第1話「パラレルワールドへの旅立ち」
*
「…なんだ、またいつもの夢、か………」
その日、いつも通り午前6時に目を覚ました俺、藤原陽一。
俺はどこにでもいる、ごく普通の(アニメや特撮好きの)16歳、高校2年になったばかりのさえない男だ。
俺はいつもの“日替わりの夢”から目覚めると、ベッドから降り、着替えようと着ていたパジャマのボタンに手を掛けたところで、部屋の扉がノックもなく開かれた。
これもまたいつものことではあるが、俺の大切な妹様の登場だ。
「お兄ちゃーん、起きて…、るね、今日も」
「ああ、一陽か、おはよう、
あと何度も言うが、ノックはしろ、こっちは着替え中だぞ」
扉を開けて部屋の中に入ってきたのは、俺の双子の妹、藤原一陽だった。
漢字だけ見ると非常にややこしいが、俺が陽一で妹が一陽。
名前をつけてくれた両親が言うには、どんな時でも兄妹一緒にあらゆる困難に立ち向かって欲しいという願いを込めてこんな名前にしたそうだ。
俺は密かに二人分の名前を考えるのがめんどくさくなって、こんな名前にしたのではないかと疑ってはいるが…
顔だけ見ると俺と瓜二つな(違いといえば、一陽の後ろ髪は俺よりも少し長く、メガネフェチでもある俺の趣味もあってかいつも伊達メガネをしている)そのショートヘアーの妹様は、制服の上からでも分かるほどの巨乳に引き締まった腰という、ボーイッシュな顔立ちからはアンバランスな非常に女性的な体型をしていた。
うん、実に俺好みの素敵なプロポーションである。
こんな俺の妹にしておくには勿体ないくらいの美少女だ(現に一度も告られたことのない俺に対して、妹様は一年に最低四人は告白されてそのたびにフッている)。
というか、俺と同じ顔をしているのに、体と性別が変わるだけでここまで印象に差が出るものなのかね~…
ああ、俺も女に生まれてればひょっとしてモテモテな人生を送れていたのかね?
だが、そんな妹様であるが、一つだけどうしようもない欠点があった。
一陽は、伊達メガネの奥から非難がましい視線を実の兄であるこの俺に向けて抗議を始めた。
「兄妹同士で着替えを見られたところでどうってことはないでしょ?
それよりも、こっちだって何度も言ってるけど、いい加減早く起きるのやめてよ、あたしがお兄ちゃんを起こせないじゃない」
「何で普通に起きただけで怒られにゃならんのだ」
「だって、アニメや漫画では普通じゃない!寝坊した兄を起こす妹!
何度叫んでも叩いても起きないから、最後の手段として兄の唇にキスを…!」
「兄の俺が言うのもなんだが、本当にお前ってどうしようもない変態ブラコン妹だな」
「変態シスコン兄貴に言われたくないよーだ!」
そう、この俺と同じ病気持ち、俺が姉妹属性持ちならば、一陽はどうしようもないくらいの俺ラブ、兄属性持ちだったのだ。
本当に残念過ぎる…
俺はもうモテないこの自分に諦めているから、周りからシスコンだ変態だと言われても全然構わないのだ。
だが、世間一般に美少女と言われている妹が、何故俺みたいな世間の片隅で朽ち果てていくだけの男、しかも正真正銘、実の(よくフィクションの世界である実は血の繋がりはなかった、というような落ちが挟まる余地のないくらいの)血の繋がった兄貴を愛してしまったのか…
考えられうる理由として、俺達の両親は仕事で海外にいることがほとんどであり、家に帰ってくるのは年に一度か二度、お盆か正月にしか帰ってこないという家で育ったため、というのがあるが、しかしそれにしたってな~…
「お兄ちゃん?
なんかあたしのことを残念がってるみたいだけど、あたし以上に自分自身が残念なこと自覚してる?」
「人の思考を読むな!
というか、それくらいはとうの昔に自覚しとるわ!
だからこそ、こんな残念な兄を好きになったお前が余計に残念なんじゃないか」
「本当だよね~
な~んで、あたしお兄ちゃんのことこんなに好きになっちゃったのかな~?」
「知らんわ!」
「ま、そんな残念な妹を大好きなお兄ちゃんもやっぱり残念だよね♪」
「いや、お前みたいな美少女を好きにならない男なんていないだろ」
「そうかな?
あたしに言わせれば、お兄ちゃんも十分美少年なんだけどな~」
「本気で言ってるなら今すぐその伊達メガネに度を入れることをおすすめするよ」
「本気も超本気で言ってるんだけどな~」
「はいはい、っと。
そんじゃ、そろそろ下に降りるぞ、あんまグダグダしゃべってると学校に遅刻しちまう」
「は~い♪」
着替えを終えた俺は、一陽と一緒に二階の自分の部屋を出ると、階段を下りて一階にあるダイニングキッチンへと入った。
部屋の中央に備え付けられたテーブルの上には、二人分の朝食がすでに準備されていた。
白ご飯に半熟の目玉焼き、豆腐の味噌汁と小皿に乗せられた焼き明太子という、比較的オーソドックスな朝食は、もちろん妹様の手作りだ。
俺達は向かい合ってテーブルにつくと、両手を合わせて「いただきます」と言い、食事を始めた。
テーブルのお誕生日席側に置かれたテレビには、子供たちにとっての朝の顔となった某声優が務める子供向け情報番組が映されていた。
「最近のベイブレードってすげぇな~…」
「お兄ちゃん、ベイブレードなんてやってたっけ?」
「んにゃ、俺はミニ四駆派だったな」
「だよね、あたしも無理やりつき合わされて色々買わされた記憶があるもん」
「そんなこと言って、イケメンのミニ四ファイターさんにキャーキャー言ってたのは誰だっけ?」
「何?お兄ちゃん、嫉妬?」
「なんでそうなる。
実際、あの人俺なんかと比べもんにならないくらいカッコよかったし、嫉妬するのも馬鹿らしい程のレベルだわ」
「あの頃はあたしもまだ若かったからね…
心配しなくても、今のあたしの中ではお兄ちゃん以上のイケメンはこの世のどこにも存在しないから」
「でも九条貴利矢に告白されたらOKするだろ?」
「そりゃ貴利矢さんカッコいいもん。
貴利矢さんに乗せられたい人生だった…」
「いいよな~、貴利矢さんイケメンだし、男前だし、カッコいいし…
闇の世界の住人には、まぶしすぎる…」
「そう言う矢車の兄貴もイケメンだけどね」
「おばあちゃんが言っていた、世の中のイケメン滅ぶべし、と…」
「そのおばあちゃんサイコ過ぎない?」
などという一部特撮好きにしか分からないような会話をしながら、食事を終えた俺達はその後簡単な身支度を済ませて、俺達の通う高校へと向かうために家を出るのだった。
俺達は福岡県北九州市門司区の山側(こらそこ、門司区には山しかないじゃないかとか言うんじゃない、立派な海もある)にある小さな町の1つに住んでいた。
家の目の前にはコンクリート舗装された川が流れており、その川沿いに少し下っていけば西鉄バスが一本通っており、そのバスに乗って俺たちの通う高校へと向かう。
高校は、お隣の区である小倉北区にある公立高校で、創立100年を越える文武両道を掲げる昔ながらの進学校だ。
いつも通りの日常が今日その時まではあった。
だが、日常は突然終わりを告げるのだった………
俺と一陽は、いつものバス停に着き、いつもの時間のバスに乗り込んだ。
バスの中では、いつも通り先日放送されたばかりの日曜朝にやっている子供向け特撮ヒーロー番組の話で盛り上がる俺達。
バスは規定通りの道をまっすぐ法定速度で進んでいく。
しばらくは山道を進み、その後下って国道3号線の大通りに出たときに、その事故は起こった。
門司区と小倉北区の境目にある手向山トンネルにバスが差し掛かった時、突然、トンネル上部の地面が謎の爆発を起こし(これはかなり後になって知ったことだが、どうやら埋まっていた戦時下の不発弾が何かしらの影響で爆発してしまったらしい)、そのせいでトンネルが崩落し、俺達の乗っていたバスはその崩落に巻き込まれ、生き埋め状態となってしまったのだ。
その時の記憶をほとんど俺達は覚えていない。
それくらいに突然で、衝撃的な事件だった。
そして、そのあまりにも突然すぎる俺の人生の終わりは、新たな運命の始まりでもあった。
*
俺が気付いたとき、そこは真っ暗で何もない空間だった。
「……ん、ここ、は?」
周りを見回しても何も見えない、真っ暗闇の空間。
こんな状況を俺はよくアニメや小説なんかで見たことがあった。
まさか、俺は……、
「ひょっとして俺、死んだのか?」
にわかには信じがたい事実。
だが、さっきまで日常の中にいた俺が、こんな非現実的な世界にいる理由は、それくらいしか思い浮かばなかった。
「はは、マジ、かよ…、さすがにそりゃねぇだろ…
いや、俺のことはもういい、だけど一陽は!?
アイツは生きているのか!?」
一緒にバスの中にいて、一陽とは隣同士に座っていた。
俺が死んだのなら、アイツも死んでしまった可能性はあるが、しかし俺ならまだしもアイツにはまだ将来性があった。
せめてアイツだけでも無事でいて欲しい!
なんとかそれを知るすべはないのか!?
『ほう、こんな状況でも自分よりも妹が大事、か。
つくづく面白い人間だな、お前は』
その時、突然何処かからか女の声が響いてきた。
「だ、誰だ!?」
『我のことはどうでもよい、それよりも、今はお前のことだ』
「俺のこと…?いや、それこそどうでもいいよ!
俺はもう死んだんだろ?」
『まぁ、そんなところだ』
「だったらもう俺のことは今更どうなっても構わない。
それよりも、俺の妹は!?一陽は無事なんだろうな!?」
『それはお前の返答次第だ』
「何だって?」
『お前が我の言うことを信じ、我が言うことを実行してくれるのならば、妹はもちろん、お前自身も助けてやろう』
「一陽が助かるんだったら、俺は悪魔とだって相乗りしてやるさ!」
『フフ…、よくぞ言った。では契約成立、だな』
すると、突然何もなかった空間に大小いくつかの映像が映し出されていった。
それらの映像には、白い騎士服を纏い、全身に紅蓮の炎をなびかせて戦う高貴な見た目の少女や、深紅のビキニアーマーに身を包んだ、真っ直ぐな眼差しのボーイッシュな少女たちなど、様々な少女達が映されていた。
「これは…、俺が今まで見てきた、夢……?」
そうだ、これらの映像は皆、俺がここ最近見ている不思議な夢の映像だ。
『正確には、お前の前世の記憶だ』
「前世、だって…?」
『そうだ。
お前はこれまで、過去2000年以上に渡り、ありとあらゆる時代において、様々な世界、パラレルワールドを股にかけ生まれ変わり続け、そのたびにそこで共に戦い、生き抜いてきた“姉妹”達と、固い永遠の契りを結んできたのだ』
「マジ、かよ…?」
突然、前世だとかパラレルワールドだとか色々言われても落ち着いているのは、俺がそういった設定の作品を数多くのアニメや小説、特撮作品なんかで見て知っていたから。
だが、俺が穏やかでいられなかったのは、その後の設定だ。
ありとあらゆる時代、世界において、俺はそこで共に戦い、生き抜いてきた“姉妹”達と永遠の契りを結んできた…?
「な、なんてこった…!
俺は、2000年間もの間、病気だったというのか…!?」
『お前の病気は魂にこびりついて離れないということだな』
「そうか、俺はもうどうしようもないんだな…
いや、俺の過去のこととかはどうでもいいんだよ、それより、俺はこれからどうしたらいい?
どうすれば一陽を助けられるんだ?」
『世界を旅し、前世のお前の“姉妹”達全てと繋がり、世界を救うのだ』
「…はい?」
『世界を旅し、前世のお前の“姉妹”達全てと繋がり、世界を救うのだ』
「いや、え…?」
『分からん奴だな、もう一度だけ言うぞ、世界を旅し、』
「いやいやいや!それは分かったから!
言ってることは分かったけど、理解できないというか…」
『つまりだな、お前の前世で出会った“姉妹”達がありとあらゆるパラレルワールドにおいて、お前と同じように新たな人間として転生しているのだ。
その転生した“姉妹”達を全員集めて来いと言っているのだ』
「いや、そんな集めて来いと言われましても…?」
パラレルワールドを旅して、前世の“姉妹”達を集める?
何その色んなアニメの設定のいい所取りしたような展開は…!?
「…まぁ、いいや、“姉妹”達を集めることはいいさ。
それで?どうやって“姉妹”達を見つけるんだ?
皆が皆前世の記憶を持ってるわけじゃないんだろ?
それでどうやって集めろって言うんだ?」
『お前達は魂で繋がった“兄妹”、あるいは“姉弟”だ。出会いは必然だ』
「うん、よく分からんけど、だいたい分かった。
それからもう一つ、どうやってパラレルワールドを行き来するのさ?」
『その点に関しても気にする必要はない。
運命の定めに従い、お前たちは然るべき時に、然るべき世界へと導かれるであろう』
「オーケイ、その辺は考えるだけ無駄ってことだな?
それじゃ最後の質問だ、“姉妹”達全員を集めて、それからどうするんだ?
世界を救うって具体的にどうするんだ?
それから、“姉妹”全員って一体何人いるんだ?」
『最後の質問じゃなかったんかい…
まぁ、いい、“姉妹”は現世の妹カズヒも含めて全部で11人だ。
そして11人全ての“姉妹”を集めた後、これから復活する魔王ヤミを打ち倒し、全てのパラレルワールドを救うのだ』
「魔王を倒して、全てのパラレルワールドを救う、ね…」
ああ良かった、俺はまたてっきり世界の破壊者になれとか言われるのかと思ったが、世界を救うためならやぶさかではない。
そして、俺は2000年の歴史を持った姉妹属性持ちだ、10人もの“姉妹”が新たに出来ると考えれば、断らない理由なんてない。
「だが、その前に聞いておきたい、その魔王ヤミってのは何なのか、」
『えぇい、いい加減くどいぞ!
魔王ヤミに関しては、いずれ思い出すだろう』
「思い出す…?」
『ああ。さて、もうそろそろ時間だ。
次お前が目覚めた時、お前は今のお前の住む世界“ワールドアクア”とは違う、パラレルワールド“ワールドフラワレス”にいる。
そこで転生した“姉妹”を見つけ出し、再び絆を紡ぐのだ』
「オーケイ、分かった。
それにしても転生した“姉妹”、か。
つーことは、現世における血の繋がりはないわけで、それってつまり…、」
ムフフな展開を早くも妄想し始めた俺に、その謎の女の声は満足したかのように一つ咳払いをすると、こう続けた。
『では改めて、契約成立だ。
お前はこれより【次元航行者】として、現世の妹、カズヒと共にパラレルワールドを旅し、10人の前世の“姉妹”達を集めるのだ…!』
直後、まるでビッグバンの爆発を思わせる光が俺を中心に周囲一帯へと広がり、そのあまりの眩しさに俺は目を瞑った。
*
そして、再び俺が目覚めた時、目の前には我が愛する妹様が今にも俺にキスをしようとしているシーンだった。
「わぁっ!?」
「キャッ!?
ちょっ、お兄ちゃん、妹がキスしようとしている時に急に目を覚まさないでよッ!!」
「だから何で俺が怒られにゃならんのだ!?
っていうか、一陽無事だったんだな!?」
「うん、あたしは何ともないよ。
そういうお兄ちゃんも、無事で良かった♪」
そう言って一陽は俺に抱き着いてきた。
抱き着いてきた妹の体はとても震えていた。
どうやら、こいつはこいつなりに俺のことを心配してくれていたらしい。
俺は妹の頭を撫でてやりながら、周囲を見回した。
俺たちがいた場所は、見晴らしのよい、何処かの高台のような場所だった。
地面は緑で覆われ、俺の背後にはのどかな街並みと、その先に広がる青い海があった。
一方で、俺の正面には緑生い茂る山が広がっていた。
地面が緑覆われた地であること以外は、俺のよく知っている場所に大変よく似ていた。
「ここ、俺達の家の近くに似ているな…」
目の前にそびえる山は、子供の頃からよく登っていた戸ノ上山に似ていたし、背後に広がる街並みは俺の生まれ育った門司の街並みそっくりだし、その先に広がる海はまさに関門海峡だ。
だが、戸ノ上山の登山道にあたるこの場所は、コンクリートで舗装されていて、ちょうど俺達のいるこの真下には都市高速が走っていた。
だから、この場所は俺達の知る世界じゃなく、
「本当にパラレルワールドに来ちまったんだな…」
「あ、やっぱりそうなんだね」
俺の独り言に相槌を打つ一陽。
「ん?お前も知ってたのか?」
「あ、うん…、あたしが目覚める前、真っ黒な何もない世界で、ヨミって名乗るカワイイ女の子が現れて、
あたしに『お兄ちゃんと共にパラレルワールドを旅して、お兄ちゃんの前世の“姉妹”達を集めて世界を救え』、って」
「何!?カワイイ女の子!?
それにヨミだって!?」
「何、お兄ちゃん?
あたしという妹がいながら他の女に浮気するつもり!?」
「いやいやそんなんじゃないって!
俺の時は名乗るどころか、姿すら現さなかったぞ!?」
「え?そうなの?」
「ああ、ずっと声だけだった」
「ふ~ん、そうだったんだ…
まぁ、でも最初目覚めた時はあたしの夢かとも思ったんだけど、初めて見る場所だし、お兄ちゃんも似たような体験をしたんなら、あのヨミって子の言ってたことは本当のことなんだね」
「ああ、まぁ、そういうことになるんだろうな…」
「にしても、お兄ちゃんの前世の“姉妹”達って、一体何人くらいいたの?」
「何か、10人いるらしいぞ?」
「マジかよ!?
10人の美少女姉妹が一気に増えるとか、あたし超テンション上がるんですけどー!?」
「ああ、お前はそういうやつだったな…」
この妹様のもう一つの残念な点、それはこいつも姉妹属性持ちなことである。
と、言っても実際には姉も妹もいないから、脳内の姉や妹を相手に日々色んな妄想を膨らませているらしい。
「ああ、あたし、今日この時ほどお兄ちゃんの妹に生まれてきて良かったと思った日はないよ…!
お兄ちゃん、ありがとう!大好き!愛してる!!」
そう言って再び俺にキスをしてこようとする一陽。
「ええい、鬱陶しい!
というか、お前この状況に馴染み過ぎだよ!
一応、俺達元の世界で死んでる(?)っぽいんだぞ!?
そんでここはパラレルワールド!!
確かに見た感じ、俺達の住んでた世界とそっくりな感じの世界だけど、俺達これからどうやって暮らしていけばいいのかも分からんし、そもそも言葉だって通じるのかも分からん!
そんな状況で“姉妹”達も探さなきゃならんのだぞ!?不安じゃないのか!?」
「あたし、お兄ちゃんさえいればいいよ?」
「…最高の口説き文句をありがとう。
そのセリフ、いつか本当に好きになった男に送ってやってくれよ?」
「そんな男は生まれ変わっても現れないと思うけどね~
まぁ、冗談はさておき、確かにお父さんやお母さんのことは気になるけど、でもこうしてあたし達は生きてるし、それにパラレルワールドを行き来する方法があるんなら、元の世界に戻れる方法もあるかもしれない、ってことでしょ?
だったら、何の心配もいらないんじゃない?」
「それも、そう、なのか?」
「そうそう!
今はあたし達がこうして生きてることを喜ぼうよ!」
「ああ、そうだな」
「それに、お兄ちゃんがいれば、あたしは無敵なんだから!」
ああ、本当にカワイイ妹だな~…
…などと和んでいる場合ではなかった。
さて、マジでここからどうすればいいのやら……?
元の世界のことは確かに気にはなるが、一陽の言う通り、世界を行き来する方法があるのなら、その内元の世界に戻ることも出来るだろう。
まずは今目の前の、出来ることを考えよう。
俺は立ち上がり、改めて周囲を見回した。
うん、周りが自然か人工物かの違いはあるが、ここは間違いなく俺たちの知っている門司の町で、この場所からちょっと歩けば、俺達の元いた世界における俺達の家がある。
ということは、ひょっとしたらそこにこの世界における俺達の家があったりしないだろうか?
所謂、全世界におけるセーブポイントというか、“光写真館”的な(特撮が分からない人には分かり辛い例えで申し訳ない)。
「ところでお兄ちゃん?」
「ん?なんだ?」
「この世界における前世のお兄ちゃんの“姉妹”のことは何か覚えてるの?
どんな子だったのか、とか、そもそも“姉”なのか“妹”なのか、とか?」
「ふむ…、そう、だな……」
正直、夢で見た記憶以外は、まだほとんど思い出せていない。
そもそもここがどんな世界なのかということはもちろん、どの世界にどの“姉妹”がいるのかとか、それ以上に“姉妹”達の名前すらまだ思い出せていない。
いや、前世の名前を思い出したところで現世において同じ名前である保証は全くない、どころか違う名前である可能性の方が高いわけで。
「第一、俺の名前だって前世じゃ、ヨウとかサンとか呼ばれてたしな…」
「へ~、お兄ちゃん、前世ではそんな名前だったんだ」
「え?」
あれ…?
今、俺、しれっと前世の名前の一部を思い出してた…?
「そう言えば…、ここからの景色も、なんとなく見覚えが……?」
そう…、あれは、異世界からの侵略者、魔人族の王である魔王ヤミとの最終決戦に挑む直前、当時の王国の王子であった俺ヨウと、双子の王女であった大切な妹ルナと共に、この緑広がる丘に立って、お互いに誓い合ったんだ。
「あ、魔王ヤミ…!そうか、そうだった!
魔王ヤミは、俺とアイツで命を懸けて封印した…!」
その時、俺の脳裏に一人の少女、白い騎士服を纏い、全身に紅蓮の炎をまとわせて戦う高貴な見た目の少女、俺にとっての最初の妹であるルナとの記憶がフラッシュバックした。
『行きますわよ、お兄様!これが最後の戦いですわ!』
『ああ、そうだな…、この戦いが終われば……、』
『この戦いが終われば、わたくし達は…』
『この剣に誓おう、俺は永遠にお前を、ルナを愛し続けることを!』
『この剣に誓いますわ、わたくしは永遠にお兄様を愛し続けます、生まれ変わっても、きっと巡り会って、必ずお兄様と結ばれんことを……』
『ああ、生まれ変わっても、きっとまた…!』
「ああ、そうだ!思い出した!
俺は、俺達はここで誓い合ったんだ…!
生まれ変わっても、きっとまた巡り合おうって!」
「へ~、ルナっていう妹か~!
どんなカワイイ妹なんだろうな~?」
「お前の中での妹はカワイイ前提なんだな?」
「いや、だってお兄ちゃんの愛する妹なんだから、カワイイ妹なのは確定的に明らかでしょ?」
「それ自画自賛って言わない?」
「あたしはお兄ちゃん好みの妹になるために努力してカワイクなったんだから、お兄ちゃん的に見てカワイイのは当たり前なの!」
「あ、そう…」
本当に駄目な妹だ…
ああ、でもそんな妹をカワイイと思ってしまう自分が一番駄目駄目なのはもう否定しようのない事実なんだよな~…
などと二人で馬鹿な会話をしていたせいで、背後に一人の少女が立っていることに俺達は話しかけられるまで気付かなかった。
「あの…、もしやあなた様は…?」
俺達以外の人物の声に、ハッとなって振り向いた俺と妹。
その声は、とても甘く柔らかで、まさにお嬢様と言った感じの優しい声だった。
そしてその声の持ち主は、声から想像出来た通りの美少女だった。
白いワンピース姿の儚い印象とは裏腹に、そのワンピースに隠された肢体は実に女性的で、実に俺好みなプロポーションの少女であった。
「うわっ、ボンキュッボンじゃん!
お兄ちゃんの好みど真ん中ストレート!」
「おま、初対面の女性に失礼だろうが…!」
かく言う妹様もそのボンキュッボンなわけで。
いやいや、確かに素敵なプロポーションの美少女なわけですが、それ以上にもっと特筆すべき部分があるわけでして!
「というか、なんかあの子、あたしと顔、そっくりじゃない…?
まさか、ひょっとしてあの子が…?」
そう、その女の子の顔は、メガネを外した一陽と瓜二つ、つまりは俺の顔とも瓜二つなのであった。
「ひょっとして…、君は、前世の俺の妹…?」
我ながら頭のおかしなナンパ野郎だと思われてもおかしくないセリフで、その妹と瓜二つな顔をした少女の元へと近づいていく俺。
「…ッ!ということは、やはりあなた様は、ヨウお兄様!?」
「ルナ…!!」
「お兄様ーーーーッ!!」
こうして、俺とルナは実に約2000年振りとなる兄妹の運命的な再会を果たしたのだった。