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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第1章~ワールドフラワレス~
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第3話「三人目の妹」

*


 盛大に鼻血を噴き出して倒れたカズヒに、慌ててやって来た俺達の寝室の準備を整えていたメイド服を着たメイさんが光の精霊術で手当てをしている間、俺とイツキは少し離れた場所で今後のことを話し合っていた。



「そう言えば、お兄様達は世界を救うために10人の“姉妹”を探すとおっしゃっていましたが、具体的にどういうことなのか教えてもらってもよろしいですか?」


「ん~…、と言っても俺にもハッキリとしたことは分からん。

 今分かっているのは、俺達が2000年前に封印した魔王ヤミが復活しようとしていること、そしてそのヤミを倒すためには、どうにも俺と、俺の前世の“姉妹”たち、そして今の妹のカズヒを合わせた12人の力が必要らしい、ってことだ」


「魔王ヤミの復活、ですって!?」


「ああ。

 元々、あの時即席で組み上げた封印術式だったしな、完全に封印しきれないかもとは思っていたが、2000年経って、どうやらその封印が解けかけているらしい」



 ちなみに、魔王ヤミを封印したのは確か俺達の世界で言う所の小倉(こくら)北区にある愛宕(あたご)山あたりだった気がするが、今あの辺はどうなってるんだろう?



「ええ、確かに小倉(こくら)タウンノース地区のアタゴ山、その山頂にあるアタゴ神社が魔王ヤミの封印の社となっていますが、未だ健在で、封印が解けそう、というような情報は聞いておりませんが…」


「そうか。ふ~む、となると魔王ヤミの復活はガセ…?

 いや、でも俺達がこうしてパラレルワールドに転移してきているのは事実だし…」


「そうですわね、今はそのヨミと言う少女の言うことを信じましょう。

 そうなると、恐らく、過去にも未来にも、魔王ヤミに対抗できるのはお兄様だけです。

 ですから、魔王ヤミ討伐の任をお兄様に与えられたのでしょう」


「買い被られたもんだけどな…

 しかし、俺にその任を与えたヨミって女の子の正体も気になる。

 俺の前には姿を見せず、名乗りさえもしなかったくせに、カズヒの前にだけは姿と名前を名乗った。

 その理由も不明だし、そもそも俺が知らない、いや、覚えていない前世の“姉妹”たちのことを何故知っているのか?

 そして、魔王ヤミを倒すために、何故その“姉妹”たちの力が必要なのか?」


「お兄様は重度の病気(シスコン)ですから、愛すべき“姉妹”たち11人の愛の力を得て、最強フォームに究極進化するとかそんな理由ではないのですか?」


「…あながち否定できん」


「それで、その愛すべき残りの9人の“姉妹”の皆さんは何処にいらっしゃるんですの?」


「さぁ?」


「え?」


「その辺の説明も何もされなかったんだよな。

 ただ、魂で繋がった“兄妹”、あるいは“姉弟”だから必然的に出会うだろうとしか…」


「なるほど…

 確かに、わたくし達はまさに運命的とも言うべき再会を果たしましたわね」


「ちなみにイツキは何で今日、あそこにいたんだ?」


「夢を見たのです、あの日のことを。

 それで、何となく思い出のあの場所へ行ってみたら、お兄様と、カズヒさんがいたのですわ」



 あの日のことと言うのは、俺とイツキが前世において、魔王ヤミとの最終決戦へと向かう前に、永遠の愛を誓い合った日のことだろう。

 事実上、二人の別れの場となったあの場所で、2000年の時を経て再会したというのは、なかなかに運命的な話だなと思いながら、改めて目の前にいる妹、イツキを見つめた。


 俺がまさに病気(シスコン)を患う原因となった最初の妹であるイツキは、前世であるルナと瓜二つの、寸分変わらぬ姿をしていた。

 この世に生を受けて、初めて隣にいた少女がこんなにも美少女な妹であったことは、俺にとって幸だったのか不幸だったのか。

  

 

「…間違いなく幸だよな。

 なんたって、2000年経った今、俺たちの間には血縁という最大の壁が取り除かれたわけなのだから…!」


「…お兄様?

 先ほどからブツブツとどうされましたか?」


「ああ、いや、何でもない!」


「…んん?あれ、あたし何してたんだっけ……?」



 その時、ソファに寝かされていたカズヒが目を覚ました。



「ああ、カズヒ様、目を覚まされましたか。ご機嫌はいかがですか?」


「あ、えっと、メイさん?うん、あたしは平気だけど?」


「カズヒさんは突然鼻血を大量に出されて気絶されていたのですわ」


「あ、イツキちゃん。鼻血?あたしが?」



 どうやらカズヒは記憶が混乱しているらしい。


 と、そこへ厨房で食事の用意をしていた割烹着姿のセイさんが談話室へと入って来た。



「お、ちょうどカズヒちゃんも目が覚めたみたいだね~!」


「あら、セイさん。昼食の用意が出来ましたの?」


「うん、あまり時間がなかったから簡単なものしか作れなかったけどね~」


「そういやもう昼時か…」



 パラレルワールドに来た衝撃ですっかり忘れかけていたが、俺たちは今朝起きて学校に行く途中だったのだ。


 色々あって時間の感覚がおかしくなっていたが、昼食と言われて、俺の腹の虫も鳴くのを思い出したようだ。



「あらあら、お兄様ってば♪」


「あ、あはは、いや~、なんだか安心したら腹減っちまってな」


「もー、お兄ちゃんてば、恥ずかしいんだから~!」



 そう言ったカズヒの腹の虫も可愛く鳴いた。



「…あ」


「ふふふ♪ではそんなお二人のために、昼食といたしましょう。

 今後のことは、また昼食の後にでも話し合いましょう」


「あ、ああ、そうしようか」


「はーい」


「ではでは、お持ちしますので少々お待ちを~♪」


「失礼します」


 

 そう言ってセイさんと一緒にメイさんも談話室を出て行った。


 それから俺達は談話室の中央に置かれた直径3メートルくらいの丸テーブルに、俺を挟む形で右にイツキ、左にカズヒが座って料理が運び込まれてくるのを待つことになった。



「いや、こんだけ席空いてんだから離れて座らない?」


「え~、あたしお兄ちゃんの隣がいいも~ん」


「あら、お兄様はわたくしが隣では不満ですか?」


「いや、何も不満はないけど、むしろご褒美だけど」


「ならいいじゃん!」


「それならいいではないですか」


「「ね~♪」」



 イツキとカズヒの笑顔を見るとそれ以上何も言えなくなる。

 ああ、本当に二人はカワイイ妹だな~…

 俺の妹にしておくには勿体ないくらいだ。



 そうこうしていると、セイさんが三つのどんぶり鉢を、メイさんが二つのどんぶり鉢をお盆に乗せてやって来た。

 どんぶり鉢からは暖かい湯気が立っていた。


 

「いやー、本当はもっと豪華なもの用意したかったんだけど、何分、急だったもので簡単なものしか出来なくて、ごめんね~?」



 そう言ってセイさんが俺たちの前にどんぶり鉢を置いていった。

 中身は福岡県民のソウルフードとも言うべき肉ごぼう天うどんだった。



「おおーっ!!この世界でもやっぱり肉ごぼう天うどんなんだね!」


「ああ、そういやフラウ王国では昔から食べてたな」


「ふふ、セイさんの肉ごぼう天うどんはそこいらのお店のものよりおいしいですわよ♪」


「いや~、ヨウイチ君たちのお口に合えばいいですけどね~

 あ、一味と七味、それからとろろ昆布もありますから、必要ならご自由にどうぞ~」



 続いて、二本の小瓶ととろろ昆布の入った丸底の瓶が置かれた。


 うんうん、やっぱりうどんには一味ととろろ昆布だよな!

 ちなみにカズヒとイツキは七味派らしい。



 メイさんが自分たちの分のどんぶり鉢を俺達とはテーブルを挟んでちょうど反対側の席に置くと、二人とも席につき、メイさんの「それでは皆さん、いただきます」という挨拶を受けて、俺達の異世界に来て初めての食事が始まった。



 肝心の味だが、イツキの言う通り、とんでもなくおいしかった!

 世間一般では福岡と言えばラーメンという印象が強いが、福岡県民はラーメンと同じかそれ以上にうどんを食しているのだ(俺調べ)。

 何せ福岡はうどん発祥の地であるからな!(※諸説あります)

 うどん通の俺の舌をうならせるセイさんの肉ごぼう天うどんは間違いなく天下一品だ!



 食事をしながら、俺は一つ気になったことをイツキに尋ねた。

 


「そういや、イツキは学校とか行ってないのか?

 確かフラウ王国にも学校はあったよな?」


「ええ、ありますわよ?

 ただ、さすがにお兄様がいた2000年前とは制度がだいぶ変わっていますが。

 プライマルスクールに6年、ジュニアスクールに3年、ここまでが義務教育ですわね。

 そしてシニアスクールに3年、それからハイスタディセンターが4年となってます」


「へ~、学校の名前こそ違うけど、学年の設定とかはあたしらの世界と同じなんだね~」


「じゃあ、イツキは俺達と同い年のはずだから、シニアスクールの2年生、ってことか?」


「ええ、学年で言えばそうですが、わたくしはシニアスクールには通っていませんのよ」


「え、そうなの!?」


「はい。

 わたくしには精霊術師としての能力がありましたので、ジュニアスクール卒業後は、王国騎士団の予備騎士として働く代わりに、ハイスタディセンター卒業資格と、一定のお給料をいただいておりますの」


「王国騎士団予備騎士?そんなものが出来てたのか?」


「ええ、王国騎士団だけでは対応できない場面において、民間の精霊術師の力を借りるために作られた制度ですわ。

 ああ、ちなみにハイスタディセンター卒業資格は持っていますが、個人的にシニアスクール内容の通信教育学習は受けておりますので、世間一般的な教養は持ち合わせておりますわよ?」


「うへ~、通信教育を受けてまで勉強なんて…、イツキちゃんはマジメだね~」


「別に、普通なことだとは思いますけれど?」


「イツキ、カズヒはな、勉強が苦手なんだよ、察してやってくれ」


「ああ、そういうことですか」


「うぐぅ…、す、数学だけは得意だもん!!」


「どうせ一番好きな数は“π(パイ)”とか言うんでしょう?」


「大正解っ!!

 あ、いや、でも数学が得意なのは本当だからね!?」


「ちなみにカズヒが一番好きな公式って何だったっけ?」


「e^iπ+1=0」


「やっぱり“π(パイ)”なんじゃないですの」


「いや、確かに“π(パイ)”は入ってるけども!!

 数学史上、最も美しい数式だよ!?

 自然対数と虚数単位と円周率と数字の1という、一見何の関係もなさそうなこれらの数が集まると0になるんだよ!?

 これスゴくない!?もうまさに神の奇跡としか思えないでしょ!?」


「わ、分かりましたわ…、カズヒさんが本当に数学が得意というのは、よく分かりましたわ…」


「カズヒは本当に何故か数学だけは異常に成績いいんだよな~…」



 というような話をしながら、俺達のパラレルワールド最初の食事は平和に過ぎていった。




*


 食事がすむと、カズヒがこんなことを言い出した。



「ねぇ、あたしにも精霊術って使えるのかな?」


「適正さえあれば使えるとは思いますが」


「その適正ってどうすれば分かる?」


「え~っと…、なかなか口で説明するのが難しいのですが、とりあえず中庭に出てみましょうか」



 そうして俺達三人は再び中庭に出た(ちなみに、メイさんとセイさんは食事の後片付けと、夕飯の準備とやらで今ここにはいない)。


 中庭に立ったイツキは、カズヒを前にして説明を始めた。



「では、まず目を閉じてみてください」


「こう?」


「ええ。そして、意識を集中させてみてください。

 すると、自然界に存在する精霊の声が聞こえてくるハズです。

 それが聞こえなければ、精霊術師としての才能はありません」


「精霊の声って?」


「えーっと、何と言えばよいのか…、こう、ザワザワ~とか、サワサワ~、みたいな?」


「…よく分かんないんですけど」


「お、お兄様ぁ…!」


「そんな涙目でこっちをみないでくれ、イツキよ…

 ん~…、そうは言われてもな、改めてそう言われても、俺だってこっちに来るまで前世の記憶なんて忘れてたわけだし、改めて精霊術を使えるかどうか、って言われると……」



 そこで俺もカズヒと同じように目を閉じてみた。

 精霊術…、確かに俺は前世でその術を使っていた。


 だが、改めてどうやって使っていたかと言われると、難しいな……

 どうやって歩いている?とか、どうやって呼吸している?って言われているようなもんだ。

 

 精霊術師にとって、精霊術はそれくらいに当たり前に使えていたものだったから。




ーーま、この程度の魔獣なら、アタシらだけで十分だったね!


ーーアタシとアニぃ、最強の魔獣ハンターチーム“デスサイス”ならね!!




 その時、唐突に前世の記憶が蘇った。

 ショートヘアーに深紅のビキニアーマーのボーイッシュな妹との記憶…


 俺は、右手を前に出し、精霊術を使うための詠唱式を唱えた。



「雷の精よ、集いて敵を討て!『エレキショック』!!」



 すると、俺の右手から一筋の電撃が走り、中庭にあった石を粉砕した!



「おお、出来た」


「おおー!!お兄ちゃんすごいっ!!」


「か、雷の精霊術!?

 そんな、だってお兄様は確か“光の精霊術師”だったハズでは!?」



 俺の繰り出した雷の精霊術『エレキショック』を見て、二人の妹たちはそれぞれに違う驚きを見せた。



「ねぇねぇ、お兄ちゃん!!今のどうやったの!?」


「そんなっ!?

 だって、一つの魂につき、使役できる精霊は一種類のみのハズ…!

 それならば、お兄様は光の精霊術を使えなければならないハズなのに…

 いえ、でもごくまれに二種類の精霊術を使える者もいると聞きますし……」


「ちょっと待て、落ち着け、二人とも!!」



 俺は、半ば強引に抱き着いて来ようとする二人の妹を落ち着かせると、先ほど思い出した記憶のことを話した。



「もう一つの前世の記憶?」


「ああ、“光の精霊術師”として魔王ヤミを封印して死んだあと、この世界に一度転生していたことがあったらしい」


「最強の魔獣ハンター“デスサイス”って、まさかあの有名な伝説の魔獣ハンターの兄妹きょうだいがお兄様たちだったんですの!?」


「ああ、確かそん時の名前もヨウだったな、ヨウ・レーゲンスだったか。

 んで、妹の名前はミハル・レーゲンス、周りの連中からは【グランドクイーン】なんて呼ばれてたな」


「はいっ!!まさに、伝説に残る最強の兄妹きょうだい魔獣ハンターの二人ですわっ!!

 まさか、それもお兄様だったなんて…!さすがお兄様ですわっ!!」


「そ、そんなに有名になってるのか?」


「その時の話、詳しく教えてよっ!」



 カズヒの疑問に、イツキが説明を始めた。



「ええ、その時代にはわたくしは転生しておりませんでしたので、当時の詳しい状況までは分かりませんが、【雷神】ヨウと【グランドクイーン】ミハル、そして【ファイヤーガンマン】ガンジと【モノアイス】カエデの四人チーム“デスサイス”は、世界各地を旅する傭兵魔獣ハンターとして、数々の魔獣たちを葬って来たそうです。

 その時代、フラウ歴570年~580年代は、特に魔獣の活動が多かったそうで、今では“大暗黒時代”と呼ばれています」


「ああ、確かにあの当時は魔獣の活動が盛んだったな。

 俺達は魔獣ハンターの家に生まれた双子だったんだが、幼い頃に両親を魔獣に殺されちまってな。

 そんで両親を殺した魔獣に復讐するために、俺達もまた魔獣ハンターになって世界各地を旅してたんだ」


「“デスサイス”の四人は、本当に強かったそうですね」


「ああ、【ファイヤーガンマン】のガンジは、俺にとってアニキみたいな人で色んな事を教えてくれたよ。

 ガンジの操る固有術『ファイヤーガン』はどんな魔獣をも焼き払う最強の精霊術だった。

 【モノアイス】のカエデは、ちょっと年の離れた女の子で、ミハルによく懐いてたな。

 アイツの固有術『冷眼(レイガン)』は、見た瞬間に対象を凍らせる一撃必殺のチート精霊術だった」


「固有術ってのは何なの?」


「固有術とは、その人にしか扱えない、文字通りオンリーワンの精霊術ですわ。

 現在確認されているだけでも数種類しかない、本当に超希少な精霊術で、そしてそのどれもが一撃必殺レベルの最強クラスの精霊術なんですの」


「だが、それ故にリスクも大きい。

 術を使うには、命を削る必要があるんだ」


「い、命を!?」


「ああ、一回使うたびに四、五年分は寿命が縮まっちまうそうだ。

 そのせいで、アイツらは…」


「ええ、記録に残っておりますわ。

 フラウ歴582年、三つ首の最凶魔獣ギラドとの戦いにおいて、“デスサイス”のメンバーはミハルさんを除いて全滅」


「全滅…!?そんなに強いメンバーだったのに!?」


「それだけ魔獣ギラドがヤバすぎたんだ。

 今思えば、アイツの厄介さは魔王ヤミクラス、いやそれ以上だったかもな。

 ガンジとカエデが死ぬまで固有術を使い続け、ギラドの三本ある首の内の真ん中の一本を吹き飛ばしてくれたおかげでなんとか倒すことが出来たんだ」


「ええ、存じておりますわ。

 その後、斬られた首の切断面から、ヨウ・レーゲンス、つまりお兄様がギラドの体内に入り、そこで雷の精霊術の最強術『サウザンドサンダー』を放ち、ギラドを体内から焼き続けながら、ミハルさんが土の精霊術の最強術『グラウンドオーバー』を発動させ、大地にお兄様ごと封印したのでしたよね?」


「ああ、あの時はそうするしかなかったからな」


「そんなことがあったんだね~…

 あれ?でも、お兄ちゃんは“光の精霊術師”じゃなかったの?」


「そこはわたくしも気になっておりました。

 通常、一つの魂では一種類の精霊しか扱えません。

 現に、わたくしはこれまで何度か転生しておりますが、魂は変わっていないため、この2000年炎の精霊術以外は使えた試しがないのですが」


「そのはず…、だよな~?

 とはいえ、前例がないわけじゃなかったよな?」


「ええ、確かに例外的に二種類の精霊術を使える人もいると聞きますが」


「まぁ、そんなもんなんじゃないの?」


「深く考えても無駄ってことだね。

 そんなことより!あたしも早く精霊術使いたいんだけど!!」


「使いたいと言われてもな、そんな簡単に使えるようなもんじゃ、」



 と、その時、地震のような大きな揺れが俺たちを襲った。



「きゃっ!?」


「じ、地震ですの!?」


「いや、この気配、覚えがあるぞ…!」



 そうだ、この感覚、皮膚がチリチリするような、魔力の感触…!


 そこへ、夕飯の準備をしていたセイさんがキッチンから走って俺達のいる中庭へとやってきた。



「大変だよ、イツキちゃん!!

 モモヤマ坂に魔獣ガロメが出現したって!」


「なんですって!?」



 モモヤマ坂、って言うと俺たちのいる場所のすぐ近くじゃねぇか!



「お兄ちゃん、モモヤマ坂って?」


「ああ、俺たちの世界で言うと大体、門司競輪場跡地のあたりだな、不老公園のある辺り」


「ええ!?めっちゃ近くじゃん!?」


「今、王国騎士団のカオルさん達が向かってきてるみたいだけど、自分達が到着するまでイツキちゃんに時間を稼いでいてもらいたい、って!」


「了解ですわ、今すぐ出ます」



 すると、イツキは『スピリット』の詠唱式を唱え、全身に炎を纏い精霊化すると、



「では行ってきますわ。

 時間稼ぎを、と言われましたが、別に倒してしまっても構わないのでしょう?」



 そう言って飛び上がると、物凄い速さでモモヤマ坂の方へと飛んで行ってしまった。



「と、飛んだ!?」


「ああ、精霊化すると疑似的な飛行能力を得られるんだ」


「そ、そうなんだ…

 いやいや、っていうかイツキちゃん一人で大丈夫なの!?」


「あー、うん、ガロメクラスならイツキ一人で十分だよ」


「で、でも…!」


「心配なら見に行くか?」


「え?」



 そこで俺は光の精霊術『フライ』の詠唱式を唱えた。



「光の精よ、集いて我らが身を(そら)へ!『フライ』!」



 すると、俺とカズヒの周りの光の精霊たちが集まり、俺たち二人の全身を包み込むと、ふわりと俺たちを宙に浮かせた。



「うわ!?なにこれ、浮いてる!?」


「光の精霊術『フライ』だ。

 今俺たちの周りには光の精霊が集まっていて、その光の精霊の力で一時的に空を飛べるようになっているんだ。

 俺が術を解くか周りの精霊力がなくならない限り、自由に飛び回れるぞ」


「へ~…、あ、本当だ」



 上下左右にくるくると自由自在に飛び回って見せるカズヒ。

 さすが運動神経がいいだけはあるな。


 それにしても、カズヒが今着ているのは高校の制服、いわゆるセーラー服ってやつだ。

 つまり、



「カズヒ、お前いつの間にそんな大人っぽい下着つけるようになったんだよ」


「そりゃ高校生になったんだもん、いつお兄ちゃんに襲われてもいいように、常に勝負パンツを身に着けてるの」


「それを本人に向かって言えるところがすげぇよ…」


「そんなことより、早くイツキちゃんの所へ行こう!」


「ああ、そうだな」



 カズヒに言われ、俺達は魔力のする方へと飛んでいくのだった。



「そういや、俺は何で魔力を感じられるんだ…?」



 精霊術師は、あくまでも精霊の力を感じられ、それを実際に行使出来る者ってだけだ。

 魔力を感じる能力とはまた別なハズだ。

 

 ひょっとして、この魔力を感じるって能力は、また別の前世が関わっているのか…?



 そんなことを考えながらモモヤマ坂、俺達の世界では不老町と呼ばれている場所へ到着すると、炎の精霊化(俺たちは“炎化”と呼んでいた)したイツキが、カブトムシをそのまま巨大化させたような姿の魔獣ガロメと戦っていた。



「あ、あれが魔獣?」


「ああ、魔獣ガロメ。

 あのカブトの角から電撃を放つ魔獣だが、視界の関係から背中に回り込まれると完全に死角となる。

 だから、背中から強力な攻撃をぶつけてやれば何なく倒せる」


「え?でも結構頑丈そうな甲羅だけど?」


「ああ、物理攻撃には確かに無敵の強さを誇るが、水や氷なんかの精霊術にはめっきり弱いんだ。

 特に、炎の精霊術には、な」


「あ、じゃあ…、」


「ああ、イツキなら朝飯前の相手、ってわけだ」



 俺がカズヒに説明している間にも、イツキは無詠唱で炎の精霊術の基本術である『ファイアボール』や『フレイムアロー』を次々と放ち、ガロメの全身を燃やし尽くさんばかりの勢いで攻撃していた。



『ギシャアアアアアアアアアアアアッ!!』



 不気味な叫び声を上げながら、ガロメがその角から闇雲に雷撃を放つが、イツキはそれらの攻撃を華麗に避けつつ、さらにカウンターで『フレイムアロー』を放って、確実にダメージを与えていった。



「さて、住民の避難も大方終わったようですし、そろそろ終わらせましょうか」



 イツキは周囲から住民の姿が完全になくなったことを確認すると、高く掲げた右手の掌の上にいくつもの炎の矢『フレイムアロー』を出現させた。

 


「お兄様とカズヒさんも見ていることですし、ここはちょっと派手にいきましょうか♪」



 イツキはそれら無数の『フレイムアロー』を炎で束ね、一本の巨大な槍へと変えた。



『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』



 ガロメが再びその角から雷撃をイツキ目掛けて放つが、イツキは一飛びでその雷撃を避け、ガロメの背後へと回り込んだ。



「これで終わりですわ!『バーニングエンド』ッ!!」



 イツキは巨大な炎の槍をガロメの甲羅目掛けて勢いよく投げ放った!

 炎の槍は、ガロメの甲羅のちょうど中央部分に突き刺さると、そのまま槍の先が腹まで貫通し、ガロメを体内から燃やし尽くした!



『ギシャアアアアアアアアアアア………ッッ!!!!』



 ガロメは断末魔の悲鳴をあげながら、炭と化すのだった。



 ガロメが完全に炭化したのを確認した俺達は、少し現場から離れた地面へとゆっくりと降下していった。

 ちなみに、イツキ達が戦っていたのがモモヤマ坂の坂を上りきったあたり、門司競輪場があった場所(後で聞いたことだが、この世界にもかつてモモヤマ競輪場という名の競輪場があったらしい)から少し上ったあたりだ。

 俺達が降り立ったのは、さらにそこから上、地上から数十メートルくらいはある高さの橋が通っている場所だ。

 ちなみに、その橋の下には小さな川が流れており、俺たちの世界では不老公園と呼んでいる、春になれば絶景の花見スポットとなっている場所でもある。



「あの巨体が一瞬で炭になっちゃった…!」


「あれは“炎化”したイツキだけが使える『フレイムアロー』の上位技、『バーニングエンド』だな」


「え、それってさっき話してた固有術ってやつ?」


「いや、それとは違う。

 固有術ってのは、その人にしか使えない唯一無二の術だが、イツキのあれは誰もが使える『フレイムアロー』を同時に複数出現させて、それを一つの術式へと合成したオリジナル術だ。

 やり方さえ分かれば誰でも使えるものではあるが、“炎化”してない状態では術効率が悪すぎて使い物にはならないな」


「そっか、通常精霊術を使うには詠唱が必要なんだよね。

 だけど、“炎化”してるイツキちゃんにはその詠唱が必要無くなる。

 だから同時に複数の『フレイムアロー』を出すだけで、普通だったらかなりの時間がかかっちゃうのを、イツキちゃんは一瞬で出来ちゃうから、それらを束ねてあんなでっかい一本の槍にするなんて芸当が出来るんだ…」


「そういうことだ。

 通常、どんなに優れた術師でも、一回の詠唱で出せる矢は最大十本まで。

 あの『バーニングエンド』を使うには最低でも百本は必要だから、十回の詠唱を連続で行わなきゃいけない。

 どれだけ高速で詠唱したとしても、詠唱中のスキをつかれて攻撃されたら意味ないし、さらに、その後で百本の矢を束ねるための新たな詠唱も必要になる。

 だけど、“炎化”したイツキなら、それらの動作を一瞬で終わらせることが出来る。

 だから、『バーニングエンド』は実質イツキだけが使えるオリジナル術ってわけだ」


「はぇ~…、なるほどね~…」


「ちなみに、わたくしは“炎化”した状態なら『フレイムアロー』を最大千本まで一瞬で出すことが出来ますわ」


「あ、イツキちゃん!」



 ガロメを倒したイツキが、“炎化”を解除しながら俺たちのいる場所へと降り立った。



「お、イツキ、お疲れさん!」


「いえ、全然疲れてなどいませ…、ああいえ!やっぱり疲れていますわ!

 わたくし、先ほどの大技で体力を使ってしまったので、体力を回復するために、お兄様に抱きしめてもらってもよろしいですか?」

 

「そう言いながら抱き着いてくるな…

 あの程度じゃ、力の10分の1も出してないだろうに…」


「お兄ちゃん、イツキちゃんは2000年ぶりに再会したお兄ちゃんに甘えたいだけなんだよ!

 だからさ、ほら!しっかり抱きしめてあげて!」


「あ~、分かったよ、頑張ったな、イツキ」



 そう言って俺はイツキを思いっきり抱きしめてあげた。

 そういや、前世でもよくこうしてイツキ(ルナ)を抱きしめてあげてたな…

 あの頃から、しっかり者で時々甘えたがりな、カワイイ妹だった…



 などと束の間の回想に浸っていると、王都小倉(こくら)タウンセントラル地区(俺たちの世界で言う所の小倉(こくら)北区の砂津~魚町(うおまち)あたりまでのことらしい)の方角から、複数の戦車がこちらへとやって来るのが見えた。

 見た目は俺達の世界の戦車と同じだが、その動力には精霊力を機械的に操るという最先端技術が使われているらしく(エンジン部分に精霊力を取り込む術式が組み込まれており、それを機械制御で動かし、精霊術が使えない者でも操作できるようにしたらしい、詳しい原理は不明だ)、キャタピラーに当たる部分が数センチ地面から浮いて走行することで、時速200キロを超える速度が出せるとのこと。

 そのおかげで、王都からここまでかなりの速さで到達できたわけなのだが、



「数センチ地面から浮いて移動って、なんだかドラえもんみたい」


「俺もそれ思った」


「ドラえもん?」

 

「ああ、俺たちの世界の有名なアニメキャラクターなんだが、まぁ、その内教えてやるよ」


「本当ですか!?

 わたくし、お兄様の世界のアニメもすごく気になりますわ!」


「そういやイツキちゃん、アニメ好きって自己紹介の時言ってたね」



 というような感想を言い合っていると、先頭の戦車から、王族が纏うことを許された騎士服(そういや俺も前世、王子だった頃にあんな感じの騎士服を着ていたな)に身を包んだ金髪碧眼の美青年と、深紅のビキニアーマーを纏った黒髪ショートヘアーの少女が降りてきた。

 そしてその二人の後ろに付き従うように、十数人からなる王国騎士団のメンバーが次々と戦車から降りてこちらへと向かってきた。

 話には聞いていたが、メンバーのほとんど、というか全員が女性騎士のようだ(ただし、彼女たちは一般的な甲冑衣装で、ビキニアーマーのような露出度の一切ない衣装に身を包んでいた)。



「うわっ、あの女の子エッロ!!

 お兄ちゃん、本物のビキニアーマーだよ!!

 あたし、コスプレ以外で初めて見た!!」


「こら、あんまジロジロ見たら失礼だろ…」


「そんなこと言ってお兄ちゃんだってガン見してんじゃん」


「いや、だって、な~…」



 あんなの見るなって言う方が無理だ。

 胸はイツキたちに比べてちょっと控えめだけど、それでも普通よりは大きい子だと思う。

 何より、顔も美人さんだ。

 首から下はこれ見よがしに女性であることをアピールしつつ、黒髪ショートヘアーに、ちょっと吊り目な瞳というボーイッシュな顔が実に俺好みで………って、あれ?


 まさか、あの子は…!?



 俺が遠い記憶を遡っている間、金髪碧眼の美青年がイツキに話しかけてきた。



「これはこれはイツキ君、まさかもうガロメを…?」


「ええ、カオル様があまりにも遅かったので、わたくし一人で倒してしまいましたわ」


「これは手厳しい。

 我々としては報告を受けてから出撃準備を整え、

 小倉(こくら)タウンからここまで来るのにわずか5分というこれまでの最高記録を更新したばかりなのですがね…

 ところで、そちらのお二人は?見かけない顔だが?」


「ああ、これは失礼いたしましたわ、こちらはヨウイチ様、わたくしの前世の兄であり、わたくしの運命の人ですわ。

 そして、この方はカズヒ様、お兄様の現世における妹君であり、わたくしの新しい妹であり、とても大切な方でもありますわ」 


「前世の兄…?

 まさか、本当にそのような男が…?」


「お兄様、カズヒさん、一応紹介しておきますわ。

 こちら、現フラウ王国の王族の一人であり、王国騎士団第203代団長カオル・ヴィンヤード6世様ですわ。

 それから、カオル様の後ろにいらっしゃる方は、王国騎士団副団長のハルカ・スカイシー様ですわ」



 イツキに話しかけられ、記憶を遡っていた俺は我に返った。



「あ~、えっと、どうも、イツキの兄のヨウイチです」



 とりあえず俺はカオルと呼ばれた青年に挨拶をした。

 だが、そんなことよりも俺は彼の後ろにいるハルカという少女のことが気になって仕方がなかった。


 この感じは、やっぱり間違いない…、と思う。

 あの子は、



「これはこれはご丁寧に。

 私はイツキ君の婚約者であるカオル・ヴィンヤード6世だ、よろしく」


「ああ、なるほど、イツキの婚約…、って、はぁ!?」


「え!?イツキちゃん、この変なイケメンと結婚すんの!?」



 おいカズヒ、褒めるのかディスるのかどっちかにして差し上げろ!

 カオルさんも微妙な顔してんじゃん!

 一方で、団長を馬鹿にされたと感じたハルカはご立腹の様子。



「お、お前、カオル様になんて無礼な!?」


「まぁまぁ、ハルカ君、落ち着き給え」


「そうですわ、ハルカさん、カオル様が変な方なのは間違っておりませんし」


「お、おまっ…、イツキまで…!!」


「それより、わたくしを勝手に婚約者と呼んだそちらの方に非があるのではなくて?

 わたくし、カオル様の婚約を受けた覚えなど一度もありませんことよ?」


「これは異なことを…

 時期フラウ国王有力候補である、この私の妻になれるというのに、何が不満だと言うのです?」


「ですから、何度も申し上げております通り、わたくしには運命を約束したお兄様がいますので、他の殿方の妻になるなどあり得ないと」


「あの前世がどうのという話か…

 その話を本当に信じろと言われてもね…」


「それに、わたくしの言葉を信じぬような殿方のもとへ嫁ぐ気は毛頭ありませんわ」


「これは手厳しい。

 …君、本当にかの【建国の王子】の生まれ変わりなのかい?」



 胡散臭げな表情で俺の方を見るカオルさん。

 まぁ、そりゃそうだよな、俺がカオルさんの立場だったら、そんな話絶対信じねぇわ。

 


「あ~、確かに信じられないことだとは思いますけど、イツキの言ってることは本当のことで、」


「嘘をつけっ!

 どうせイツキがカオル様との婚約を破棄したいがために、その辺の男を捕まえてきて、前世の兄だとか偽ってカオル様を騙そうとしているんだろう!?」


「ですから、そもそもわたくしは婚約などした覚えはありませんし、破棄しようにも、最初からそんな事実はありませんわ」


「またそんな屁理屈を…!」



 なんかハルカとイツキがにらみ合いの喧嘩を始めちゃったけど、そんなことより俺はハルカにどうしても確かめたいことがあるんだ!

 

 俺は、多少強引だとは思ったが、思い切ってハルカに、あえて彼女の前世の名前で声をかけた。



「ミハル・レーゲンス!」


「…え!?」



 ハルカと俺の視線があう。



「君は、いや、君の前世は、ミハル・レーゲンスだよな?」


「え…、な…、なんで、それ…を……?

 あ、ま、まさか…、ア…アニぃ…?」


「やっぱり、ミハルだったか!

 久しぶりだな!だいたい1500年ぶりくらいか?」


「え!?

 ハルカさんが、あの【グランドクイーン】ミハル…!?」


「なるほど、シスコンのお兄ちゃんが異様に興味を示してたのは、ハルカちゃんが妹だったからか、納得」



 いや、まさかこんなにすぐもう一人の妹と再会出来るなんて!

 この感じだと、案外すぐに11人揃っちゃうんじゃないのか?



「い、いやいやいやいやいや!!

 待て待て待て!!そんなわけがないっ!!

 そんな前世だとか生まれ変わりだとか、そんなの非現実的だ!!

 あり得ないあり得ないあり得ないっ!!」



 と思ったら、ハルカが否定し始めたぞ!?

 あれ、ハルカは前世の記憶が戻ってるわけじゃないのか?



「た、確かに、アタシはあの伝説のミハル・レーゲンスに憧れ、彼女に関するありとあらゆる書籍を読んでは妄想に浸り、ああ、アタシにもヨウ・レーゲンスのような素敵な兄さんがいたらな~とか常々思い、ヨウ兄さん(仮)と過ごす日々を夢にまで見たりはしたけど、アタシがそんな、ミハルの生まれ変わりだなんて…!!」


「そうだ、それにヨウイチ君、君は【建国の王子】ヨウ・フラウの生まれ変わりなんじゃなかったのかい?」


「ああ、えっと、その辺の事情がちょっとややこしくてですね…、俺には前世がいくつもあるというか…」



 どうやら、ハルカは自分自身がまだミハルの生まれ変わりであることを自覚していないようだ。

 だけど、彼女が俺の妹であることは間違いない。

 俺の魂がそう訴えかけているからな!


 あとは彼女がミハルの生まれ変わりであるってことを信じてもらうだけなんだけど、どうやったら信じてもらえるんだろう?



「お兄様、何か、ハルカさんとお兄様しか知らないミハルさんとヨウさんの真実とかないんですの?」


「ん、というと…?」


「先ほど、ハルカさんはヨウさんとのことを夢にまで見ると仰ってました。

 わたくしも、よくお兄様、ヨウ王子との思い出を夢で見ていました。

 その夢には、当然歴史の資料などでは伝えられていない、兄妹きょうだいの間だけの秘密なども出てきていたわけで」


「なるほど、もし前世の記憶を夢で見ているのなら、俺達兄妹きょうだいしか知らない秘密を知っているかも、ってことだな」


「はい」



 イツキの助言で、俺はミハルとの間の秘密が何かなかったかと記憶を遡った。

 そもそも俺達のことが歴史の資料でどう伝えられているのか詳しく知らないから、何が兄妹きょうだいの間だけの秘密になっているのか憶測するしかないが…


 …うん、さすがにあの話は歴史の資料には残ってないよな。



「なぁ、ハルカ」


「な、何よ!?あんましつこいと、」


「お前、昔はお化けが苦手だったよな?」


「え!?」


「それで、いつだったか、俺達が魔獣ハンターとして活動していた頃、とある魔獣の群れを追いかけてて、野宿することになった時、

 夜中にお前がおしっこしたいとか言って俺を叩き起こして、森の中の茂みへと入って行ったら、上から落ちてきた木の枝にビビって、」


「うにゃあああああああああああッ!?!?!?

 それ以上はダメぇえええええええええええっ!!!!

 あのことは、アタシとアニぃだけの秘密って言ったじゃああああああんッ!!

 アニぃのバカバカバカバカバカァアアアアアアアアアッ!!」



 顔を真っ赤にして俺の口を両手で塞いできたハルカ。

 うん、ミハルが木の枝をお化けだと勘違いしてお漏らししてしまった話はさすがに歴史書なんかには載っていないだろうと思ったが、効果はあったようだ。



「なんと、あの伝説の魔獣ハンターでも、怖いものがあったのですね…

 しかし、木の枝に驚いて、お漏らししてしまうとは、かわいらしい所もあるのですね♪」


「おおおっ、お漏らしなんかしてないしっ!!

 アタシは最強の魔獣ハンターよ!?お化けなんかにビビるわけが、」


「あ、後ろに口裂け女」


「ぴぎゃあああああああああああ!?

 助けて、アニぃいいいいいいいいいいいっ!!」


「ぐはっ!?

 おまっ、急に抱き着いてくるな!?口裂け女なんかいるわけないだろ!?」


「あっ…、カズヒとか言ったっけ、アンタ、このアタシをよくも騙したわね!?」


「まさかあんな嘘に騙されるなんて、こっちも驚いてるよ…

 それより、やっぱりハルカちゃんはお兄ちゃんの前世の妹ってことで間違いないんだよね?」


「え…?あ……、で、でも…、」


「いい加減認めたらどうなんですの、ハルカさん?」


「い、いや、でも、そんな…、だって、生まれ変わりだなんて…」


「いきなりは信じられないかもしれないが、間違いなくお前は俺の妹だよ。

 俺とミハルしか知らないハズのミハルの恥ずかしい真実を、お前が知っていたことが、その証拠だよ」


「う…うぅ……、

 で、でも、今のアタシは、カオル様の妻候補の一人で、王国騎士団の副団長で…、」



 ハルカは自分がミハルの生まれ変わりだってことを認めかけている。

 あと一押しすれば、



「ちょっと待ってくれないかな?」



 というところで、カオルさんが俺たちの会話に口を挟んできた。



「ハルカ君は私の部下であり、将来妻の一人となる女性でもある。

 イツキ君だけでなく、ハルカ君まで君に取られるわけにはいかないな。

 ま、イツキ君も諦めたわけじゃないけどね」


「貴方もしつこい方ですわね。

 わたくしは貴方の妻になるつもりはありません。

 それに、ハルカさんもお兄様の妹であることがハッキリした以上、ハルカさんも我々と一緒にいた方が幸せですわ。

 もっと言えば、ハルカさんもお兄様の妻となるべきです。

 “兄妹きょうだい”の絆は、この世の何よりも優先されるべきものなのですから」


「ちょっ…、勝手に決めないでっ!!

 ア、アタシがアニぃ…じゃない、コイツのつっ、妻になるだなんて…っ!

 ぜっっっったいにあり得ないんだからっ!!」


「ハルカさんは呆れるほどに強情な方ですわね…」


「いいじゃん、ツンデレな妹ってのも全然アリだと思うよ!」


「だ、誰がツンデレよっ!?」


「ふむ…、ならばこうしようじゃないか。

 ヨウイチ君、この私と勝負しないか?」


「勝負、ですか?」


「ああ、君も【建国の王子】、いや【雷神】の生まれ変わりなら、当然精霊術は使えるのだろう?」


「そ、それはまぁ…」


「ならば、イツキ君とハルカ君の二人をかけて、私と決闘しようじゃないか」


「なっ…、い、いや、でもそれは、」



 おいおい、いきなり決闘って、それはちょっと待って欲しい!

 確かに、俺は前世では何度か世界を救うような活躍をしてきたわけだが、現世の俺はただの高校生に過ぎない!

 つい今朝まで精霊術すら使えなかった俺が、いきなり王国騎士団の団長なんかと決闘して勝てるわけがない!

 それに、イツキやハルカの意思を無視して、二人の人生をかけた決闘なんて、



「いいですわ!お受けいたしましょう!!」


「ちょっとイツキさん!?」



 おい、この妹、何勝手に決闘の申し出受けてんの!?



「ちょっ、イツキ、アンタ何考えてるのよ!?」


「大丈夫です、わたくし達のお兄様が負けるわけありませんわ」


「いやいや、そういうことじゃなくてっ!!

 アタシはそんな条件に納得なんてしてないんだからねっ!?」


「そ、そうだぞ、イツキ!

 それに、前世の俺ならともかく、今の俺はただの高校生でだな、」


「ならば、一週間後でどうかな?」


「え?」


「一週間後、王宮にある王国騎士団訓練場にて決闘を執り行う。

 ルールは王国騎士団戦闘訓練のものに準ずるものとし、当然、相手の命を奪うような行為があった場合、王国騎士法に則り、命を奪ったものにも死の制裁が加えられる。

 あくまでも女性をかけた男同士の純粋な決闘だ、命を奪い合う戦争とは違うということを理解して欲しい」


「ええ、それで構いませんわ」


「いや、構うよ!?

 だからイツキ、ちょっと落ち着いてだな、」


「よし、話はまとまった。

 では移動週間後、王国騎士団訓練場にて待つ。決闘開始の時間などは追って連絡する。

 では、一週間後にまた会おう、ヨウイチ君。

 ハルカ君、今日は引き上げるぞ。

 ガロメの遺体、と言ってもすでに大部分が灰と化しているが、それらの回収はミナギ君たちに任せる」


「あ、は、はい、カオル様!

 ミナギ団員、ガロメの遺体回収をお願いするわ」


「はっ!」



 ミナギと呼ばれた女性騎士がハルカの指示を受け、他の女性騎士を引き連れて灰と化したガロメの遺体を回収するための作業に移っていった。

 そんな彼女らを背にしながら、カオルさんとハルカは一足先に戦車へと乗り込み、さっさと王都の方角へと向けて戦車を走らせるのだった。



 残された俺とイツキとカズヒ。

 

 イツキは俺の方へと顔を向けると、ニコリと天使のような微笑みを見せて言った。



「ではお兄様、今から特訓をしましょう!!」 


「悪魔だ!」



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