第1話「双子の妹」
*
夢を見ていた。
それは遠い過去の夢、俺の前世の記憶。
『兄さんの発見が、大勢の人々の生命を救うことになるんだね!』
『お~、さすがはボクらの自慢の兄ちゃんだ~』
ショートヘアのボーイッシュな雰囲気の少女と肩まで髪を伸ばしたおっとりした雰囲気の少女が、俺の左右から抱き着いてくる。
二人は俺の双子の妹、いや正確には俺と二卵性の三つ子の妹、マコとモカだ。
そうだ、俺はこの世界では、超天才の科学者として名をはせていた。
中でも俺が発見した“バイオヴァリアブルメタル”は、医療技術を飛躍的に向上させ、これまで不可能とされてきたことをいくつも可能にしてきた。
だが、人間と言うのは非常に業の深い生きもので、俺が誰かを救うために発見したその技術を、戦争するための道具へとあっさり変えてしまった。
その結果、俺は妹二人の幸せを奪ってしまった…
『兄さん…、ごめんな…さい…、ボクらの…、せい、で…』
『こいつらの…、言うこと聞いちゃ、ダメ…、だよ、兄ちゃん…
兄ちゃんの力は…、誰かの生命、を…、救うため、のもの…、なんだか、ら…』
モニター越しに犯され、拷問される妹たちの姿に、俺は連中を滅ぼすために力を使うことを決意した。
連中はあっさりと滅びた。
俺の全身は奴らの醜い血の色で薄汚れてしまった。
だが、まだ、殺したりない。
マコとモカが味わった苦しみを思えば、まだまだ全然復讐し足りない…
だが、奴らを殺すより前に、今はマコとモカを助けなければ。
両手両足や一部の臓器を失った二人は、それでもかろうじて生きていてくれた。
俺は二人をサイボーグへと改造し、最低限自らの身を守れるだけの武装も施し、忌まわしき記憶も消去した。
それと、失った処女膜も復活させておいた。
…俺亡きあと、誰か良い人と巡り合った時に、非処女だと色々不都合だろうからな(彼女たちが知らない間に処女を失っていたということになると、記憶との齟齬が発生し、そこから忌まわしき記憶が蘇る可能性があるからだ)。
俺は、マコとモカがこれ以上危険な目に合わないように、そして俺の発見した世界を滅ぼしかねない技術を封印するために、自らの身体をキュウシュウを独立させるための巨大な壁へと改造し、自らの意思をAI化することによって、自身の魂を消滅させることにした。
『マコとモカのこと、頼んだよ、マイ姉ちゃん』
『…ええ、任せて、あの二人のことは心配しないで』
俺たちのことを本当の弟妹のように思ってくれていた、俺の助手だった女性、マイ・イェーガ姉ちゃん。
彼女がいたから、俺は自らの命を絶つ覚悟が出来た。
彼女がいたから、妹たちの幸せを信じることが出来た。
…だけど、今思えば、妹二人のためとはいえ、二人を残して勝手に死んだ俺は、とんだ妹不幸ものだと、とんだ勘違い野郎の大馬鹿者だったな、と。
*
俺、藤原陽一はただの(シスコンの)高校生だった。
しかしある日、最愛の妹と通学中に巻き込まれた事故で異世界に転移することになってしまった!
そこで出会った、ヨミと名乗る謎の少女から、俺には様々な前世が存在し、10人の“姉妹”がいたらしいことを告げられる。
さらに、異世界を旅して今の妹も含めた合計11人の“姉妹”たちを探し出し、彼女らと力を合わせて魔王ヤミを倒して欲しいと言われるのだった。
魔王ヤミを倒す云々はともかく、シスコンな俺にとって血の繋がらない(強いて言うなら魂の血縁とも言うべき)、愛すべき“姉妹”たちが10人もいると知ってテンションはマックスに!
「おい」
そんなテンションマックスな俺の前に、最初に現れたのは2000年前の最古の妹、イツキ・ウィンザー!
最後の妹である血の繋がった妹の藤原一陽に負けず劣らずのナイスバディなイツキは、
「おい!さっきから何ぶつぶつと独り言言ってんだ!」
「あ痛ッ!?ちょっ、お兄ちゃん何するのさ!?」
せっかくこのあたし、お兄ちゃんの最愛なる現世の妹であり、伊達メガネが似合う超絶美少女カズヒちゃんがお兄ちゃんの代わりに前回までのあらすじを分かりやすく読者の皆さんにお伝えしようとしてたのに!
親父にも殴られたことのない、このあたしの頭を殴るなんてっ!!
「いや、前回のあらすじとかいらんから…
つーか、俺昨夜は鍵をかけて寝てたはずなんだけど、なんでお前は俺の部屋の中に入って来て、しれっと同じベッドに入って寝てるんだ?」
「鍵なんてあたしのピッキング技術の前じゃ意味を為さないよ?」
「そこは合鍵持ってるからに決まってるじゃんって言って欲しかったわ…
何だよピッキング技術って、いつの間にそんな技術身に着けたんだよ」
「まぁまぁ、その話はおいといて。
何で同じベッドで寝ているかって言うと、そこにお兄ちゃんがいたから?」
「そこに山があるからみたいに言われてもな…」
などという生産性のない会話をお兄ちゃんとしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「お兄様、よろしいでしょうか?」
「あ、イツキちゃん、どうぞどうぞ~」
「いや、なんでお前が答えてんだ!」
「では失礼いたしますわね」
「ちょっ、なんでカズヒがアニぃと一緒に寝てるのよ!?」
「あらあら、二人とも朝から仲がいいわね~♪」
扉を開けて中に入って来た三人の美少女たち。
一人はイツキ・ウィンザーちゃん、純白のワンピースがとてもよく似合う、【精霊姫】と呼ばれたお兄ちゃんにとっての一番最初の妹。
もう一人はハルカ・スカイシーちゃん、ボーイッシュな見た目だけど、実は甘えん坊な一面も持つ、とてもかわいらしい妹。
三人目は藤原朔耶お姉ちゃん、和服が似合うおっぱいの大きいあたしたち皆のお姉ちゃん!
色々と大変なこともあったけど、一つ目の世界で再会できた“姉妹”は三人。
あたしも含めたら四人の姉妹が揃ったことになる。
そして、
「それより、お兄様、外の景色をご覧になりましたか?」
「ん?いや、まだ起きたばかりで見ていないが…」
イツキちゃんが窓際に近づき、カーテンを開けた。
窓の外に広がる景色は、昨日まであたしたちがいた自然豊かな世界ではなく、きっちりと護岸工事がされ、さらには謎のセンサーのような機械があちこちに見られる人工的な川に、地上10メートル程の高さを走る都市高速と思われる道路には、『ドラえもん』の漫画で見たことあるようなタイヤの付いていない車(いわゆるエアカーってやつ?)が何台も忙しそうに走っているのが見えた。
「ねぇねぇ、アニぃ!!
ひょっとしたらこの世界って、アニぃが言ってた機械技術の発達した世界ってやつなんじゃ…!?」
ハルカちゃんが期待に満ちた声でお兄ちゃんに問う。
それに対して、お兄ちゃんはベッドから起き上がりながら答えた。
「ああ、恐らくは間違いないと思う。
ここは俺が前世で“バイオヴァリアブルメタル”を発見した世界で、
双子の妹、いや俺とは二卵性の三つ子の妹になるマコとモカのいる世界だ」
*
というわけで、新しい世界へと無事に転移してきた俺たちは、セイさんが朝食を準備してくれている間に着替え、軽く家の近所を散歩してみることにした。
「わたくし達の屋敷のある場所は、元の世界の場所と同じようですわね」
「ああ、ただ周りの風景はだいぶ変わっているけどな」
屋敷を出て正面に川があり、右手側には山(この世界でも確か戸ノ上山という名前だったはずだ)があるのは変わらない。
ただ、イツキたちの世界と違うのは左手側には地上10メートル程の高さを都市高速道路が走っている。
ただし、これは俺達の住んでた世界にはあったものなので、全く違う景色というわけでもない。
細かく言えば、科学文明の水準が俺達やイツキたちの世界とは段違いに進んでいる世界なので、走っている車がエアカーだったり、流れている川も人工的に管理されていて、水量が増えれば川底が自動的に下がって決して氾濫しないような設計になっているなど厳密には全く違う景色が広がっていると言える。
そういう違いを除いて、俺達やイツキ達の世界と決定的に違うのは、屋敷の目の前の広場(俺達の世界で言えば俺達の実家があった場所)に、大きくて年季の入った白い建物が建っている点だ。
「何でしょうか、この建物?何かの研究所みたいな雰囲気ですが…?」
「結構古そうな建物だよね?ひょっとしたらお兄ちゃん、知ってたりしない?」
「ああ…、知ってるもなにも、この建物は…!」
ああ、はっきりと思い出した。
ここは、この建物は、俺が前世で所長を務めていた研究所…!
と、俺達が建物の前で突っ立っていると、建物の中から一人の女性が出てきた。
歳は俺達と同じくらいだろうか、黒髪ボブでカチューシャをしており、少しツリ目気味で、口元にほくろのある美少女だった。
そんな美少女が、俺たちに話しかけてきた。
「ふむ、こんな朝早くから“クルセイド研究所”に何の用事かな?」
「あ、えっと、わたくし達はその~、何と言いましょうか…」
答えに窮したイツキがチラリと俺の方に視線を向けてくる。
俺はイツキに代わって、その少女に話しかけた。
「えっと、ここはクルセイド研究所で間違いはない、ですか?」
「ん?ああ、ここはクルセイド研究所で間違いはないが、君達は?」
「えーっと、その辺の説明がちょっと難しいと言いますか…、あなたは、ここの二代目所長で、初代所長の助手を務めていたマイ姉ちゃん…、ああ、いや、マイ・イェーガさんの親戚、だったりしないですか?」
「君は、伯祖母様のことを知っているのか?」
「ああ、まぁ、知っているというか、前世で大層世話になったというか…」
「前世で…?
なるほど、そういうことか…」
少女は手を顎の下に持っていき、何かを考え込む仕草をした。
「えーっと、お兄ちゃん?
なんだか新規の単語が色々出てきて、あたし意味不明なんだけど?」
「後で説明するから、とりあえず今はあの女の子の話を聞こう」
すると目の前の少女は全て合点が言ったという表情で再び口を開いた。
「よし、なら私から君に最後の質問をしよう、
君の名前、いや、前世の名前を教えてもらってもいいかな?」
「俺の前世の名前を?
っていうか、君は俺に前世があるなんていうとんでも話を信じるのか?」
「質問をしているのは私の方だよ?まずは私の質問に答えてもらおうか」
「…それもそうだな。
俺の前世の名前は、ヨウ・クルセイド。
ここの、クルセイド研究所の初代所長だよ」
「ええっ!?お兄ちゃんがここの研究所の所長だったの!?」
「そ、それ本当、アニぃ!?」
カズヒとハルカが驚いた声をあげる。
イツキとサクヤ姉ちゃんも声こそあげていないが、同様に驚いたような表情をしている。
それに対し、質問をしてきた少女の方は特に驚いた顔もせず、にやりと口角をあげると、こう続けた。
「なるほど、伯祖母様の言っていた通りだ!
本当にヨウ博士が転生してこの世界に戻って来られるとは!
あははははは!すごいな!!この世には科学では計り知れないことがまだまだあるものだな!!
あははははははは!!」
「マイ姉ちゃんの言ってた通り…?
それって一体、」
俺の疑問に答えるより先に、その少女は右手を胸の前に、左手を腰の後ろに回して綺麗なお辞儀をしながらこう続けた。
「お帰りなさいませ、我らが研究所の主よ、
私の名前はアスカ・イェーガ、マイ・イェーガの妹の孫にあたります。
さぁ、中へどうぞ、我らが主よ、中で、妹君たちがお兄様の帰還を静かに待っておりますよ」
*
アスカさんの案内で研究所の中へと入る俺たち。
中へと入った所でアスカさんが再び口を開いた。
「ところで、君のことはヨウ博士、と呼んでもいいのかな?」
先ほどの芝居がかった口調とは違って、元の男装麗人風の口調に戻っていた。
「あ、えっと、俺のことはヨウイチと呼んでくれ。
藤原陽一、それが今の俺の名前なんだ」
「ふむ、了解した。
ではヨウイチ君、君の連れの少女たちは、君とは一体どのような関係なんだい?
先ほど、そちらの二人が君のことを“お兄ちゃん”とか“アニぃ”とか呼んでいたようだが」
「んー、それこそ信じてもらえるかは分からないんだけど…、」
そこで俺は改めてイツキ達のことを紹介し、皆はこことは別の世界、パラレルワールドの世界で再会した前世の“姉妹”であるということを説明した。
説明を聞いたアスカさんは再び大声でひとしきり笑うと、こう続けた。
「あははははは!パラレルワールドに前世の“姉妹”!
いやはや、本当に信じられないことばかりだが、しかし嘘ではないようだ!!
うんうん、おばあ様からここの研究所の管理を受け継いで大正解だった!
まだまだこの世の中には知るべき事象がたくさんあるものなのだな!!」
「あのー、アスカさん?
自分が言うのもなんだけど、そんなにアッサリと俺たちの言うことを信用してもいいのか?
もしかしたら、俺はヨウ博士の名前を利用して、
この研究所のデータを盗み出そうとしているスパイかもしれないんだぞ?」
「ん?ああ、それなら問題はないさ。
まず第一に本当にスパイだというなら、自分はヨウ博士の生まれ変わりです、なんて馬鹿げた理由で研究所にやってくると思うかい?」
「いや、さすがにそれはねーよ、ってなりますね」
「だろう?
魂の転生という話は、今の時代、科学的にも宗教的にもタブー視されていることなんだ。
というのも、君がいた時代にジョウゴ・カサハラという科学者が“魂転生論”という魂の転生に関する論文を発表したことがあったのは覚えているかい?」
いきなり前世の話になって面食らう俺だったが、そのことはなんとなく覚えてる。
「ええ、確か、
『人の知識や記憶、人格は魂に宿り、肉体にはその知識と記憶だけが残る。
だから、自らの魂を別の身体に移すことで、
元の人間の知識と記憶と人格を持ったまま、新たな肉体の知識と記憶を共有し、
人類は無限に知識と記憶をアップデートさせ続けることが出来る』
っていう理論でしたっけ?」
「その通り!
この理論は、当時君の“バイオヴァリアブルメタル”による生者を生存させる理論に対して、死者を蘇生させる理論として、学会で真っ向から対立していたと聞く。
結局、ジョウゴ氏の理論は確実性が薄く、より安価に確実に軍事転用出来るヨウ博士の理論に負けたわけだが。
その後、学会を追放されたジョウゴ氏は自ら教祖となり、“新人類教”なる宗教を作り、件の“魂転生論”を利用した大規模超能力者集団を組織し、この国に大きな災厄をもたらしたのだ」
「大規模超能力者集団?」
「え、ちょ、待って!?何がどうなって超能力者の話になったの?」
急な話の転換にサクヤ姉ちゃんとハルカが戸惑った顔を見せた。
対して、意外にも納得顔をしていたのは数学以外の成績が抜群に悪いカズヒだった。
「つまり、魂の転生、死の淵から蘇ることによって、超能力に目覚めた者の集団、それが“新人類教”の正体だった、ってこと?」
「君はカズヒちゃんだっけ、大正解だよ!」
「やった!」
「なるほど、そう言えばカズヒさんが超能力に目覚めたのも…、」
「うん、一度死んだような体験をしたからね」
「ほう、カズヒちゃんも超能力者なのかい?」
「うん、ま、一応ね」
そういやそうだったな。
俺達は元の世界で、トンネルの崩落事故に巻き込まれて死にかけたところを、ヨミに助けられ(?)イツキ達の世界に転移した。
厳密には魂の転生とは少し違うが、死の淵に瀕するような経験をしたことで、魂に何らかの刺激が与えられ、それが元でその人が持つ潜在的な力、つまり超能力に覚醒したのだろう、というのが俺たちの仮説だ。
「まとめると、ジョウゴ氏はかつて自らに行った実験で事故を起こし、その結果自らの魂が肉体から分離してしまった。
分離した魂は、別の実験に使うために用意していた死者の肉体に宿り、定着した結果、人の魂を自由自在に別の肉体に転生させる超能力を得た、というわけだ。
そうした経験を教訓として、彼は信者たちを集め、信者たちに死んで別の肉体に転生することで超能力を持った“新人類”に進化できると説いた」
「なるほど、そうして出来上がったのが超能力者集団か」
「そういうこと。
そうしてジョウゴ氏は、かつて自らを放逐した者たちに復讐をすると共に、一国を滅ぼしかけたヨウ博士をも超える究極の存在になろうとしていたわけだ」
「そんなことがあったのか…」
「ああ。ま、結局ジョウゴ氏の野望は潰えたわけなのだが、…と、話がだいぶ逸れたな。
つまりだ、今この時代、このキュウシュウ国において、自らが転生者だっていうのは“新人類教”を思い出させるから、よほどの命知らずじゃない限り、堂々と名乗ることはないってことなのさ」
ようやく話が戻ってきた。
「だから君がヨウ博士の転生者だと名乗った以上、それは真実なのであろうというのが第一の理由。
第二の理由は、私の伯祖母様、マイ・イェーガさんの遺言があったから」
マイ・イェーガ。
俺の前世において、とても優秀な科学者として俺の助手を務めてくれていたと同時に、幼くして両親を亡くした俺たち兄妹の母親代わり、と言うといつも怒られていたので、“姉さん”代わりとなって色々と身の回りの世話をしてくれていた人だ。
「そう言えば、アスカさんはマイ姉ちゃんの妹のお孫さんだって話だったけど、確か姉ちゃんは一人っ子だったと記憶してるんだけど…」
「ん?ああ、そうか、君が生きていた時代は、まだ伯祖母様は一人っ子だったようだね。
君がこの世を去って、マコちゃんとモカちゃんがコールドスリープに入った後、数年してから妹が生まれたらしい。
20以上も歳の離れた妹、ということで姉と言うよりは母親のような感覚だったらしいが」
「ちなみに、マイ姉ちゃんはその後、結婚したりなんかは?」
「いや、伯祖母様は生涯独身を貫いたそうだ。
…さしずめ、ヨウ博士に純潔を誓って、ということだったんじゃないのかい?」
「お、俺に…!?い、いや、でもマイ姉ちゃんとはそんな関係じゃなかったっていうか、」
「…お兄様、わたくし達姉妹だけを一途に愛してくださるのは大変嬉しいことなのですが、もっと周りの女性の方々のことも気遣ってあげてくださいませ?
でないと、あまりにも皆さんがかわいそうでなりませんわ…」
「?俺ほど女の子に優しい男はいないと思うが?」
「イツキちゃん、お兄ちゃんはこういう人なんだよ」
「…ですわね」
「ま、アタシはそういうとこも含めてアニぃが好きだけどね」
なんかよく分からないが妹達に呆れられてる?
「イッ君はもうそのままでいいのよ。
2000年の病気はもう、そうそう治らないでしょうし…」
「そんなシスコンを不治の病みたいに…、というか実際死んでも治ってないどころか悪化してるわけなのだが…
と、それより、話を戻そう。
えーっと、そのマイ姉ちゃんの遺言、って言うのは?」
「ああ、伯祖母様曰く、
『今より約130年後の世界に、ヨウ博士が転生してくるそうです。
だから、それまでマコちゃんとモカちゃんの眠るこの研究所を守り続けてください』
とのことだ」
「マコとモカが眠るこの研究所、だって…?」
そう言えば、さっきも彼女はそんなことを言っていたな。
『お帰りなさいませ、我らが研究所の主よ、
私の名前はアスカ・イェーガ、マイ・イェーガの妹の孫にあたります。
さぁ、中へどうぞ、我らが主よ、中で、妹君たちがお兄様の帰還を静かに待っておりますよ』
「じゃ、じゃあ、まさかマコとモカは…!?」
「ああ、ヨウイチ君、君のご想像の通り、君の最愛の妹たち、マコちゃんとモカちゃんは、130年前から、ここの研究所の地下にてコールドスリープした状態で、君が転生してくるのをずっと待っていたんだよ」
そこで俺達に背を向けたアスカさんは「付いてきたまえ」と告げ、俺たちを研究所の奥へと案内した。
研究所内は俺が前世いた頃とほとんど変わっていなかったが、奥に俺がいた時代には無かった扉が存在していた。
アスカさんがその扉の横のタッチパネルに触れ、何かしらのコードを打ち込むと扉が開かれ、地下へと続く階段が顔を見せた。
アスカさんを先頭に階段を下りて行くと、再び扉が現れた。
アスカさんが扉に手を当てると、自動で開いたその扉から、ひんやりとした空気が外に出てきた。
「さ、中へ」
言われるがまま中へと入ると、外部より気温の少し下がったその部屋の中央に、ちょうど人一人が入れるくらいの大きさのカプセルが二つ保管されているのが目に入った。
カプセルは上半分が透明になっていて、中で裸の女の子が静かに眠っているのが見えた。
ああ、間違いない…、この眠っている二人は……!
「お兄様、ひょっとして、こちらの二人が…?」
「ああ、間違いない、俺の双子の妹、マコとモカだ!」
*
ショートヘアーにちょっとツリ目気味で、少年のような見た目のマコと、肩まで伸びた髪に少しタレ目気味の、のんびりとした雰囲気のモカ。
俺のせいで、サイボーグの身体となってしまった、俺の大切な妹たち…
「二人は、君亡きあと、キュウシュウ国初代首相となった伯祖母様の護衛役をしばらく務めていたが、ある時夢のお告げで、君が130年後の世界に転生するから、それまで自分たちをコールドスリープさせて欲しいと頼み込んできたそうだ。
伯祖母様は最初こそ、そんな夢のお告げなんて信じられないと言ったそうだが、二人が同じ夢を同時に見たということと、そのあまりの熱意に最後は折れ、研究所の地下に、こうして二人をコールドスリープ状態にして眠らせた、というわけさ」
二人の眠るカプセルの隣には巨大な機械が接続されており、恐らくはこれがコールドスリープを解除させるための装置ともなっているのだろう。
俺は、カプセルに触れながら、二人を目覚めさせる前にイツキ達に伝えておかねばならないことを話そうと思い、口を開いた。
「マコとモカを目覚めさせる前に、皆に伝えておかなきゃいけないことがあるんだ」
「わたくし達に、」
「伝えておかなきゃいけないこと?」
「ああ。それは、俺達の前世の話なんだが…、」
そこで俺は、ヨウ博士だった頃の話を皆にした。
俺が発見した“バイオヴァリアブルメタル”のこと、それが俺の意図しなかった軍事方面に利用されるように発展していってしまったこと。
それが原因で、マコとモカが他国に狙われ、捕虜とされ、俺の頭脳を欲しがった連中の姑息な手段として、マコとモカが辱められたこと、その結果、俺はその国の軍事力と皇帝一族を皆殺しにしたこと、その後色々あってキュウシュウを一つの国として独立させるために、俺は自身を改造してキュウシュウの海岸線を囲う“キュウシュウの壁”となり、意識をAIと化して、そのまま深い眠りについたこと…、などなど。
マコとモカが辱められたと知った時のイツキ達の反応は想像以上だった。
皆、俺と同じくらいに姉妹想いの姉妹だから、怒り悲しむだろうとは思っていたのだが、まさか「では、今すぐその国を滅ぼしに参りましょう」と笑顔で蒼白い炎を纏わせながら言ったイツキには、さすがの俺も血の気が引いた。
「と、ともかく、マコ達を傷つけた連中は俺が皆殺しにして、かろうじて生きていた二人を、俺は“バイオヴァリアブルメタル”を使ってサイボーグ兵士に改造したんだ」
「サイボーグ兵士に、ですか」
「ああ、本当は武装していない普通のサイボーグとして、ごく普通の女の子として新しい人生を送って欲しいと思ったんだが、今後またいつ俺の肉親として狙われるかも分からなかったから、護身用にってことで、最低限の武装を施したんだ。
んで、ここからが大事なんだが、脳改造をした際に、俺は二人の記憶を操作して、二人が敵国に捕まっていた間の記憶は消去し、代わりに二人は空襲被害に遭って、瀕死の重体を負った所を、俺が改造して蘇生した、ということになっているから」
「なるほど、分かったわ。
つまり、私達も話を合わせて欲しい、ってことね」
「ああ、そういうこと、分かったか、カズヒ?」
「うん、それは分かったけど、でもいくら記憶は操作してても、その~、肉体的には…、その…、誤魔化しきれないんじゃないの…?」
「肉体的には、ってどういう意味よ、カズヒ?」
「分かんないかな~、ハルカちゃん。
二人は、敵の連中にレイプされちゃったんだよ?ということはつまり…、」
「…っ!!そ、そういうこと…」
ハルカの顔が赤く染まる。
本当ハルカはこういう話が苦手だよな。
「ああ、それは問題ないよ。
二人の処女膜も“バイオヴァリアブルメタル”で復活させてある。
俺が死んだ後で、二人が好きな男と付き合った時に、経験もないのに非処女だったりしたら、記憶に矛盾が生じて、そこから二人の封印した忌まわしき記憶が戻りかねないからな」
「さすがお兄ちゃん、その辺も抜かりないね~」
「…ま、二人の過去に関してはそういうわけだから、二人が目覚めた後も余計なことは言わないでくれよ?」
「ええ、分かっておりますわ」
「りょうかーい!」
「…ま、聞かれても到底話せるような内容じゃないしね」
「大切な妹達を守るため、ですからね」
そこで、それまで黙って話を聞いてくれていたアスカさんが改めて機械を指さし、俺に言った。
「では話も終わった所で、ヨウイチ君、そろそろ二人の眠り姫を目覚めさせてあげてくれたまえ」
言われるがままに、機械の前に立った俺。
右手は使えないので、左手だけでその機械を操作していく。
初めて見た機械だが、その操作方法はなんとなく分かる。
俺の中の、ヨウ博士としての知識が俺の中にどんどん蘇ってくる。
その莫大な知識のおかげで、俺はその機械を難なく操作し、最後にパスワードの入力を迫られた。
「パスワード…、数字4桁か…」
チラリとアスカさんの方を見るが、彼女は首を横に振るだけだった。
どうやら彼女にもパスワードは知らされていないらしい。
数字4桁のパスワード…、マイ姉ちゃんは一体何の数字をパスワードに…?
「どうしたの、お兄ちゃん、急に止まっちゃって?
んん?パスワード?数字4桁なら、あたし達の誕生日入れたらいいんじゃない?」
と、横からのぞき込んできたカズヒが勝手に操作パネルを操作して数字を入力し始めた。
「えーっと、0、8、1、2、っと」
「あっ、ちょっ、馬鹿カズヒ!?お前、何を勝手に、」
すると、ピンポーン!という電子音が鳴り、続いてガコン!という何かの蓋が開くような音が聞こえると、隣の二つのカプセルの透明な部分がゆっくりと上に上がっていき、中からひんやりとした空気が流れてくる。
「おおっ、あたし大正解!」
「いやたまたま合ったから良かったものの、普通誕生日をパスワードにするなんて…、」
とそこまで考えてから思い出したことがあった。
俺とマコ、モカの誕生日はもちろん8月12日だったが、偶然にもマイ姉ちゃんも同じ8月12日が誕生日だったな。
俺たち四人に共通する4桁の数字なら、俺にも分かるだろうとマイ姉ちゃんは考えて設定していたのだろう。
「イッ君、二人が…!」
「あ…、」
などと考えている間に、カプセルの蓋は完全に開ききり、中で眠っていた二人がゆっくりと瞼を開き、起き上がってくるところだった。
俺は、改めて二人の顔を見て、どんな顔をしたらいいのか一瞬悩んだが、イツキにそっと背中を押されたことで、決意は固まった。
「マコ!モカ!」
「…兄、さん……?」
「…兄、ちゃん……?」
二人は笑顔の俺に気が付くと、カプセルから出てきて、我先にとばかりに二人同時に抱き着いてきた。
「「お帰りなさいっ!!兄さん(ちゃん)っ!!」」
「ああ、ただいま!マコ、モカ!」
俺は二人を思いっきり抱きしめたかったが、こういう時右腕がないのが悔やまれた。
早いとこ右腕治さなきゃな…
*
あたし達が新しい世界に来てからわずか一時間も経たない内に、この世界のあたし達の“妹”を見つけてしまった。
あたしは、お兄ちゃんと新しい妹二人、マコちゃんとモカちゃんが感動の再会をしている様子を横目に、これが漫画とかアニメだったら読者視聴者あたりから「ご都合主義乙」「展開酷すぎて草も生えない」とか言われるんじゃないの?とか失礼なことを考えていた。
まぁ、あれだ、ヨミちゃんが言うにはお兄ちゃんと前世の“姉妹”たちは魂で繋がっているそうだから、そういうご都合主義的な運命なのだろう。
でなければ、本来の世界であたし達の家があった場所に前世のお兄ちゃんが所長を務めていた研究所があったり、あたし達の家のあった場所の目の前にイツキちゃんの家があったりなんてことはないだろう。
そう、全てはシスコンなお兄ちゃんとブラコンなあたしたち“姉妹”に仕組まれた運命なのだ…
などと一人カッコよく黄昏れていると、あたし達をここまで案内してくれたアスカさんが口を開いた。
「さて、無事に兄妹が130年振りに再会出来たようだし、私の役目もここまでかな。
ここの研究所は自由に使ってくれていいよ。
あと、研究所の扉はここコールドスリープ室の扉を除いて全て電子キー化されていて、各扉を開くためのパスコードは、この紙に書いてある。
いつ何処からハッキングされるか分からない電子端末より、常に私が肌身離さず持ち歩いているアナログな媒体の方がセキュリティ的には安全なのでね。
それと、これがヨウ博士の残した財産を管理してる銀行口座とそのパスワードだ。
君達はこの世界に来たばかりだろうから当然この世界のお金を持たないのだろう?
だから、この銀行口座のお金を自由に使ってくれたまえ」
そう言ってアスカさんが紙やら通帳やらを、一番近くにいたお姉ちゃんに渡していく(お兄ちゃんはまだマコちゃん達と再会の抱擁をしているところで文字通り手が離せなかったからね)。
「え、あの、ですが、これ全て私達が頂いてもいいのですか?」
「何を言う?
元々この研究所と、その財産はヨウ博士のものだ。
本人のものを本人とその家族に返すのは当然のことだろう?」
「…そういうことなら、お預かり致しますね」
「ああ、頼んだ。
おっと、そうだ、君達はまだしばらくこの世界にいるんだよね?」
アスカさんにはあたし達が【次元航行者】だっていう説明はしてあるから、当然この世界での役目を終えたらあたし達がまた別の世界に行くことを知っている。
具体的にいつ旅立つのかはヨミちゃんにしか分からないけど、恐らくこの世界での役目は“お兄ちゃんの義手を作ること”だろうから、しばらくはこの世界にいるハズ…、だよね?
アスカさんの質問に答えたのはお兄ちゃんだった。
「ああ、具体的にいつまでいるかは分からないが…」
「分かった。
であれば、何かの時のために私の連絡先も教えておこう。
何か困ったことがあったり助けが必要になった時はいつでも連絡をしてくれて構わない」
アスカさんは内ポケットから新たな紙を取り出し、胸ポケットに刺していたボールペンで自らの連絡先を書き込み、その紙を今度はイツキちゃんに渡した。
「ええ、何から何までご親切に、ありがとうございます」
「何、君たちは私の伯祖母様が愛した大切な弟妹の家族だからね。
これくらいは当然のことだよ。
…と、そろそろ時間だな。
すまない、私はこれから学校に行かねばならないので、ここらで失礼するよ」
そう言って部屋の扉を開けて出て行こうとするアスカさん。
「学校、と言うとアスカさんは学校の先生をされているのですか?」
「いや?私はこれでもまだ高等部生だよ。
“キュウシュウ国立第1軍学校高等部”の3年生なんだ」
「が、学生さんだったんだ…」
「そういうこと。
では、また近い内に」
そう言って地下室を颯爽と出て行くアスカさん。
後から知ったことだけど、この世界でも学校制度はあたしたちの世界と同じ6-3-3-4年制で、全てが国立学校になり、それぞれ初等部、中等部、高等部、そして国立大学校という区分になっているそうだ。
ちなみに、この世界での言語は、いわゆるあたし達の世界の日本語がシルヴァ語、平仮名や漢字なんかはそのまま平仮名漢字と言われていて、数字はアラビア数字という風に、ほとんど変わりがない。
話を戻そう。
アスカさんが出ていくと同時に、それまで黙って成り行きを見守ってたマコちゃん達が口を開いた。
「え~っと、ボク達目覚めたばかりで状況がまだよく分かっていないんだけど…、」
「とりあえず~、そちらの女の子達はどなた~?
まさか兄ちゃん、ボク達という姉妹がありながら浮気を~?」
「兄さん、マイ姉さんならともかく、こんなに大勢の女の子達と、う、浮気だなんて、不潔だよ!
っていうか、今気づいたけど兄さん、右腕どうしたの!?」
「ああ、分かった、分かったから!
とりあえず落ち着いてくれ、一つずつ説明していくから!
だが、その前にまず二人は服を着ないと…」
「…え?
あっ、そ、そうだった!ボク達服着てないんだった…!そっ、それ以上、見ないで兄さんっ!!」
「うっふっふ~、兄ちゃん、ボクの裸見て興奮しちゃった~?
いいよ~、兄ちゃんにだったら、いくらでも見られたって構わないよ~♪」
「だーっ、だからっ、」
「ぐぅううううう~~~!」
「「「!?」」」
兄妹三人の仲睦まじいやり取りを無粋な音が邪魔した。
「ごめんなさい、あたしのお腹の虫が三人のイチャイチャに水差しちゃってごめんなさい…」
「そういえば、わたくし達まだ朝食を食べていませんでしたわね」
「ったく、相変わらずカズヒのお腹の虫は空気読まないわね~」
「うふふ、カズちゃんらしくてかわいらしいけどね♪」
うぅ…、あたしのお腹の馬鹿野郎…っ!!
「じゃ、じゃあとりあえず、イツキの家に戻るか。
その前に、カズヒにはテレポートで二人に合いそうな服を出してもらって、二人が着替えてから家に戻ろう。色々な説明はそれからだな」
お兄ちゃんに言われ、あたしはとりあえずあたしの持ってる服の中で良さげなものをピックアップし(あたしの美少女観測レーダーによると、マコちゃんは上から85-55-86、モカちゃんは83-53-88だから、あたしの服でも十分着られる)、テレポートさせた。
いきなりあたしの腕の中に服が現れて驚く二人だったが、二人は何も言わず着てくれた。
マコちゃんには黒と白の横ストライプ柄のノースリーブにブラウン地のショートパンツを、モカちゃんには黒と白の縦ストライプの柄のノースリーブに紺色地のミニスカートを着てもらった。
下着に関してはパンツはサイズ的にあたしのでも問題なくいけると思ったが、さすがにブラに関してはその人にあった物をしっかり選ばないと形が崩れちゃう恐れもあるから(せっかく二人とも綺麗なおっぱいしてるんだからね!)、ノーブラで我慢してもらった。
マコちゃんはノーブラであることに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたが、モカちゃんは「全然気にしないよ~、むしろパンツもなくてもいいくらい~」と全く正反対の反応を示していた(さすがにモカちゃんはスカートなのでパンツだけははいてもらった)。
そんなこんなで、あたし達は研究所を出て目の前のイツキちゃんの屋敷に戻ってきた。
たったの一時間弱の間に妹がいきなり二人も増えていたことに、屋敷のメイドであるメイさんとセイさんは大変驚いていたが、持ち前の対応力の早さから、セイさんは新たに二人分の朝食を用意し、その間にメイさんは二人分の部屋を用意するのだった(今更ではあるが、イツキちゃんの屋敷には地上三階と地下まで含めて結構な部屋数があり、姉妹11人とお兄ちゃん、メイさん、セイさんの部屋を用意しても余りがあるくらい余裕がある)。
朝食が出来るまでの間に、あたし達はお互いの自己紹介を済ませ、自分達の状況(【次元航行者】として魔王ヤミを倒す云々)をマコちゃんとモカちゃんに説明した。
当然、いきなりそんなこと言われても信じられないだろうな~と思っていたのだが、二人の反応はちょっと予想外のものだった。
「なるほど、ボク達が見た通り、だね」
「うん、まぁ~、兄ちゃんと再会できた時点で、ボク達の見た映像は~、正しかったって証明されてたわけだけどね~」
「その、二人が見たビジョン、ってのは何なんだ?
そもそも、俺がこの時代に転生してくるのも知ってたみたいだし…
アスカさんから聞いた話じゃ、二人は夢のお告げで俺がこの時代に転生してくると知って、マイ姉ちゃんにコールドスリープを頼んだらしいが」
お兄ちゃんが尋ねると、二人は視線を交わし、かすかに頷くと、マコちゃんが代表して答えた。
「実は、ボク達、未来が少しだけ見えるようになったんです」
「未来が見える…!?」
「はい、兄さんにサイボーグとして改造されて以降の話なんですが、時々、何の前触れもなくボクたちの脳裏に未来の映像が見える時があるんです。
それは数秒先の未来だったり、数日後の未来だったり…」
「『未来視』…、いわゆる超能力か…!」
「それって、二人が瀕死の重体を負ったから…!?」
口に出して、しまった!と思ったけど、この程度なら大丈夫、だよね?
一応、二人は空襲で瀕死の重体を負った、という設定にはなっているんだから、大丈夫なはず!
「ボク達もそれが原因だと思っていたんだ」
「だけど~、ボク達が超能力に覚醒した~なんて話をしたら、悪用しようなんて考える人が出てくるかもしれないから、黙っていたんだ~」
「ま、悪用しようにも自分達の意思で未来が見られるわけじゃないから、どうしようもなかったとは思うけどね」
あたしの心配は杞憂に終わったようで、特に二人は何とも思わなかったようだ。
その後も二人は何事も無く説明を続けた。
「そんなある日、ボク達は夢の中で、まさに今日の日の映像を見たんです」
「ボク達は~、カプセルの中で眠っているんだけど~、外で何人かの話し声が聞こえてきてね~、
それで分かったんだ~、今見ている映像が130年後の未来で~、兄さんが転生して、ボク達の元に帰ってきてくれるってことを~」
なるほど、『未来視』(この場合は予知夢、なのか?)で今日の日の出来事を見て知っていたわけか。
それでマイさんに頼んで…って、今日の日の出来事を見て知っていた!?
あたしが気付いたことにお兄ちゃんも気付いたようで、青ざめた表情で二人に尋ねた。
「えっ、じゃ、じゃあ、まさか…、俺が話したこととかも、全部夢で見て聞いていたのか…?」
「…あ~、えっと、はい、実は……」
「元々~、ボク達が空襲で瀕死の重傷を負った~っていう設定も、少しおかしいな~とは思っていたんだよね~
だって、空襲にあったというだけで、ボク達に武装させて~、最低限自分達の身を守れるように~っていうのは、いくらなんでも大袈裟すぎるかな~って」
「とはいえ、実際そういう目にあったという記憶は、ボク達の中にはないですし、何より兄さんがボク達のことを想ってしてくれていることですから、無理に真実を知る必要もないかな、って」
「そっか…、なんだかすまなかったな…」
「いえ、そんなことはもうどうでもいいんです」
「そうそう~、大事なのは~、今こうして兄ちゃんと無事に再会出来たってことだからね~」
「マコ、モカ…」
うんうん、これぞ兄妹愛、実に美しい光景だ。
などと考えていたところへ、セイさんの作った朝食の実においしそうな匂いがあたしの鼻腔をくすぐり、再びあたしのお腹の虫が「ぐぅ~~~~」と抗議の音をあげた。
「どうやら本格的にカズちゃんのお腹が限界みたいね」
「うぅ…、もうちょっと空気読んで、あたしのお腹…」
そこへセイさんと部屋の準備を終えたメイさんが、朝食を乗せたお盆を持って談話室へと入って来た。
「は~い、お待たせしました!
朝御飯が出来上がりましたよ~!」
そう言って、談話室の中央に置かれた直径3メートルくらいの丸テーブルに次々と配膳していくセイさんとメイさん。
今日の朝食は、玄米入りのご飯に茄子の味噌汁、半熟の目玉焼きと焼きベーコン、新鮮な緑野菜のサラダに、鮭の切り身というラインナップだった。
お兄ちゃんを中心に右回りでイツキちゃん、あたし、サクヤお姉ちゃんが座り、左回りにハルカちゃん、マコちゃん、モカちゃんが座ると、最後にお兄ちゃんの正面側にメイさんとセイさんが座り、メイさんが両手を合わせ「それでは皆さん、いただきます」と言うのに合わせ、あたし達も口をそろえて「いただきます」と言って、この世界に来てから最初の食事が始まった。
ちなみに、お兄ちゃんは利き腕の右腕が使えない(というか物理的に無い)から、右隣のハルカちゃんがいわゆる「あ~ん」をしてあげてる状態だ。
最初は姉妹皆で交代で食べさせてあげる案もあったのだが、ハルカちゃんが断固「アニぃの右腕の代わりになるのはアタシだから!!」と言ってそのポジションを譲らなかった。
最初出会った時はあんなにツンツンだったのに、ここまでデレてくれて、お姉ちゃん嬉しいよ…(あたしとハルカちゃんは生まれた時間の関係で三時間程あたしがお姉ちゃんになる)。
ツンデレ妹最高!
「ちょっとカズヒ、あんた何か変なこと考えてない?」
「ううん、そんなことないアルよ?」
「…ま、今更か」
ハルカちゃんがあたしにデレてくれるのはまだまだ先になりそう…
*
朝食を食べながら、あたし達はこれからの行動についての話し合いをすることになったのだが、その前にマコちゃん達から提案があった。
「兄さん、その前にボク達から一つだけいいですか?」
「ん?何だかこのパターン少し前にもあった気がするが、なんだ?」
「兄ちゃんに~、ボク達の新しい名前を付けて欲しいんだ~」
「あ~…、やっぱりそうきたか…」
サクヤ姉ちゃんの時と同じように、他の姉妹に前世と現世の名前があるのだから、自分達にも現世の新しい名前が欲しいのだという。
その理屈で言うならあたしだけ前世の名前が無くて何だか損した気分になってくる…
さて、サク姉ちゃんにサクヤと言う名前を付けたお兄ちゃんのことだからきっと、
「じゃ、じゃあ、マコはマコト、モカはモトカ、ってのはどうだ?」
案の定、シンプルな名前を提案した。
我が兄ながら、もっと名前は真剣に考えてあげなよと思わないではなかったが、当の本人達が、
「マコト…、うん、良い名前だと思います!
ありがとうございます、兄さん!」
「モトカ、か~、うん、シンプルでちょうどいいんじゃないかな~♪
ありがと~、兄ちゃん♪」
と満更でもなさそうだったので、特に口は挟まなかった。
「そうなるとあとは漢字表記ですわね。
カズヒさん、何かお二人に相応しい漢字はありますか?」
ふふん、来たね!
あたしが妄想の中でお兄ちゃんとの間に出来た子供の名前を無限に考え続けてきた日々がここで報われるってわけよ!
「ふっふっふ、任せてよ!あたしがバッチリな漢字を考えてあげる!」
「いや、というか俺は“真”と“素花”みたいなのを考えていたんだが…」
「ダメだよお兄ちゃん!」
「え、なんで!?」
「それだと名前に“陽”だったり“月”だったりが入ってないでしょ!?
せめて太陽の代わりに“日”くらいは入ってないと!」
「そうですわね、わたくしたち家族の名前の共通点、ですものね」
「ああ、なるほど、陽一兄さんに、一陽、一月、陽香、そして朔耶姉さん、確かに“陽”と“月”が名前に入ってるね」
「でも~、マコトとモトカって名前に、その法則を当てはめるの難しいんじゃない~?」
「漢字、どころか勉強全般が苦手なカズヒだけど、人名漢字に関しては無駄に知ってるみたいだから大丈夫よ」
「勉強全般苦手って、数学だけは得意なんだからね!?
というか、そういうハルカちゃんもあまり学校の成績良くないって聞いたよ!?」
「うぐっ…!?で、でも赤点だけは今まで取ったことないから!!」
「あたしだってギリギリ赤点回避してきてますー!」
「はいはい、後で二人ともわたくしと一緒に勉強いたしましょうね?」
「「はい」」
イツキちゃん、蒼白い炎を纏わせながらにっこり笑うのは卑怯だよ…
そんなん誰にも逆らえんやん…
さて、マコトとモトカ…
さすがに“陽”は使えそうにないけど、“日”ならばいけそうだ。
あとは二人は双子なわけだから…、
「うん、“洵心”と“心香”!
こんな感じでどう!?」
「“洵心”に、」
「“心香”…」
「うん、一応二人の名前には“日”の字が入ってるし、あとは双子の二人だから、二人に共通した字も入ってた方がいいかな~と思ったんだけど…、
ちょっと無理矢理すぎた、かな?」
「ううん、ボクはいいと思うよ!」
「カズヒちゃんがボクらのために一生懸命考えてくれた名前だからね~
ありがたく拝名いたしまする~」
「では、お二人の名前は今日から“藤原洵心”に“藤原心香”で決まりですわね」
「それじゃあ、名前が決まった所で、これからの話をしましょうか。
イッ君の右腕も早く治してあげなきゃいけないしね」
「そっ!そうだよ!アニぃの右腕!!
この世界に来れば治せるんだよね!?」
「研究所は自由に使っていいって話だったから、
“バイオヴァリアブルメタル”さえあれば兄さんの右腕はすぐ治せますよね?」
「ああ、その辺りも含めて、この世界でやるべきことを話し合って行こう」
朝食を終えたあたし達は、後片付けを手伝おうとしたあたしたちを制止したセイさんの心遣いに感謝しつつ、談話室にあるソファに座って今後の計画を話し合うことにした。




