第5話「多々良川の決戦」
*
俺達が“喫茶妖獣メイド”で働き始めて4日目。
相変わらずイツキ達の効果で客足は衰えず、今日も店は繁盛していた。
その一方で、もう一人の“妹”の行方は未だ分からず、“妖獣ハンター”の件で知り合った刑事さんからの連絡待ちという状態が続いている。
ちなみに、マコトやモトカの超能力『未来視』で未来を見て“妹”を何処でどうやって助けているかを見ることが出来ないかと試してみたのだが、まだ知らない“妹”に関しての未来は見えないらしく(これはカズヒの超能力にも共通した弱点だ)、では俺達の未来を見ることで間接的に“妹”の未来を見られないかと試すも、やはりかなりぼんやりしたものになるらしく、ただ数日以内の未来に、新しい家族が増えているという映像が見えたようだ。
具体的な“妹”のいる場所などは分からないが、少なくとも数日以内には再会できるという未来が分かっただけでも御の字だろう。
そんな中、そのマコトはいつも以上にご機嫌に給仕をしていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
4日目にしてようやく念願のメイド服を着ることが出来たマコト。
マコトのメイド服も皆と同じデザインで、白とピンクという色合い、イヌ耳にイヌの尻尾を付けている。
何度も言うが、マコトの見た目はすごくイケメンである。
イケメンというのは何もカッコいいというだけでない、顔立ちが整っているからイケメンなのだ。
顔立ちが整っている美少女なマコトが、カワイイ格好をすればそれはもう超絶カワイイに決まっているのだ!!
「いや~、姉ちゃん物凄くカワイイよね~♪」
そして、そんなご機嫌なマコトを優しく見つめるモトカもまた今日はメイド服を着ている。
モトカのメイド服は白に水色で、キツネ耳とキツネの尻尾を付けている。
「ああ、マコトは勿論カワイイが、モトカも十分カワイイぞ」
「ふふふ~、ありがと~♪
ついでに、兄ちゃんもカワイくて似合ってるよ~♪」
「…うっさいわ」
そして、何故か俺もメイド服を着せられていた。
さすがに胸がないので胸元が開いていないオーソドックスな白と黒のデザインのメイド服に、ネコ耳とネコの尻尾を付けている。
さすがに男がこんな格好をしたらバレるだろうと思ったのだが、イツキ達に(ノリノリで)軽く化粧までされると、見た目的には完全に美少女になっていた。
「お兄様、とってもカワイイですわ♪」
「兄さん、カワイ過ぎますよ!!」
「兄ちゃん、元々カワイイ系の顔立ちだとは思ってたけど~、まさかここまで女装が似合うとは~」
「おおおっ、お兄ちゃん!あたしとツーショット写真撮って!!」
「あ、ズルい!アタシも!!」
「自分もあに様と写真撮りたいぞー!!」
「はいはい、順番に撮っていきましょうね♪」
と、姉妹達からの評判はそれなりに良かったのだが…、
「5番テーブル、おにっ…、ハルヒお姉様のご指名ですわ♪」
「………」
「ほら、呼ばれてるよ~、ハルヒ姉ちゃ~ん♪」
「…はーい!」
という感じで、意外と男性客からの評価も高いのであった…
ちなみに、ハルヒというのは、カズヒが付けた俺の女装時の名前だ(陽一をそのまま別の読み方にして陽一だ)。
*
その日の閉店間際、店を閉める準備をしていると、新たに二人のお客さんが入ってきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様…、ってこの間の刑事さん?」
「ん?ああ、そうだが…、」
「あれ、あなた新人さん?」
入ってきたのは“妖獣ハンター”の事件を追っている刑事さん達だった。
どうやら、俺の正体に気付いていないらしい。
「あ、刑事さん、お久し振りです!
店長さんにご用事ですか?」
そう対応したのはメイド長のユリコさんだ。
「ああ、いや、今日はヨウイチ君に用事があったんだが、ヨウイチ君は奥かな?」
「目の前にいますよ?」
「え?」
「ま、まさかこちらのカワイイメイドさんが…?」
「…はい、俺がヨウイチです」
「「マジで!?」」
その後、着替えた俺は改めて刑事さん達と会い、店長の計らいで休憩室を借りて話をすることになった。
「さて、回りくどいのもあれだから、結論から言うと、連中のアジトが分かった」
「本当ですか!?」
「ええ、福岡市東区名島にある“多々良喫茶”という、妖獣達が給仕をしている喫茶店、
そこを隠れ蓑にして連中は“妖獣ハンター”を使って妖獣達をさらってきては裏でオークション形式で売りさばいているらしいの」
この世界の地名は、俺達の世界の地名とほとんどが同じだ。
大きく違うのは、日本ではなく、日ノ本国と言う点だ。
「そこまで分かったってことは、俺の“妹”のことも…!?」
「ところが、これがなかなか一筋縄でいかなくてね…」
「と言うと?」
「確実な証拠を手に入れるために、多少強引かとは思ったんだが、我々の同僚の“妖狐”の女性警官を潜入捜査させたんだが、
潜入してから3日目、つまり今日になって連絡が取れなくなったんだ…」
「それってまさか…!」
「恐らく、何かしら連絡の出来ない状況、十中八九彼らに捕まってしまった、と考えているわ」
「でも、それなら逆にチャンスじゃないですか?
その捕まった捜査官を助けるという名目で、その喫茶店に押し掛ければ、」
「そうしたいのは山々だが、いかんせん、こちらの分が悪くてな…」
「これはね、あなたにだから言うのだけど、今回の捜査に関して、私達捜査班はかなり無茶なことをしていてね…」
「さらわれた妖獣達の命や人権がかかってるからな、まぁ、超法規的な捜査、というか…、うん、まぁ、その辺は想像にお任せするが、
ともかく、そういった事情で限りなく不正に近いやり方で得た状況証拠を理由に潜入捜査までしておいて、
その結果、捜査官からの連絡が途切れたので家宅捜査の令状を出してくれと言うのは、
お堅い司法の方々を納得させるには不十分どころか、下手をすりゃ、俺達が責任をとらされて捜査はこのまま終了、なんてことになりかねんのだ」
国の司法には国ごとに定めが違うから、俺にはこの世界のこの国の今の司法に関しては詳しいことは分からないが、刑事さん達がかなり無茶を通して(非合法なやり方で)、“多々良喫茶”が敵の本拠地だということまでは掴んだが、決定的な証拠を得るために、“妖狐”の女性捜査官を潜入させたところ、彼女との連絡が途切れてしまい、お手上げ状態という状況なのだろう。
「そこで、君達に相談なのだが…、ああいや、勿論聞いてもらうだけで構わないよ、
これからの話はとても危険が伴うし、君達を巻き込むのは本意ではない、だから断ってくれても、」
「俺達に代わりに潜入捜査に行ってくれ、ということですね?」
「ああ、まぁ、そういうことになるが…」
「別に構いませんよ、と言うより、元からそのつもりでいましたから」
「で、でも、私達の仲間が捕まったかもしれないのよ?
それくらいに厄介な連絡を相手に、」
「俺達も、ここまでに結構な修羅場を潜ってきましたし、
この程度の困難に打ち克てないようでは、魔王ヤミなんて倒せませんよ。
それに、“妹”が関わっている以上、俺が逃げるわけにはいかないんです」
「…すまない、頼んでもいいかな?」
「任せて下さい。あ、ただし、穏便に終わらせられるか分かりませんよ?
犯人達の命まではとらないよう努力するつもりですが、最悪周囲には多少の被害が出てしまうかもしれません」
「ま、その辺りは仕方がないだろう。
“妖獣ハンター”のトップさえ捕らえてしまえば、あとはどうとでも言い訳がきく」
「こちらに多少の非があっても、相手が圧倒的に悪なら、司法も納得させられるハズよ」
というわけで、俺は明日にでも福岡市東区名島にあるという“多々良喫茶”に殴り込みをしかけることに決めた。
刑事さん達と別れる前に、一つ気になっていたことを尋ねた。
「ところで、一つ気になってたんですが、妖獣を買った側の人間はどうやって彼らを従わせてるんですか?
霊能力者でないと“相棒”契約出来ないし、そもそも“相棒”契約は無理矢理には出来ないハズ。
普通の人間じゃ妖獣には力で勝てないから、妖獣達は売られていっても逃げようと思えば逃げられるハズですよね?」
「それが、連中のボスはどうも半魔人らしくてね、
彼の作った魔術具“隷獣化隷属輪”に購入した人間の血液をたらし、それを妖獣の首にはめることで、“擬似隷獣”とすることで無理矢理に言うことをきかせているらしい」
「魔術具で…」
ということは“妹”も無理矢理“隷獣”にされて…?
俺は頭を振って最悪の予想を振り払った。
今はまず出来ることをやるしかない。
*
その日の夜、俺は刑事さんから聞いた連中のトップ三人についての情報を整理していた。
まず組織のトップが半魔人の男、ゲンドウ・ゲンダ。
半魔人としては数世代目らしいのだが、魔術的才能に長けているようで、件の魔力を持たなくとも妖獣を隷獣化出来る“隷獣化隷属輪”という魔術具を作ったりしている。
次に組織のNo.2、ケンタ・クラタ。
霊能力者である彼の能力は不明。
彼の実力も未知数ながら、その“相棒”であるNo.3の男が厄介そうだ。
クラタの“相棒”で、組織のNo.3、“妖犬”のトラオ(犬なのにトラかよと突っ込みたくなったが)。
彼は、“妖犬”の上位種である“犬神”だそうで、その強さは間違いなく世界でもトップクラスだろう。
さて、他にもメンバーはいるだろうが、この三人をどうにか出来れば他はなんとかなりそうだ。
家族全員で押し掛けては、万が一にも全滅した時に次の手が打ち辛くなる。
そもそも、今のイツキが本気を出せば連中など影も形も残らないだろうし、そうなればもう一人の“妹”の情報が途切れてしまうから意味がない。
それに、全員でアルバイトを抜けてしまえばお店にも迷惑がかかる。
「なので、“多々良喫茶”に向かうのは、俺とハルカとキョウカ、
それとバックアップにカズヒとモトカにも付いてきてもらおうと思う」
「ちょっと待ってアニぃ!
アタシはいいけど、キョウカはダメよ!?
危険な目に合わせたくないもの!」
「ハル姉ぇ、自分なら心配いらないぞ?」
「でも、」
「ハルカの気持ちも分かるが、キョウカには囮になってもらいたいんだ」
「囮に?」
「ああ。奴等の懐に潜り込むために、俺ははぐれ“妖獣ハンター”のフリをし、
キョウカは俺が捕らえた妖獣として振る舞ってもらいたい」
「そんなの余計に危険じゃない!?」
「ああ、だけど、いざとなればハルカがキョウカを『“相棒”召喚』で助け出せるから、考えているほど危険ではないよ」
「「『“相棒”召喚』?」」
「そうか、ハルカは知らないよな、というかキョウカも知らないのか?」
「うん、自分も“相棒”契約は初めてだし!」
「そうか、なら説明するよ。
『“相棒”召喚』というのはそのままの意味で、“相棒”契約した相手を自分の元に召喚出来る力だ。
もっと詳しく言うなら、霊能力者が妖獣を召喚したり、逆に妖獣が霊能力者を召喚出来るという力だな。
お互いに対等な関係である“相棒”だからこそ出来る相互召喚能力だな。
他にも念話も出来る。
相手のことを考えながら心の中で話しかけると、霊力と妖力のパスを通じて相手に言葉が届くんだ」
ちなみに、“奴隷”や“隷獣”、“使い魔”は、主から召喚されるのみで、主を召喚するということは出来ない。
ただし、念話に関しては双方向共に可能だ。
「それなら、アタシが囮になって、ピンチの時はキョウカがアタシを召喚して助けてくれればいいんじゃない?」
「まぁ、それでも構わないが、そうなるとハルカは妖獣の変装をしなきゃならんが、
さすがにすぐにバレそうだけどな~」
「別にバレてもいいんじゃない?
どうせ最終的には力づくなんでしょ?」
「…ま、それもそうか」
というわけで、ハルカには“妖狐”の変装をしてもらって(メイド喫茶で付けている明らかにオモチャのキツネ耳とかではなく、よりリアルな感じのキツネ耳や尻尾を作って)、首に巻かれた“隷属輪”はスカーフで、指にはめられた“相棒輪”は絆創膏で強引に隠して、俺と共に“多々良喫茶”に突撃することに決まった。
「キョウカはカズヒ達と共に少し離れた場所で待機していてくれ。
そして、ハルカからの念話が届いたらすぐに対応してくれ」
「分かったぞ!」
「んで、モトカとカズヒは遠距離攻撃で雑魚達の排除や、俺達の援護を頼む」
「了解~」
「ふふん、お任せあれ!」
さて、後はもう一人の“妹”に関する情報が手に入ることを祈るのみだな。
*
翌日、刑事さん達が“妖獣ハンター”の連中から聞き出した裏の連絡方法で、連中のトップであるゲンドウと直接連絡を取ったところ、昼過ぎに“多々良喫茶”の倉庫にて会いたいと連絡が返ってきたので、早速向かうことになった。
“多々良喫茶”は、名島側の川岸から多々良川に突き出した陸地の上に建っており、その真上にはJRと西鉄電車の路線橋が通っている。
“多々良喫茶”の倉庫というのは、その“多々良喫茶”を出て川岸を博多湾側に少し行った先にあった。
「ねぇアニぃ、さすがに裏取引をしようっていうのに目立つ場所にありすぎない?」
ハルカの言う通り、川岸は遊歩道コースとなっており、昼過ぎとなると、多くの人達がランニングをしたりしていた。
「確かにその通りだが、どうにもこの辺一体にわずかな魔力の流れを感じるんだよな」
「魔力の流れ…?」
「ああ、恐らく魔術具か何かの類だと思うんだが、
人払いの結界、いや認識阻害の結界を張っているのかもしれない」
「なるほど、それならこれだけ堂々としてても一般の人には分からない、ということなのね」
「恐らく、な」
それから、“多々良喫茶”から離れた場所に刑事さん達には待機してもらい(荒事となった時の一般人の避難や、捕らわれている妖獣がいた場合の救出などをしてもらうために、ここにいてもらっている)、キョウカとモトカとカズヒには“多々良喫茶”の倉庫が見えるギリギリの場所にある遊歩道のベンチに座って待機してもらうことにして、いざ俺とハルカは待ち合わせの倉庫へと向かった。
*
「あなた達から、微力ながら魔力を感じますが、何者ですか?」
結論を言うと、ゲンドウに俺達の正体が一瞬でバレた。
霊能力者のケンタと“妖犬”のトラオは騙せたのだが、ゲンドウはハルカが本物の“妖狐”でないことをあっさり見抜くどころか、魔人化してない俺や魔獣化してないハルカの、中に眠らせている魔力を感知しやがったのだ。
「…おかしいな、今の俺達からは魔力を感じられるハズがないんだが?」
「それはそうでしょうね、普通の魔人には無理でしょう」
「こいつはまいったな…」
「アニぃ、どうするの?」
「どうするったって…、」
俺がどうしようか悩んでいると、俺達の後ろに控えているトラオが口を開いた。
「ゲンドウさん、つまりどういうことなんだ?」
「つまり、トラオさんにも分かりやすく言うなら、彼らは敵ということです。
大方、先日潜入捜査とやらで我が喫茶店にやってきた彼女の仲間、という感じでしょうか?」
「そいつは分かりやすい!!
そんなら、全力でぶっ殺す!!」
「アニぃっ!!」
「悩んでる暇はないな!
ハルカはトラオをっ!!」
「うんっ!」
トラオが俺達に突っ込んでくるのとほぼ同時に、ハルカが振り向き様にハイキックをトラオ目掛けて放つ!
「土の精よ、集え!『ハーフスピリット』!!」
ハイキックがトラオに直撃する直前に、ハルカは高速で精霊術を詠唱し、蹴り足を“土化”させることでキックの威力を増加させる。
単純な性格らしいトラオは、文字通り真っ直ぐ突っ込んできた結果、見事にハルカのカウンターを食らい、勢いよく背後へ蹴り飛ばされ、そのまま倉庫の壁を貫いて外へと飛んでいく。
「トラオっ!!」
蹴り飛ばされたトラオを“相棒”であるケンタが、『“相棒”召喚』で呼び戻そうとするが、それより早く俺がケンタ目掛けて精霊術を放つ。
「雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!!」
「ぐあぁああああっ!?」
雷の矢がケンタに直撃し、その勢いのまま吹き飛ばされて、背後の倉庫の壁へと叩きつけられる。
「ふむ、精霊術、ですか…
話に聞くだけで、実際に見たのは初めてですが、しかし魔力を持つ人間が精霊術を扱うなどとは、いやはや、なかなかに興味深い」
「興味を持っていただいて光栄だが、それよりあんたに聞きたいことが、」
俺が“妹”のことを聞こうとした時、空いた壁の向こうから男の叫び声が聞こえてきた。
「ぉおおおおのれぇえええっ!!」
倉庫の外へと蹴り飛ばされたトラオが、再び物凄い勢いで空いた壁の穴から戻ってきたのだ。
「ああ、もうしつこいっ!
土の精よ、」
「させんっ!」
すると、いつの間に移動したのか、先程反対側の壁に叩きつけられていたハズのケンタがハルカの背後にいて、ハルカを背中から羽交い締めにした。
「っ!?この、放せっ!!」
「無駄だ、俺の霊能力は『身体強化』、女のお前ごときでは抜けられんぞ?」
「くっ…!?」
「よっしゃあ、ケンタ!!そのままその女抑えてろ!!
俺がこの手でぶっ殺す!!」
“風雷の妖術使い”である“妖犬”のトラオは、全身に風を纏いながら加速し、電撃を纏った拳でハルカを殴ろうとしていた。
『ホーリーシールド』は間に合わない!
となれば、後は…、
「キョウカっ!!」
ハルカが、キョウカへと想いのパスを繋げる。
*
『キョウカっ!!』
「ハル姉ぇっ!?」
今、確かにハル姉ぇの声が聞こえた!
そう思ったら、自分の周りから景色が消えて、目の前にハル姉ぇの姿が映った。
ハル姉ぇが男の人に捕まってる!?
それに、目の前から物凄い速さでイヌ耳の男が突っ込んで来てるぞ!?
「ハル姉ぇを助けなきゃっ!!
ハル姉ぇ召喚っ!!」
自分が想いを込めて叫ぶと、周りの風景が戻ってくると同時に、ハル姉ぇが現れた。
「ふぅ、間一髪ね、ありがと、キョウカ!」
「ハル姉ぇっ!!」
自分は思わずハル姉に抱き付いていた。
するとハル姉ぇも、自分の頭をナデナデしてくれたんだ♪
そんな自分達を、隣にいたモトカ姉ぇとカズヒ姉ぇは、呆気にとられた表情で見ていた。
「い、いきなりハルカちゃんが現れた…!?」
「え、倉庫で何が起こってるの~?」
*
「んなっ、消えっ…!?」
「と、トラオっ、止まっ…、ぎゃあああああああああっ!?」
突然消えたハルカに驚くケンタとトラオ、そして単純な性格のトラオはやはり勢いを止めることが出来ず、そのまま雷パンチを“相棒”であるケンタ目掛けて放ってしまい、それを食らったケンタは再び吹き飛ばされ、今度は倉庫の壁をぶち抜いて外へ。
「けっ、ケンターーっ!!」
トラオは自ら殴り飛ばしたケンタを追って、空いた壁の穴から外へと出ていった。
そして、倉庫内には俺とゲンドウだけが残された。
「さて、こんだけ暴れると、さすがにあんた達的にもマズイんじゃないか?」
「心配ご無用、ここら一帯には私の魔術具で認識阻害の結界を張っていますので、
周囲の人々にはこちらの騒ぎは一切見えていませんよ」
やはり、魔術具で結界を張っていたか。
「それで、あなたの目的は何なのですか?
ただ我々を逮捕するだけが目的ではないのですよね?」
「ああ。
二週間程前にあんたらが売った“猫又”の女の子、その子の情報と、何処の誰に売ったのかを知りたい」
「それは無理な相談です」
「一応、理由を聞こうか」
「顧客情報にはプライバシーがありますので」
「いけしゃあしゃあと…
非人道的な商売をしておきながら、顧客情報もプライバシーもくそもあるかよ」
「商売には信頼が一番ですのでね。
さて、話はここまでです。どうしてもそれらの情報が欲しければ、」
「力づくで、ってか?」
その瞬間、ゲンドウの魔力が一気に膨れ上がり、突き出した右手の先から魔力による弾丸『シャドゥボール』を放った。
「雷の精よ、集え!『スピリット』!!」
俺は“雷化”して『シャドゥボール』を避けると、一瞬でゲンドウの背後に回り込み、無詠唱で『サンダーアロー』を放つが、ゲンドウに当たる直前に雷の矢が霧散してしまったのだ。
「なんだと…っ!?」
「…ほう、『スピリット』とはまた珍しい術を」
余裕の表情で振り返るゲンドウ。
周囲には雷の精霊力はまだ満ちている。
なのに何故『サンダーアロー』が消えた?
「終わりですか?」
再び『シャドゥボール』を、今度は連続でいくつも放つゲンドウ。
俺は咄嗟にバックステップで回避しながら、もう一度『サンダーアロー』を放った。
「何度やっても無駄ですよ?」
だが、今度も雷の矢は、奴に届く直前で突如として消え失せ、ゲンドウに矢が届くことはなかった。
「術を喰らうことはないとは言え、目にも止まらぬ速さで術を使われるのは厄介ですね」
「どうやって俺の術を防いだ?
得意の魔術具か?」
「ご名答。
こういう商売をやっているのでね、当然様々な霊能力者や妖獣達から狙われるわけですよ。
まぁ、精霊術師に狙われたのは初めてですが。
そこで、私は私の周囲に、外部からの霊力や妖力を無効化するためのバリアーを張る魔術具を常に持ち歩いているんです。
霊力や妖力、魔力による攻撃が防げることは確認していましたが、精霊力に対しても有効であることが分かって一安心です」
「ちっ、また厄介な魔術具を…!」
ゲンドウは間違いなく魔術具作成に関して天才的な才能を持っていやがる…
俺がかつてラクサという魔人だった時は、それなりに魔術の天才と呼ばれており、実際に“姉”を助けるためだけに時間と空間を超える『時空間転移魔術』なんていう、オリジナル魔術を開発したりしたもんだが、広範囲に渡る認識阻害を起こす魔術具や、あらゆる術による攻撃を防ぐ魔術具を開発出来るというのはとんでもない才能だ。
さて、ヤツをどうやって攻略するか…
「なら、最強の盾同士ぶつけたら、どうなるかな?」
「何ですって?」
「光の精よ、集え!『ホーリージャベリン』!!」
ありとあらゆる攻撃を防ぐ最強の盾『ホーリーシールド』を、細く槍状に収束させた、俺のオリジナル術『ホーリージャベリン』は、最強の盾をありとあらゆる防御を貫く最強の矛へと変える。
「まさかっ、二属性の精霊術を扱う、だと!?
しかも、光の精霊っ…、」
「そぉおおおりゃあああああっ!!」
振りかぶり、渾身の力で光の槍を投擲する俺。
投擲された光の槍は、ゲンドウの手前で一瞬その動きを止めるが、やがて目に見えないバリアーにヒビを入れていき、ついにはそのバリアーを貫通した。
「おのれっ…!?」
「よしっ!」
勝利を確信した俺だったが、次の瞬間、
「『“隷獣”召喚』」
ゲンドウの前に、鉄の板に磔にされ、目隠しとボールギャグをされた裸に亀甲縛りをされた“妖狐”の女性が現れたのだ。
「なっ!?とっ、止まれ!」
慌てて『ホーリージャベリン』を消した俺。
間一髪で『ホーリージャベリン』は、その“妖狐”の女性に当たることは回避された。
「ふぅ、危なかった。
この肉の壁が無ければ危うくやられているところでしたね」
「貴様っ…、その女の人は!?」
「これは数日前に雇ってくれと言って来た“妖狐”ですが、
どうやらその正体は我々を探る捜査官だったようでね、捕らえて我が“隷獣”とし、こうして肉の壁となってもらうことになりました。
備えあれば憂いなし、という奴ですね」
「ん゛っ…、んん゛…っ!!」
連絡が取れなくなったという捜査官の人か。
ヤツらに捕まっているだろうとは思っていたが、まさかこんな形で利用されているなんて…!
鉄の板に磔にされたその人の身体は、よく見ればいくつもの鞭で打たれたような痕や、焼け焦げたような痕が見られた。
縄もかなりきつく縛られているようで、所々縄の周りの皮膚が青くなっていた。
…こいつは、絶対に許せねぇ。
「…さっき、お前が言っていたことを一つ訂正させてもらうぜ」
「何です?」
「俺は二属性の精霊術を扱えるんじゃない…」
俺の怒りのボルテージが上がっていくのと反比例して、倉庫内の気温はどんどん下がっていく。
「まさか…、氷の精霊術まで…!?
しかし、私の周囲にはありとあらゆる属性の術を防ぐバリアーがあります!
先程は光の槍で貫かれましたが、すでにバリアーは復活していますよ!?
それに、この肉の壁だって、」
「光の精よ、集え。『ホーリーシールド』」
ゲンドウが“妖狐”の女性をこれ見よがしに前方へと突き出して来たタイミングで、その女性の周囲を覆うように『ホーリーシールド』を貼った。
「なっ!?」
「千の氷精よ、集え。『ブリズドスクエア』…!」
千の氷の精霊が集まり、『ホーリーシールド』で覆った“妖狐”の女性だけを除く、ゲンドウの周囲を一瞬で凍りつかせた。
「バリアーごと凍らせちまえば関係はないだろ?」
ゲンドウの張ったバリアーは確かに強固だが、それは外から中への攻撃に対しての話だ。
『ブリズドスクエア』は氷の四角柱で対象を覆い、半永久的に対象を凍らせ続ける術だ。
これでバリアーの周囲を凍らせてしまえば奴はもう何も出来なくなる。
ちなみに、『ブリズドスクエア』は術者が解除するか、術者が死ぬかしない限り解けることはない。
よほどの強者、魔王クラス程の力が無ければ中から解除されるということはない、ハズだ。
俺は『ホーリーシールド』であらかじめ『ブリズドスクエア』の影響を受けないようにしておいた“妖狐”の女性の元へと行き、『ホーリーシールド』を解除してから、女性の戒めを解いていき、『ホーリーヒール』で女性の傷を癒した。
「大丈夫ですか?」
「う…っ、わ、私…、助かった…、の?」
「はい、もう大丈夫です」
「う…、うわぁあああああんっ!!」
「むぎゅっ!?」
と、余程怖かったのか、緊張の糸が切れて泣き出してしまったその“妖狐”の女性に抱き付かれた。
柔らかく大きな胸が俺の顔を挟み込む。
柔らかいし、いい匂いがする!!
姉妹達とはまた違った大人の女性の香りに身を委ねたくなったが、意思を総動員して今の内にすべきことをするべく一旦女性から離れた。
「と、とりあえず落ち着いて下さい。
あなたはここに潜入捜査に来ていた刑事さん、でいいんですよね?」
「…ぐすん、ご、ごめんなさいね、取り乱してしまって。
ええ、私は“妖獣ハンター対策課”のレイ警部補です!」
そう言って敬礼すると同時に、レイさんの柔らかいおっぱいがポヨンと揺れる。
…って、今はおっぱいのことは置いといて!
「え、えーっと、それでレイさんにかけられてる“隷獣”契約なんですけど、」
「…分かってます。
“隷獣”契約は一度契約させられると、主人が死なない限り解除されることはないんですよね」
「ええ、そうです…」
『ブリズドスクエア』はあくまで対象を半永久的に凍らせ続けるだけで、対象を殺すことはない。
コールドスリープのような状態にさせているだけだ。
なので、レイさんの“隷獣”契約はまだ生きている。
勿論、今すぐゲンドウを殺すことも出来るのだが、奴からは情報を聞き出す必要があるから今はまだ殺すわけにはいかない。
この世界の法で彼がどのように裁かれるは分からないが、彼が生きている限り、“隷獣”契約によってレイさんが常に奴の人質に取られているような状態だ。
そうなればまともな事情聴取も出来ないだろう。
そのために、レイさんとゲンドウの“隷獣”契約だけは解除しておきたいのだが…
「一応、ゲンドウとの“隷獣”契約を解除する方法はあるにはあるのですが…」
「そ、それはどういった方法ですか!?」
「“隷獣”契約の上書きです。
つまり、他の人の“隷獣”となることで、ゲンドウとの“隷獣”契約は解除出来るのですが、
“隷獣”契約そのものがなくなるわけではないので…、」
「…それって、つまり私があなたの“隷獣”になればいい、ってこと?」
「い、いえ、別に他の人でもいいのですが、例えば仲間の他の刑事さんとか、」
「ううん、それなら私、あなたの“隷獣”になりたいわ。
…だって、私の裸見られちゃったんだもん、責任とってもらわなきゃ、ね?」
そう言って頬を赤らめるレイさん。
「ほ、本当に俺なんかでいいんですか?
俺は、」
「大のシスコン、なんでしょ、ヨウイチ君?」
「俺のこと、知ってたんですか?」
「ええ、ここに乗り込むきっかけになった“妖獣ハンター”を捕まえた女の子のお兄さんでしょ?
あなた達のことは先輩から一通りのことは聞いてるわ」
「だったら、」
「うん、でもそんなの関係ないの。
吊り橋効果って言われるかもしれないけど、あなたにこうして助けられて、恥ずかしい姿も見られて…、私、あなたに一目惚れしちゃったみたい。
だから、私をあなたのものにして欲しいの…!」
そう言って再び抱き付いてくるレイさん。
今度はおっぱいが俺の胸に当たり、とても気持ちいい…、ってだからおっぱいは関係ない!
「…分かりました。
じゃあ、この場で“隷獣”契約の上書きをしますので、魔法陣の中に入ってください」
俺は体内の魔力を高め、床に“隷獣”契約のための魔法陣を書いた。
姉妹達とのキスによるパワーアップで、ある程度人間の肉体で魔力を扱うことに慣れてはきたが、しかしそれでも脳がチリチリし、血液が爆発しそうな感覚は残る。
「ヨウイチ君、魔術が使えるの…?」
「ええ、まぁ、その辺りの事情はいずれ…
では“隷獣”契約の上書きを行いますよ?」
「は、はい!」
レイさんが魔法陣の中に入ったのを確認すると、俺は魔法陣に魔力を流し込む。
「…んっ!」
艶っぽいレイさんの吐息が漏れる。
レイさんの中に俺の魔力が入っていき、ゲンドウの魔力を体外へと放出し、“隷獣”契約の上書きをする。
「んんっ…、ヨウイチ君が…、私の中に…、は、入ってきてるぅうううううううっ!!」
レイさんが全身を痙攣させながら、一瞬背中を弓なりに反らすと、次の瞬間には前のめりに床に倒れこみそうになったので、俺はあわてて彼女の身体を正面から支えた。
その際に右手でレイさんの大きくて柔らかいおっぱいを思いっきり掴んでしまったが不可抗力だ。
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ、平気よ…
ただ、とても気持ちよくて、少し、イッてしまっただけ…」
「そ、そうですか」
「これで、私はヨウイチ君のものになったのよね?」
「その言い方はアレですが、まぁ、そんな感じです」
「ふふ、嬉しい…♪
私の一目惚れの相手、初恋の空いてと結ばれちゃった♪」
「は、初恋!?」
「そうよ、私、二十歳になるこの歳まで恋愛なんてしたことなかったんだから。
当然、処女よ、確認する?」
「そ、そうだったんですか…、いや、処女かどうかの確認は今はいいです。
でも、正直な話、俺はあなたの想いに応えられるかどうかは、」
「うん、分かってる。
今はまだ、あなたの側にいられるだけでいいわ。
召使い役でもなんでもいい、それこそあなたの性奴隷でもいいわ、処女だけど、知識だけはあるから、頑張れると思うわ!
だから、どんな形であれ、あなたとずっと一緒にいられるなら、私はそれで幸せよ♪」
レイさんが俺に抱き付いてくる。
「…分かりました、性奴隷というのはさすがにないですが、
とりあえずは、俺達の家のメイドさんという感じで、ウチに来ますか?」
「ええ、そうさせてもらうわ。
ふふ、これも一種の寿退社というやつかしらね?」
「多分ちがうと思いますが」
とりあえず、レイさんの件は一件落着だ。
後は、もう一人の“妹”の情報と、ハルカ達の戦っているケンタとトラオだな。
ハルカがいて、バックアップにモトカ達もいるから問題はないと思うが…




