表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第2章~ワールドシルヴァネア~
20/103

第9話「望まぬ戦い」

*


 屋敷に戻り、朝食を済ませ、再びクルセイド研究所へとやって来た俺達。


 まず、俺の義手の製作状況を確かめるために二階の義体製作室へと向かった。

 腕はもう六割近くは出来上がっていて、完成までの残り時間を見ると、残り20時間程となっており、当初の予定より少し早く製作が進んでいるようだ。

 この調子なら明日の早朝には完成しているだろう。


 それまで何事も無ければいいが…



 次に一階に戻ってきて、カズヒ達の戦闘服を作ることにした。

 戦闘服を作る作業自体は簡単で、簡単にデザインを描いて機械に入れ、後は身長やスリーサイズなどのデータを入力すれば、その人に合った戦闘服がものの数分で出来上がるというシステムになっている。

 イツキ達の世界で、戦闘用の服は買っていたが、先程ハルカの服(戦闘用ではない私服だったが、それでも魔術攻撃なんかには耐えられる仕様のものだった)が、加速時の摩擦熱に耐えきれなかったことから、皆がより安全に戦えるように、戦闘服を新たに作ることにしたのだ。


 もっとも、イツキとカズヒは俺と趣味が近いせいか、009風戦闘服のデザインがお気に召したようで、それに近いデザインの服が単に欲しかっただけとも言える。

 ハルカはビキニアーマーに拘りがあるようで、肌が露出してる部分を透明素材のスーツで覆った新しいものを作った。

 サクヤ姉ちゃんは和服以外は着慣れないということで、和服モチーフの戦闘服を作った。



 あとは、各自でのんびりと過ごせればそれで良かったのだが、俺達の運命がそれを許さないらしい。




*


 昼食を終え、クルセイド研究所に再び戻ってきて、姉妹達に出来上がった戦闘服を来てもらって、着心地などを確認していたところ、突然研究所に来訪者を告げるブザーが鳴った。



「アスカさんかしら?」


「んー、でも今日来るとは連絡受けてないよな?」


「だよね」


「ハルカ、ちょっと来客モニターをオンにしてもらっていいか?」


「オッケー」



 ハルカが壁に付けられた来客モニターをオンにすると、モニターには姉妹だろうか、美少女二人組、しかも大事なところが隠されていないボンテージ姿の美少女達が映し出されたのだ!



「んなっ!?」


「ちょっ、何なのこの子達!?変態!?」


「うっひょー!!美少女二人の生おっぱい!!最高じゃんお兄ちゃん!!

 この世界ってデリバリーヘルスの訪問販売とかやってんのかな!?」


「バカズヒはちょっと黙ってろ!!」



 突然現れて目の前のボンテージ二人組にパニック状態になる俺達。

 だけど、そんな中でも冷静だったのはやはりサクヤ姉ちゃんだった。



「待って…、この子達、私達とそっくりな顔をしていない?」


「え?」



 言われてよく見れば、確かに二人の顔立ちは、俺達家族(きょうだい)の特徴によく似ていた。

 いや、もっと言うなら、



「というか、マコト君とモトカちゃんのまんまじゃない?」



 そう、二人共マコトとモトカと瓜二つだったのだ。

 姉と思われる黄色いボンテージ服の少女は、マコト達を少しだけ成長させたような顔立ちで、妹と思われる青いボンテージ服の少女は、中等部だった頃のマコト達にそっくりだ。



「まさか、この子達って…!?」


「ボク達の、クローンサイボーグ…」



 アスカさんから聞いていたマコト達の遺伝子データを基に作られたというクローンサイボーグ。

 いずれは向き合う必要があるだろうとは思っていたが、まさか、向こうからこっちにやって来るなんて…!


 落ち着いてよく観察してみると、二人の首には番号の書かれた錠前付きの首輪がされており、姉っぽい方が“7”、妹っぽい方が“9”と書かれていた。

 それに妹っぽい方は顔を赤くしてそわそわした様子で、体を隠したいのに隠せないというような様子なのに対し、姉っぽい方は無表情で、感情の無いロボットのようにただそこに立っているだけだった。


 しばらくそうしていたせいか、痺れを切らしたのか、妹っぽい方がモニター越しに叫んできた。



『もぅ!!いい加減出て来てよっ!!

 アニくっ…じゃない、ヨウ博士の転生体がここにいるって聞いてきたんだけど!!

 それにわたし達の“オリジナル”もいるんでしょ!?早く出て来てっ!!』



 彼女達の“オリジナル”、つまりはマコトとモトカのことか。

 マコト(マコ)モトカ(モカ)のことはともかく、(ヨウ博士)が転生してきていると知っているのは、アスカさん以外知りようがないハズだが…


 しかし、それ以上に俺が気になったのは、この子(妹っぽい方)、俺のことを一瞬“アニ君”って言いかけなかったか?

 俺のことを“アニ君”と呼んでいたのは……、確か一人だけいた気がする。

 でも、それは“姉妹”ではなく………、



「お兄様、どうしますか?」



 何かを思いだしかけたところでイツキに声をかけられたので、俺は過去への記憶の旅を一時休止した。



「ああ、そうだな。

 罠ではあるんだろうが、しかし俺達と同じ顔、いや、

 俺達の新しい“姉妹”をこのまま、あんな卑猥な格好で外に放置プレイは、さすがに趣味じゃない」


「同意見ですわ」


「だね」


「では、皆で出ましょうか?」


「新しい“姉妹”をお出迎え、ってわけね」



 というわけで俺達は、クルセイド研究所の外で待つ二人の“姉妹”を出迎えることにしたのだった。




*


 まず最初に俺が扉を開けて研究所の外に出た。


 扉の前には、二人組のボンテージ姿の美少女が律儀に待っていた。

 改めて近くで見ると、やはりこの二人は“姉妹”なんだと、俺の中のシス(コン)が叫んでいる。

 一目で二人を愛おしいと思えた。

 と同時に、青いボンテージ服の(妹っぽい)少女からは、“妹”という以外の懐かしさが感じられた。

 この感じ、この子とは前世で会っている…?

 その一方で、黄色いボンテージ服の(姉っぽい)少女からは、“姉”という感じは確かにするのだが、何かが違う違和感があった。

 生気の感じられないその表情からは、彼女が何を考えているのか全く伺い知ることが出来ない。



 とりあえず、俺は彼女達が何者で、何のためにここに来たのか、そして何故そのような格好を()()()()()()()のかを尋ねようとした。



「とりあえず君達に色々聞きたいんだけど、」


「やっぱり!!

 この感じ、やっぱりアニ君だっ!!」



 そう言って黄色いボンテージ服の(妹っぽい)少女が俺に抱き付いてきた!


 ふにょん♪


 という柔らかいおっぱいの感触が、俺の胸いっぱいに広がる。

 身体年齢的には14、15歳だろうか、それでも立派なモノをお持ちだ。

 って、いやいや今はそれどころじゃなく!



「ねぇ君、“アニ君”というのはやはり、君の正体がボク達のクローンだから、“兄さんの妹”という意味で“アニ君”なのかい?

 それとも、それ以外にも意味があるのかな?」


「あなたが“オリジナル”ね?

 ええ、そうよ、わたし達はあなた方の遺伝子データを基に作られたクローンよ。

 そういう意味では、間違いなくわたし達はアニ君の“妹”になる。

 ああ、厳密にはわたしの場合は遺伝子から卵原細胞を作ってからうんたらかんたらって話だから、遺伝子的には“オリジナル”の娘ってことになるらしいわ」


「ボク達の娘!?」


「お~、まだ結婚もしてないのに娘が出来た~」


「ちなみに、わたしがクローンサイボーグNo.9、ナインス。

 こっちがクローンサイボーグNo.7、ゼブンよ」


「では、ナインスさん、マコトさんとモトカさんのクローンだからお兄様の、“妹”、と言わせていただきますが、

 お兄様の“妹”であること以外に、あなたがお兄様を“アニ君”と呼んだ理由をお聞かせしていただけますかしら?」


「…そこから先を知りたかったら、全員でわたし達と一緒にゼロ様の所に来て!」


「ゼロ様?」


「そう。わたし達のご…、ご主人様で、わたし達と同じクローンサイボーグで、ヨウ博士と同等の知能を持つ少年よ」


「やはり、か…」



 大方予想はついていたが、アスカさんの情報通り、マコトとモトカの遺伝子クローン達が作られていて、その中の一人が突然変異的に(ヨウ博士)と同等の知能を持って生まれた、というわけか。



「わたくし達を連れていって、どうなさるおつもりなんですか、そのゼロ様という方は?」


「…えっと、ゼロ、様からのメッセージを再生するから、ちょっと待ってて」



 そう言うとナインスは抱き付いていた俺から離れると、いきなり自身の左胸の乳首を押した。



「んん…っ!」



 すると、右胸の乳首からホログラム映像が投影された。

 大切な妹様の乳首をこんな風に改造しやがるなんて、とんでもねぇヤツだ、ゼロ!!

 もうこの時点で俺はゼロと対立する覚悟を決めていた。


 ナインスの乳首から投影されたホログラム映像に、二人の人物が映し出された。

 一人は俺と瓜二つな顔をしたマント姿の男、恐らくこいつがゼロだろう。

 そしてもう一人は、十字架に(はりつけ)にされた一糸まとわぬ姿の女性で、マコト達を成長させたような顔立ちと、首輪に取り付けられた錠前の“1”という数字から、彼女もまたクローンなのだろう。


 “姉ちゃん”を(はりつけ)にするとはどういう了見なんだ!?

 俺だけでなく、他の姉妹達も怒っているのが分かった。

 そしてナインスの泣きそうな表情から、彼女がこのような行為を望んでいないのだということもハッキリした。

 その一方で、やはりゼブンという“姉”の方は全くその表情を変えていない。

 彼女は催眠状態にあるのか、あるいは……


 などと考えていると、ホログラム映像のゼロが口を開いた。



『やぁ、初めまして、“オリジナル”の姉妹に、ヨウ博士。

 オレの名はゼロ、君達のクローンであり、ヨウ博士と同等()()の知能を持った超天才児さ』



 同等()()か、暗に自分の方が上だと言いたいわけか。

 とことんムカつくヤツだな。



「お兄様と同じ顔なのに、こいつに関しては何故こうも嫌悪感しか抱けないのでしょう」


「イツキちゃんが“こいつ”呼ばわりするなんてよっぽど腹に据えかねてるんだね。

 まぁ、あたしも全くの同意見だけど」



 この世界の精霊力がイツキ達の世界と同じくらい存在していたら、きっとイツキの周囲には蒼白い精霊の炎が具現化していただろう。



 ホログラム映像ではゼロが、隣の(はりつけ)にされた女性の後ろに回り、いきなりその胸を鷲掴みにした。



『あん…っ!?』



「なっ!?」


「この下衆野郎、なんてことしてくれやがりますの!?」


「イッちゃん落ち着いて!!」



 今にも精霊術をぶっ放しそうなイツキをサクヤ姉ちゃんが後ろから羽交い締めにして抑え込む。



『ふふ、コイツは我が忠実なる鑑賞物(ペット)であるクローンNo.1、アインス。

 唯一にして完全無欠のクローン個体であり、そしてその中身()は、ヨウ博士、お前が“姉”のように慕っていたマイ・イェーガだよ』

 


 ゼロが衝撃の事実を告げた。


 (はりつけ)にされている彼女がクローン(サイボーグではないのだろう)の“姉ちゃん”であり、同時にその魂がマイ姉ちゃんのものだって…!?

 そんなことがあるのだろうか…?

 いや、クローンであっても魂を持った存在として生まれてくる以上、その魂が転生者である可能性はゼロではないのだろうが…



『さぁ、アインス、お前の愛する家族達にご挨拶しろ』


『は、はい、ゼロ様…』



 ゼロに命じられ、アインス(マイ)姉ちゃんは(はりつけ)にされたまま、ぎこちない笑顔を浮かべながら言葉を紡いだ。



『こ、こんな姿でごめんなさいね?

 お久し振り、ヨウ君、それにマコちゃん、モカちゃん。

 私はクローンNo.1、アインス、そして全世界はあなた達のお姉さんだった、マイ・イェーガよ。

 いきなりで信じられないかもしれないけど、本当なの』



「お兄様、この方の仰ってることは…」


「ああ、信じ難いことだけど、嘘じゃないと思う。

 アインス姉ちゃんからは、確かにかつてのマイ姉ちゃんの雰囲気を感じる」


「ボクも感じます。

 何て言ったらいいのか分からないけど、こう、魂の繋がりと言うか…」


「姉ちゃんと同じく~

 この人は、間違いなくマイ姉ちゃんだと思うよ~」


「ということは、君もまさか…?」



 俺はナインスに視線を向けた。

 ナインスは言葉を発しない代わりに、にこりと泣きそうな表情で微笑んだ。

 やっぱり、俺は彼女とも何時か何処かの前世で出会っているんだ…



『それでね、ヨウ君にお願いがあるの。

 私の妹達を、助けてあげて欲しいの…!

 ゼロ様の言いなりになってる私に言えた義理じゃないかもしれないけど、妹達だけは!

 お願い、ヨウくっ』


『もういいぞ、アインス』



 その時、ゼロは持っていた何かのスイッチを起動させた。

 すると、アインス姉ちゃんの首輪から電流が流れ、アインス姉ちゃんが絶叫をあげた。



『ぐっ…、ぎゃああああああああああああっ!?!?』



「なっ!?」


「なんて酷い!?」


「くっ…、アインス姉ちゃん…!」



 アインス姉ちゃんは、ぐったりすると、そのまま気を失ったのか、失禁してしまった。



「ゼロ、とんでもない下衆野郎ね…」



『というわけで、彼女達を助けたければ、ナインスと共に我々の元に来い。

 ああ、それと、“オリジナル”以外にも、姉妹達がいるようだから、全員で来るように。

 皆、オレ様の鑑賞物(ペット)として可愛がってやるからな、はははははははっ!!』



 そこでホログラム映像は終わりだった。

 ナインスは抑えていた左胸の乳首から手を離すと、「ふぅ…」と一つため息をついた後、こう言った。



「えっと、そういう、わけだから…

 アインス姉ちゃん達を助けるためにも、皆にはわたしと一緒に、ゼロ様の元に来て欲しい…」


「お兄様、どうしますか?」


「そんなの決まってる…!」



 俺は覚悟を決めてるんだ。

 今度こそ、絶対に間違えないと。



「ゼロの要求には従わない。

 従わないが、ゼロの所には連れていってもらう。

 クローンとして生まれた“姉妹”全員を連れて、家族(きょうだい)皆で幸せになるために!!」



 誰一人として、家族(きょうだい)が欠けてはならない。

 誰一人として、家族(きょうだい)を欠かしてはいけない。



 俺には、姉妹全員を幸せにしなきゃいけない義務があるんだ!

 だから、俺自身を犠牲にせず、どんな手を使ってでも姉妹達を助けてみせる!

 そして、最高最善のハーレム“シスターズアルカディア”を築くんだ!!



「…アニ君が転生しても相変わらずのシスコンで良かった。

 きっとアニ君なら、姉ちゃん達を救えるって信じてるから…

 だから……、ごめんなさい……」



 そう言ったナインスの瞳から、一筋の涙が流れた。

 そして、ナインスは震える右手で左手首に装着されたバンドに手を触れた。


 あれは、まさか…!



「“加速、装置”…」



 ナインスの周囲の空気が歪んだかと思うと、直後ナインスの姿がその場から消えた。


 まさかゼロも“タキオン粒子”を手に入れ、“加速装置”を作っていたなんて…!

 しかし、よく考えてみれば、アインス(マイ)姉ちゃんがいるのだから、彼女からそれらの存在を強引に聞き出して独自に実用化させていてもおかしくないか。


 いや、今はそれよりも!

 ナインスは大事なところが隠されていない、はぼ裸同然と言っていい格好だ。

 そんな格好で加速行動なんかしてしまえば…!



「アニぃッ!!」



 ハルカの叫びで、俺は一歩下がると同時に、ビキニアーマーの戦闘服に身を包んだハルカが前に出て、ナインスのパンチを受け止めた!

 ナインスのパンチを受け止めたハルカの腕は金色のギラドの鱗で覆われていた。


 直後、パンチを受け止められたナインスの全身に、火傷のような痣がいくつも現れた。

 一方でボンテージ服には一切の傷が付いていなかった。



「う…ぐぅっ!?」


「バ、バカ野郎!

 そんな格好で加速したら、守られていない部分の皮膚が摩擦熱で火傷するのは当たり前じゃないか!!」


「分かって…る、よ…、アニ君…、

 でも、ね…、今のわたしの…、()()は、止められ…ないの…!」



 そう言うと、再び震える右手で左手首のバンドに触れようとする。

 この様子、まさか身体を遠隔操作か何かで操られているのか!?



「くっ!それ以上はさせられない!“加速装置”っ!」


「“加速装置”起動~っ!」



 再び加速行動に移ろうとしたナインスに、同じように“加速装置”が使えるマコトとモトカが素早く反応し、二人がナインスより早く“加速装置”を起動した。



 だが、二人より早く“加速装置”を起動させていた者がいた。



『“オリジナル”を確保します』


「え…!?」


「うわっ!?」



 機械音声のような声を発したその少女の正体は、先程までその存在感を消していたもう一人のクローンサイボーグ、ゼブン姉ちゃんだった。

 ゼブン姉ちゃんは、“加速装置”を起動させた後、マコトとモトカにタックルし、二人を押し倒すような格好で二人を両脇に捕らえていた。



「ゼ、ゼブン姉さん!ボク達を離して!!」


「ゼブン姉ちゃんもゼロってヤツに操られているんでしょ~?

 気を確かに持って~、大丈夫、だから~、ボク達が助けてあげるから~」


「ムダ、よ…

 その子は、魂のない、ゼロからの命令で動く、AI搭載型クローンサイボーグ、

 要は生身の部分を持つアンドロイド、みたいな存在、なんだから…」


「AI搭載型クローンサイボーグ、アンドロイドだって…!?」



 ゼブン姉ちゃんから生気が感じられなかったのも当然だ、彼女にはそもそも魂が存在していなかった。

 魂の無い肉体を、AIで無理矢理動かして操り人形のように扱うなんて…、ますますゼロとは相容れない!



「そういう…、わけだから、

 姉ちゃん達を助けるためにも、わたし達に…遠慮しちゃ、ダメだからね…?」



 ナインスは、アインス達他のクローン姉妹を助けるために、俺達に救いを求めるために、ここで俺達に倒されるつもりでいる、というわけか…



「“加速…、装置…”ッ!」



 ナインスは再び加速行動に入った。

 マコトとモトカがゼブン姉ちゃんに捕まっている以上、ナインスに対抗出来るのは、超感覚能力に覚醒したハルカだけだ。


 そのハルカは怒りを露わにしながら叫んだ。



「バッッッッカじゃないのっ!?」



 そう叫んで、左方向に繰り出した右拳がナインスのお腹を思いっきり殴った。



「かは…っ!?」


「自分達はどうなってもいいから姉ぇや達を助けろ!?

 そんな甘ったれたことを言う“妹”にはお仕置きが必要みたいね!!」



 ナインスはお腹を抑えながら、ヨロヨロと後退していった。



「な、なんで…、加速中の、わたしの動きに付いて、来れてるの…?」


「そんなの、アタシが知るかっ!!」



 いや、自分でさっきギラドの超感覚言うてたやん…

 ハルカも何だかんだで仮面ライダーにハマってんじゃねぇか。


 ともかく、格好良く決めたハルカは、さらに全身に金色の鱗を纏わせると、さらに全身にギラドの持つ雷の魔力を纏わせ、目にも止まらぬ速さでナインスに襲いかかる!

 あれは、まさか雷の魔力を使った擬似的な“雷化”か!?

 オリジナルのギラドもそんな力の使い方はしていなかった。

 ハルカのヤツ、自力であんな魔力の使い方を編み出したのか!?



 一方で、マコトとモトカの方にも動きがあった。



「ボク達も負けてられないね…!」


「うん~」


「じゃあ、行くよ…っ!

 『雷撃放電』っ!!」



 そう言うとマコトは、全身から電撃を放出させた。

 体内の器官で発生させた電撃を体外へと放出させるという、マコトのサイボーグとしての能力の一つだ。

 

 『雷撃放電』を受けたゼブンの体が一瞬怯み、そのスキに彼女の拘束から逃れた二人は、再び加速行動に入る。

 遅れてゼブン姉ちゃんも加速行動に入り、三人の姿は見えなくなり、ただ何かのぶつかる衝撃音だけが聞こえてきた。



「なんだかもどかしいですわ…」


「そうね、加速中の彼女達に手が出せない私達には何も出来ない…」


「だったらあたし達は祈ろう!

 皆が、幸せになれますように、って!」


「カズヒさん…」


「ふふ、カズちゃんたまに良いこと言うのよね~♪

 後でぱふぱふさせてあげる♪」


「でへへ~♪サクヤお姉ちゃん大好きっ!!」



 うんうん、仲良きことは美しきかな。

 やはり姉妹同士はこうでなくては。

 たまにケンカするようなことがあっても、決して、こんな望まぬ形でケンカをするべきじゃないんだ…!




*


「歯を食い縛りなさいっ!!」


「くぅ……っ!!」



 『ギラド化』したアタシは、ギラドの雷の魔力を全身に纏わせることによって、擬似的な“雷化”に成功した。

 正直、上手くいく確証はなかった。

 だけど、精霊術による“雷化”は前世でも何度も見てきてたし、なんとなくその感覚は掴めてた。

 だからぶっつけ本番で試してみたんだけど上手くいった。


 『ギラド化』による超感覚は、あくまで感覚を何百倍にも高めるだけ。

 だから、加速行動中のナインスの動きは()()()けど、その姿を見ることは出来ない、加速行動中のナインスに攻撃をすることも難しい。

 せいぜい相手の動きに合わせて防御するか、相手の攻撃を受け止めてカウンターで反撃するのが精一杯。


 だからこその“雷化”。

 “雷化”は、加速行動中のナインスに僅かでも追い付き、こちらから攻撃するための手段。

 “タキオン粒子”による加速行動は、“雷化”のそれより僅かに速いが、それでも相手の残像が見えるようになっただけで十分。

 前世で、何度も“雷化”したアニぃと素の状態で“遊んで”きたアタシには十分過ぎる速度差!



 アタシの右パンチを後ろにジャンプして避けようとするナインス。

 だけど、その動きは見えてる。

 アタシは右腕を伸ばした状態から、体を反時計回りに回転させながら前進し、その勢いに乗せて左足を高く上げ、ナインスの左側頭部めがけて後ろ回し蹴りを放つ。



「うぐぅ…っ!?!?」



 ナインスはその場に膝を着いた。

 ナインスの体は加速行動による摩擦熱ですでにかなり消耗している。

 これ以上、彼女に加速行動はさせられない。



「はぁ、はぁ…、まさか加速に付いてこれる人がいるなんて…

 さすがは…、わたし達の“お姉ちゃん”、だね…」



 そう言いながら、なおも立ち上がり、戦闘の構えを取ろうとするナインス。



「…まだ、戦うつもりなの?」


「はぁ、はぁ、仕方が…ないの…

 この体は…、もう、わたしの意思じゃ…、制御できない…から…

 はぁ、はぁ…、だから…、わたしを…、」


「殺せ、って言うのね…?」



 こくりと頷き、アタシの方へと向かってくるナインス。


 今のナインスは、先日のアタシと同じだ。

 自分じゃない意思に操られ、大好きな家族(きょうだい)を傷つけるしかなくて、それが嫌だから、その大好きな家族(きょうだい)に自分を殺させようとする自分…


 でも、そんなのは間違ってる!!

 家族(きょうだい)は、家族(きょうだい)を守るためにある。

 自分で自分を助けられなくても、家族(きょうだい)が自分を助けてくれる!

 同じように、家族(きょうだい)を助けられるのも、自分だ!



「分かった!!アタシがあんたを、助けてあげる!!」



 アタシは超感覚をさらに研ぎ澄ませた。

 ナインスの動きがスローモーションに見える。

 感じろ、感じるんだ!

 ナインスの体を操る、悪しき意思を!


 すると、心臓付近に黒い靄のような存在があるのが()()()()()

 あそこだけナインスとは違うと、アタシの超感覚が告げている!


 脳付近でなく、心臓付近にナインスを操るための装置を埋め込むなんて、本当にひねくれたヤツね、ゼロってのは…!



 アタシはナインスとは違うその部分に向けて、右手の人差し指を向けた。

 意識を集中させる。

 他の部位を傷付けず、ピンポイントでそこだけを破壊する。


 脳がチリチリするような感覚。

 加速された世界の中で0.1秒にも満たないこの僅かな時間に、脳を酷使し過ぎたせいだ。

 僅かに視界が歪む。

 耐えろ、アタシ!!

 この程度の痛み、イツキに燃やされ続けたあの時に比べれば全然大したこと無い!!

 それに今一番苦しいのは、ナインスの方だ!!



 アタシは、目を見開き、しっかりと狙いを定めると、目の前に迫るナインスの、心臓付近へ向けて『引力光線』を放った。


 『引力光線』は細くまっすぐにナインスの左胸を貫き、黒い靄のような存在だけを破壊した。



「うぐっ…!?きゃあああああああああっ!?!?」



 出血した左胸を抑えながら、後ろ向きに倒れるナインスを、アタシは咄嗟に背後に回り込んでキャッチすることに成功した。

 同時に、ナインスの左腕のバンドのスイッチ(アニぃが作った“加速装置”とは違って、スイッチは一つしかなかった)を押して“加速装置”を解除し、アタシも“雷化”を解除した。


 すると、周囲の声が戻ってきて、アニぃたちの声が聞こえた。



「ハルカ!良かった、無事だったか!!」


「アニぃ!アタシより先にこの子を手当てしてあげて、早くっ!!」


「ナインスちゃん…!」



 アタシは駆け付けてきたサク姉ぇにナインスを託した。



「分かった!姉ちゃん、イツキ、手伝ってくれ!」


「ええ!」


「分かったわ!」


「カズヒは、ハルカを頼む!」


「ガッテン!」



 アニぃを先頭に、ナインスを抱えたサク姉ぇとイツキが続き、研究室の中へと入っていった。


 入れ替わるようにカズヒがアタシに近付いてきた。



「ハルカちゃん、大丈夫?」


「ごめん…、あまり大丈夫じゃ、ない…、かも……」



 アタシの背中から、ギラドの翼と尻尾が、アタシの意思とは関係なく生えてこようとしていた。

 ぐぅ…、やっぱりまだ完全にはギラドの力を制御することは出来ない、みたいね…

 アタシが弱ってるスキをついて、ギラドの意思がアタシを乗っ取ろうとしてきてる…!



「ハルカちゃん…!」


「はぁ…、はぁ…、カズヒ、あんたは離r…、」



 「離れていて」という言葉を途中で飲み込んだ。

 全く…、アタシはついさっき自分で自分に言ったばかりじゃないか…


 

 自分で自分を助けられなくても、家族(きょうだい)が自分を助けてくれる、って…!



「カズヒっ…!アタシを助けてっ!!」


「ガッテン!!」



 そう言うとカズヒがアタシにキスをしてきた。



「んっ…!」


「んぁっ……、んんっ!!」



 カズヒに魔力はない。

 だからカズヒの魔力がアタシの中に入ってくる、ということは無いのだが、でも魔力じゃない、暖かい何かがアタシの中に入ってくるのを感じた。



「んっ…、ちゅっ…、ハルカ…、ちゃん…!」


「んん…、ちゅっ…、カズ、ヒ…っ!んぁあああ…っ!!」



 アタシたちは気付いたら舌を絡ませあって、無我夢中でお互いの唾液を交換しあっていた。

 そして、アタシの中のギラドの意思は奥に下がり、全身の鱗も消えていった。


 それからしばらくして、どちらからともなく唇を離した。 



「はぁ、はぁ…、ハルカちゃん、もう平気?」


「う…、うん…、あ、あの…!」


「うん、どうしたの、ハルカちゃん?」



 うぅ、カズヒにこんなこと言うのは恥ずかしいけど、でも……、



「た、助けてくれてありがとね…、カズ姉ぇ…!」


「ううん、お礼を言うのはあたしの方、かな」


「え?」


「あたしに助けを求めてくれてありがとね。

 おかげで、あたしにも大切な姉妹を助けることが出来たから♪」



 てっきり、「やっとハルカちゃんがあたしにデレてくれた!!」とか超ハイテンションで言ってくるものとばかり思っていたから、その返しには拍子抜けしてしまった。



「ま、まぁ、あたしもちょっとくらいはカッコつけたいからさ、一応、お姉ちゃんだし」



 そう言って照れるカズヒを不覚にも可愛いと思ってしまった。



「お?今あたしのことかわいいって思った?デレ期到来かな?かな?」


「う、うっさい、バカズヒ!」


「ん~!ツンデレカズヒちゃん最高にカワイイよ~!おっ持ち帰り~♪」


「だー、もう!!暑苦しい、くっつくな!!」



 そう言っていつものテンションに戻ったカズヒがアタシに抱き着いてくる。

 …まったく、本当に困ったお姉ぇだ。



「あ、そう言えばマコト君とモトカちゃんは大丈夫かな?

 あと、ゼブンお姉ちゃんも…」


「えっと、三人なら…、」



 アタシはギラドの能力を一部開放して、超感覚を研ぎ澄ませた。



「…とても、大丈夫とは言えなさそうね」


「そ、それって…」


「もうすぐ、決着がつくわ」



 空気が歪み、加速行動中だった三人の姿が現れた。



「マコト君、モトカちゃん、ゼブンお姉ちゃん…」


「マコト、モトカ、ゼブン姉ぇは…、」


「ごめん、助けられなかったよ……」


「姉ちゃんは悪くないよ~…、とどめを刺したのは、ボクなんだから~…」



 マコトの腕の中には、頭から人工血液を流して動かなくなったゼブン姉ぇの姿があった……




*


 ゼブン姉さんの拘束から逃れたボクたちは“加速装置”を起動し、一旦ゼブン姉さんから距離を取った。


 一方、ゼブン姉さんの方も“加速装置”を起動し、右太ももに手を当てると、太ももが開き、そこから光線銃を取り出して構え、ボクに向かって撃ってきた。



「くっ…、容赦なし、か!」



 ボクは光線銃を紙一重でかわしながら、どうするか考えていた。


 ゼブン姉さんは、ゼロからの命令で動く、魂の無いAI搭載型クローンサイボーグ、って話だったけど、それでもボクらにとっては大切な姉さん…、いや遺伝子的には妹、いや娘?になるのかな?

 いやいや、今はそんなことはどっちでもいい!

 ともかく、ボクらからしたら大切な姉妹だ、そんな人を傷つけるなんて…!

 一体、どうすれば…、



「姉ちゃん、右斜め前方に飛んで~っ!!」



 モトカの声に、ボクは指示通り右斜め前方に飛んだ。

 ボクの動きに反応したゼブン姉さんが、銃口をボクに向ける。

 


「させないよ~っ!」



 モトカの“指銃(フィンガーガン)”が、光線銃を持つゼブン姉さんの右手を狙い撃ち、光線銃を弾いた。



「今だよ~っ!」



 言われるがままに、ボクはそのまま前方に駆け出し、ゼブン姉さんとの距離を詰め、ゼブン姉さんの足を払って体勢を崩した。

 地面に倒れたゼブン姉さんを抑え込もうとしたが、ゼブン姉さんは地面を転がってボクからわずかに距離を取ってすぐに起き上がると、逆に抑え込もうとして地面に伏せたボクの背中をその足で踏みつけようと反撃してきた。


 しかし、モトカの“アームライフル”の弾丸がゼブン姉さんの足を弾いた。

 そのスキにボクは両足のジェット噴射を起動させて、地面すれすれを飛んでゼブン姉さんから逃げてからモトカの隣に並んだ。



「ごめん、助かったよモトカ」


「姉ちゃん、ゼブン姉ちゃんを傷つけたくないっていう気持ちは分かるけど~…」


「分かってる、分かってるんだけど…!」



 ゼブン姉さんがゆっくりとこちらへ視線を向けた。

 その体は、加速行動による摩擦熱ですでに全身が焼けただれていた。

 そんな体になっても、顔色一つ変えず、冷たい視線をこちらに向けてくる。



「モトカ、ボクたちはどうしたらいいと思う?」


「静かに眠らせてあげることが、ゼブン姉ちゃんを助けることになるんだと思う」



 いつもののんびりとした口調ではない、真剣な口調でそう答えたモトカ。



「…そっか、そうするしか、そうしてあげることしか出来ないんだよね」



 ゼブン姉さんが再び太ももから取り出した光線銃を手に持ち(どうやら“バイオヴァリアブルメタル”で自動生成されるようになっているらしい)、ボクたちに銃口を向けた。



「姉ちゃん…」


「うん、分かったよモトカ」



 ボクはゼブン姉さんが光線銃の引き金を引く前に、一気にゼブン姉さんとの距離を詰めると、体内で発生させた電気を纏わせた右掌による掌底をゼブン姉さんの顎に叩き込んだ。



『…ガッ……!?』



 掌からゼブン姉さんの体内に流した電流で、ゼブン姉さんの動きを鈍らせることに成功したボクは、立て続けにがら空きとなったゼブン姉さんの腹部に左掌を押し当て、再度ゼブン姉さんの全身に電流を流した。



『う…グゥ…ッ、アアアアアアアアアアアアアアッ!?!?』



 その間に、完全に動きを止めたゼブン姉さんの全身を、モトカが改造された右目でスキャンする。

 出来るだけ、ゼブン姉さんの身体を傷つけないように、最小限の傷跡でゼブン姉さんを眠らせてあげるために、ゼブン姉さんの身体を操っている装置、ゼロからの命令を受信する装置を破壊する!

 


「…見つけた、ゼブン姉ちゃんの脳、視床下部に埋め込まれたAIチップ、

 そこが、ゼブン姉ちゃんの身体を操り、動かしている、本体……」



 モトカは、右目の“照準器(スコープ)”でゼブン姉さんのAIチップに狙いを定めると、左腕の“アームライフル”のモードを切り替え、右手で引き金を引いた。



「『電磁加速砲(レールガン)』、ファイア…ッ!!」



 銃弾を電磁加速させて放つ『電磁加速砲(レールガン)』で、ゼブン姉さんの頭部を一瞬で貫いたモトカ。

 その瞬間、ゼブン姉さんの身体は、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。


 “加速装置”を解除したボクは崩れ落ちたゼブン姉さんの体を抱きかかえた。



「マコト君、モトカちゃん、ゼブンお姉ちゃん…」


「マコト、モトカ、ゼブン姉ぇは…、」



 カズヒとハルカの心配したような声が聞こえた。



「ごめん、助けられなかったよ……」


「姉ちゃんは悪くないよ~…、とどめを刺したのは、ボクなんだから~…」

 


 事情を察した二人がボク達の元へやって来る。



「ううん、二人はゼブン姉ぇを助けてあげられたよ」


「うん、そうだよ!

 ゼブンお姉ちゃんを眠らせてくれてありがとね、モトカちゃん、それにマコト君も」



 そう言って、カズヒに頭を撫でられるボクとモトカ。


 

 姉妹を助けることが、こんなに辛くて苦しいことだなんて思いもしなかった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ