第6話「クローンシスターズ②アインスとナインス」
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「あ、二人とも目覚めてたのね、良かった…!」
「アインス姉や…」
「アインス姉さま…」
思わずボクもつられて“アインス姉さま”、なんて呼んでしまっていた。
でも、そう呼ぶのが自然だと思えた。
そう言えば、アインス姉さまはどこかサク姉さまにも似てる気がする…
そして、アインス姉さまが抱えている青色のボンテージ服を着せられた女の子、年はボクらより少し年下に見えるが、顔はボクらと瓜二つだった。
彼女もまた、ボクらと同じクローンサイボーグなのだろう。
アインス姉さまが透明な壁に手を触れると、壁の一部が無くなり、そこからアインス姉さまが入ってきた。
アインス姉さまが入ると同時に、透明な壁は元に戻った。
そしてアインス姉さまが抱えていた女の子を床に横たえると、その隣にアインス姉さまも座り、いきなり土下座をしてきた!
「ちょっ、姉さま!?」
「ね、姉や…!?」
「二人にそんな恥ずかしい格好をさせて、おまけに、こんな部屋に閉じ込めるようなことをして、本当にごめんなさい」
「謝らないで、姉や…!
これはあの男の指示で、この服も、透明な部屋に閉じ込めてボクらを鑑賞するのも、あの男の趣味だから、姉やは、その指示に逆らえないから…、
逆らったら、ボクたちの命がかかってるからって、知ってるから…!」
「そ、そうだよ!だから頭を上げてよ姉さま!
裸土下座なんて、シチュエーション的にエッチ過ぎるよ!!」
ヤバいヤバい、さすがにこれはマズイ!!
なんだかイケナイ扉を開きそうだよ!!
アインス姉さまが顔をあげてくれたところで、姉さまが連れてきたもう一人の女の子のことを尋ねた。
「えっと、それでこの子は?
首の錠前の数字が“9”ってことは、ボクらと同じクローンサイボーグの妹、ってことだよね?」
「ええ、この子はクローンサイボーグNo.9、ナインス。
私達と同じで、魂を持ったクローンサイボーグよ」
「ナインス…」
ナインスちゃんはまだ目覚めて来る気配がなかったので、ボクはもう少しアインス姉さまに質問をしてみることにした。
「あの姉さま、ボクにはまだ分からないことがたくさんあるんだけど、聞いてみてもいいかな?」
「ええ、私に答えられることなら」
「まず、ボクらにこんないかがわしい格好をさせた人は誰なのか?
次に、姉さまだけが服を着せられていないのは何故なのか?
そして、ボクら以外のクローンサイボーグは今どうなっているのか?」
「ボクもその辺りは知りたい…
改造されてた間に意識があったとはいえ、全ての事情を聞けたわけじゃなかったから…」
「ああ、やっぱりテンダーちゃんには意識があったのね。
改造中の意識モニターが僅かに動いていたから、そうなんじゃないかと思っていたけれど。
えっと、じゃあまずドラインちゃんの最初と二番目の質問だけど、私達にこんな格好をさせている人は“ゼロ”。
私達と同じクローンサイボーグで、ヨウ博士と同等の知能を持った超天才少年よ」
「“ゼロ”…!」
「ということは、あの男はボクらの兄や、ってこと…!?」
「うぇえぇっ!?そ、そんなの嫌だよ!!
兄さまっ、じゃない、イチローさんが兄さまならまだしもボクらにこんな変態な格好をさせた奴が兄さまだなんて、絶対認めないっ!!」
「ええ、でもより正確には遺伝子上は私達の息子、ということになるわね。
ただ、生まれたのはドラインちゃんたちより前だけど」
「遺伝子上は息子だけど、ボクたちより先に生まれた存在…、ややこしい…」
「でも、アイツ確か姉さまに鎖を付けてペットみたいな扱いをしてたよね!?
そんな奴が家族なんて!!」
「ドラインちゃんの言う通りよ、私は彼のペットであり、鑑賞品、そしてあなた達は愛玩道具であり、兵器であって、彼にとっても私達は家族なんかじゃないわ。
ああ、あと私は彼の知らない知識を提供する資料でもあるわね」
アインス姉さまは、改造されていない純粋な人間の肉体を持った、唯一の完璧に成功したクローン個体だという(他の個体は、ゼロ自身やボクも含めて、身体に何かしらの不具合があったために、その不具合を補うために改造されている)。
だからこそ、その希少性から、アインス姉様はゼロに気に入られ、その美しい肢体を一切隠すことなく鑑賞するために、服を着させていないのだという(ちなみに、処女であることも重要らしい)。
「ゼロってやつ、とんでもない変態野郎じゃない!」
「気持ち悪い…」
「そうね、ヨウ博士と同じ遺伝子を持ち、ヨウ博士と同等の知能を持って生まれてきても、性格にここまでの違いが出るものなのね…」
「でもじゃあ、ボク達のこのボンテージ服は?
さっき、姉さまはボク達のことは愛玩道具であり、兵器って言ってたけど…」
「あなた達にそんな格好をさせたのは彼の趣味、愛玩道具に色んな服を着せて楽しむ感覚よ…」
「本当に最低…」
「それとね、そのボンテージ服にはもう一つの理由があるのよ」
「もう一つの理由?」
「そう、それはね、いずれ転生してくるだろう本物のヨウ博士に対して、あなた達が切り札になるからよ」
「ボク達が切り札?」
「そ、それにいずれ転生してくるだろうヨウ博士って…、まさか!?」
そこで、アインス姉さまから、ボク達の基になったオリジナルの双子姉妹、マコちゃんとモカちゃんのことと、彼女らが見たって言う予知夢の話を聞いた。
「ゼロは私からその話を聞き出し、ヨウ博士の知能を手に入れたいと考えている。
手に入らないならば、自分と同等の知能を持ったヨウ博士は邪魔になるから消す、と。
だからこそ、あなた達姉妹が彼への切り札になる。
彼にとっては、クローンであってもあなた達は大切な妹、
妹のために国を滅ぼしかけたシスコンの彼が、あなた達に、おまけに大事なところが隠されてないあなた達の身体に万が一にも攻撃出来るハズがない、って」
「そ、そっか…!」
「納得し難いことだとは思うけど…、って、納得しちゃったの!?」
「あ、えっとそっちじゃなくて、」
「ボク達、兄やの本当の妹に、なったんだ…!」
「そうそう、それそれ!!」
「えっと、どういうこと?」
ボクたちは姉さまに、自分達にも前世の記憶があり、そしてボクが“兄さま”と慕っていたイチローさんと、テンダーちゃんが“兄や”と慕っていた人と、ヨウ博士は同一(の魂を持って転生している)人物の可能性があることを説明した。
「そんなことが…!
テンダーちゃんから生えてきた角や尻尾が、テンダーちゃんの魂に関係していて、テンダーちゃんも私と同じ転生者の可能性は考えていたけど、ドラインちゃんも転生者だったのね」
「そういうことみたいです」
「と、なると私達が彼のクローン姉妹として転生してきたのは、前世で結ばれなかった想いが形となった結果、なのかもしれないわね」
「うん、きっとそう…」
「じゃ、じゃあ他のクローンの子達もボクらみたいに前世で兄さまと結ばれなかった人達の魂が入ってるかもしれないってこと?」
「この子、ナインスちゃんはそうかもしれないわね。
ゼッツ君は男の子だけど、どうなのかしら?
でも、他の子達はあり得ないわね」
「え、どうして?」
「他の子達、ツヴァイス君とフォルスちゃん、フィフスちゃん、ゼブンちゃん、アハトン君には、そもそも魂が宿らなかった個体だから…」
「魂が宿らなかった…!?」
「それって、どういうこと、姉や…?」
「言葉通りよ、彼らには魂が無い、冷酷な言い方をすれば、生命として誕生出来なかった個体」
「それって、死んでるってこと?」
「そう。
本来なら、死産していた個体を、ゼロは無理矢理成長促進剤なんかを使って身体だけを成長させて、脳にAIチップを仕込んだアンドロイド型サイボーグ兵器として改造したのよ」
「アンドロイド型サイボーグ兵器…!」
「なんでそんな酷いことが出来るの…!?」
「ゼロが言うには、資源の無駄遣いはしたくない、だそうよ…」
そう言う姉さまの顔は、今にも泣きそうな顔をしていた。
人間を人間とも思わない、最悪の男、ゼロ。
だけど、ボク達の命に関わるから逆らえない姉さま。
そして、そのことは恐らくボクらにも言えるだろう。
今、初めて出会った姉妹だけど、何故か昔から一緒にいたような、そんな不思議な想いがあり、守らなくちゃいけないと、自然に思える。
恐らくは同じ男性を好きだった者同士、というのもあるかもしれないが、ボクらの基になった姉妹が兄と同じくらいにお互いを愛し合っていたらしいから、その血を受け継いだのもあるかもしれない(ブラコンでありシスコンでもある、究極の家族愛だ)。
ボクは、そして姉さまもテンダーちゃんも、そしてここにいるまだ目覚めてないナインスちゃんも、きっとイチロー兄さまと同じくらいにお互いを愛してしまっている。
だから、姉妹を守るためには、ゼロのどんな命令にも逆らえないだろう……
そんなことをぼんやりと考えていたら、眠っていたナインスちゃんの身体がピクリと反応した。
「んん…、ここは何処…?わたしはなんでこんな…、」
「あ、ナインスちゃんも目が覚めたのね、良かった…」
「って、えぇっ!?裸の女の人!?なんでっ!?
って言うかわたしも変な格好してるし!?
そ、それに、みんなアニ君の顔してる!?なんで!?」
どうやら、いきなりテンションマックスなこの子も、前世でイチロー兄さま(と同じ魂を持つ男性)と出会い、恋をしてしまった哀れな犠牲者なのだろう。
ボク達は、目覚めたナインスちゃんにこれまでの状況と、ボク達のことを説明するのだった。




