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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第2章~ワールドシルヴァネア~
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第0話「少女の記憶」

 夢を見ていた。


 それは遠い過去の夢、()()()()()()()



 シルヴァサン歴8年、17歳だった私は、シルヴァ王国立学校ホクヨウ第1学園高等部を卒業後、科学者としてクルセイド研究所に入所した。

 クルセイド研究所は、当時の最先端科学技術の粋が集められた王国ナンバーワンの研究所であり、そこの所長は齢7歳にして“バイオヴァリアブルメタル”という、どんな人体とも拒絶反応を起こさず、腕や足はもとより、脳から心臓までありとあらゆる身体部位を作り出すことが出来、さらには体内に取り込んだカルシウムや鉄分などを使って自己修復、自己成長まで行うことで半永久的に使用できるという、まさに夢のような義体素材ナノメタルを発見した超天才科学者、ヨウ・クルセイド博士だ。


 私が研究所に入った時、ヨウ博士は14歳で、まだまだ幼さの残る見た目の少年だったが、私は一目見た瞬間に恋に落ちてしまった。

 私は、なんとか彼に自分に興味を持ってもらうために、ありとあらゆる努力をした。

 研究はもちろんだが、彼の身の回りの世話なども行っていた。

 その甲斐あってか、わずか一年という早さで彼の助手にまで上り詰めたのだが、私には最大にして難攻不落な恋のライバルがいた。



 それは、彼の三つ子の姉妹、マコちゃんとモカちゃんだった。

 ヨウ博士とマコちゃん、モカちゃんは二卵性の三つ子で、正真正銘血の繋がった兄妹だった。

 しかし、ヨウ博士は重度のシスコンであり、同時にマコちゃんとモカちゃんも重度のブラコンであったため、三人は誰がどう見ても相思相愛の家族だった。


 マコちゃんとモカちゃんはヨウ博士とは違って、ごく普通の女の子だったため、一般の国立学校に通っていた。

 三人の両親は、十年前に内臓を腐らせて死に至るという原因不明の流行り病で二人とも亡くなってしまっていた(この死がきっかけで、ヨウ博士は従来にない義体の作成方法の研究を始め、“バイオヴァリアブルメタル”を発見したという経緯がある)。

 そういう事情もあって、私は必然的に彼らのお姉さん的存在(母親というには歳が近すぎるからね)になっていて、いつの頃からか、彼らから私は彼女の“姉さん”になっていた。


 一人っ子だった私としては、可愛い弟や妹が出来て嬉しい反面、本物の姉ではない以上、ヨウ博士の愛が私に向かうことは無く(好かれていたという自覚はある)、男女関係に至ることも永遠にないのだということを思い知らされ、複雑な心境であった。



 話は少し変わる。

 ヨウ博士が“バイオヴァリアブルメタル”を発見した当時、それは医療技術の飛躍的な発展につながる画期的な発見として世界を騒がせ、シルヴァ王国ではそれを記念して、それまで使っていた暦をシルヴァ王国歴から、シルヴァサン歴に変更する程の歴史的な転換点となった。


 この“バイオヴァリアブルメタル”により、ヨウ博士の両親を死に追いやった流行り病に対する画期的な治療法(腐った内臓を“バイオヴァリアブルメタル”で新たに作り、移植手術を行うことで内臓の腐食をそれ以上起きないようにするという方法)が確立し、治療不能と言われていたその流行り病はわずか一年で根絶された。

 また、戦争で腕や足を失い、退役を余儀なくされた兵士たちの救済として、“バイオヴァリアブルメタル”で作った義手や義足を彼らに与えることで、軍役に復帰出来るようになるなど、医療分野においては目覚ましい発展がみられた。


 そして、その技術はやがて軍事利用されるようになっていく。

 “バイオヴァリアブルメタル”を使ったサイボーグ兵士の製造。

 

 最初は義手や義足を武装するというものだった。

 例えば、指の先から“バイオヴァリアブルメタル”で作った銃弾を出せるように改造した義手。

 “バイオヴァリアブルメタル”は体内に取り込んだカルシウムや鉄分などで欠損した部位を自己修復する機能があるため、銃弾は実質無尽蔵に補充できるのだ。

 

 身体の一部を改造しただけで、兵力は格段に上がった。

 ならば、より強力な兵士を生み出すために、全身をサイボーグ化したサイボーグ兵士を生み出そうと考えるようになるのは当然の帰結だろう。

 おまけに、“バイオヴァリアブルメタル”を使ったサイボーグ兵士は、その自己修復機能により、脳や心臓など生命維持に必要な部位を失わない限り、永遠に死ぬことのない永久機関なのだ。



 生命を繋ぐために発見された夢の義体素材ナノメタル“バイオヴァリアブルメタル”が、生命を奪うための戦争の道具へとなり果てるのに、一年もかからなかった。



 シルヴァサン歴10年、私が19歳でヨウ博士たちが16歳となった歳。


 シルヴァ王国は海を挟んだ西の大国、クレイヴァス帝国との戦争を始めた(後に第1次シルクレイ戦争と呼ばれるようになる)。

 大陸の約半分を支配していたクレイヴァス帝国にとって、極東のちっぽけな島国であるシルヴァ王国は取るに足らない相手となるハズだったが、世界中のどこよりも“バイオヴァリアブルメタル”の研究が進んでいたシルヴァ王国は、その最先端軍事技術により、数の不利をひっくり返し、互角以上の戦績を残していた。


 業を煮やしたクレイヴァス帝国は、今やシルヴァ王国の頭脳とも言うべきヨウ博士の暗殺を企むが、シルヴァ王国側も彼を失うわけにはいかないということで厳重な警備網が敷かれ、彼の暗殺は不可能と結論付けられた。

 それならばと、彼らはヨウ博士の肉親である姉妹、マコちゃんとモカちゃんを狙った。

 彼女たちは要人の肉親とはいえ、一般人にカテゴライズされる人種だったため、狙うならば彼女たちの方が確実だろうというのが帝国側の考えだったのだろう。


 事実、帝国側の目論見は成功し、彼らは2人を捕虜として拉致すると、彼女二人を盾にシルヴァ王国の降伏と、ヨウ博士を帝国に差し出すよう迫った。

 王国側は当然、その勧告を拒否した。

 その結果、捕虜となった二人は帝国兵士によってレイプされた挙句、激しい拷問にあうことになった。

 そして帝国はこともあろうに、その残忍で残虐で残酷な映像をヨウ博士個人の元に送ったのだ。


 帝国としては、その映像をヨウ博士に見せることで、博士個人を屈服させ、博士の知能だけでも帝国のものにしようと考えていたのだろうが、それが大きな間違いだった。

 

 

 その映像が送られてきた翌日、クレイヴァス帝国軍と、クレイヴァス皇帝一族は全滅させられた。

 たった一人、ヨウ博士の手によって。

 それも、核兵器などといった大規模破壊兵器で一気に殲滅したのではなく、己の肉体ただ一つで、物理的に一人一人、丁寧に余すことなく殺されたのだ。


 その目的はただ一つ、自分の愛した二人の妹を取り戻すため。

 そのためだけに、帝国の軍事力を壊滅に追い込み、事実上戦争を終わらせることとなった。



 捕虜となっていたマコちゃんとモカちゃんはヨウ博士の手によって救出されたが、その身体は無事とは言えなかった。

 二人はレイプされただけでなく、両手両足から一部の内臓に至るまで切り取られ、モカちゃんに至っては右目が摘出されるなどの酷いありさまで、生きているだけで奇跡な状態だった。

 

 帝国が結果的に新たな体制となって存続できたのは、二人が生きていたからに他ならない。

 二人が生きていたからこそ、被害は帝国軍と皇帝一族の全滅だけで済んだのだ。

 国を根こそぎ滅ぼすよりも、愛すべき妹二人を治療することの方が大事だったから。


 ヨウ博士は、救出した二人を“バイオヴァリアブルメタル”を使ってサイボーグに改造した。

 ヨウ博士としては、普通の女の子として元の生活に戻って欲しいというのが本音だったのだろうが、今後も自分の肉親として狙われる可能性を考え、最低限身を守れるだけの武装を装備したサイボーグ兵士として、二人は生まれ変わった。

 その際に、二人の記憶、帝国に拉致されレイプされ拷問された記憶を消し、二人は空爆に巻き込まれて瀕死の重体を追った結果、サイボーグ手術を受けた、ということにした。



 建物には一切の被害を出さず、単身敵陣に乗り込んで、たった一日で帝国軍数千人と皇帝一族数十人を皆殺しにしたその事実は世界中を震撼させた。

 そしてその事実は、ヨウ博士がシルヴァ王国側にすら提示していない、新たな戦略兵器の存在を示唆していた。

 当然、シルヴァ王国はその戦略兵器の提示を要求してきたが、博士はそれを頑なに拒否した。

 何故なら、その技術が開示されれば、世界の戦争は終わるどころか、全人類が一瞬で滅びかねない危険性を秘めていたからだ。


 

 それほどまでに強大な力を隠すため、また大切な妹二人をこれ以上戦争に巻き込まないために、ヨウ博士はキュウシュウ地区を独立させ、新たにキュウシュウ国を作ることを宣言した。

 当然シルヴァ王国としては、そんな宣言を認めるわけにはいかず、抗議を行ったのだが、妹二人のために帝国一つを滅ぼしかけたヨウ博士を止めることは出来なかった。



 結果的にキュウシュウは、たったの一夜で物理的に独立することとなった。

 驚くべきことに、キュウシュウの海岸線を囲うように、高さ1キロメートルにも及ぶ“バイオヴァリアブルメタル”による壁が、たったの一夜で作られたのだ、ヨウ博士の命と引き換えに。

 より正確に言うなら、ヨウ博士自身を“バイオヴァリアブルメタル”で巨大な壁へと改造したもの、それが“キュウシュウの壁”の正体だ。

 ヨウ博士は、自身の魂を捨て、意識をAI化した“キュウシュウの壁”となることで妹二人を守ろうとしたのだ。

 

 いくら傷つけようとも、自己修復機能により無限に再生され、おまけにその壁に外側から無許可で近づこうものなら、AIがその存在を感知し、壁から“バイオヴァリアブルメタル”で作られた砲弾が発射されるという防衛システムも兼ねたその壁は、キュウシュウを鉄壁の要塞都市とし、否応なくキュウシュウの独立を内外に認めさせるのだった。


 

 そして、キュウシュウは今後は“バイオヴァリアブルメタル”を使った医療技術の提供は行うものの、一切の軍事的技術の提供は行わず、また侵略目的による戦争の放棄と、シルヴァ王国からの独立を宣言し、キュウシュウ国として新たな国となった。



 私は、ヨウ博士の意思を継ぐために、キュウシュウ国の初代首相となり、国の法や制度を整備していくことになった。

 マコちゃんとモカちゃんは、別れも告げずに“キュウシュウの壁”と化したヨウ博士と一緒に自分たちも壁の一部となると言ってきかなかったが、それは博士の望むところではないと説得し、私の護衛役としてキュウシュウ国を守って行くことを約束してくれた。



 そんなある日、突然マコちゃんとモカちゃんが自分たちをコールドスリープさせて欲しいと言ってきた。

 訳を聞くと、夢のお告げで今から約130年後の世界に、ヨウ博士が転生してくるハズだから、それまで自分たちをコールドスリープさせて欲しいとのことだった。

 到底信じられないような話だったが、マコちゃんとモカちゃんが揃って同じ夢を見たということと、二人のあまりの真剣な表情に、私は頷くしかなかった。



 そうして私は二人をクルセイド研究所の地下にコールドスリープさせた。

 130年後の未来に、ヨウ博士とまた巡り合うその日まで…




 そして、130年の月日が経った今、まさかこの私までもが転生して新たな人生を歩むことになるとは予想だにしていなかった。



 しかも、()()()()()()()()()として、だなんて………

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