第5話「クローンシスターズ①ドラインとテンダー」
*
「…、分かる?声が聞こえるかしら?」
その日、私の意識が覚醒した時、最初に目に入ってきたのは、悲しげな、今にも泣き出しそうな表情をした、一糸まとわぬ姿の女性だった。
その次に聞こえてきたのは、その女性とは違う男の人の声だった。
「ふむ、オリジナルと全く同じ遺伝子クローン個体でもしっかり魂が宿るじゃないか。
全く、かつての研究者共は何故この程度のことに数十年かけた挙げ句、研究の放棄を決定したんだ?」
「…それは、科学技術があまりにも人を殺すことに特化し過ぎていたせいで、こうした新たな生命を生み出す技術分野はほとんど手付かずだったからかと」
「当時の記憶があるお前が言うならそうなんだろうが、それにしても俺のような超天才クローンを生み出すのに、俺の知識が必要になるとは本末転倒だ」
二人の会話を聞きながら、次第に意識がハッキリとしていく。
どうやら、私は透明なカプセルのような中に閉じ込められているらしい。
カプセルの内側にうっすらと反射する私の姿を見るに、私は女で、服を着ておらず、年齢は16歳前後、だろうか?
そして驚いたのは、私の顔が先程私を除き混んでいた裸の女性と瓜二つ(ただし女性の方が私よりも少し歳上のように見えた)だったことだ。
さらに驚いたのは、その女性はただ服を着ていないだけでなく、首に巻かれた首輪から伸びた鎖で何処かに繋がれているようだった。
これではまるでペットみたいじゃないか!
一人の女性をこんな風に扱うなんて許せない!
私はカプセルをこじ開けようと必死に体を動かそうとしたが、指一本動かすことが出来なかった。
「…ふむ、どうやら他の個体も目覚め始めたようだ。
アインス、もう一度そいつを眠らせて、例の服を着せた後に愛玩道具部屋の中に入れておけ」
「…分かり、ました」
どうやら、その鎖で繋がれた女性は“アインス”と言う名前らしい。
そのアインスさんが再び私のカプセルに近づいてくると、
「ごめんなさい、あなたを守るためなの、お姉ちゃんを許してね…」
そう呟いてカプセルに繋がれている機械を操作し始めた。
直後、再び私の意識はぼんやりとしていき、やがてまた深い眠りにつくことになった。
その眠りにつく直前、私の中に生まれた一つの疑問、それは、
―――私は、一体誰なんだろう…?
*
「…ら、ミラっ!おい、大丈夫か?」
「え!?」
男の人の声に気付き、飛び起きたボク。
あれ、ここは何処だっけ…?
「おいおい、しっかり者のミラらしくないな。
ここは門司タウン、オクダエリアの山の中だよ。
最近ここの山の中に魔獣が巣を作ってるらしいから、何とかしてくれって山の持ち主であるアワシマ神社の神主さんからの依頼が王国騎士団にきたから、こうして俺とミラの二人で様子見に来たんじゃないか」
そうだった。
ボク、ミラ・ターナーは王国騎士団に同期入団した彼、イチロー・ローザスと共に、ここオクダエリアの山に魔獣の巣を殲滅するためにやって来たのだった。
彼は、入団時からの天才精霊術師で、凡人だったボクのことをよく気にかけてくれていて、大切に思ってくれていて(勿論、男女のそれではなく、家族のような存在として、だ)、一人っ子で早くに父親を亡くしていたボクにとって彼は、唯一の頼れる身近な男性であり、そんな彼のことをいつしかボクは、年齢は同じだが兄さまのように慕っていて、やがてその想いは少しずつ成長していき…、
などと余計なことを考えていたせいか、魔獣の接近に気が付かず、咄嗟の判断が遅れてしまった。
「ミラっ!上だっ!!」
彼の声を合図にボクは、地面を転がるようにして前方へと飛んだ。
直後、先程までボクがいた場所に、上空にいた魔獣による超音波攻撃が炸裂した。
この山に巣を作っていたのは巨大な鳥型の魔獣ギャラスか!
姿を現したギャラスへ向けて、少し距離を取っていた(超音波攻撃に備えてだろう)彼が、詠唱を始めた。
「氷の精よ!集いて、敵を討て!『アイスエッジ』!!」
彼の両手から放たれた氷の塊がギャラスの嘴を塞ぎ、同時に翼に穴を開けて、ギャラスの超音波攻撃と飛行能力を同時に封じた。
そのスキにボクがとどめとなる術の詠唱を始める。
「雷の精よ!集いて矢となり敵を討て!『サンダーアロー』!!」
地面に落下する直前に、ボクの雷の矢がギャラスの心臓と脳を同時に撃ち抜き、ギャラスを絶命させた。
「ナイス、ミラ!」
「ううん、ボクの方こそありがとう、君が教えてくれなかったら今頃ボクは、」
「そんなこと気にすんな、俺達はパートナーだろ?
運命共同体、お互いに助け合うのは当然だろ?」
そう言って彼がボクの頭を撫でてくれた。
…全く、こういうところ本当にズルい!
本人にその気はないのは分かってるし(彼が昔からのシスコンなのは有名だった)、ボクのことは本当にただの守るべき大切なパートナーとしか思ってないんだろうけど、
ボクはそんな彼に、どうしようもなく恋をしていた。
*
「ん……、そうだ、私、いやボクは……、」
次にボクが目覚めたとき、そこは全面ガラスのような透明の壁に囲まれた部屋だった。
「ボクは一体ここで何を…?」
ボクはゆっくりと起き上がり、状況を確認するべく、思考を巡らせた。
まず、ボクの格好…
「な、なんだこの服!?」
ボクの着ていた服は、所謂ボンテージ服というのか、大事なところが全く隠されていない、とんでもなく卑猥な服だった。
断じてボクの趣味なんかじゃないぞ!?
そして、ボクの隣にはもう一人女の子が眠っているようだった。
彼女の着ている服もまたボクと同じ色違いの卑猥なボンテージ服だった(ボクの着ているのは紫色で、少女の着ているのは赤色だった)。
あまりにも卑猥な服に目をとられて気付くのが遅れたが、その眠っている女の子の顔は、何処かで見たことがある気がする…
そうだ、この顔は一番最初に目覚めた時に見た、カプセルの内側に映りこんだ自分の顔で、そして…
「ん……、ここ、は…?」
少女が目覚めた。
目覚めた少女はしばらくボクと同じように周囲をキョロキョロし、ボクの存在に気付くと、ボクの顔をジッと見つめてきた。
改めて正面から彼女の顔を見て、ボクは確信した。
やっぱり、この子は…!
「イチロー兄さまに、似てる…!」
「ラクサ兄やに、そっくり…」
「「え?」」
ボクとその少女の声が見事にハモった。
*
ボクと目覚めた少女は、まずお互いに自己紹介をすることにした。
最初に名乗ったのは少女の方だった。
「ボクは、モーナ・ギャランズ…
魔人育成学園の、元生徒だったけど…、今は君のクローン双子の妹で、クローンサイボーグNo.10、テンダー…」
「も、元魔人育成学園の生徒!?ってことは君は魔人!?
そ、それにボクのクローン双子の妹!?クローンサイボーグNo.10って何!?おまけに君もボクっ娘!?」
「落ち着いて、ドライン…」
いきなり色んな情報が入ってきてパニックになるボク。
言われてよくよく見ると、確かに少女の頭からは魔人の角や、お尻からは先っぽが矢印のような形をしている細い魔人の尻尾が生えている(翼は生えていなかったが)。
「ん?というか今、君はボクのことを“ドライン”って呼んだ?」
「うん、君はクローンサイボーグNo.3の、ドライン…」
そう言って彼女、テンダーちゃんはボクの首元を指差した。
首元に手をやると、首輪に錠前の着いた物が巻かれているのが分かった。
そこで、テンダーちゃんの首元に視線を向けると、彼女の首にも同じように錠前の着いた首輪が巻かれており、その錠前に“10”という数字が書かれていた。
「なるほど、ここに書かれている数字がボク達のナンバー、ってことか…」
人をまるで物のように番号で管理するなんて、気分が悪くなってくる。
そもそもこの卑猥なボンテージ服からして、頭がおかしいとしか言いようがない。
こんな姿、イチロー兄さま…、ああいや、彼以外に見られるわけには……、っていやいや、例え兄さまにだって見せるわけには…!!
「次は、あなたの番…」
「へ!?」
「君の、前世の名前、まだ聞いてない…」
そっか、そう言えばまだ自己紹介の途中だったっけ。
色々と情報が過多すぎて頭が追い付けてないけど(というか今もまた前世、なんて単語が出て来てるし!)、とりあえず名前だけは名乗っておこう。
「えっと、ボクはミラ・ターナー、王国騎士団の副団長、だったハズなんだけど、でもボクは確か、親戚に看取られながら死んだ、ハズだったんだよね…」
「ボクも、同じ…
だから、それは君の前世の、記憶…
ボクやドライン、それにアインス姉やには、前世の記憶があって、ボク達は、この世界に生まれ変わってきた、ということらしい…」
アインス姉や…、そう言えばボクが最初に目覚めた時に見た、ボク達を少し成長させたような見た目の、一糸まとわぬ姿の女性…
ボクは、目の前の少女が魔人だということも気にせず(向こうもボクが精霊術師だということを知っていて気にしていない)、ボク達の置かれている状況を尋ねた。
「ねぇ、ボク達は一体何者なの?
何故、ボク達はこんな恥ずかしい格好でこんな場所に閉じ込められてるの?」
「とりあえず、ボクの知っていることだけ話す…」
そう言って語られたボク達の現状は、とても信じ難いことばかりだった。
*
「ん……、ここ、は…?」
ボクが目覚めた時、そこは周囲が透明なガラスのような壁に覆われた部屋だった…
どうやらあの後、ボクの意識は眠りに落ちてしまっていたようだ…
そのせいで、何やら卑猥な服を着せられてしまっている…
大事なところが全く隠されていない、真っ赤なボンテージ服…
こんな格好、兄や以外の人には見せられない…
と、そこでボクは、この部屋にボク以外の少女の気配があることに気付いた…
ボクの予想が正しければ、きっと一緒にいるのは、ボクのクローン双子の姉だという少女だろう…
ボクは、その少女の方に向き直り、正面から彼女の顔を見た…
今のボクと同じ顔で、同じ紫色のボンテージ服を着た彼女…
ボクは、自分の顔を見たときも思ったけど、本当にこの顔は、
「イチロー兄さまに、似てる…!」
「ラクサ兄やに、そっくり…」
「「え?」」
どうやら、少女の前世の兄も、今のボクらと同じ顔をしていたらしい…
ということは、ボク達は本当の意味で姉妹になれるのかもしれない…
*
そして、お互いに自己紹介したのだが、どうやらドラインは、ボク達のことをよく分かっていないらしい…
まぁ、ボクも誰かから直接聞いたわけじゃないし、ね…
「ねぇ、ボク達は一体何者なの?
何故、ボク達はこんな恥ずかしい格好でこんな場所に閉じ込められてるの?」
「とりあえず、ボクの知っていることだけ話す…」
そうしてボクは彼女に、今のボク達のことを話し始めた。
「まず、この世界は、ボク達が前世で生きていた世界とは別の世界、パラレルワールドらしい、ってこと…」
「パ、パラレルワールド!?」
「そう、ボク達魔人の住んでた世界“ワールドダークネス”や、君達精霊術師達の世界“ワールドフラワレス”とも違う、機械技術の発達した世界、“ワールドシルヴァネア”、それがここ…」
「わ、“ワールドシルヴァネア”…?」
ボク達魔人は、異世界転移魔法陣を使った魔術でパラレルワールドを行き来することが出来た…
その際に、名前が無いと不便だからという理由で、各世界に名前を付けた…
自分達の世界を“ワールドダークネス”、妖獣と霊能力者たちのいる世界を“ワールドアイラン”、精霊術師たちのいる世界を“ワールドフラワレス”、“吸血鬼”や“鬼人”といった亜人達の住む世界を“ワールドブラディ”という風に…
魔人の幹部の人達は、特にこの三つのパラレルワールドを支配下に置こうと躍起になっていたが、それ以外にもパラレルワールドはたくさんあった…
その中の一つ、魔人の幹部達が侵略行為を躊躇っている世界、それがここ機械技術の発達した世界“ワールドシルヴァネア”…
この世界の人間は、特に戦争に特化した進化を遂げていたため、魔人達でさえまともに彼らと戦うのを躊躇う程だった…
「ふーん、そんな世界があったなんて…」
「少し話が逸れた…
ともかく、ここがボク達のいた世界ではなく、ボク達の魂は、この身体、とある双子の姉妹の遺伝子データを基に作られたクローン個体の中に、転生した…」
「ボク達が、とある双子の姉妹の遺伝子クローン…
だから、ボク達は同じ顔をしているのか」
「そういうこと…」
「ボク達が同じ顔なのは理解したけど、でも、それじゃあ何故ボク達の顔は、兄さm…、彼の顔にも似ているんだろう?」
「それは、想像でしかないけど、きっとボクの兄やと、君の兄さまは同じ人物であり、
ボクらクローンの基となった姉妹の兄であるヨウ博士とも同一人物だから…」
「は、はぃいいいっ!?」
そこでボクは、何故ボク達クローンが作られたのか、その経緯を説明した…
「…つまり、その天才ヨウ博士と同等以上の知能を持ったクローンを作る過程で、そのヨウ博士の妹二人の遺伝子データを用いて、ボク達クローンが生み出された、と。
そして、テンダーちゃんの考えでは、そのヨウ博士と、テンダーちゃんの兄やと、ボクの兄さ、イチローさんは同一人物で、転生者だ、と?」
「恐らく…」
「しかし、そんな偶然あるのかな…?」
「偶然じゃない…
ボクらは、運命共同体、だから…」
「運命、共同体…
兄さまも、そんなことを言ってたな…」
どうやら、ドラインは兄やのことを本心では“兄さま”と呼んで慕っているようだが、対外的には恥ずかしさからか、“彼”とか“イチローさん”とか呼んで誤魔化しているようだ…
「アインス姉やも転生者で、ヨウ博士の元助手だった、らしい…」
「あ、あの人も…」
「そう…
ボク達には、共通点がある…
好きになった相手が、ヨウ博士、つまりは今のボクたちと同じ顔をしていて、超絶なシスコン…」
「ああ、やっぱりあなたの兄やも、ヨウ博士もシスコンだったんだね…」
「だから、きっとボク達の兄やは、同じ人…
正確には同じ魂を持って転生を繰り返してる人…」
「何だかにわかには信じ難いけど、でも前世の記憶が確かにある以上は納得するしかないみたいね。
あ、あと、テンダーちゃんの頭から生えてる角やお尻の尻尾なんだけど、クローンだって言うなら、テンダーちゃんの身体は人間のハズだよね?
なのに何故魔人としての角や尻尾が生えてるの?」
「それは、ボクの身体に使われている“バイオヴァリアブルメタル”が、ボクの魂の形に合わせて身体を変化させたんじゃないか、って。
ただ、何分にも転生者のサイボーグ個体という前例が無いから、確かなことは分からない…
そもそも、“バイオヴァリアブルメタル”自体が、詳細不明のよく分からないナノメタル素材なんだから…」
「えっと、そのさっきから出て来る“バイオヴァリアブルメタル”って、何?」
ボクは、ドラインに“バイオヴァリアブルメタル”のこと、ボクらサイボーグのことを説明した。
「そっか…、じゃあボクの身体も…」
「うん、戦闘兵器として、全身改造されてると思う…」
「うーん、なんだか実感湧かないけど、今はそのことで悩んでも仕方ないか。
だけど、何故テンダーちゃんはそこまでの事情を知ってるの?
ボクはほとんど知らされてないのに」
「ボクも、直接教えてもらったわけじゃない…
ただ、アイツと、アインス姉やが話してるのを聞いていただけ…」
「聞いていた、って?」
「ボクは、改造されている間にも意識があったんだ…」
「ええっ!?」
「その改造の最中に、前世の記憶が蘇って、身体が魔人化したりして…
その後、しばらくして強制的に意識をシャットアウトされ、気が付いたら、こんな格好をさせられてここにいた…」
「こんな格好…、そう言えばボク達、おっぱいとか丸出しのままだったのよね…」
「大丈夫、ドラインのおっぱいカワイイよ…」
「かっ、カワイイって…!?
そ、そういうテンダーちゃんこそ…」
その時、部屋の外から誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた…
ボク達がそちらの方へ視線を向けると、ボク達と同じ青色のボンテージ服を着た少女を抱えた、一糸まとわぬ姿の女性、アインス姉やだった。
「あ、二人とも目覚めてたのね、良かった…!」
「アインス姉や…」
「アインス姉さま…」




