第7話「残る二人の“姉妹”」
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“妖獣ハンター”の幹部を捕まえた俺達は、面倒臭い手続きなんかは全て刑事さん達に任せて、“アンナ”姉ちゃん改めカナン姉ちゃんと、“スズネ”改めリンという二人の姉妹と共に門司へと帰ることにした。
その際に、試しておきたいことがあったので無限の魔力を持つカナン姉ちゃんに頼んでみた。
「カナン姉ちゃん、ちょっとこの魔法陣を起動してみてくれる?」
そう言って俺は地面にとある魔法陣を即興で書いた。
「ええ、やってみるわ」
カナン姉ちゃんが地面に手を当て、魔法陣に魔力を注ぐが、バチィッ!と火花が弾けて魔法が失敗してしまった。
「あ、あれ?ごめん、なんだか失敗しちゃったみたい!
もう一度やってみるから、また魔法陣書き直してもらえる?」
「いや、いいんだ。
さっきの魔法陣は“ワールドフラワレス”、つまりイツキやハルカ、サクヤ姉ちゃん達の世界へ転移するための魔法陣だったんだ。
ヨミの言ってたことは本当みたいだな…」
「どういうこと?」
「詳しくは帰ってから話すよ。
じゃあ、次はこの魔法陣はどう?」
続いて俺は別の新たな魔法陣を地面に書いた。
カナン姉ちゃんが再び魔法陣に魔力を注ぐと、今度は魔法陣が光を放ち始めた。
「あ、今度は普通に起動出来るみたい!」
「よし!
じゃあ皆、手を繋いでくれ!」
俺は魔法陣の上に立ったカナン姉ちゃんと手を繋ぎ、その反対側をリン、キョウカ、ハルカ、カズヒ、モトカ、レイさんと順に繋いでいった。
「じゃあカナン姉ちゃん、魔法陣を起動してくれ!」
「りょーかい!
『転移魔術』、起動っ!」
魔法陣から眩い光が放たれたかと思うと、次の瞬間には景色が変わっており、目の前にはイツキの屋敷があった。
「おおっ!これが『転移魔術』かー!!」
「あれ?でも、『転移魔術』は魔王ヤミを倒すまで使えないとかいう話じゃなかった?」
ハルカの疑問ももっともだろう。
俺もそういう認識だったが、カナン姉ちゃんとの奴隷契約が復活したと同時に、魔術に関する記憶も完全に思い出したことで、ふと「パラレルワールドを移動する『転移魔術』はダメでも、同一世界内を移動するための『転移魔術』なら使えるんじゃないか?」と思い立ち、試してみたわけなのだが、なんとかなったみたいだな。
「え~、そんなんありなの~…?」
「ああ、詳しく説明するとややこしくなるが、
同一世界を移動するための『転移魔術』とパラレルワールドを移動するための『転移魔術』は、
陣に書き込む条件式なんかが根本的に異なっていて、厳密な意味では全くの別物なんだ」
「え?そうなの?」
そう言ったのはまさかのカナン姉ちゃんだった。
「なんでカナン姉ちゃんが知らないのさ…」
「いや、だってほら、わたしって魔術使えないしさ、魔術系の授業はほとんど聞いてなかったというか…」
「…まぁ、いいや。
詳しい理屈はここで説明するには余白が少なすぎるから省くけど、
つまり、俺達に使えないのは世界を移動するための『転移魔術』であって、
単に同一世界内を行き来するだけの『転移魔術』なら使える、というわけだ」
そんな話を俺がしていると、周りをキョロキョロ見回していたリンが何かに気付いたようで、こう言った。
「…やっぱりにゃ、ここ、リン達が住んでた家の近くだにゃ」
「「「「えっ!?」」」」
まさかのその発言に俺とカズヒとハルカとモトカは同時に驚いた。
リンのその一言に、カナン姉ちゃんも何かを感じたようで、周囲を見回して言った。
「あ、本当だ。
わたし達、こっちの裏側の道を少し下って右の方に行った先にある屋敷で暮らしてたのよ」
そう言ってカナン姉ちゃんが指差したのは、イツキの屋敷のある方向とは反対側の方だった。
「ま、まさか、そんな近くに二人ともいたなんて……」
「灯台もと暗しってやつですな~…」
「まぁ、結果オーライなんじゃない?
二人のこともそうだけど、レイさんのことも助けられたわけだしさ?
あたしの霊能力も結構戦闘で使えるってことも分かったし!」
「確かに、これまでカズヒはほとんど役に立ってなかったしね」
「ちょっ、ハルカちゃん、そんなことはないでしょ!?
あたしそれなりに役に立ってたよね、モトカちゃん!?」
「あれ~、そうだったっけ~?」
「酷いっ!?」
と、皆でカズヒをからかっていると、俺達からの連絡を受けてバイトを早退したイツキ達が帰ってくるのが見えた。
「お兄様ー!!それに皆さんも無事でしたのねー!!」
「ああ、皆無事だ!
それから、新しい姉妹も一緒だ!」
そうして俺達は屋敷に入り、改めてお互いに自己紹介と、これまでのお互いの状況などを報告しあった、勿論、恒例の大浴場で。
*
大浴場で恒例の歓迎パーティー(今回はレイさんに加えて、メイさん、セイさんも一緒だ)をするあたし達。
そこで、これまた恒例の名前の漢字表記を決めることになり、奏音お姉ちゃん、鈴音ちゃん、と決めさせていただいた。
リンちゃんの前世の名前が“スズネ”というので、それをそのまま漢字表記にして読みはリン、そしてカナンお姉ちゃんの名前には音という共通の文字を入れたというわけだ。
「にゃー!ねーねーとお揃いにゃー!」
「うん、いいじゃん!
わたしも気に入ったよ、ありがとね、カズヒちゃん!」
「本当、こういう名付けに関してはまともなのにね…」
そんなこんなで二人の新しい名前も決まったところで、パーティーの再開だ!
「にゃー!!ねーねー達がいっぱい出来たにゃ!!
リン嬉しいにゃー!!」
「自分も妹が出来て嬉しいぞー!!」
リンちゃんを背中から抱きしめて可愛がるキョウカちゃん。
ネコ耳少女をキツネ耳少女が可愛がるというシチュエーションに、海より広いあたしの心も我慢の限界を迎えようとしている。
「リンちゃんもキョウカちゃんも可愛すぎるよーーっ!!」
「にゃー!?」
「うわーっ!?」
あたしは二人に向かってルパンダイブを敢行する!!
「何するのよバカズヒっ!!」
「ひでぶっ!?」
だが、すっかりママムーブが板に付いたハルカちゃんのハイキックがあたしの顔面に決まり、ルパンダイブはあえなく阻止されたが、その代わりにハルカちゃんからのご褒美がもらえてありがとうございます!!
「全くもう…」
「カズヒねーねは大丈夫なのにゃ?」
「へーきだぞ。カズヒ姉ぇは頑丈だし、なんだかんだでハルカ姉ぇはカズヒ姉ぇのことが大好きだから手加減してるし」
「きょ、キョウカ!?
ア、アタシは別にカズヒのことは…っ!」
「嫌いなのにゃ?」
「…き、嫌いじゃ、ないけど……」
「ハルカちゃんのツンデレいただきました!!」
「あーもう、うっさいバカズヒっ!!」
いやー、本当にハルカちゃんのツンデレは最高すな~♪
顔を真っ赤にして照れてるハルカちゃんギザかわゆす!
「にゃははは、にぎやかで楽しいにゃ~♪
それに、皆いいおっぱいだし♪」
「むむっ…!?リンさんからおっぱいソムリエのかほりを感じますわっ!!」
「うわっ!びっくりした!?」
いつの間にかあたしの隣にいたイツキちゃん。
「おっぱいソムリエって何にゃ?」
「それは、おっぱいを知り、おっぱいを究めし者の称号ですわ」
「ちなみに、イツキちゃんとお兄ちゃんがおっぱいソムリエ1級で、あたしが2級だよ」
「イツキもカズヒもリンに余計なこと吹き込まないで!!」
「おっぱいソムリエの話、気になるにゃ!!」
「リン!?」
「あはは、リンちゃんはおっぱい大好きだからね…」
そこへカナンお姉ちゃんがやって来た。
ふむ、カナンお姉ちゃんはサクヤお姉ちゃんに次ぐ巨乳の持ち主だ。
これはぜひ、今夜カナンお姉ちゃんのおっぱい枕を味わわなければ…!
「むむっ…、カズヒねーねがねーねーのおっぱいを狙ってる気配がするにゃ」
「なっ、何故分かったでござるか!?」
「カズヒは分かりやすすぎるのよ…」
「欲望がだだもれだぞ…」
うぐっ、ハルカちゃんならまだしも、キョウカちゃんにまで冷たい視線を向けられてしまった…
「はいはい、おっぱい談義もいいけれど、そろそろ今後のことも話し合いましょう?」
そう言ったのはサクヤお姉ちゃんだ。
「そうですわね。
この世界で探していた二人の妹、キョウカさんとリンさんに加えて、
カナンお姉様まで見つかったのはとても僥倖でしたわ」
「えーっと、これであと見つかってない“姉妹”は何人になるんだっけ?」
「あと二人だよ~、姉ちゃん」
マコト君とモトカちゃんも会話に加わってくる。
これまでに集まった姉妹は、あたしことカズヒと、イツキちゃん、ハルカちゃん、サクヤお姉ちゃん、マコト君、モトカちゃん、キョウカちゃん、カナンお姉ちゃんにリンちゃんの九人だ。
全部で11人いるという姉妹が勢揃いするまで、あと二人。
「お兄様、ちなみに残りの二人に関して、記憶は戻っておりますの?」
イツキちゃんがお兄ちゃんに尋ねる。
「ああ、もう完全に思い出してるよ」
「おおっ!ちなみにどんな二人なの!?」
残る二人の“姉妹”、どんな感じの“姉妹”なんだろう!?
「えーっと、一人は前世で俺の双子の姉だった【水皇石の戦乙女】の“アカネ・ラングレー”っていう…、ええっと、一言では説明しにくい人だ…」
何故か言いよどむお兄ちゃん。
“戦乙女”と言うのは、確かクローンサイボーグとして転生したメイコちゃんの前世が【炎帝石の戦乙女】だったような?
「ああ、“アカネ”とメイコは前世ではライバル同士だったんだ。
共に世界最強クラスの実力を持った“戦乙女”として、“侵略宇宙機械生命体”と戦っていたんだ」
何かものすごく厨二っぽい単語が続々と出てきたぞ…
「えーっと、そのヴァイスなんちゃらかんちゃらはおいといて、
もう一人の“姉妹”はどんな子なの?」
「ああ、もう一人は俺の4歳年下だったから、年齢差が変わらないなら、
今は12歳のはずの“妹”、“シホ”、この中では最年少になるな」
「にゃっ!?リンにも妹が出来るにゃ!?」
「ふふ、良かったね、リンちゃん♪」
ほほーう!12歳の“妹”とな!?
「ああ、だけど俺達の中では恐らく最強の強さを持った“妹”、だけどな」
「ええっ!?」
「さっ、最強の…!?」
「そ、それってイツキちゃんやキョウカちゃんよりも強いってこと!?」
「ああ、単純な強さならぶっちぎりだな」
「う、嘘でしょ…?あのイツキより強いなんて…」
「そんな化物みたいな人がこの世に存在してもいいの!?」
「…あ、あの~、ハルカさんにサクヤお姉様…?
それだとわたくしも化物だと言われているようなのですが…?」
「いや、イツキは十分化物でしょ」
「さ、さすがに関門海峡の一部を蒸発させて、一時的に海水面を下げるような女の子を普通の人とは言えないわ…」
「酷いですわ二人とも!?」
いや、こればかりはハルカちゃんとサクヤお姉ちゃんに同意だよ。
しかも、それだけやって本気じゃないって言うんだからとんでもない化物だよイツキちゃんは…
キョウカちゃんはキョウカちゃんで“銀毛の九尾”になれば天候を操るなんていうとんでも能力を持ってたりするし。
「そんな二人よりも強いって、その“妹”ってどんな子なの…?」
「ああ、“シホ”は亜人の中でも最上位クラスの“吸血鬼”、その中でもさらに上位クラスの“真祖”と呼ばれる者の血をひく者で、
周りからは【吸血姫】と呼ばれていたな」
「【吸血姫】…!」
「ちなみに俺は、彼女を守る騎士、【吸血騎】と呼ばれていた」
読みだけだと分かりづらいけど、お兄ちゃんが湯気で曇った鏡に指で漢字表記を書いてくれた。
「確かに、吸血鬼の真祖というとフィクションの世界じゃ大抵最強クラスのイメージだけど、
具体的にはどれくらい強いの?」
「うん、全盛期の頃、“シホ”が15歳頃の時か、
うっかり世界一つを消滅させかけた」
「「「「「「「「「世界を消滅!?」」」」」」」」」
これには姉妹全員が驚いた。
「えーっと、お兄様?それは大陸を一つ消し飛ばしたとか、この地球ごと破壊しそうになった、とかそういうことですか?
その程度でしたらわたくしにも出来そうですが…」
何さらっと恐ろしいこと言ってるのさ、イツキちゃん…
「いや、文字通り世界、つまりはパラレルワールドの一つを消滅させかけたんだ。
厳密には、世界の境界を切り裂いて、世界と世界の狭間に存在する“虚数空間”に落としかけた、が正しいけど」
「世界の境界を切り裂く!?」
「さ、さすがにそんなことはわたくしには出来ませんわね…
悔しいですが、敗けを認めざるをえません…」
いや、イツキちゃんは何を張り合おうとしてたの?
「というか、そんな“妹”がいるなら、ボク達全員集めなくても、魔王ヤミくらいは余裕で倒せちゃうんじゃないですか!?」
『そいつは無理じゃろうな』
出たな、謎の美少女ヨミちゃん!!
「無理ってどういうこと~?」
半ば予想していたのか、『未来予知』で見ていたのか、とくに驚いた風もなくヨミちゃんに質問するモトカちゃん。
『ふむ、それは相性の問題じゃな。
ヨウイチならば分かるじゃろう?』
「ああ、魔王ヤミは無限に近い魂を持ち、同じ殺害方法に対しては耐性を得て殺せなくなる。
故に、どれだけ“シホ”が魔王ヤミを殺したところで、“シホ”の攻撃方法は無限じゃないからいずれ魔王ヤミを殺せなくなる。
かといって、“虚数空間”に落としたところで魔王ヤミを殺せるわけじゃない。
魔王ヤミほどの魔術師であれば、時間をかければいずれ“虚数空間”から戻ってこられる魔術を開発するだろう。
それが何年先、何千年先になるかは分からないけどね」
『そういうことじゃ。
魔王ヤミを確実に殺しきるには、無限に近い攻撃方法で奴を殺すしかない。
そのための11人の姉妹と2000年の間魂を転生させ続け、
様々な能力をその身に宿したヨウイチの力が必要なのじゃ』
「ひょっとして、お兄ちゃんの魂をずっと転生させ続けてるのって、ヨミちゃんの仕業なの?」
『さて、どうじゃろうな?
それよりも、この世界からは明後日の夜旅立つことになる。
それまでに、世話になった者達に別れの挨拶などをしておくのじゃぞ』
そう言ってヨミちゃんは姿を消した。
相変わらず神出鬼没なヨミちゃん。
彼女は一体何者なんだろう…?
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翌日、俺達は“喫茶妖獣メイド”に行き、店長とユリコさんにもう一人の妹と姉まで見つかったことと、急な話ではあるが明日の夜旅立つことになったことを伝えた。
二人はとても残念がったが、これが最後の別れではなく、全てが終わればまた会いに来ることを約束した。
また、働いた分の給料はもう必要ないからいらないと言ったのだが、それだと申し訳ないというので、代わりにイツキ達が着ていたメイド服をくれた。
イツキ達は(特にマコトが)大喜びしていたが、俺も皆のメイド服姿がこれからも見られるのは嬉しい。
だが、それ以上に驚いたのは、カナン姉ちゃんと店長が知り合いだったことだ。
「あ、あなたはわたしを助けてくれた…!?」
「おお、あの時の魔人の少女か。
まさか、君も彼らの姉妹だったとはの~」
なんと、店長はこの世界に来たばかりのカナン姉ちゃんを助け、屋敷と衣食住の全てを提供してくれた恩人なのだという。
「で、でもなんで店長がカナン姉ちゃんにそこまで…!?」
「なに、とある方からの頼み事でな、お前さん達が気にすることではない。
これは、私とあの方の問題なのだから」
店長の言うあの方というのがどういう人なのか気になったが、プライベートな事情もあるだろうと思い、詳しく聞くことはしなかった。
それから、明日は喫茶店を貸し切りにして、お世話になった刑事さん達も呼んで俺達のお別れパーティーをしてもらえることになった。
本当に何から何まで店長さん達にはお世話になりっぱなしだ。
再びこの世界に帰って来た時にはしっかりと恩返ししないとな。
そんなこんなで残る“姉妹”は二人。
次の世界で出会えるのは果たしてどちらの“姉妹”なのか。
次の世界こそは穏便に平和に“姉妹”と再会出来るといいのだが。




