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シスターズアルカディア~転生姉妹とハーレム冒険奇譚~  作者: 藤本零二
第1章~ワールドフラワレス~
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第9話「エピローグと、新たな物語の始まり」

*


「んん…、ここ、は…?」



 アタシが目覚めると、そこは知らない天井だった。



「あ、目が覚めた、ハルカちゃん?」



 ひょいとアタシの目の前に顔を出したのは割烹着を着た女性、イツキの家でメイドをしている姉妹の妹の方、セイさんだった。



「えっと…、アタシ……?」


「大丈夫?自分のこと分かる?何があったか、覚えてる?」



 えっと…、アタシの名前は、ハルカ・スカイシー。

 それで、アタシはどうしてここにいるんだっけ…?

 確か、王国騎士団の本部でカオルに捕まって…、



「そっか…、アタシ、キメラに改造されちゃったんだっけ…」



 そう、もうアタシの身体は、普通の人間のそれじゃない…

 アタシはベッドから起き上がり、右手を見つめた。



「あ…、れ…?元に戻ってる…?」



 確か、ギラドの細胞を組み込まれたアタシの身体はギラド化し、全身を金色の鱗に覆われ、手からはかぎ爪が生えていて、それに翼や尻尾も…



「いや、違う…、元に戻ってるのは見た目だけだ。

 アタシの中には、ギラドの魔力が残ってる」



 魔獣化したせいか、今のアタシは魔力が感じられるようになっていた。

 意識を集中すると、アタシの中にギラドの魔力と、それを抑え込むもう一つの魔力を感じられた。



「この魔力は、アニぃの…?」



 無意識に、首に手を触れると、そこには首輪がはめられているのが分かった。


 そうだ、思い出した!

 アタシはアニぃの“使い魔”になったんだ!



「アニぃの、“使い魔”に……

 アニぃだけのものに……」



 途端に頬が熱くなるのを感じた。

 あれ?

 でも、そうなる前に、何かなかったっけ…?


 必死に記憶を思い出そうとしているアタシの耳に、セイさんの声が入ってくる。



「いやー、それにしてもびっくりしたよ~

 いきなり気を失った素っ裸のハルカちゃんと、全身血だらけで右腕無くなったヨウイチ君が家の中にワープしてきたんだもん、何事かと思ったよ~」


「全身血だらけで、右腕が……?」



 その言葉で脳内にフラッシュバックする記憶。

 魔力を封じる巨大な水の柱の中に閉じ込められ、必死に抵抗しようとするアタシの中のギラド。

 そして、ギラドが封じられた魔力を振り絞って出した『引力光線』は、アニぃの右腕に直撃し、アニぃの右腕を、破壊して………、



「あ…、ああああああああっ!!」



 アタシは両手で頭を抱えて叫んでいた。



「ちょっ、ハルカちゃん、大丈夫!?」


「ア、アタシがアニぃの…、アニぃの右腕を…っ!!

 アニぃをーーーーっ!!」


「落ち着いて、ハルカちゃん!

 大丈夫だから!ヨウイチ君は無事だからっ!!」


「一体何の騒ぎですか?」


「あ、お姉ちゃん!ハルカちゃんが!」



 そこへメイド服を着た女性、セイさんの姉であるメイさんが新たに部屋に入ってきた。



「全く、あなたが何か余計なことを言ったのではないですか?」


「え、い、いやー、どうだったかな~?」


「まぁ、いいです。

 ハルカ様、落ち着いて下さい。あなたのお兄様は無事です、わたくしが治療しました」


「無事…?アニぃは無事、なの…?」


「ええ。

 …と言っても、さすがに欠損した右腕の復元は不可能でしたが、それ以外の傷は全て元通りです。

 今、隣の部屋にいてちょうど目覚めたところです。

 お会いになられますか?」



 メイさんのセリフが終わる前に、アタシはベッドを飛び出し、部屋を出て隣の部屋へと駆け込んでいた。

 部屋に入ると、ベッドから起き上がっていたアニぃが、一瞬驚いたような顔をし、アタシの顔を見て安心したような表情を浮かべた。



「おぉ、ハルカか!良かった、目が覚めたんだな」



 アニぃは寝間着を着ていたが(後から気付いたが、アタシの着ているものと色違いのお揃いだった)、右腕が無くなってる証拠として、右袖だけが薄く空気だけしか入っていないのが一目で分かった。


 アタシはその現実に胸が苦しくなり、思わずアニぃに抱き付き、思いっきり泣き叫んでいた。



「アニぃいいいいっ!!

 ごめっ…、ごめんなさいっ!!

 アタシの、アタシのせいで…っ、腕…、腕があぁあああああっ!!

 うわぁああああああああああんっ!!」


「ちょっ、泣くなよハルカ。

 これはハルカのせいじゃないだろ?

 悪いのはギラドの意思で、ハルカをそんな身体にしたカオルが一番悪い」


「でも…っ、でもぉ……!」


「それに、右腕一本でハルカを助けられたんだから安いもんだろ?」


「アニぃ…」



 そう言ってニッと笑顔を見せてくれたアニぃ。

 ああ、敵わないな…

 アタシは、この人(アニぃ)を好きになって良かった。



「いや、まぁ、厳密にはハルカの中のギラドの魔力を抑え込んだだけで、ハルカの身体を完全に元に戻せたわけではないんだけども…」


「ううん、それこそ些細な問題だよ、アタシはこうして五体満足なんだし。

 それより、アニぃの右腕をなんとかする方法を、」


「ああ、それこそ問題ないさ、“バイオヴァリアブルメタル”で義手を簡単に作れるし」


「バイオ…、何て?」


「ん?…ああ、そうか、この世界にはない素材と技術だったな」


「え、ってことは別の世界の記憶が?」


「ああ、うっすらと、だけどな。

 さっき気を失っていた間に思い出した記憶なんだが、こことは違う、機械技術が発達し、人類同士の戦争が永遠に終わらない世界で、俺が発見した夢の物質“バイオヴァリアブルメタル”。

 どんな人体とも拒絶反応を起こさない、夢の義体素材ナノメタルで、それさえあれば失った身体はもちろん、臓器なんかも全て再生できる。

 おまけに体内に取り込んだカルシウムや鉄分などを使って自己修復、自己成長まで行い、半永久的に…、っと、話が難しすぎたか?」


「…へ?あ、ううん、大丈夫、大丈夫!」



 いきなり難しい話が始まったので、思わず目が点になっていたアタシ。

 詳しくは分からないけど、ともかくそのバイオなんとかっていう素材のある世界に行けば、アニぃの腕を治せるってことなんだよね!

 


「じゃあ、早くその世界に!」


「落ち着け、ハルカ!今の俺たちに、自由に世界を行き来する術はない。

 全てはヨミ次第ってとこだな」


「そ、そんな…

 じゃあ、それまではアタシがアニぃの右腕の代わりをするから!」


「ああ、じゃあ、頼むな!」


「うん!任せて!

 えっと、それからなんだけど…、その…、

 アタシはアニぃの、つ、“使い魔”になったんだよね?」


「ああ、そうするよりギラドの魔力を抑える方法が思い付かなかったんだ、ごめんな」


「ううん、全然気にしてないから!

 む、むしろ、アニぃの“使い魔”になれて、その…、ちょっと興奮して、じゃなくて嬉しいっていうか!」


「そうは言うが、“使い魔”ってのが何か理解しているのか?」


「詳しくは知らないけど、でもこれからはずっと、死ぬまでアニぃと一緒、ってことだよね?」


「まぁ、そんな感じかな。

 詳しい話は姉ちゃんやイツキ達が帰ってきてからにしよう。

 同じ“使い魔”にしちゃった姉ちゃんにも話しとかなきゃいけないしな」


「そっか、そうだよね」



 そうか、ビランテに取り込まれてしまったサク姉ぇも、アニぃの“使い魔”になったんだね。

 と、その時何処か遠くの方から大きな爆発音が聞こえてきた。



「なっ、何事!?」


「今の…、まさかイツキの仕業じゃないだろうな…?」


「ええ…、そんなまさか……」



 それからしばらくして、関門海峡の一部ごとカオルを蒸発させてきたというイツキ達が帰って来た。



「アタシ、ギラド化してた時、ずっとイツキの炎受け続けてたんだけど…」


「いや~、本当によく生きてたね、ハルカちゃん」


「イツキには絶対逆らわないでおこう…」




*


 ギラド化したカオルを倒したイツキたちが帰って来た。

 イツキとカズヒとサク姉ちゃんは、無事な俺とハルカの姿を見て泣いて喜んでくれた。


 皆が落ち着いたところで、色々と話しておかなければならないことを話した。

 ちなみに、服を着ていなかったサク姉ちゃんは、メイさんの寝間着を借りて着ていた(ただ、胸のサイズは姉ちゃんの方が少し大きかったため、少し苦しそうだ)。



 まず、俺の右腕に関してのこと。

 これは、こことは別の世界、機械技術の発達した世界に転移することが出来れば、そこで万能の義体素材ナノメタル“バイオヴァリアブルメタル”を使って、容易に義手を作れるということ。

 それを聞いて、イツキ達はすごく安心した表情を見せてくれた。


 それから、俺が使った“使い魔”契約術である『魔獣隷属術』と、俺の中の魔力の正体、そして“使い魔”のことについての説明を始めた。



「まず、俺の中の魔力のことだが、どうやら俺はいつかの前世で魔人だったことがあるらしい」


「お兄様が、魔人…!」


「ああ。だけど、その時の記憶はまだほとんど思い出せてないから、正直、俺がどんな魔人で何をしていたのか、までは分からない。

 ただ、その時の記憶のおかげで、俺の中には魔力が宿っていて、『魔獣隷属術』を使えた、ということだ」


「なるほど、分かりましたわ」


「例え、イッ君が前世で魔人であったとしても、私達の大切な家族であることに変わりはないわ」


「そうそう!」


「ありがとう、皆」


「それで、“使い魔”って言うのは、実際どういうものなの?」


「そうだな、基本的には魔獣を魔力で縛り、隷属させる術なんだが、姉ちゃんやハルカの場合は、中のビランテやギラドの魔力を俺の魔力で縛ることにより、

 それが結果的に力の暴走を抑えて、人としての意識を保てるようになっている、って感じかな。

 あと離れたところにいても、俺が『使い魔召喚術』を使えば、一瞬で俺の傍に召喚出来るというのが“使い魔”の特徴かな」


「召喚、」


「魔術…!」


「ただ、出来るのであれば二人のことは元の人間に戻したいと思ってるし、その方法が見つかれば、」


「あら、私はこのままでいいわよ?」


「え?」


「うん、アタシも、今のままでいい、かな」



 姉ちゃんとハルカは頬を染めながら、首に巻かれた使い魔としての証である“隷属輪(リング)”に触れながらそう答えた。



「い、いや、でも魔獣とのキメラなんて、」


「確かに、ずっと魔獣の姿というのなら困りものだけど、普段は普通の人間の姿でいられるのなら、別に不便は感じないしね」


「そ、それに、アニぃの“使い魔”っていうのも、結構いい感じだし…」


「いい感じって、どんな感じなの、ハルカちゃん?」



 カズヒが興味津々と言った感じでハルカに尋ねる。



「えっと…、何て言うか…、」


「イッ君がずっと私達の中にいる、って感じかな…」



 顔を真っ赤に染めて口ごもってしまったハルカに代わって、姉ちゃんが右手を頬に、左手でお腹をさすりながら答えた。



「う…、うらやまけしからんですわっ!!

 お兄様!!わたくしもお兄様の“使い魔”にしてくださいましっ!!」


「あ、あたしもあたしも!!」


「イツキもカズヒも落ち着け!!

 さすがに魔力を持たない人間を“使い魔”には出来ないよ」



 だが、魔力を持つ魔人を使役する術、つまり“奴隷”とするための術である『奴隷契約術』や、こことはまた違う異世界に存在する妖獣や亜人を“隷獣”として使役するための術、『隷獣契約魔術』というのは存在するが、今ここでその説明をしたところで意味はないだろう。



 とりあえず、今の俺達に関係することの話は終わった。

 後は、今回のキメラ実験に関する事件の詳細だが、これは今王国騎士団の人たちが調査してくれているようだ。

 とはいえ、首謀者であるカオルはイツキが文字通り跡形もなく蒸発させてしまったようなので、事件の詳細が明らかにされるかどうかは不明だ。


 

 と言うことまで話したところで、もう日も暮れてきており、そう言えば俺達は本来であれば今頃俺の祝勝パーティーやハルカの歓迎パーティーをすることになっていたことを思い出した。



「そういえば、パーティーはどうしようか?

 さすがに色々あって皆疲れてるだろうし、今日は、」


「いえ、サクお姉様も新たに家族に加わったことですし、お二人の歓迎パーティーだけはしておきませんと!」


「あ、その前に、私から一つだけお願いがあるんだけど…」


「あら、何ですの、お姉様?」


「えっと、私の名前のことなんだけど、せっかくだから、新しい名前を付けて欲しいかな~なんて思ってるんだけど…」


「新しい名前、ですの?」


「うん、だってイッ君もハルちゃんもイッちゃんも前世の名前があって、今の名前があるでしょ?

 だったら、私も前世の名前のサクじゃなくて、今の新しい名前が欲しいな~って」


「ああ、そういうことですか」


「だったら、アニぃが新しい名前考えてあげたら?」


「え、俺が?そんな急に言われてもな…」



 ん~…、名前…、サク姉ちゃんの新しい名前か…

 


「サク…、サクヤ…、朔耶、藤原朔耶、なんてのはどうかな?」


「サクヤ…」


「うん、朔っていうのは新月のこと。

 そして耶には、神秘的なイメージを表していて…、って、さすがに単純すぎるかな、もう少し考えさせて、」


「ううん、それでいい!

 私は、今から藤原朔耶、サクヤを名乗るわ!

 素敵な名前をありがとね、イッ君♪」



 そう言って、俺の頬にキスをする姉ちゃん。



「そういえば、お兄様達の世界では、名前にフラウ文字、えーっと、お兄様達の世界で言う所の漢字が使われているのですね」


「ん?ああ、そうだな。

 とはいえ、もちろん漢字じゃない名前もあるんだが」


「ふむ…、わたくし達もいずれはお兄様の妻としてお兄様の世界で暮らすとなると、わたくし達にも漢字の名前が必要になると、そうは思いませんか?」


「え…、いや、う~ん…、どうだろ?

 別にイツキのままでもいいとは思うが…」


「呼ぶときはそのままでも構いませんが、やはり公的書類などに名前を記すときは“藤原イツキ”では納まりが悪いですわ」


「そ、それならアタシも“藤原ハルカ”よりは、やっぱりフラウ文字、いや漢字だっけ、の方がいいかも」


「ん~、それなら別に俺が考えなくても、こっちにだって漢字、フラウ文字があるんだから二人の名前をそれっぽく、」


「あ、だったらあたし閃いたかも!」



 数学以外の成績が壊滅的なカズヒが閃いただと?



「ん~…、カズヒ、お前本当に大丈夫か?」


「あー、お兄ちゃん信用してないね、その顔?

 確かに漢字はあまり得意じゃないけど、いつかの時のために、人の名前だけは色々と考えてたんだから安心してよ!」


「あら、それならカズヒさんにお任せしてみましょうか?

 ちなみに、わたくしの名前を漢字にするとしたらどんな風になりますか?」


「ふっふっふ、イツキちゃんはね、ずばり一つの月とかいて、“一月(いつき)”ってのはどう!?」


「おおっ!?」



 意外とまともそうな意見出てきたぞ!?



「一つの月で“一月(いつき)”ですか。

 なるほど、一陽(かずひ)さんの対になるような名前で素敵ですわね!」


「でしょ、でしょ!?」


「じゃ、じゃあちなみにアタシのハルカは?」



 ハルカ、だと普通に考えたら“春香”みたいな漢字になりそうだが、はてさて妹様(カズヒ)の考えるハルカは如何様なものか。



「ハルカちゃんは~、太陽の香りと書いて、“陽香(はるか)”ちゃん!」


「“陽香(はるか)”…、思ってた以上にいい漢字だった」



 おお、“陽”を“はる”と読ませるとは、カズヒにしちゃ捻ったな。



「なるほど、私の名前、朔耶にも月が入っているし、太陽か月の文字が入っているのが、私達姉弟兄妹(きょうだい)の証っぽくていいわね」


「でっしょー!?どうよ、お兄ちゃん!!」



 カズヒがめっちゃドヤ顔してくる。

 そんな妹様(カズヒ)の頭を俺は「はいはい」と言いながら左手で撫でてやる。 



「さて、お姉様の新しい名前と、わたくし達の名前の漢字表記も決まったことですし、皆さん、これからパーティーのお時間ですわ!」


「おー!パーティー!パーティー!」


「まぁ、アタシは別に構わないけど、パーティーって何をするの?」


「そうですね、まずはお互いのことをよく知りたいなと考えております」


「それは確かにいい考えかも。

 とくにサク姉ぇとは今日が初めてだもんね」


「うんうん、あたしもお姉ちゃんのこといっぱい知りたい!!」


「ということで、皆で一緒にお風呂に入りましょう!」


「「「「はい?」」」」



 イツキの一言に、俺達は揃って素っ頓狂な声をあげるのだった。




*


 そんなこんなで俺達は今、大浴場にいる。



「やはりお互いのことをよく知るには、裸の付き合いが一番ですわ!」


「うんうん!!」



 メチャクチャ盛り上がっているのがイツキとカズヒ。



「うぅ…、やっぱり恥ずかしい…

 でも、アニぃの右腕の代わりになるって言ったし…、でもでも……」


「私も、イッ君と一緒のお風呂は子供の頃以来だわ…」



 緊張して恥ずかしがるハルカとサクヤ姉ちゃん。



 …にしても、四人とも本当にキレイで俺には勿体なさ過ぎる美少女たちだな~

 スタイルもバツグンだし。


 イツキとカズヒはもちろんだが、サクヤ姉ちゃんはさらに女性的な魅力にあふれた素晴らしい体つきをしている。

 後から聞いたところによると、なんとバストは驚異の95だという。

 イツキが90でカズヒが89と、とにかく巨乳揃いの姉妹の中で、ハルカだけは81と少し控えめだがそれでも十分に大きいサイズと言えるだろう。


 うん、本当に俺なんかには勿体なさ過ぎる美少女たちばかりだ…

 こんな素敵な姉妹たちが、まだあと七人もいるというのだから、俺はどれだけ前世で徳を積んだというのだろうか。 


 …よく考えてみれば、俺は前世で何度か人類だったり世界だったりを救ってきてるわ。

 なら、こんな美少女な姉妹たちを独り占めしたっていいよね!?

 シスコン万歳!!

 


「では、まずはお兄様のお身体を洗って差し上げましょう!

 利き腕が使えないお兄様はお身体を洗うのも大変でしょうから」


「そ、それならアタシがやる!!

 アニぃの右腕が治るまではアタシがアニぃの右腕の代わりになるって約束したんだから!」


「でしたらハルカさん、まずはご自身の身体に泡をつけて、それでお兄様の身体を洗って差し上げるのですわ♪」


「ええっ!?ア、アタシの身体でアニぃを洗うの!?」


「あらあら、それなら私も、ちょっと恥ずかしいけどやってあげたいわ」


「では、今日はハルカさんとお姉様のお二人にお任せしますわね」


「じゃあじゃあ、あたしはイツキちゃんの身体を洗ってあげる!」


「でしたら、カズヒさんはわたくしが♪」



 うん、姉妹達の仲が良いのも素晴らしいことだ。

 俺はハルカとサクヤ姉ちゃんに身を任せつつ、イツキとカズヒの仲睦まじいやり取りを眺めていた。

 天国はここにあったか…



「ん…、アニィ、気持ちいい…?」


「ふふ、イッ君のイッ君は素直、だね…、んん♪」


「あん、カズヒさん…、そこは…♪」


「ほほーう、イツキちゃんはここが気持ちいいのかな~♪」



 いや、天国かと思ったが、これ地獄だわ…

 俺の前やら後ろやらからこの世のものとは思えない柔らかくて弾力のある感触が…!!

 こんな状態でお預けなんて(姉妹全員が集まるまでは、そういうことはしないという姉妹協定が結ばれている)、理性がもたない…


 こんな時は素数だ、素数を数えよう。

 2、3、5、7、11、13…、



「むぅ…、イツキやカズヒもだけど、

 サク姉ぇは特におっぱい大きすぎてズルイ!」


「あら、ハルちゃんだって十分大きいと思うけど?」


「あんっ、ちょっ、サク姉ぇ、そこは…っ、んん…っ!!」


「気にしなくても、お兄様は胸の大きさで姉妹の優劣をつけたりはしませんわよ?」


「ああんっ!?ちょっ、イツキ、どこ触っ…、ッ!?!?」


「そうそう、お兄ちゃんは、姉妹のおっぱいが好きなんであって、巨乳が好きとか貧乳が好きとか、そういうレベルじゃないんだよね~」


「んんんーーーっ!?カ、カズヒまで…っ!

 ちょっ、やめ…っ、アニぃが見て…っ、るぅうんんんっ!?」



 そして俺は考えることをやめたのだった。

 



*


 身体の洗いっこが無事に(面白いくらいに感じてくれるハルカちゃんを全員で弄ってたら、とうとうハルカちゃんがブチ切れて暴れ出したりという事故はあったけど)終わって、あたし達は大きな湯船に全員で浸かっていた。


 あ!ここからは、何故か無の境地に至って放心状態にあるお兄ちゃんに代わって、あたし、カズヒがナレーションをお送りいたします!



 あたしの右隣りにイツキちゃん、左隣にサクヤお姉ちゃん、その隣にハルカちゃん、そしてハルカちゃんの左隣がお兄ちゃんという並びで湯船に浸かるあたしたち。

 落ち着いたところで、このお風呂パーティーを企画した張本人であるイツキちゃんが口を開いた。



「では、改めまして、ハルカさん、それからサクヤお姉様、ようこそ我が家へ、そして新しい家族として、これからよろしくお願いいたしますわ」


「う、うん、よろしく…」


「こちらこそよろしくお願いいたしますね」


「さて、ハルカさんに関しては、姉妹となる前からお付き合いがありましたから、お互いにある程度のことは知っておりますが、サクヤお姉様は今日が初めましてになります。

 なので、色々と順番が前後してしまったのですが、自己紹介などをしていきたいと思うのですが」


「そうね~、皆のことはある程度、カオルさんの実験施設の中で、彼が独り言を話していたのを聞いていて知ってはいるけど、より詳しく知りたいので、教えてもらってもいいかしら?」


「ええ、勿論ですわ、では、わたくしから…、」



 そうして、イツキちゃん、あたし、ハルカちゃん、そして最後にサクヤお姉ちゃんの順番で自己紹介が始まった(お兄ちゃんに関しては、皆が前世のことも含めて知っているからということで、自己紹介はカットされた)。

 その中で新たに判明したことと言えば、なんとあたし達全員の誕生日が同じ8月12日だったということだ。



「なんというか、物凄い奇跡ですわね…」


「むしろご都合主義?」


「誰のご都合主義なのよ…」


「確かに、双子のカズちゃんは当然としても、前世で双子だったイッちゃんやハルちゃん、そもそも歳が違う私も同じ日に生まれたっていうのは凄い奇跡よね。

 というか、もっと言えばイッ君が生まれ変わってもずっと同じ誕生日というのがとんでもないけど」


「そういや、そうだな…

 確かに、俺は前世でも現世でも誕生日はずっと8月12日だったな」


「わたくしは(イツキ)とルナの時は8月12日が誕生日ですが、それ以外の生まれ変わった人生では全部バラバラの日付が誕生日でしたわ」


「あ、そうか、イツキちゃんは生まれ変わった時の全部の記憶があるんだっけ?」


「それもまたとんでもないことだけどね…」


「ということは、他の姉妹も皆誕生日が同じ、という可能性もあるのでしょうか?」


「そうか!だとすれば今後姉妹を探し出す手がかりの一つとして、8月12日生まれの女の子を探せば、」


「どうやって女の子一人一人の誕生日を調べるって言うのよ?」


「あ、そうか」



 う~ん、いい方法だと思ったんだけどな。



「あ、あと、私気になってたんだけど…」


「なんですか、お姉様?」


「その、イッ君とカズちゃんは、他の転生している姉妹たちを探し出すために別の世界から転生、ううん、転移って言った方が正しいのかな、転移してきた、って話だけど」


「うん、そういう感じで合ってるよ」


「この世界に転生している姉妹は私とイッちゃんとハルちゃんの三人、ってことでいいのかな?」


「え~っと、どうなの、お兄ちゃん?」


「ん~…、ヨミが言うにはそうらしいけど…」


「そのヨミって子の存在も謎だけど、今はその子の正体に関しては知りようがないから置いておくとして、じゃあ、こことは別の世界、次の世界に行くためにはどうすればいいのかしら?」


「えーっと、それに関してもヨミってやつが、」


『次の世界へは明後日の朝、旅立つことになっておる』



 その時、突然、あたし達の目の前、ちょうど湯船の中央、ルナ王女の像の真ん前に、顔を隠した美少女ヨミちゃんが現れた。



「うわっ、急に出てきた!?」


「あら、いつぞやの夢でお会いして以来ですわね」


「あんたがヨミ…」


「あらあら、これはこれは初めまして、イッ君の姉のサクヤです。

 と言っても、あなたはもうとっくにご存知なのでしょうけど」


「ヨミか、ちょうどいいタイミングで現れたな」


『うむ、お主らがこの世界でやるべきことを全て終えたからな』


「やるべきこと、ってのは、この世界に転生した姉妹全員と再会できた、ってことか?」


『それプラスで、この世界での解決すべき問題を解決したからの』


「問題…、カオルさんが行っていたキメラ実験のことですか?」


『うむ。まぁ、厳密には完全に解決したと言うわけではないが、まぁ、当面の問題はない上に、お前さん達の管轄外になるからな』


「アタシ達の管轄外ってどういう意味?」


『文字通りの意味じゃよ。

 最早、その件はお前さん達が解決すべき問題ではなくなったということ。

 世界にはお前さん達以外にも多くの人間がおるのじゃぞ?

 何故全ての問題をお前さん達だけで解決せねばならないと思うのじゃ?』


「う~ん、確かにそれは正論かもだけど…」


『それよりもお前さん達は近い将来に復活する魔王ヤミを倒すという使命があるじゃろ。

 そちらの方が最優先されるべき問題じゃ』


「…まぁ、そういうことにしておこう。

 それで、明後日の朝旅立つ、というのはどういうことなんだ?

 俺達はどうすればいい?」


『何もしなくてよい』


「何も?」


『うむ。

 明後日の朝、お前さん達はこの屋敷ごと次の世界へ自動で旅立つことになっておる』


「屋敷ごと自動でって…、」


「そ、それは困りますわ!?」



 その時、突然イツキちゃんが立ち上がってヨミちゃんに掴みかからん勢いで突っかかっていった。



「ちょっ、イツキちゃん急にどうしたの!?」


「まさかイツキ、このタイミングになって別の世界に行くのが嫌になったの?」


「次の世界に行くのは構わないのですわ。

 問題は屋敷ごとという点なのです!」


「?それが何か問題あるの?

 むしろ屋敷ごと移動してくれるのなら、衣食住的には非常に助かるのでは?」


「深夜アニメの録画が出来なくなってしまうのが問題なのですわ!!」



 そういやイツキちゃんもアニメオタクだったんだ。

 今も深夜アニメを結構録画してたりしてて、特に今ドはまりしているのが『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したスライムは今度こそ本気出す』(略して『おとスラ』)っていうアニメだったっけ。



「は、はぁ!?アニメの録画ってどういう…!?」


「だって、カズヒさんやお兄様の話を聞く限り、世界が違えば放送しているアニメも違うようです。

 ということは、わたくし達の世界のアニメはわたくし達の世界でしか放送していないわけで、そうなると屋敷ごと転移してしまえば、この世界のアニメが見られなくなるし、録画も出来なくなってしまうということなのでは!?」


「いや、でもアンタが今ハマってるアニメ、『おとスラ』だっけ?

 あれ原作も全部持ってるんでしょ?だったらアニメくらい見られなくったって、」


「来週はアニメオリジナル回をやるんですのよ!!

 『おとスラ』ファンとして絶対に見逃せませんし、録画ミスも許されない回なのですわ!!」


「アニメオリジナル回か~、確かにそれなら見逃せないね~」


「あれ?でもイツキってアニメオリジナル回は認めない派じゃなかった?」


「ええ、基本はそのスタンスですが、原作者監修のアニオリ回であったり、原作が終わってないのにアニメで終わらせる必要があって、そのためにアニオリ展開で最終回を迎えなければならなかった、というようなパターンに限り認めてはいますわ」


「あ~、『ハガレン』とかね!」


「『ネギま!』もOAD版と原作とでマルチエンディング形式を取ってたな」


「お兄様達の世界のその二作品、物凄く気になりますわ!

 あとで詳しく教えてくださいませ!」


「いいよ~!あとであたし達の世界から原作とDVD取り寄せ(テレポートさせ)てみるね。

 まぁでも、アニオリ最終回は賛否両論あれど、原作の設定に限りなく寄せてくれた展開なら、原作とは違うアナザーエンディングって感じであたしも結構好きな方かな」


「さすがはカズヒさん、話が分かりますわね!」


「…あ~、なんか話が逸れてきたけど、つまり、来週の『おとスラ』が原作者監修のアニオリ回やるから、恐らく『おとスラ』が放送されていないであろう次の世界に屋敷ごと転移するのは都合が悪い、と」


「そういうことですわ」


「現代に目覚めたばかりでイマイチ話の内容に付いていけてないお姉ちゃんだけど、イッちゃんが屋敷ごと転移したくない理由はなんとなく分かったわ」


『…よもやそのような理由で屋敷ごとの転移を拒まれるとは、予想だにせんかったが、分かった、その辺に関してはなんとかしてみようぞ』


「なんとか、と言うと…?」


『要は、この世界の放送電波が次の世界でも入ればよいのであろう?

 その程度の便宜ならば図ってやろう』


「で、では次の世界に行っても『おとスラ』が…、」


『見られるし、録画も出来る』


「やりましたわーーーーーっ!!」


「あ!それならあたし達の世界のアニメも見られるようにしてよ!

 ついでにホークス戦とかも!」


『…仕方あるまい、お主らのモチベーションのためにもその程度の便宜は図ろう。

 お主らの個人部屋に備え付けておるテレビ、そのテレビに限りそれぞれの世界のテレビ番組が映るよう電波を調整しよう。

 その代わり談話室のテレビは転移した世界の番組を受信するようにするからな』


「「ありがとうヨミさん(ちゃん)!!」」



 あたしとイツキちゃんは揃ってヨミちゃんにお礼をした。



「いや、サラッとなんかスゴいこと言ってるんだけど、あんたにそんなことまで出来るの…?」


『我に出来ぬことはそんなにないからの』


「だったら魔王ヤミってのもあんたが倒したらいいんじゃないの?」


『出来るようであればお前さん達を【次元(ディメンション)航行者(トラベラー)】なんぞに任命したりはせぬ。

 出来ぬことはどう足掻いても出来ぬのじゃ。

 まぁ、そんなわけでじゃ、改めて言うが、明後日の朝にはこの屋敷は次の世界に転移しておる。

 明日一日は自由時間として、息抜きするなり、愛を深め合うなり、好きなことをして過ごすがよい』


「あ、ちょっ、待ちなさいよ!

 次に行く世界は、機械技術の発達した世界にして欲しいんだけど!

 その世界ならアニぃの義手を、」


『どの世界に行くかまでは我にも分からん。

 神のみぞ知る、じゃ……』


「はぁっ!?ちょっ、何よそれ!?どの世界に行くか分からないって、」



 ハルカちゃんがなおも文句を言おうとしていたが、ヨミちゃんは言うべきことは言ったとばかりに、さっさとその姿を消してしまった。



「どういうこと…って、ちょっ、待ちなさいよ!!」


「まぁまぁ落ち着いて、ハルちゃん」


「で、でもサク姉ぇ…、」


「気持ちは分かるけど、ヨミちゃんも言ってたじゃない?

 出来ないことはどうやっても出来ない、って。

 理屈は分からないけど、別の世界に転移は出来るけど、その行き先までは指定できないのなら、それに従うしかないじゃない?」


「そうですわ。悔しいですが、わたくし達にはどうにも出来ないことですし…」


「う、うん…、分かってる。分かってるけど…」



 ハルカちゃん、お兄ちゃんの腕の件でやっぱりかなり責任感じちゃってるみたいだな。

 無理もないけど、あれはハルカちゃんのせいじゃないし、むしろハルカちゃんも被害者なわけで。

 一番悪いのはあのカオルってやつで、そもそも魔獣や魔人なんてのがこの世界にやって来て侵略行為をしてるのが…、



「あれ?そう言えば魔人や魔獣って、別の世界の人間や生き物なんだよね?

 じゃあ、彼らはどうやってこの世界に来てるの?」


「ああ、それは、どうもパラレルワールドを行き来出来る魔術があるらしいのですわ」


「魔術…、だったらお兄ちゃんはどうにかしてその魔術使えないの?」


「ちょっ、カズヒ!無茶言わないで!

 人間の身体のアニぃが魔術を使うと、身体に反動がきて…!」


「わ、分かってるよ、ちょっと聞いてみただけで…」


「ん~…、身体への反動云々はとりあえず置いておくが、結論から言うと、今の俺にはまだ無理だな」


「今のイッ君には、っていうのはどういう意味?」


「えっと、実はまだ全ての記憶を取り戻したわけじゃなくて、魔術に関しては、姉ちゃんたちに施した『魔獣隷属術』に関する記憶は思い出したけど、

 それ以外の記憶はさっぱりで…

 あ、あと幼馴染の少女がいたってことくらいか」


「幼馴染の少女、ですか…」


「イッ、イツキちゃん!?」



 急に、イツキちゃんの周囲のお湯が氷になったかのような錯覚を覚えた。



「ああ、確か、モーナ・ギャランズっていう雷系の魔術を扱う子だったかな?

 ボクっ娘でクールな感じの子で、何故か俺のことを“兄や”って言って慕ってくれてたんだよな…

 あれは何でだったんだろう…って、イツキ!?」


「お兄様?まさか前世において、わたくし達姉妹以外の女の子に浮気なんてしていませんわよね?」


「うっ、浮気って!?

 いやいや、イツキ、そんなことするわけないだろ!?

 そもそも、俺自身2000年間ずっとシスコンを貫いてきたわけだし、姉妹以外の女の子にモテたこともないよ!!

 って自分で言ってて悲しくなってきたわ…」


「ですが、そのモーナという女の子には“兄や”と呼ばせていたのですよね?」


「いや、それは彼女が勝手にそう言ってただけで、実際には血の繋がりはなかったし…、そうだ…!思い出した!!

 俺が魔人だった時は、二つ年上の姉ちゃんがいて、俺たち三人はずっと家族みたいに育ってきたから、モーナは俺のことを“兄や”、姉ちゃんのことを“姉や”って呼んでたんだよ!」


「あら、それって私たちの関係と似ているわね」



 そこへ、お姉ちゃんがお兄ちゃんとイツキちゃんとの会話に割って入った。



「え?ああ、そう言えばそうかも…」


「それって、当時のもう一人の副団長ミラ・ターナーさんのこと?」


「ええ、私たちとミラちゃんは王国騎士団に入って知り合ったのだけど、ミラちゃんが私のことを“姉さま”って慕ってくれててね」


「それに、ボクっ娘で雷の使い手だったという点もそっくりだな…

 たださすがにミラは俺のことは“兄さま”とは言っていなかったけど」


「それと、多分だけど二人ともきっと…、」


「ん?何か言った姉ちゃん?」


「ううん、何でもないわよ?

 …と、イッ君はこんな感じだから、イッちゃんはそんなに気にしなくても大丈夫よ?」


「そのようですわね。

 お兄様のその鈍感さ、いえ重度のシスコンぶりは、我々姉妹からすると喜ぶべきなのでしょうが、

 周りの女性方に同情してしまいますわね…」


「だよね~」



 お兄ちゃんは姉妹以外の女の子に恋心を持てない人であると同時に、姉妹以外の女の子からの恋心に全く気付かないという困ったちゃんでもある。

 お兄ちゃんは自分がモテない男子だと頑なに信じ込んでいるが、あたしは知っている、元の世界でお兄ちゃんに恋心を抱いている女の子が実は何人かいて、そのあまりのシスコンぶりに諦めた女子が何人もいることを。

 そういえば、従妹のあの子、今頃どうしてるだろう…?

 あの子もお兄ちゃんのことを……


 なんてことを考えていたら、お風呂場の扉が開いてセイさんが顔を出した。



「お楽しみの所申し訳ないけど、もうすぐ夕御飯出来るから、そろそろ上がってくださいね~」


「分かりましたわ、セイさん、わざわざありがとうございます」



 そういえば色々あって時間の感覚がおかしくなってたけど、まだ夕御飯食べてなかったっけ。

 そう思った瞬間、あたしのお腹の虫が「ぐぅ~~」と鳴いた。



「ちょっ、どうせ鳴くならもうちょっと女の子らしく鳴いてよ!」


「あらあら、カズちゃんのお腹の方はもう限界みたいね」


「カズヒ、はしたないわよ?」


「まぁ、カズヒらしいけどな」


「あたしらしいってどういう意味よ、お兄ちゃん!?」


「うふふ、でもそんなカズヒさんもわたくしは大好きですわよ♪」



 そう言ってあたしの頬にキスをするイツキちゃん。

 あぁ、生きててよかった…!



「さ、皆で夕食を食べて、今夜と明日はゆっくり休みましょう。

 そして明後日、新たな姉妹を迎えに、新たな世界へと旅立ちましょう!」



 こうして、あたし達の一つ目での世界における波乱の冒険の幕は閉じるのであった。




*


 色んな事が起こった日の翌日、つまりは俺達が新しい世界へと旅立つ日の前日、俺達は特にすることもなくのんびりと過ごす…、というわけにもいかなかった。



 まず、事件の事後処理、と言っても俺達は騎士団員じゃないから、主に騎士団員からの事情聴取や、その後分かったことを聞かされる程度だったが、これに午前中が費やされた。


 事件の全容に関してだが、まず王国騎士団本部に残っていた実験資料などから、カオルが王国内の一部の実験施設(サウスダイリ地区にあった王国研究施設第2支部もその一つ)などを使って、様々な動物や魔獣を扱った合成獣キメラ実験を繰り返していたことが分かった。

 その目的は、カオルが言っていたように、魔獣や魔人に対抗するための兵器として、だったらしい。

 現状、この世界では呪いの影響で男子の出生率が著しく低く、そのためハーレム制度や女性同士で子供が作れるiPS細胞などの技術が進んでいるが、それでも精霊術師の数が一時期に比べて減少してきているらしい。

 精霊術師が減れば、それだけ魔人や魔獣に対抗できる人員が少なくなる。

 その問題を解消すべく、強力な合成獣キメラ生物兵器を生み出そうとしていたようだ。


 だが、動物同士の合成獣(キメラやでは、下等な魔獣相手にはなんとかなっても、上級クラスの魔獣や魔人相手には到底歯が立たない。

 そこで、魔獣の細胞を用いた合成獣キメラを作ろうとしたが、魔獣の細胞は普通の動物には適合せず、合成獣キメラの生成には至らなかった。

 そんな時に、偶然森の中で発見した休眠状態だったビランテ化したサクヤ姉ちゃんを発見したカオルは、サクヤ姉ちゃんをそのまま捕獲し、実験室に持ち帰り、サクヤ姉ちゃんの細胞を調べた結果、人間の細胞を取り込んだビランテ細胞を触媒にして、魔獣の細胞を動物に組み込めば、魔獣化した合成獣キメラが生み出せることを発見したのだ。


 そうして、魔獣化合成獣キメラの大量生産を行おうとしていたところで、サウスダイリ地区の研究施設のキメラギラドの暴走事故が起こり、挙句、俺との決闘で二人の婚約者(イツキとハルカ)を失い、おまけに他の婚約者たちの前で恥をかかされたと逆恨みまでしたカオルは、ハルカを合成獣キメラにし、最後は自らも合成獣キメラへと改造して、あっけなくイツキに文字通り蒸発させられてしまった、というのが王国騎士団の結論、らしい。

 らしいと言うのは、当の本人が死体すら残っていない状況だから、詳しい状況は状況証拠から推測するしかないからだ(そのことに関してイツキは「ですがわたくしは謝りませんわ」と強引に突っぱねた)。



 しかし、一つだけ最大の謎が残ってしまった。

 それは、ハルカが見たという“切断されたギラドの首”だ。

 その出自は、恐らく俺たちが1500年前に倒したギラドの首だろうと思われるのだが、その首を誰が回収し、何故現在まで保存されていたのかという点。

 そして、最大の問題は、その首が現場から()()()()()()()()、ということだ。

 ハルカが言うには、地下研究施設の床の下から巨大な試験管がせり上がってきて、その中に首が入っていたというのだが、地下研究施設の何処にもギラドの首の入った試験管は無かったらしい(当然、地下の地下にあった空間もくまなく捜索されたが、いくつかの空の試験管こそあれ、ギラドの首のギの字も見当たらなかったらしい)。

 同時に、王国中の研究施設も捜査の対象となってはいるが、そもそもギラドの首を保管出来る程の余裕があるような施設はそうそうなく、恐らくは見つからないだろうというのが王国騎士団の見解だった。

 


 わずか半日程度の調査でここまでのことが分かったというのは、さすがは王国騎士団と言うべきなのか、そもそも騎士団内でそんな物騒な実験が行われていたことに気付かなかったのはいかがなものなのか、とは思うが、そのトップが首謀者だったとあれば止む無しなのかもしれない。

 

 1500年前にギラドの首を回収し、保管していた者の正体やその目的、またその首の行方などの謎は残ってしまった。

 そもそも、本当にカオルが首謀者だったのか?

 ギラドの首をカオルに提供した者がいるのならば、そいつが今回の事件の真の首謀者で、首を持ち去った張本人なのではないか、という疑問は残るが、ヨミ曰く『当面の問題はない上に、お前さん達の管轄外になる』とのことなので、今俺達がどうこう頭を悩ませたところで、それは意味がないことなのだろう。

 釈然とはしないが、明日には旅立つ身である故に、どうしようもないことだ。



 それから、ハルカと姉ちゃんの件。

 ハルカと姉ちゃんが合成獣キメラであるという点は王国騎士団の中だけでの機密扱いとなり、今回の事件で王国騎士団本部からミハギノエリアにかけて破壊の限りを尽くしたのは、カオルの作り出した合成獣キメラ生物だったということになり、その合成獣キメラは騎士団員により処分された、と公式に発表された。

 これにより、姉ちゃんはもとより、ハルカの器物損壊罪もなくなり、無罪放免ということになった。


 そして、ハルカは騎士団を辞めることを団員たちに告げた。

 理由はもちろん、明日にはこの世界からいなくなるからだ。

 当然、騎士団員からは不満の声も上がったが、「アニぃの右腕であるアタシがアニぃの傍にいないでどうするんだ!」という一言で、反対の声を押し切った。


 イツキに関してはそもそもが予備騎士という扱いだったので、特に問題なくその役目を辞退した。



 そんなこんなで、二人の退団処理の手続きやらに午後の時間が費やされ、気が付けばもう一日が終わろうとしていた。

 ちなみに、特に事後処理の必要のなかったカズヒと姉ちゃんは、午後の時間を使ってダイリ地区の“黒島(くろしま)”へ行き、姉ちゃんの下着や服(姉ちゃんは主に和服を好んで着るため、ほとんどが和服だった)を買ってきていた。


 

 というわけで、いよいよ次の朝、目覚めれば俺達は新しい世界に旅立っている、というわけだ。

 次の世界はどんな世界で、どんな“姉妹”が俺達を待っているのだろうか?


 

 11人の“姉妹”を集め、魔王ヤミを倒すための旅路は、まだ始まったばかりだ。

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