第14話「ゼロの最期」
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「よし!じゃあ三人は来た道を戻り、途中でハルカとゼッツと合流して脱出してくれ!」
「「「了解っ!」」~!」
お兄ちゃんに言われ、意識を失ったアインスお姉ちゃん達を先にテレポートで脱出させたあたし達は、来た道を戻るために駆け出した。
今回の作戦は、どんな形であれ、意識を失わせた状態でアインスお姉ちゃん達を助け出すということだった。
あたしの超能力『物質転移』は無生物か、意識の無い生物しかテレポートさせられず、なおかつ直接触れたものを知っている場所に移動させるか、知っているものを自分の手元に取り寄せることしか出来ない。
だから、アインスお姉ちゃん達を助けるには、気絶してもらうしかなかった。
何故気絶させてテレポートさせるという手段を選んだのかと言うと、ゼロの意表を突くためだ。
この世界では超能力は比較的メジャーな存在として(悪い意味で)知られていたが、その存在を知っていても対策し辛いのが超能力だ。
だからこそ、ゼロにも有効だと(お兄ちゃんが)考えた結果だ。
そのためのいくつかのプランを用意していたけど、実行されたのはプランB。
バトルで気絶させた“姉妹”達をテレポートさせる。
アインスお姉ちゃんに関しては、ゼロのことだからきっと何かしら理由をつけて失禁させるまで電流を流すだろうとお兄ちゃんが予想していたが、まさにその通りになった。
正直、覚悟はしていたけど、かなりムカついた。
アインスお姉ちゃんに電流が流れる度にゼロをぶん殴ってやりたかった。
それでも我慢してその時を待って、ようやくアインスお姉ちゃん達を助け出すことが出来た。
あたし達の恨みはお兄ちゃんが全て晴らしてくれる。
それを信じて、あたし達は走る。
アインスお姉ちゃん達を助けられても、あたし達が逃げ切れなかったら意味ないもんね。
あたしは『スピリット』を唱えて“風化”して、マコト君達より一足早く、ハルカちゃんとゼッツ君が戦っている中央広場(と勝手にあたしが名付けた場所)に辿り着いた。
「ハルカちゃん、ゼッツ君!
早くこの基地から脱出する、よ…?」
その時、あたしが目にしたのは、ゼッツ君を押し倒して今にもキスをしそうな体勢となっていたカズヒちゃんだった。
「ちょおおおおっ!?何をこんな所でお楽しみあそばれてるのかな!?かな!?」
「カッ、カズヒぃっ!?
いや、違っ、これは違くて!!」
「何が違うって言うのさ!?
弟を押し倒してかわいがってキスするなとは言わないけど、時と場所を考えようよ!?」
「だーかーら!違うっての!!
ゼッツを気絶させたのはいいけど、やり過ぎて殺したりしてないか確認してただけで!!」
そこへマコト君達が追い付いてきた。
「ハルカ!ゼッツは大丈夫!?」
「あ、マコト君!聞いてよ、ハルカちゃんってば、」
「だーもう!バカズヒ!!
今はそんなことより、脱出するんでしょ!?
さっさとゼッツをテレポートさせて、アタシ達も逃げるわよ!!」
そうだった!
あたしは気絶したゼッツ君の体に触れてクルセイド研究所へテレポートさせると、再び“風化”して、マコト君にお姫様抱っこしてもらう。
一方、ハルカちゃんも雷の魔力を纏って“擬似雷化”して、準備は万端だ。
「よし、じゃあマコト君、お願い!」
「よし!“加速装置”起動!」
「“加速装置”起動~!」
あたしが“風化”したのは、精霊と一体化することで加速時の摩擦熱による肉体的ダメージを防ぐため。
こうしてマコト君とモトカちゃんの“加速装置”と、ハルカちゃんの“擬似雷化”で、一瞬で出口まで辿り着いたあたし達は、そのまま竜眼島を飛び立ち、イツキちゃん達の待つクルセイド研究所へと戻った。
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壁にめり込んだゼロに、渾身の怒りを込めて、ラッシュ攻撃を仕掛ける!
「ぐっ…、おのっ、れっ!!“加速装置”ッ!!」
ゼロが加速行動に入った。
“タキオン粒子”による加速行動は、“雷化”による加速行動より速い。
ゼロは俺の背後に回り込むと右肘の関節部分に仕込まれたレーザー砲を放つ構えをとった。
「“雷化”とやらより、こちらの“加速装置”の方が速いようだな」
レーザー砲が俺に向かって放たれた。
雷の精霊力も残り少ない。
切札を切るなら、ここか…っ!
「“加速装置”、起動…っ!」
俺は右手の義手の手首付近に付けていた“加速装置”のスイッチを押した。
「何っ!?右腕以外生身のお前が“加速装置”を使えば…っ、」
ゼロよりさらに速くなった俺は、レーザー砲を難なく避けると、右手の横部分に仕込んだ“電磁ナイフ”でゼロの首を切断した。
「悪いな、“雷化”した状態なら、体は精霊と一体化してるから、“加速装置”を使っても体に負担はかからないんだ」
俺の切札、“加速装置”。
基本、右腕以外生身の身体で加速行動をしてしまえば、いくら戦闘服で皮膚が守られている(頭部などにも見えない薄いシールドを発生させる効果があるため、全身が守られている)とはいえ、活性化した血液中の“タキオン粒子”は膨張して全身を駆け巡っているから、人工血管でなければ血管が膨張に耐えきれず破裂してしまう。
しかし、精霊と一体化して身体を精霊化してしまえば、人間としての身体の制約から解き放たれるため“タキオン粒子”の活性化にも耐えきれる。
俺は地面に落ちたゼロの首を見下ろした。
さて、次はアインス姉ちゃん達の首輪の錠前のロック解除方法を調べるために、実験・研究施設へ向かおう。
クルセイド研究所でもナインスの錠前を調べて解除パスコードを解析してはいるが、念のためというやつだ。
首の無くなったゼロの体に背を向けて、“雷化”を解除して元来た道へ戻ろうとした時、突如俺の両肩を貫く痛みがあった。
「がっ…!?」
俺の両肩を貫いたのは腕のサイズくらいの太さのドリルだった。
まさか…!?
俺が首だけで振り向くと、そこには首の無いゼロの肉体が、両腕を伸ばして立っていた。
どうやら、俺の両肩を貫いているこのドリルはヤツの腕ということのようだが、しかし首は確かに切り落としたハズなのに…!?
「脳髄が頭部になければならない、という道理はないだろう?」
「…ちっ、最低限の人としての体裁まで無くしてやがったか」
俺は残り少ない雷の精霊力を使い(元々周りが電子機器に覆われた施設で、他の場所より電気が多く使われている場所だから、雷の精霊力も他の場所に比べて比較的多く存在していた)、再び『スピリット』を使い、“加速装置”を起動して、両肩に刺さったゼロの腕から強引に抜け出し、今度は全身を真っ二つにしたやろうと、ゼロの背後に回った。
そして、右手の横部分に仕込んでいた“電磁ナイフ”を1メートル程にまで伸ばし、ゼロの首から股下にかけて一刀両断にした。
「“超加速装置”」
「…っ!?」
だが、俺が一刀両断にしたのは、ゼロの残像だった。
「切札は最後まで取っておくものだ」
“超加速装置”で、“雷化”+“加速装置”の速度をさらに上回ったゼロが、俺の背後に回り込んでいて、そのドリル状にした左腕を俺の心臓に向けて突き刺した。
「そうだな、真の切札は最後まで取っておくべきだよな」
俺は、右手の義手に仕込んだ“加速装置”のスイッチをさらに二度押しした。
「まっ、さか…!?」
「“タキオン粒子”を最初に発見したのは俺だぞ?
あんたに使えて俺に使えない道理はないだろう?」
“タキオン粒子”をもう一段階活性化させるための装置、“超加速装置”を起動させた俺は、紙一重でゼロのドリルをかわすと、真横からゼロを腰から真っ二つに切り裂き、さらに左手から『サンダーアロー』を、精霊力の尽きるまでありったけの物量を放った!
「こ、こんなまさかぁあああああああっ!?!?」
真っ二つになったゼロの体は、上半身下半身共に黒焦げになりながら、地面に文字通り崩れ落ちた。
「最後の最後で油断したな、ゼロ」
俺が“超加速装置”を切ったタイミングで雷の精霊力も尽き、“雷化”が解除された。
ゼロのことだから“超加速装置”までは開発してるだろうと思っていたが、予想通りだったか。
前世の頃、理論までは出来ていたが、開発に着手していなかった“超加速装置”、念には念を、ということで完成させておいて良かったぜ…
俺は痛む両肩を光の精霊術である『ホーリーヒール』で治しながら、元来た通路を走った。
今回、これだけあっさりとゼロを倒せたのは、単にこちらの手札の方がヤツより多かったということ。
この世界だけのルールで殺りあえば、あるいはゼロの罠にハマって返り討ちにあっていたかもしれない。
カズヒの超能力(超能力はギリこの世界のルールではあるが、反則技のようなものだ)や、俺の精霊術はゼロにとっては未知の力だ。
それらを使って意表を突いたからこそ、ゼロに正常な判断をさせる時間を無くさせ、なんとか勝つことが出来たわけだ。
先程ハルカと別れた空間へと戻ってきた。
その頃には両肩の傷口は塞がっていたが、もう光の精霊力は尽きてしまった。
これ以上怪我などをしてしまったら、すぐに『ホーリーヒール』で治すということは出来ない。
俺は左側の壁の扉へと向かった。
この先にゼロの実験・研究施設があるハズだ。
俺は手近なコンソールに向かうと、電源を入れ、アインス姉ちゃん達の首輪の錠前のロックに関するデータを検索した。
しばらくすると、その情報は見つかった。
それによると、パスコード16桁は一分置きにランダムで変わるようになっているようだ。
…こんなの、実質解除不可能じゃねぇか、最初から解除することを前提としていない欠陥仕様だ!
だが、何かしらデータだけでもと思った矢先、コンソール画面が真っ赤に染まった。
「これは…っ!?」
画面にはこんな文字が表示されていた。
『不正なアクセス確認
自爆プログラム起動』
次の瞬間、目の前のコンソールが爆発を起こした。
咄嗟のことに俺は避けきることが出来ず、もろに顔面に大怪我を負ってしまった。
「ちくしょう、カウントダウン無しかよ…!?」
どうやら、ゼロの罠にまんまとハメられたらしい。
最後の最後で油断をしたのは俺の方だったか…
直後、基地中に仕込まれていた自爆装置が起動し、俺はその爆発になすすべなく巻き込まれた…




