトやモトカじゃ対応出来ないわよね?」


「そうなんだよねー!

 ボクから言わせてもらえばイツキの“炎化”こそチートだよ」


「そっか、いくら速く動けてもそもそもダメージ与えられなきゃ意味ないもんね。

 となるとやっぱりイツキちゃんが最強?」


「いやいや、アタシのキョウカだって強いわよ?

 自然をも操れる“銀毛ぎんもうの九尾”ならイツキとも互角に戦えるんじゃないかしら?」


「ほう、キョウカお姉ちゃまはそんなに強いのか?」


「んー?自分じゃよく分かんないぞ」



 キョウカ自身はまだ“銀毛ぎんもうの九尾”の力を自らの意思で使いこなせていないからピンと来ていない様子だが、確かに“銀毛ぎんもうの九尾”の力は強大で、イツキとも互角に渡り合える可能性はある。



「ちなみに、わらわにも“加速装置”とやらへの対抗策はあるぞ?」


「え、そうなの、セイラちゃん?」


「うむ、『影移動』でマコトお姉ちゃま達の影に入ってしまえば、どれだけ速く動こうが関係ないからの。

 ちなみに、“吸血鬼ヴァンパイア”としての能力で、わらわ一人だけを対象とした『影移動』ならば詠唱の必要もないからの」


「マジか…、セイラちゃんもかなりのチートじゃん…

 というか、影に潜り込まれたら誰も何も出来ないじゃん…」


「それならば影ごと燃やし尽くしてしまえばいいだけのことでは?」


「そんなこと出来るのイツキちゃんくらいだよ!!」


「にゃ~、結局姉妹達の中で誰が一番最強なのにゃ?」


「…少なくとも最弱はわたしね。

 だってわたし、攻撃手段が何もないもん…」



 そう言ってカナン姉ちゃんが湯船の下にのの字を書き始めた。



「ま、まぁ、カナン姉ちゃんはその分生半可なことじゃ死なない体だし…」


「で、誰なの、お兄ちゃん?

 お兄ちゃんなら姉妹全員を前世から知ってるんだから、分かるんじゃない?」


「そう言われてもな~…

 姉妹ごとに相性もあったりするわけだしな。

 単純な能力的には間違いなく全盛期のセイラが最強なんだろうけど…」


「ならば、わらわ達で模擬戦をしてみるというのはどうじゃ?」


「あら、それはいいですわね!」


「セイラちゃんもイツキちゃんも乗り気なのはいいけど、

 少なくとも二人が本気を出せば世界ごと滅ぼしかねないし、そうでなくても妹達が傷つくのを見るのは嫌よ?」


「むっ、むぎゅっ!?サクヤお姉ちゃま、苦しいのじゃ!」



 サクヤ姉ちゃんがセイラの顔をその我が儘おっぱいで挟みながら抗議の声をあげた。


 模擬戦自体は今後のことも考えて、戦闘経験を積むという意味で悪くはないと思うが…

 と、その時俺の頭にいいアイディアが思い浮かんだのだ。



「そうだ!VRだ!

 VR空間でなら思う存分模擬戦が出来るぞ!」



 という感じで、俺は戦闘訓練用のVRマシンを作っているというわけだ。




*


 翌日、翌々日もあいにくの雨と天候に恵まれず、姉妹達もさぞ退屈しているだろう、と思いきや、それはそれでテレビゲームをしたりアニメなどを見たりと姉妹達は仲良く過ごしていた。

 この雨は姉妹仲をよりいっそう深めてくれるという意味では恵みの雨だったと言えるのかもしれない。

 その間、俺はひたすら研究室に籠り続け、この世界に来てから四日目、5月18日の土曜日、ついに戦闘訓練用VRマシン、名付けて“シスターズアルカディアVR”が完成した!



 早速皆を屋敷の二階にあるプレイルーム(そこでは麻雀やトランプゲーム、ビリヤード、テレビゲーム等々様々なゲームが楽しめる)に集めた。



「お兄様、完成した“シスターズアルカディアVR”とは何ですの?」


「簡単に説明すれば、姉妹達によるVR格闘ゲームだな。

 このヘッドギアを被ってゲームにログインすると、自分と全く同じ能力を使えるゲームアバターになって、VR空間内で模擬戦が出来るというわけだ」


「あたし達と全く同じ能力を使えるアバター?」


「ああ、しかも精霊力は無制限、呪力も無制限で使える空間だ。

 ただし、本人由来の魔力、霊力、妖力は本人の持つ力量に準ずる。

 カズヒの超能力に関しても同じだ」


「ということは、この機械でわらわ達の中で一番強い姉妹が決まる、というわけじゃな?」


「まさに姉妹一武闘会、ってわけだね!」


「そのネーミングはどうかと思うが、まぁ、そんな感じだな。

 それからカナン姉ちゃんにはこの魔本を渡しておくよ」


 

 そう言って俺は、赤い表紙に、黒の魔法陣の書かれた、厚さ5センチメートル程の本をカナン姉ちゃんに渡した。

 


「魔本?」


「そう、魔術を使えないカナン姉ちゃんが戦えるようにするために俺が作ったんだ」



 本の中には魔術を使うための魔法陣がいくつも書かれてある。

 普通、攻撃魔術を使うのに魔法陣は使わない。

 余程特殊な、禁術級の大規模殲滅用超範囲魔術などは魔法陣が必要となる(このような魔術を発動させるには、複数人の魔術師の魔力が必要となるためだ)が、そうでない攻撃魔術は魔法陣を使う意味がないのだが、魔術を使うのが苦手な人だったり、複数の属性の攻撃魔術を同時に扱おうとする人など、ごく一部の魔術師が攻撃魔術に魔法陣を使う場合がある。

 その際に、魔法陣を書き直す時間を省くために使われたのが魔本だ。



「通常の魔本は、初級から中級程度の魔術を書き記した物だけど、カナン姉ちゃんの場合は魔力量が無限に近いから最上級魔術や禁術級の魔術の魔法陣もこの魔本には記されてるんだ。

 実質カナン姉ちゃん専用の、カナン姉ちゃんにしか扱いこなせない魔本だよ」


「禁術級って言うと、大陸ごと消せるような大規模殲滅魔術だよね?

 …あまり使う場面が来て欲しくはない魔術だけど、今後あの魔王様を相手にするのならそれくらいは必要か。

 ありがとね、ヨウちゃん!」


「なんだか『金色のガッシュ!!』みたいだね!」



 カズヒの言う『金色のガッシュ!!』とは、人間と魔物の子が魔本を通じて絆を繋ぎ、魔界の王になるべく戦っていくという青春熱血物語を描いた傑作だ。



「違うのは魔人本人が魔本を使う点だけどな」


「ちなみに、この魔本はどう使うの?」


「基本はその魔本を持ったまま、魔力を込めて術名を叫べば攻撃魔術が使える。

 いちいちその攻撃魔術の魔法陣が書かれたページを開く必要はないけど、

 上級以上の魔術となると、そのページを開いて直接魔法陣に魔力を流し込む必要があるかな」


「なるほど、分かったよ!」


「というわけで、カナン姉ちゃんも含めた10人の姉妹達による第一回姉妹一武闘会を開催します!!」




*


 ルールは簡単、相手を攻撃して相手のHPをゼロにしたら勝ち。

 このVR空間では、どれだけ大きな痛みを受けても痛みを感じないよう設定されている。

 ただし、その実際に受けるハズだった痛みをダメージとして計算し、そのダメージが蓄積して、本人の体力などから計算して設定されたHP増量がゼロになれば負け、ということになる。



「それと、これは戦闘トレーニングの意味もあるから、即死級の技の使用は禁止、ということで。

 特にセイラの『虚数空間送り』やカズヒの超能力には注意だな」


「え!?あたしの超能力ダメなの!?」


「超能力そのものがダメというよりは、超能力で相手の脳や心臓なんかの急所に直接ナイフなんかを送り込む攻撃がダメ、ってことだな。

 実戦とかならともかく、一対一の試合形式の模擬戦だと、試合開始と同時にそんなことすれば、どんな相手も一撃必殺出来るからな」


「た、確かに…っ!」


「さすがのわたくしでも“炎化”の詠唱をする前に、そんなことされれば為す術がありませんわね…」


「え、何気にカズヒってば即死チートの持ち主なの?」


「あたしの超能力にそんな使い方が…」



 やはりカズヒは自身の能力のヤバさに気付いてなかったか。

 最初の頃はテレポートさせるのに自身が触れている必要があったり、自身の手元にしか移動させられなかったりしたが、キスによるパワーアップの影響で、今では触れていない物も移動させられたり、自身から離れた場所に直接転送させられるようになった。

 無機物、もしくは意識の無い生物に限るという部分は変わらないが、それでも敵からするとなかなかに厄介な能力だ。



 さて、肝心の姉妹一武闘会だが、別に総当たり戦とかトーナメントで、ガチのNo.1を決めようというわけではない。

 くじ引きで対戦相手を決めて一対一の模擬戦を五試合行うだけだ。

 その後で各自模擬戦をしてみたい相手がいれば対戦を申し込んで何試合か行う、という感じだ。

 あくまでこれは戦闘経験を積むためのゲームであるし、何より姉妹一を決めるには、まだあと一人足りないからな。



 というわけで、まず第一試合はリンとモトカの対決だ。

 二人は専用のゲーミングチェアに座り、ヘッドギアを被る。

 このゲーミングチェアが姉妹プレイヤーのデータを自動で読み込み、VR空間にアバターとして反映させる。



「おお~、ここがVR空間~!」


「にゃー!!スッゴいリアルにゃー!!」



 ちなみに、二人の様子は部屋の巨大スクリーンに映るようになっている。

 スクリーンに映った二人は、戦闘用の服を着ている。

 また、こちらからの声は当然聞こえないが、機器に接続したマイクを通じて会話することは出来るようになっている。



『二人とも、身体を動かしてみて違和感とかはないか?』


「えーっと~…、うん、ボクの方は特に問題ないかな~」


「リンも問題ないにゃ!!」



 リンとモトカが身体を動かしながらそう答えた。



『うん、それなら良かった。じゃあ、お互いに準備が出来たら始めるぞ』


「は~い!」


「わかったにゃー!」



 試合開始の合図があるわけではないので、開始のタイミングはこちらで指示することにした。

 二人は向かい合うと、それぞれに構えをとる。

 モトカは少し腰をかがめ、左腕の狙撃銃を目線の高さに持ってきて右手を引き金に、リンは両手両足だけを妖獣化して戦闘体勢をとる。



『…では、試合開始っ!』



 俺の合図と同時に、モトカが銃の引き金を引く。

 電磁加速された銃弾は目にも止まらぬ速さでリンの額を貫いた!

 しかし、血しぶきは上がらず、そこにあったリンの姿は消えていた。



「残像っ…!」



 “妖猫ようびょう”が扱うのは風水の妖術。

 その能力の一つとして、風を全身に纏い、高速で移動するというものがある。

 カズヒの精霊術である“風化”と同じような能力だが、リンの“風化”による高速移動はどうやらキスによるパワーアップを受けて、とんでもない速さ、具体的にはモトカ達の“加速装置”に付いていける程にまで達してしまったらしい。

 元が“猫又”という上位種なのも影響しているのだろう。


 高速移動したリンはモトカの背後に回り、その伸ばした爪でモトカの背中を切り裂く!



「『風水爪ふうすいそう』にゃっ!!」


「くっ…!?」



 水を纏わせた爪を風のような速さで振り下ろし大ダメージを与える術『風水爪ふうすいそう』は単純な攻撃ではあるが、その威力は凄まじい。

 勢いのある水はコンクリートにだって穴を開けることもあると考えれば、その威力がどれ程のものか、想像出来ると思う。


 『風水爪ふうすいそう』がモトカの戦闘スーツに傷をつけ、モトカのHPを半分近く減らす。



「嘘っ、戦闘スーツを切り裂いた!?」


「あのスーツは特殊繊維で出来ていて、ちょっとやそっとじゃ傷つけられないハズですわよね?」



 マコトとイツキがモニターを見ながら驚きの声をあげた。

 正直驚いているのは俺も同じだ。


 確かに『風水爪ふうすいそう』は、中級程度の魔獣くらいならば余裕で真っ二つに出来るだけの威力はあるが、ありとあらゆる攻撃から身を守るために強化に強化を重ねた戦闘スーツがあっさりと切り裂かれるなんて、予想以上にリンの力が強くなってる…!


 姉妹達を守るためにも、スーツのさらなる改良が必要なのかもしれないということを念頭に入れつつ、二人の対決に意識を戻す。



 リンに背中を切られ、バランスを崩すモトカに、リンはさらなる攻撃を加えようと、右手を上に向けて叫ぶ。



「『水竜降来』にゃっ!!」



 周囲の水蒸気がリンの右腕に集まり、大量の水となってそのまま上空高くまで舞い上がり、そこで巨大な竜の形となり、モトカを食らわんとそのあぎとを大きく広げ、襲いかかる!



「“加速装置”っ!」



 モトカは左手のバングルのスイッチを操作し、“加速装置”を起動させてその場から逃げることで“水竜”を避けるが、その動きを読んでいたのか、高速移動したリンがモトカの逃げた場所にすでに先回りしていた。



「逃がさないにゃ!」


「え、嘘でしょ~…?」



 リンがモトカを背中から羽交い締めにすると、先程の“水竜”が向きを変え、再びモトカにあぎとを向けて襲いかかった!



「あちゃ~、こりゃ無理だな~」



 モトカに“水竜”が襲いかかり、モトカのHPを削っていく。



「どうだにゃっ!?」


「いや~、リンちゃんメチャクチャ強いじゃ~ん、お姉ちゃん、降参だよ~」



 “水竜”の攻撃を受けてもなお、かろうじてHPを残して耐えたモトカだったが、両手を挙げて降参の宣言をした。



『モトカが降参を宣言したため、この試合はリンの勝ち!』


「やったにゃー!!モトカねーねに勝ったにゃー!!」


「リンちゃんおめでとう!」


「ありがとにゃ、ねーねー♪」



 ヘッドギアを外し、ゲーミングチェアから降りたリンを抱き締めて祝福するカナン姉ちゃん。



「でも本当にスゴかったよ!

 特に、最後モトカちゃんの移動先を読んで高速移動してたの、あれなんでモトカちゃんの移動先が分かったの?」


「ん~…、モトカねーねの視線とか気配から、なんとなく?かにゃ?」


「な、なんとなく…?」


「うーん、どうやら野生の勘とでも言うのか、その辺が優れているのかもしれないな」



 リンの可能性を感じつつ、俺は隣のゲーミングチェアに横たわるモトカの所へ向かった。

 そこにはすでにマコトもいて、ヘッドギアを外したモトカと話をしていた。



「お疲れ様、モトカ!

 それにしてもリンは強かったねー!」


「うん、ボクもビックリしたよ~」


「…だけど、モトカなら勝てなくはない試合だったんじゃない?

 例の切札・・を使えば、」


「即死級の技の使用は禁止、なんでしょ~?」


「まぁ、確かに()()は一撃必殺と言えなくもないか」


「まぁ~、リンちゃんにも“猫又”化っていう切札がまだあったし、

 ()()を使ったところで、一撃必殺に出来たかどうかは五分五分だろうけどね~

 それに~、リンちゃんには試合に勝つということを知っておいて欲しかったしね~

 今回の模擬戦にはそういう意味合いもあるんでしょ~?」



 そう言ってモトカが俺の方へ視線を向ける。



「ま、確かにな」



 モトカの言う通り、特に闘いの経験の少ないリンやキョウカにはこの“シスターズアルカディアVR”を通じて勝負勘を鍛えて欲しかったのと、あわよくば闘いに勝つことで、自分は強いというプラスのイメージを持たせておきたいというのもあった。



「今回の模擬戦は~、勝つことだけが目的じゃないってこと~

 …ま、そうじゃない子達もいるみたいだけどね~」



 モトカの視線の先にはイツキとセイラがいた。

 くじ引きの結果、この二人が闘うことになったのだが、実質最強決定戦みたいな組み合わせな上に、二人とも前世での戦闘経験が豊富なため、お互いに本気でり合うつもりだろう。



「ま、それはともかく、次の試合に移ろうか。

 次の対戦は、」


「わたし達だね!」


「ふふ、負けないわよ、カナンちゃん♪」



 すでにリンからヘッドギアを受け取ったカナン姉ちゃんと、左手に“マリンセイバーロッド”を持ったサクヤ姉ちゃんが準備万端とばかりにガッツポーズをしてみせた。




*


 ヘッドギアを付けてゲーミングチェアに座ったカナン姉ちゃんとサクヤ姉ちゃん。

 二人はそれぞれ道具を使った戦闘となるため、あらかじめそれらを手に持ってゲーミングチェアに座ることで、その道具も含めてVR空間にアバターが生成される。


 カナン姉ちゃんは、魔術を使うための赤い“魔本”、サクヤ姉ちゃんは初級精霊術を無詠唱で使うための精霊剣“マリンセイバーロッド”だ。

 “マリンセイバーロッド”は元々、前世で俺がサクヤ姉ちゃんのために作った精霊剣で、持ち手と刀身の間に青色の珠(水の精霊力が貯められている)、刃の部分が曲線状に膨らんでいる武器としても使えるロッドだ。



 VR空間に現れたサクヤ姉ちゃんのアバターは、和服の戦闘用スーツに、“マリンセイバーロッド”を持っている。

 一方カナン姉ちゃんのアバターは、黒いビキニ風の戦闘用スーツに、背中からはコウモリのような羽と、お尻からは先が矢印のようになっている細い尻尾が生え、左手には赤い“魔本”を持った姿だ。



『どうやら問題なく“マリンセイバーロッド”も“魔本”もアバターとして生成出来たみたいだね』


「ええ、そうみたいね」


「本当にここゲームの中なの?

 まるで本物みたいなんだけど、どんな原理なの?」


『まぁ、その辺の原理は細かく説明してると日が暮れちゃうんで…』



 そうして、お互いに準備が出来たところで、俺が試合開始の合図をしたと同時に、二人の派手な術の打ち合いが始まった。



「『シャドゥボール』、『シャドゥボール』、『シャドゥボール』ッ!!」


「『アクアアロー』、『アクアアロー』、『アクアアロー』ッ!!」



 互いに無詠唱から放たれる術の応酬に、ギャラリーも盛り上がる。



「ねーねー頑張れー!!」


「サクヤお姉ちゃまもなかなかやるではないか」


「今のところお互いに互角、といったところでしょうか?」


「だけど、王国騎士団の歴史の中でも最強と謳われたサク姉ぇの実力がこの程度のわけがない…!」



 ハルカの言葉が聞こえたわけではないだろうが、先に動いたのはサクヤ姉ちゃんだった。



「やるわね、カナンちゃん!

 だけど、私の実力はまだまだこんなもんじゃないわよ!

 千の水精よ、集え!」



 サクヤ姉ちゃんは左手に持った“マリンセイバーロッド”で『アクアアロー』を放ちながら、右手に大量の水の精霊力を収束させていく。



「ちょっ、二種類の精霊術の同時使用なんて聞いてないっ!!」


「ふふっ、これが私の力、というより“マリンセイバーロッド”のおかげでこんな芸当が出来るんだけどね」



 精霊剣で初級術を無詠唱で放ちながら、別の術を詠唱するというのは、前世の頃からのサクヤ姉ちゃんの得意技だった。



「精霊剣にあのような使い方が出来るのですね!」


「アタシも知らなかった…!

 カオルは精霊剣による無詠唱術か、詠唱による上級術かを使い分けてたから、同時に別の術を使用出来たなんて…」


「いや、あれはサクヤ姉ちゃんが抜群に精霊力のコントロールに優れてるからだよ。

 普通にやろうとしても、精霊剣の方が疎かになったり、詠唱途中で精霊力が霧散したりして術がまともに発動しなくなる。

 初級術の同時発動程度ならまだしも、千の精霊力を集める必要がある上級術を片手間で発動させるのは相当な訓練が必要だ」



 実際、サクヤ姉ちゃんも安定して使えるようになるまでにかなりの時間を要した。

 だがその甲斐はあって、詠唱に時間のかかる上級術も単独で発動出来るようになり(基本は前衛に守られながら詠唱を完了させる)、当時史上最強の王国騎士団団長とまで言われるようになったのだ。



 パワーアップした影響で上級術の詠唱時間が短縮されたとはいえ、それを放つための精霊力を貯めるには時間がかかる。



「くっ…!それなら、こっちも!

 上級術には上級術で対抗よ!」



 サクヤ姉ちゃんの精霊力が貯まる直前に、カナン姉ちゃんは『シャドゥボール』の発動を止め、“魔本”のページをめくって上級術の書かれたページを開いた。

 勿論、その間もサクヤ姉ちゃんの『アクアアロー』の攻撃は続いているので、カナン姉ちゃんはその攻撃に無防備にさらされることになる。



「なるほど、カナンちゃんの特性で、ダメージを受けたそばから傷を回復させられるわけね」



 そう、カナン姉ちゃんの肉体は自身が生を諦めない限り、無限に再生し続けることが出来る。

 とはいえ、受けたダメージが完全に無くなるわけではないし、再生速度も常に一定というわけではなく、攻撃を受け続けていれば、やがてはその再生も追い付かなくなる。



「だけど、精霊力が貯まる前にこちらの上級魔術を放てれば勝てる!

 食らえっ!『シャドゥバースト』ッ!!」



 開いた“魔本”のページに凄まじい魔力を込めて放った『シャドゥバースト』は、直径5メートル程の漆黒の球体で、その中心、核となる部分には数千度にも達する煉獄の炎が燃えたぎっており、対象に直撃すると同時に半径数キロメートルにも及ぶ程の大爆発を起こす最上級魔術の一つだ。

 普通、このクラスの術を放つには上級以上の魔術師一人の魔力を全て注ぎ込む程の魔力が必要となるが、無限に近い魔力を持つカナン姉ちゃんならば余裕で連発出来るだろう。



「最上級魔術をあっさりと…!さすがはカナンちゃんね…

 だけど、こっちも準備万端よっ!!

 押し流しなさい!!『シャインアクアスプラッシュ』ッ!!」



 サクヤ姉ちゃんの右手から放たれた『シャインアクアスプラッシュ』は、さながら真横に流れる滝を思わせるような、そんな圧倒的な水量と水圧で敵を押し流し、殲滅する術だ。


 カナン姉ちゃんの放った『シャドゥバースト』を『シャインアクアスプラッシュ』が飲み込み、押し潰す!

 すると、術同士が相殺し合い、二人のちょうど中間地点辺りで凄まじい水蒸気爆発が起こった。



 その凄まじい爆風に、サクヤ姉ちゃんは思わず顔をしかめながら、右腕で顔を隠す。

 そのスキを付いて、爆風の中から両腕に黒い鉤爪を纏ったカナン姉ちゃんが飛び出してきた!



「なっ…!?」


「『シャドゥクロウ』ッ!!」



 水蒸気爆発の中を突っ切って接近戦に持ち込むという、ほぼ不死身に近いカナン姉ちゃんだからこそ出来る究極の不意打ちは、しかしサクヤ姉ちゃんには通じなかった。


 飛びかからんとするカナン姉ちゃんの真下の地面から、ビランテの触手が飛び出し、カナン姉ちゃんの身体に巻き付き、その動きを止めたのだ。



「…くっ!?」


「まさか、ビランテの力を使うことになるなんて…

 精霊術師としての力だけで勝つつもりだったんだけど、やっぱりカナンちゃんは強いな~」



 そう言いながら、サクヤ姉ちゃんはビランテの触手に捕らわれたカナン姉ちゃんに、左手に持った“マリンセイバーロッド”を突き付けた。



「さて、さすがのカナンちゃんもそろそろHPの限界かな?」


「…うん、そうだね、悔しいけど、水蒸気爆発の中を駆け抜けた時にかなり体力使っちゃったから、

 あと数発『アクアアロー』を受けたら回復が追い付かないかも。

 というわけだから、この勝負はわたしの負けだね」



 カナン姉ちゃんが降伏宣言をしたので、二人の対決はサクヤ姉ちゃんの勝利となった。



 ヘッドギアを外してゲーミングチェアから起き上がるカナン姉ちゃんとサクヤ姉ちゃん。



「ま、でもお姉ちゃんにビランテの力を使わせられたからわたし的には満足かな?」


「ええ、確かに最後の捨て身の不意打ちは思わずビランテの触手を使わざるを得なかったけれど、

 あまり実戦では使わないで欲しいな。

 いくらカナンちゃんが不死身に近い肉体を持ってるからって、無茶していいってわけじゃないのよ?」



 そう言ってカナン姉ちゃんを抱き締めるサクヤ姉ちゃん。



「う、うん…、ごめんね、お姉ちゃん」


「うん、分かればよろしい」



 カナン姉ちゃんの頭を撫でるサクヤ姉ちゃん。



「なんだか、不思議な感じだな…」


「え、何が?」


「いや、だって、わたしお姉ちゃんだったし、

 歳上の人に甘えるなんてことがなかったから…」


「ふふ、今は私が一家の最年長だからね、カナンちゃんも妹として甘えてくれていいのよ?」


「う、うん…、ありがと、お姉ちゃん…」



 カナン姉ちゃんがあんな風に甘えてる姿を見たのは初めてだな。

 考えてみれば、魔人だった頃は家族愛というものは希薄で、両親とはかなり早い段階で疎遠だった。

 そんな環境の中、俺とカナン(アンナ)姉ちゃん、そして血の繋がりはなかったが本当の家族()のように親しかったモモコ(モーナ)

 そんな三人家族の長として、カナン(アンナ)姉ちゃんは俺達に愛情を注いでくれていた、自分が親から注いでくれるハズだった愛情の分まで。

 そんなカナン姉ちゃんにも、ようやく甘えられる歳上の姉が出来て、俺は少し嬉しくなると同時に、じゃあサクヤ姉ちゃんを甘やかしてくれる存在は…、と複雑な気持ちになった。


 そんな俺の心の声を読み取ったのか、いつの間にか隣に立っていたセイラがこう言った。



「なに、お兄ちゃまがそのことを気にする必要はない。

 その時、サクヤお姉ちゃまが甘えたくなった時には、わらわが一肌脱ごうではないか」



 確かに、セイラの立場はかなり複雑だ。

 最年少ではあるが、魂年齢的には俺やイツキに次いで最年長組になる(ただし、精神年齢的にはイツキは年齢相応という感じもするが)。

 一家の最年少妹として、また時に最年長姉として、セイラという存在は姉妹の中でもかなり重要なポジションと言えるのかもしれない。



「…ああ、その時が来たら、よろしく頼むよ、セイラ」


「うむ、わらわに万事任せるのじゃ」



 そう言って、ドン!と胸を叩くセイラなのだった。




*


 続く試合は、マコトとカズヒによる超短期決戦となった。


 まず、試合開始と同時にマコトが“加速装置”を起動したのだが、その瞬間、マコトの首から巻かれた長く伸びるマフラーの中央に、地面まで突き刺さる巨大な杭が“出現”した。



「なっ!?」



 その杭によってマフラーを地面に縫い付けられた形になったマコトは身動きが取れなくなった。



「ふふ、そのマフラーもスーツと同じ素材で出来てるから、そう簡単には破けないでしょ!?」



 そう、マコトが強引にマフラーを引き抜こうとしても、特殊繊維で編まれたそのマフラーは傷ひとつ付かない。

 では何故、杭がそのマフラーを貫けたかと言うと、一重にそれがカズヒの超能力の恐ろしいところで、カズヒの超能力は物の強度に関係なく、カズヒのイメージした場所に任意の物質を転送させられる。

 つまり、“杭をマコトのマフラーと地面を貫くように転送”するイメージをするだけで、カズヒはマコトの動きをあっさりと封じることが出来てしまうのだ。



「カズヒの超能力がこんなに厄介だなんてっ…!?」


「ふふふー、その場から動けなきゃ“加速装置”も意味がないよね!

 それに、近接戦闘ショートレンジタイプのマコト君なら、そこから逆転する術はないハズ!

 申し訳ないけど、一気に決めさせてもらうよー!!

 風の精よ、集え!『スピリット』!!」



 カズヒはまず『スピリット』を唱えると、次に超能力で転送させた後に霊力を込めたいくつもの色のメダルを、“風化”した能力で上空に浮かべて、それらを身動きの取れないマコト目掛けて放った!



「『炎の真空刃(バーニングカマイタチ)』ッ!!

 『雷の(ライトニング)虎爪波(タイガーバースト)』ッ!!

 『強襲の無限(ディバイディング)飛蝗(ホッパー)』ッ!!

 『海神の(ポセイドン)審判(パニッシャー)』ッ!!

 『終焉の(ファイナル)恐竜斧(ダイナソーアックス)』ッ!!」


「ちょっ、さすがにそれは多すぎ…っ!?」



 カズヒの全力全開の『メダルシュート』の数々がマコトに直撃する!

 マコトのHPはどんどん減っていき、ついにはゼロになった。



「やった!あたしの勝ちっ!!」



 勝利を確信したカズヒだったが、その直後、カズヒは何かで後頭部を思いっきり殴られた。



「なん…っ!?!?」



 その一撃、マコトが倒れる直前に放った『ロケットパンチ』によって、カズヒの意識は刈り取られ気絶してしまった。



『マコトはHP0によるダウン、カズヒは意識消失によるダウンで、ダブルノックダウン。

 よってこの試合は引き分け!!』



 ヘッドギアを外してゲーミングチェアから起き上がったカズヒは、同じくヘッドギアを外してゲーミングチェアから起き上がったマコトに詰め寄っていた。



「ねぇねぇ、マコト君!最後の何っ!?

 あたし何で殴られたの!?」


「ああ、あれは左手の先を飛ばした『ロケットパンチ』だよ。

 距離を取られた相手に対抗するための飛び道具、って感じかな?」


「『ロケットパンチ』っ!!

 そんなロマン溢れる必殺技、ううん、切札があったなんて!!

 近接ショート遠距離ロングもいけるなんて、やっぱマコト君最強じゃん!!」


「いやいや、それはむしろカズヒの方でしょ…

 あんな形でボクの“加速装置”が封じられるなんて…

 それに霊能力(メダルシュート)の方も一撃一撃がとんでもない威力だったし」



 そんな話をしている二人の元へ、次の試合を行う予定のハルカが近寄って行った。



「というか、マコトの、モトカのもそうだけど、その戦闘スーツのマフラー邪魔じゃないの?

 そのマフラーさえ無ければあんな風に足止めされることも、」


「「マフラーはロマンだからハズしちゃダメ」だよ!」


「え…、あ、そ、そう…?そういうもんなの?」


「それに、仮にマフラーが無かったとしても、足に直接杭を転送されれば、どのみちボクは動けなくなってたと思うよ?」


「そんな!姉妹の身体に穴を開けるなんて、仮にVRだったとしても出来るわけないじゃん!!」


「…ふむ、だったら、マコトの超能力『未来視』、それを使えば杭を打ち込まれるのを予測して避けられたりとか出来たんじゃない?」


「いや、それは無いよ。

 だってあたしの超能力は回避不可能なんだから。

 特定の座標を指定するんじゃなくて、“マコト君のマフラー”を直接指定するわけだから、避けようがないんだ」


「それに、ボクらの『未来視』にも制限があるみたいでね。

 これは最近気付いたことなんだけど、連続で使用した後には使用制限みたいなのがかかるみたいで。

 ほら、ミライ達(クローンシスターズ)を助けた時に、ミライの攻撃を避けるためにごく短時間で連続使用したでしょ?

 あの後も“ワールドアイラン”で捜索してたリンのことを見ようとして何回かは使えたけど、戦闘時に連続使用するみたいな使い方が出来なくなってたから」


「なるほどね、それならこういった模擬戦で不用意に使うわけにはいかないわね」


「うん、ボクらの『未来視』はいざという時に万全の状態で使えるようにしておきたいから、しばらくは使わないようにしようって兄さんとも話してたんだ」



 何事にも便利なことには欠点もある。

 カズヒの『物質転移』が生物に効かないように、マコトとモトカの『未来視』は短時間の連続使用をした後は能力の使用に制限がかかる仕様のようだ。


 それはともかく、まるで異世界転生物の主人公のごとくチート覚醒していくカズヒに末恐ろしいものを感じつつ、ゲーミングチェアでは次の試合を行うハルカとキョウカが準備を始めるのだった。

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