第2話「九尾の妹」
*
「では、まずはアルバイトを探すところから始めましょうか」
まさかのカズヒが霊能力者だったということが判明した後、さてではこれからどうすべきかを話し合っていた時に、メイさんが次のように言った。
「“姉妹”の皆さんを探すのは勿論第一目標だとは思うのですが、
その前に、この世界で暮らす以上は、この世界のお金を持っておく必要があるのではないでしょうか?」
「確かに、メイちゃんの言う通りね。
私達、これまでは何気にその世界のお金を手にいれて使ってたけど、この世界でもそう簡単にいくとは限らないものね」
そうなのだ。
イツキ達の世界ではイツキとハルカの金があったし、マコト達の世界では俺が前世に残した遺産が残っていたから不自由はなかった。
しかし、この世界ではそういうわけにはいかない。
数日であれば、マコト達の世界で食料の買い出しはしておいたのでもつが、“姉妹”達を見つけるまでに数週間かかるようであれば、さすがにこの世界のお金が必要となる。
それで、冒頭のイツキのセリフとなるわけである。
「アルバイトを探すと言っても、アタシ達この世界の人間じゃないし、戸籍とか履歴書とかどうすんの?」
「ハルカの言う通りだよ、基本アルバイトであっても、その辺の身元がしっかりしてないと、雇う側としても困るだろうし」
「履歴書不問でも雇って貰えるところを探すしかないよね~」
「はいはい!あたしメイド喫茶で働きたいです!!」
「バカズヒ!今は何処で働くかじゃなくて、どうやったら雇って貰えるかを話し合ってるんでしょーが!」
「とりあえず街の方へ行って、何かいいアルバイト募集がないか捜してみる、というのはどうかしら?」
「サクヤお姉様の言う通りですわね。
それに、アルバイトのついでに新しい“妹”も見つかるかもしれませんし♪」
「いや、確かにこれまでは結構簡単に見つかってたけど、今回もそう上手くいくとは限らないからな…」
とにもかくにもまずは街の探索も含めて、いつもの大里地区へと向かう俺達だった。
*
俺達の世界でいうところの門司駅周辺の地域を大里と呼ぶ。
大里の名前の由来は、源平合戦の折、逃げ延びてきた平家一門と、その血を持つ安徳天皇の御所があったことから“内裏”(簡単に言うなら天皇のいる場所)と呼ばれ、それが後に“大里”となった、とされる。
大里地区には、そうした安徳天皇にまつわる逸話を持った史跡も多く存在し、例えば柳町にある“風呂の井戸”と呼ばれる場所、安徳天皇の疲れを癒すための風呂の用水に使われたと言われている。
俺達の家の近所にある“不老公園”の“不老”は、この“風呂の井戸”の“風呂”がなまって“不老”となったものだ。
さて、何故このような話をしたかと言うと、実はこの世界でも似たような歴史がかつてあったのだ。
かつて、“妖狐”の一族と“妖犬”の一族は仲が悪く、霊能力者達をも巻き込んだ争いが起きた。
源平合戦、ならぬ“犬狐合戦”。
当時、日ノ本国を治めていた“妖狐”の一族とその霊能力者達だったが、力をつけた“犬神”の頭領率いる“妖犬”の一族とその霊能力者達が反旗を翻し、“妖狐”勢力を徐々に西へと追いやっていった。
そして、とうとう九州藩にまで追いやられてしまった“妖狐”一族は、最終的に壇之浦海戦にて“妖犬”一族と戦い、“妖狐”の頭領は壇之浦の海に沈んだ。
そこで、“妖狐”の一族は滅びる定めとなるハズだったが、“妖狐”の頭領の妹が、伝説の“銀毛の九尾”へと覚醒し、残党狩りに来た“妖犬”一族を返り討ちにした。
結果、日ノ本国は“犬神”の頭領が治めることとなったが、“妖狐”一族の滅亡だけは防ぐことが出来たのであった。
「…という歴史を、ここに来る道中で思い出してな、
懐かしくなって立ち寄ってみたくなったんだ」
そんなこんなで、俺達がいるのは、“銀毛の姫の産湯を使いし井戸”と書かれた石碑の立つ古い井戸の前だ。
周囲は木々で覆われており、いかにも神聖な場所、という雰囲気だ。
ちなみに、ここに来る道中もほぼ自然な町並みで、道路も舗装されておらず、時おり馬車や自転車に乗った人々を見かけた。
とは言え、全く文明が進んでいないというわけではなく、俺達の世界にもある有名なコンビニなどの店も普通にあり、要は自然と文明がいい案配で調和しているという感じだ。
「ここって、確かあたし達の世界だと“風呂の井戸”がある場所だよね?」
「ああ、カズヒにしてはよく覚えてたな」
「地元の史跡くらいは覚えてるよ!」
「わたくし達の世界にも似たような史跡はありましたが、
もしかすると、この【銀毛の姫】と言うのが…?」
「ああ、俺の“妹”、伝説の中の伝説“銀毛の九尾”だったとされるギンのことだ」
「だったとされる?」
「ああ、というのも、俺は“妖狐”の頭領として“犬狐合戦”の際に敗れて壇之浦に沈んだからな。
だから、俺が死んだ後の、ギンが“銀毛の九尾”に覚醒して以降の話なんかは、その後にスズネの兄として転生した時に、歴史として知ったことだからな」
「ところで~、さっきから出てくる“銀毛の九尾”ってのは何なの~?」
「ああ、それはな、さっき“妖狐”の上位種に“九尾”がいる、という話はしたよな?」
「はい、聞きました」
「んで、その“九尾”のさらに上位種とされるのが“銀毛の九尾”なんだが、
長らく伝説上の存在とされていて、歴史上その存在を確認されているのは、ギンだけなんだ」
「ええ!?それって物凄いことなんじゃないの!?」
「物凄いなんてもんじゃない。
しかも恐ろしいことに、本来“妖狐”や“九尾”にしても、炎と雷の妖力しか持たないハズなのに、
“銀毛の九尾”、つまりギンは炎と雷だけでなく、風と水の妖力も使っていたらしい」
「それはまた、とんでもない“妹”ね…」
「とは言え、“銀毛の九尾”に覚醒したのはその一回だけみたいで、力を使い果たした後は、意識を失い、表舞台から姿を消したんだ。
一説には、兄、つまりは俺のことだが、俺が死んだショックで記憶喪失となり、戸ノ上にある御所神社でその後の余生を過ごしたらしいが…」
「なんだか悲しいお話ですわね…」
当時、とても明るくて俺にいつも元気を与えてくれていたギン。
あの日もそうだった。
壇之浦海戦開戦のその日、ギンを御所神社において、俺は“妖狐”軍の頭領として、戦地に赴こうとしていた。
そんな俺に、ギンがいつもの笑顔で俺に話しかけてきた。
『あに様、あに様!
帰って来たら、昨日の花札の続きやろうね!!』
『花札の続き?だけど、あれは俺が最後に勝って終わっただろう?』
『うー!自分負けてないもん!!
まだまだやれるもん!!』
『…はは、分かったよ。じゃあ、帰ったら続きをやろうな』
『うん!!だからあに様、絶対に帰って来てね!!』
その約束は、結局果たせなかった。
その後のことは歴史としてしか知らないが、俺を失った悲しみと怒りから“銀毛の九尾”へと覚醒したギンの力は凄まじかったという。
それまで虫一匹殺すことのなかった、あの優しくて可愛いかったギンが、迫り来る“妖犬”軍とその“相棒”である霊能力者達を虐殺していく様は、敵軍からは死神の如く恐れられたという。
そんなことを考えていると、隣でハルカが何かを感じたかのようにキョロキョロし始めた。
「ん?どうした、ハルカ?」
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
「誰かに、助けて、って…」
「いや、何も聞こえなかったが…」
「でも、確かに……、こっちから聞こえる!」
「あっ、おい、ハルカ!?」
突如、ハルカが井戸のある方とは逆の方向、古い住宅地のある方へと向かって走り出していってしまった。
*
“銀毛の姫の産湯を使いし井戸”と呼ばれる井戸を感慨深く見ていたアタシの耳に、突如女の子の悲鳴のような声が聞こえてきた。
―――誰か、助けてっ!!
「え!?」
今の悲鳴、何処から聞こえてきたのかとキョロキョロ周囲を見回したが、アニぃたちは何も聞こえていないかのように、思い思いに話をしていた。
アタシの聞き間違い…?
でも…、
「ん?どうした、ハルカ?」
アタシの様子がおかしいのに気付いたのか、アニぃが話しかけてきた。
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
「誰かに、助けて、って…」
「いや、何も聞こえなかったが…」
やっぱり、アニぃ達には聞こえていなかったんだ。
「でも、確かに……、」
と、その時再びアタシの耳に同じ女の子の声が聞こえてきた。
―――誰か、助けてっ!!
「こっちから聞こえる!」
「あっ、おい、ハルカ!?」
アタシはその声が聞こえてきたと思われる方向へと駆け出していた。
木々の繁る中を駆け抜ける。
ここは古い住宅地のようで、今は人が住んでいないと思われる家が数件に一戸の割合であるようだ。
そして、人目の付かない裏路地のような場所に入った所で、数人の屈強な男達が一人の女の子、狐のような耳と尻尾が生えた女の子に猿轡を噛ませて、縄で縛り上げて車に連れ込もうとしているのが目に入った。
「あんた達…っ!!」
「ちっ、見つかったか…!」
「サツに通報されると面倒だ、あの女を殺せ!」
「でもアニキ、あの女、普通の人間みたいですが、
おっぱいもそこそこ大きいし、ただ殺すのは勿体ないですぜ、げへへ」
「そうだな、売り物にはならねぇが、捕まえて遊ぶくらいなら構わねぇぞ」
「ひゃっはぁああ!そうこなくっちゃ!
この商売やってると、いい女の妖獣を捕らえても、せいぜい触ることしか出来ねぇし、本番が出来なくて溜まりに溜まってしょうがなかったんでさぁ!」
胸糞悪い、これ以上はもう聞きたくもない!
「土の精よ、集え!『ゴーレムクリエイト』っ!!」
アタシは地面に両手をつき、男達と同じ数だけのゴーレムを作り出し、ゴーレムに男達を襲わせた。
「ゴーレム達!遠慮なくやっちゃいなさい!ただし、殺すのだけはダメよ!」
「なっ!?なんだこいつら!?」
「こいつ霊能力者か!?」
「ひぇええええっ!?お、お助けっ、ゲボラッ!?」
「ギャアアアアアアアッ!?!?」
男達はゴーレムに任せて、アタシは縛られてる女の子の元に行き、縄を『サンドエッジ』で切った後に、猿轡を外した。
「大丈夫?怪我はない?」
「えっと、お姉ちゃんは…、」
キュンッ!
やだ、何この娘、カワイ過ぎるんですけど!!
モフモフの尻尾と耳もさることながら、腰まで伸びた長い髪はサラサラで、耳や尻尾と同じ狐色。
身長はアタシより低くて140センチくらいだけど、スタイルは意外といい、というかアタシよりおっぱい大きくない!?
これがロリ巨乳ってやつなのか!?
「あの、お姉ちゃん…?」
「え?あ、ああ!ごめんね、ちょっと色々考え事してて…!」
いかん、カズヒみたいな思考をしてしまった…!
というか、姉妹以外の女の子に対してこんな感情を抱いたのは初めてだ。
そもそもアタシは生粋のブラコンで、カオルとの婚約の件だってそんなに乗り気じゃなかったし、ましてや姉妹以外の女の子に対して恋愛感情的なものを抱くなんて………
ん、待てよ、まさか…?
アタシはある可能性に気付き、その娘の顔をじっと見つめた。
…ああ、よく見れば似てる。
アタシ達にそっくりじゃないか!
「ねぇ、あなた?
ひょっとしたら、あなたには前世の記憶が、」
「……やっと見つけたぞ!自分のご主人様!!」
「え?」
気付いたら、アタシはその娘にキスをされていた。
*
突然駆け出したハルカを追いかけて行った先は、人気の無い路地裏で、そこには壊された車と、地面に横たわる数人のいかにもガラの悪そうな男達と、狐耳少女にキスをされているハルカがいた。
「あーーっ!!ハルカちゃんが女の子とキスしてるーーっ!!
浮気だ浮気ーー!!」
「んんっ…、ぷはっ!
馬鹿っ、違うわよバカズヒ!!これはいきなりこの娘がキスしてきて!それに、もしかしたらこの娘は、」
ハルカとキスをしていたその狐耳少女は、まさか…!?
同時に向こうもこっちに気付いたようで、鼻をクンクンさせていた彼女と俺の目があった。
「“ギン”!?お前、“ギン”なのか!?」
「この匂い…、あに様の匂い…!
あに様!?あに様なの!?」
「やっぱりそうか!久し振りだな、それと、待たせてしまってごめんな、“ギン”」
「う…、うわあああああああん!!
あに様あに様あに様あに様あああああああっ!!」
泣き叫びながら俺に抱き付いてきた“ギン”。
彼女からほのかに香る太陽のような心地よい香りは、前世の頃から変わっていなかった。
*
やっぱり、あの娘は前世のアニぃの妹の“ギン”だったんだ。
でもいきなりアタシにキスしてきたのは何だったんだろう?
なんて思ってたら、左手の薬指に熱を感じたのでそちらに目を向けると、いつの間にか指輪のようなものが薬指に巻かれていた。
「え、何これ…!?」
「それは、妖獣と“相棒”になった証の指輪だな。
“ギン”にもそれと同じデザインの首輪が巻かれてるのが分かるか?」
言われてみると、確かに“ギン”の首にはさっきまではなかった首輪が巻かれていた。
アタシの指輪と同じ、銀色の太陽のようなデザインが施されたものだ。
「しかし、まさか“ギン”の初めての“相棒”がハルカだったとは…
と言うか、ハルカも霊能力者だったんだな」
「アタシが“相棒”で霊能力者…」
な、なんだか理解が追い付かない…
女の子を助けたと思ったら、それが“妹”で、“相棒”になって、霊能力者…?
「ず、ずるいよハルカちゃん!!
あたしも“ギン”ちゃんの“相棒”になりたい!!」
そう言って“ギン”に無理矢理キスを迫ろうとするカズヒだったが、“ギン”はアニぃの背中に隠れるようにしてカズヒから逃げた。
「お姉ちゃん、なんだか怖いぞ…」
「ガーン!!」
「大丈夫、カズヒは変人だが怖くはないぞ」
「そうだよー、あたしはブラコンでシスコンなだけの普通の美少女ですよ~?」
「ブラコンでシスコンな人を普通とは言わないのでは?」
「ねぇ、あに様、このお姉ちゃん達は誰なの?」
「ああ、皆俺の姉妹で、“ギン”にとっても新しい家族、お姉ちゃん達となる人達だよ」
「新しい、家族…、新しい、お姉ちゃん…!!」
それまで少し不安げな顔をしていた“ギン”の表情が途端に太陽のような明るい表情になった。
ああっ、カワイ過ぎる!!
「じゃあじゃあ、ご主人様も自分のお姉ちゃんなの!?」
「あ、アタシ?」
「ああ、ハルカも俺の妹で、“ギン”のお姉ちゃんだ。
あと、“相棒”は、お互いに対等な関係だから、ご主人様というのは少し違うぞ」
「ハルカお姉ちゃん…、ハル姉ぇ!!」
そう言ってまたアタシに抱き付いてきた“ギン”。
よほど嬉しいのか、尻尾が物凄い勢いでぶんぶん振られている。
ヤバい、めっちゃカワええ…
今すぐ押し倒したいくらいカワええ…!!
「と、とりあえず場所を変えませんか?
えーっと、“ギン”さん、と呼んで宜しいのでしょうか?」
「えーっとね、自分の今の名前はキョウカって言うんだぞ!」
「そうですか、では、キョウカさん、何処か落ち着いた場所で色々とお話がしたいのですが、この近くでそういった場所はありますか?」
「だったら、自分が今お世話になってるおじさんの所に案内するね!!」
そう言って“ギン”改めキョウカは、アタシの手をギュッと握り締めたまま歩きだした。
ああもう、本当にこの娘はいちいちカワイ過ぎるんですけど!!
「ハルカちゃんが見たこともないくらいニヤけた顔してる…」
「ああ、俺もあんなハルカ初めて見たな…」
「うふふ、ハルカさんも“シスターズアルカディア”の姉妹として、立派なシスコンになりつつあるようわね♪」
「それは、いいことなのかしら…?」
*
ハルカちゃんが小汚ない暴漢共から助けた女の子はなんとあたし達の“妹”で、“銀毛の九尾”の“ギン”改めキョウカちゃんだった!
さらには、ハルカちゃんが実はあたしと同じ隠れ霊能力者で、おまけにキョウカちゃんと“相棒”契約までするという羨まけしからん展開に!
そんなキョウカちゃんと落ち着いた場所で話をするために、今あたし達はキョウカちゃんのお世話になっているというおじさんの所へ向かっているところなのだが…
「うー!ケモ耳少女と“相棒”契約、あたしも結びたかったなー!!」
「うぅ…、ボクもあんなカワイイ娘と“相棒”になりたかったな…」
隣を歩くマコト君も悔しそうな顔をしていた。
マコト君はボーイッシュでイケメンな見た目だけど、その中身は姉妹の誰よりも乙女で、カワイイものに目がないというギャップ萌えの王道妹キャラだ。
「そもそも、姉ちゃんには霊力があるのかどうかも分からないしね~」
「あった所で、霊力と妖力には相性があるから、妖獣側が気に入った霊力の持ち主とでないと契約出来ないんだけどな」
「マコト君、まだ諦めちゃ駄目だよ!
この世界にはもう一人、猫又の“妹”ちゃんがいるんだから!
その娘となら“相棒”になれるかもしれないよ!?」
「だとしても、現時点で霊力があると分かってるのはハルカ以外だと兄さんとカズヒだよね?
ちなみに、二人以上の妖獣と“相棒”になれることはあるんですか?」
「いや、霊能力者と妖獣とが“相棒”契約を結べるのは生涯で一度だけ。
さっきも言った通り、運命的な出会い、というわけだ。
…そう考えると、前世でキョウカが“相棒”に出会えなかったのは必然だったのかもな」
「なるほど、前世の時はハルカちゃん、この世界にいなかったもんね!」
「ハルカとキョウカの出会いはまさに運命だった、というわけですか」
「キョウちゃんの助けを求める声がハルちゃんにだけ聞こえたのもそういうことだったのかもしれないわね」
「ああ、そうなのかもしれない」
「そう言えば、キョウちゃんは“九尾”、なのよね?
なのに尻尾は一本だけみたいだけど…?」
「えっとね、それは、普段は隠してるからだぞ!
本当はこんな風に、」
ボフン!と、キョウカちゃんのお尻から新たに八本の尻尾が生えてきた!
「ちゃんと九本あるぞ!」
「おおっ!」
「それで、自分が本気だすとー、毛の色が銀色になるらしいんだけど、自分、そうなった時の記憶が無いからよく分かんないんだー」
「へー、そんな風になってるのねー」
再び尻尾を隠して一本だけに戻すキョウカ。
尻尾を隠せるなら、全部隠しちゃった方がいいのでは?と思ったが、全部隠すにはそれなりに妖力を使うみたいでキツイらしい。
八本隠す方が大変っぽいけど、そっちは自然に出来るみたいで、まぁ、色々とあるんだろう。
そんなこんなで、あたし達が連れてこられたのは、いつもの商店街(本当にここの街並みだけは、どの世界でもほとんど変わらないな~)の中にひっそりと立つ喫茶店だった。
「ここが自分のお世話になってる家だぞ!」
「家って、どう見ても喫茶店…」
「いえ、お店は二階だけのようで、一階は普通の住居になっているようですわ」
キョウカちゃんは外付けの階段を上がっていくと、お店の正面の扉から中に入っていった。
「おじさーん、ただいまー!!」
「え、そんなお店に直接って、」
「まだ開店前だから大丈夫なんじゃないの~?」
扉には営業時間が書いてあって、11時~21時まで、となっていた。
今の時間は10時ちょい過ぎた頃だから、確かにまだ開店前みたいだ。
で、肝心のお店の名前は“喫茶妖獣メイド”…、まさかのメイド喫茶!?しかも妖獣の!?
こんな地味な場所の地味な外観のお店でメイド喫茶って…
だがそこがいい!
こういう日常的な場所で非日常空間を味わえるというのが最高の醍醐味!…なのかもしれない!
「良かったね、カズヒ、メイド喫茶だってよ?」
「マコト君も良かったね、いっぱい妖獣少女と会えるかもしれないよ?」
「「ふふふ♪」」
「はいはい、二人とも、妄想はいいから早くお店に入るわよ~」
「「はーい」」
サクヤお姉ちゃんに促され、あたし達はケモ耳メイドの園、じゃなくてキョウカちゃんのお世話になっているというその喫茶店に入っていくのでした。
*
「おじさーん、ただいまー!!」
キョウカに手を引かれながら入ったそのお店、“喫茶妖獣メイド”は外観の見た目通りの、シンプルな、昔ながらの落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
お店の名前、もっとどうにかならなかったのかしら?
などと考えていると、奥から人の良さそうな老人の男性と、一人のメイド服を着た狸のような耳と尻尾が生えた若い女性が出てきた。
「お帰り、キョウカ、もう用事は済んだのか?」
「あれ、お客さん?しかも大勢…
えーっと、ウチはまだ開店前なんですけど…」
「おじさん!ユリ姉ぇ!
このお姉ちゃんが自分の“相棒”のハル姉ぇで、この人が自分のあに様!
それから、それから、他の皆は自分の新しいお姉ちゃん達なんだぞ!!」
「え?いや、ちょっと何言ってるかよく分かんない…」
「…そうか、色々事情がありそうだな」
混乱するタヌキ耳のメイドさんと、何となく事情を察してくれたような老人に対し、イツキが前に出てきて口を開いた。
こういう時のリーダーシップを率先して買って出られるイツキはさすがだと思う。
アニぃが何かを言いかけるよりも早く前に出てきたもんな。
イツキ的には「この手の交渉事は最初の妹であるわたくしにお任せして、お兄様は後ろでどっしり構えていて下さいませ」という感じなのだろうか?
「初めまして、キョウカさんのおじ様。
わたくし、イツキ・フジワラと申しまして、こちらがわたくしのお兄様、ヨウイチ・フジワラです。
そして、キョウカさんの“相棒”となられたこちらの方がハルカ・フジワラさんですわ」
「あ、どうも、初めまして」
「え!?あ、ど、どうも初めまして!」
しれっと自分達の名字を“ウィンザー”や“スカイシー”ではなく、“フジワラ”に変えてるし!
いや、でも名字が違うのに兄妹だと説明するのはめんどくさいから、これで正解なのか?
それから、他の姉妹の紹介を終えたところで、キョウカのおじさんがアタシ達に向かって口を開いた。
「なるほど、イツキさんにヨウイチさん、そしてハルカさん。
それで、あなた達はキョウカとどういったご関係かな?」
「はい、話せばとても長くなることですし、それに到底信じられないようなことですが…、」
「構わんよ、キョウカの“相棒”となったハルカさんと、そのご家族ということなら、十分に信頼できる方々だし、時間が必要だと言うのなら、今日はお店は臨時休業にしよう」
「え!?い、いえ、そこまでしていただかなくとも、」
「問題ない、元々そこまで繁盛はしていないからの。
それに、店なんかよりキョウカに関わることの方が大事じゃ。
ユリコ君、お店の前に臨時休業の張り紙を頼む」
「了解でーす、店長!」
すごい親バカというか何というか…、話を聞くだけでお店を閉めちゃうなんて。
それから、カウンター席に案内されたアタシ達は、アタシを中心に、右側にイツキ、左側にアニぃ、そしてアタシの膝の上にキョウカが座った(ちなみに他の姉妹達はテーブル席に座った)。
ていうか軽い!
この娘ちゃんとご飯食べてるの?
それにお日様の言い匂いがするし、尻尾がモフモフだし…
気付けばアタシはキョウカの頭をナデナデしていた。
「えへへー、ハル姉ぇ~♪」
キョウカがこちらに体重をかけてすりすりしてくる。
妖狐ではなく天使なのでは?
「ほう、そこまでキョウカが懐くとは、余程良い“相棒”なのでしょうな」
「え?あ、いえ、そんなことは…、」
「ふふ、ハルカさんは家族想いの素敵な女性ですから」
「ちょ、イツキ…!」
「仲の良い姉妹で羨ましいです♪
ところで、皆さんは何を飲まれますか?」
「いえ、そんなお気遣いなさらず…」
「遠慮はいらんよ、私からのサービスだ」
「そうですか?でしたら…、」
各自コーヒーなどの飲み物を頼み、全員の前に飲み物が揃ったところで、イツキがアタシ達のことを説明した。
キョウカには道中である程度のことを話していて、純真無垢なこの娘はすぐに信じて理解してくれたが(何より自身も転生者であるから納得しやすかったのもあるだろう)、普通の人にこんなこと言っても、信じてくれるわけが、
「なるほど、ではヨウイチ君がかの“犬狐合戦”における“妖狐”軍頭領のヨウ様か!
いやはや、歴史上の人物にこのような形でお会いできるとは!!」
「ヨウ様!後でサイン貰ってもいいですか!?」
二人ともあっさり信じちゃったよ!
「え、えーっと、自分で言うのも何ですが、そんなにあっさり信じちゃっても大丈夫なんですか?」
「そりゃ信じるとも。我々を誰だと思っておるのじゃ?」
「私や店長は、キョウカたんから前世の時の話ってのを聞いてたからね。
特に“あに様”、つまりは貴方のことをね♪」
「キョウカから…
そういやキョウカはいつから前世の記憶があって、どこまでのことを覚えてるんだ?」
「んっとねー、思い出したのはつい最近なんだけど、
自分が“銀毛の九尾”ってのに覚醒してからはあんまり覚えてないんだよね。
ただ、あに様が死んでとっても悲しくて、苦しくなってぐわーって感じになったのは覚えてる…」
「ぐわーっ」って言いながら両手を上に上げる仕草がいちいちカワイイ!
KMT!!
「実は、キョウカは孤児でな、施設で育っていた所を、私が引き取ったんじゃ。
施設では最低限の教養しか受けておらんかったキョウカじゃが、ある日突然“犬狐合戦”のことを語り始めての。
それがあまりにもリアルで、到底当事者以外には知りえんようなことまで語り始めるものじゃから、この子は間違いなく【銀毛の姫】の生まれ変わりじゃろうと」
「それに何より、家族である私たちがキョウカたんのこと信じられなくなったらおしまいだからね」
なるほど、キョウカはいい人達に引き取られて幸せだったんだね。
「しかし、となるとキョウカは皆と共にこの世界を旅立ち、もうお別れ、ということになるのかのう」
「寂しくなりますね、店長…」
「…うん、ごめんね、おじさん、ユリ姉ぇ。
二人とは別れたくないけど、あに様ともまた会えたし、それにハル姉ぇもいるし、他にもいっぱいお姉ちゃんが出来たし…」
「あ、あのその件なのですが、実はこの世界にはもう一人わたくし達の“妹”が転生してきているかもしれませんの」
「はい、ですから、その“妹”が見つかるまでは、まだこの世界にいますので」
「ふむ、そういうことか」
「あ!だったらさ、この世界にいる間はお金とか必要でしょ?
だからさ、ウチでしばらく働いてみない?」
そう言えばアタシ達の当初の目的はこの世界でのアルバイト探しだった。
妹と一緒にアルバイト先まで見つかるなんて、まさに奇跡ね。
いえ、これが運命、というやつなのかもしれないわね…
*
あたし達のアルバイトの話があっという間に決まると、あたし達はユリコさんにお店のバックヤードに連れていかれると、そこでサイズを測られた。
何でもあたし達の衣装を作るためらしい。
「明日までに皆の衣装用意しておくから、明日の朝、8時くらいにお店に来てくれるかな?
その時に衣装の微調整とか、接客のマニュアルとか教えるから」
サイズを測り終えたあたし達は、今日のところはもう帰ってもいいと店長に言われたので、お言葉に甘えて帰ることにした。
「キョウカも、再会したお兄さんや、“相棒”のお姉さん、それに君ら新しく出来たお姉さん達とたくさん話したいだろうからな」
そう言う店長の顔は少し寂しそうではあったが、キョウカちゃんの本当の家族が出来たことを心から喜んでいるのが分かった。
いやー、この世界に来て早々妹の誘拐現場に出くわすなんて最悪の展開だったけど、こうしていい人と出会えて、おまけにケモ耳メイド喫茶で働けるなんて!
ぐふふ…、姉妹達のケモ耳メイド服姿、想像しただけでそそるぜ、これは…!
「バカズヒ、そんな気持ち悪い顔してるとキョウカが怖がるし、教育にも悪いから、ちょっとアタシ達から離れて歩いてくれない?」
「ハルカちゃんがいつにも増してあたしに辛辣っ!!」
そう言うハルカちゃんは、キョウカちゃんの手をしっかりと握り、あたしとの間に入るように歩いている。
まるで子供を車道に行かせないようにして歩く保護者のよう。
ハルカちゃん、すっかり教育ママみたいになっちゃって…
「そう言えば、結局ハルカちゃんも霊能力者ってことなんだよね?」
「まぁ、そうなるみたい、ね」
「どんな能力が使えるのかとかは分かった?」
「んー、それなんだけどね、…そうね、カズヒ、あんたのそのポーチに付いてるキーホルダー借りるわよ?」
「え?いいけど、壊さないでね?」
ハルカちゃんはあたしのポーチに付いてる仮面ライダーオーズ(タジャドルコンボ)のデフォルメされたイラストの書かれたキーホルダーを取り外すと、それを地面に置いた。
「え、ちょっとハルカちゃん?何するつもり、」
「まぁ、黙ってみてなさい」
そう言うと、ハルカちゃんはキーホルダーに右手をかざした。
「動け」
すると、オーズ(タジャドルコンボ)が動き出したではないか!?
「え、動いた!?」
「これが、アタシの霊能力みたいね」
「おー!!ハル姉ぇすごい!!」
「『念動力』ってやつか?
…ん、ということはまさか、」
「ハルカさんの精霊術『クリエイトゴーレム』で、
本来の術では動くハズのないゴーレムが動いていたのは…!」
「うん、どうやら霊能力によるもの、だったみたいね」
なるほど、ハルカちゃんは無意識の内に、無機物を動かす霊能力『念動力』をゴーレムに対して使っていたのか。
ハルカちゃん達の世界では霊能力という概念が存在しなかったから分からなかった、ということなんだね。
精霊術と霊能力の合わせ技、か…
ふむ、これ、あたしの場合にも応用できたりしないかな?
「ん~?急に真面目な顔しちゃって~、カズヒちゃんどうしたの~?」
「何か変なものでも口にしちゃったかしら?」
最近はハルカちゃんだけでなく、モトカちゃんやサクヤお姉ちゃんまであたしの扱いが雑になってるような…?
「もう、モトカさんもサクヤお姉様も、いくらカズヒさんでもそこら辺の雑草を口にしたりはしませんわよ、ねぇ…?」
なんでそんな心配そうな顔てあたしを見るの、イツキちゃん?
そんなこんなで、あたし達は屋敷へと帰り着くのでした。




