幕間1「とある少女の決意」
この世界、“ワールドアイラン”に時空間転移してきたわたしは、これからどうするかを考えた。
大切な弟と“妹”を失って一人ぼっちになったわたし。
いっそこのままここで朽ち果てることも考えたのだが、それだとわたしを生かしてくれた二人の意思を無駄にしてしまう。
ならばと、わたしは二人の分まで一生懸命に生きることを決意した。
幸い、わたしを助けてくれた人がいて、おまけにその人から衣食住の全てをいただき、しばらくは問題なく生活できる。
とは言え、やはり長く生活するためにはお金が必要だ。
一応、普通に生活できるだけのお金もいただけたんだけど(何故そこまでしてくれるのか詳しい理由は教えてくれなかったが、命より大事な人からのお願いだから、だとか…)、少しでも自分で稼げるようにならなくては。
しかし、この世界の戸籍などがなく、おまけに魔人の角と尻尾の生えたわたしを雇ってくれるようなところがあるのかどうか…
とりあえず、一通り操作方法を教えてもらった文明の利器、パソコンというものを使って調べてみることにした。
「えーっと…、確かこれを動かして、画面のアイコンの上に矢印を持ってきて、左のボタンを押す…」
すると画面が立ち上がり、インターネットとか言う調べものをするためのページが開く、ハズだったんだけど、
「あれ?押すアイコン間違えちゃった?」
開かれたのはメールと言う、インターネット上でやり取りする手紙のようなものの画面だった。
「えーっと、画面を閉じるには…、と、あれ、何かメールが来てる?」
ふと、『New』と表示された着信メールが目に入り、なんとなくそのメールのタイトルを読むと、
「『妖獣オークションにようこそ』…?」
何だろう、このメール…?
何かに導かれるように、わたしはその着信メールを開いた。
すると、本文は何も書かれておらず、ただ何やら不規則な文字の羅列、インターネットアドレスのリンクが貼られているだけだった。
この時、わたしがもっとインターネットに詳しくなっていれば、このメールはフィッシング詐欺だろうと思い、そのままゴミ箱に捨てていただろう。
だけど、インターネット初心者のわたしは、何の疑いも持たず、そのアドレスをクリックした。
今思えば、やはりそれは運命だったんだろうと思う。
開かれたサイトには、可愛らしい“妖猫”の女の子の写真が載せられていて、簡単なプロフィール(身長は145センチメートル、スリーサイズが82-53-84で、年齢は14歳らしい)と、現在の値段、そして終了までの残り時間が表記されていた。
「な、何これ…」
まさか、本当にこの女の子をオークションで売ってると言うの…?
確かに、わたし達魔人はかつてこの世界の妖獣達を拐っては、戦闘のためだったり、労働力のためだったりのために売買していたこともあった。
それが、この世界でも行われているなんて…
私は、人身売買に関しては反対の立場だ。
他ならぬ私自身が親に売られたような立場だからというのもあるが、同じ人間同士(魔人だろうと妖獣だろうと大きな定義では人間だ)で人間に値段を付けて売買するなんて、気分がいいものじゃない。
何故わたしはこんなサイトを開いてしまったのだろう…
目の前で女の子が売られていくのを見ることになるなんて…
わたしはじっと、その“妖猫”の女の子の写真を見つめていた。
ドクンッ!
と、何故か、わたしの中で、その子を愛しいと思える感情が沸き上がってきた。
「な、何この気持ち…?
確かに、可愛らしい女の子だとは思うけど、わたしはそんな少女趣味なんかじゃ…」
あれ、でも、この子よく見ると、なんとなくわたしの小さかった頃の面影があるわね…
そうか、わたしはこの子を本能で“妹”みたいな存在と感じたのだろう。
“妹”を愛しいと思う感情は普通だ。
自慢じゃないが、わたしは弟ラブなだけでなく、妹ラブでもある。
わたしが見ている前で、その“妖猫”の女の子の値段はどんどん上がっていく。
残り時間は、あと10分をきっていた。
「うん、これはこの子を買うんじゃない、
この子を、“妹”を助けるためよ…!」
気付いたらわたしは、その子を今持っている全財産を使って落札していた。




