壮大な愛の物語
フザケすぎちゃった(*ノω・*)テヘ
広~~~い心で読んでくださると嬉しいなぁd(`・∀・)b
「どう?」
「ええ、とても美味しいわ」
「良かった。偶然見つけたんだけど、当たりだったね」
「偶然なの?」
「そう、偶然。本命はディナーだったんだ」
「あなたってスイーツを見つける才能があるんだわ。だって、先週もあなたが見つけたでしょ? マカロン、本当に美味しかったもの」
「君に喜んでもらえて光栄だよ、ローズ」
彼女の頬についたクリームを指で拭いながら、僕はこの一時に幸せを感じていた。
ローズに褒められたように、僕は食のスペシャリストだと自負している。有名店はもちろんだけど、あまり知られていない穴場を発掘するのが得意なんだ。先週のマカロンも、自慢の健脚で探し当てた穴場スポットだった。ローズにだけこっそり教えてあげたかったんだけど、僕は巷ではちょっとした有名人でさ。僕の来店の噂が広まって、あっという間に満席になってしまった。
ローズにたっぷりと堪能させてあげられなかったリベンジを、今夜出来ているといいのだけれど。
「ねえ、ジャック、見て! あんなに流れ星が! 今夜は流星群が見れるって情報あったかしら?」
「いや、そんな話は聞いていないけど」
ローズの示した夜空に、確かに無数の星が放物線を描きながら流れていた。キラキラと色取り取りに煌めきながら落ちていく流れ星はとても幻想的で美しいが、流星群にしてもこの数は異常だ。
「ローズ。避難しよう」
「え? どうして?」
「これはただの星降りじゃない。気休めにしかならないかもしれないけど、高台へ避難した方が良さそうだ」
「待って。ただの星降りじゃないって――」
ローズが訊いた、露の間。
今の今まで降り注いでいた星々とは比べ物にならないほどにでかい、大きな大きな満月級の火球が地平線に落ちた。
走り抜けた衝撃と轟音に、僕はとっさにローズに覆い被さった。
「きゃああああああああ!!」
腕の中で悲鳴を上げるローズの甲高い声さえ掻き消すほどの粉砕力。僕は愕然と、次々に投下される爆弾よろしく落ちてくる火球を見つめた。
今夜こそはローズと甘い夜を過ごせると思っていたのに。
これは、この世の終末なのか。
「ローズ! 逃げるぞ!」
怯えて泣いているローズの手を掴んだ時、逃げ惑う人々の波に押されてローズと引き離されてしまった。
「ジャック!!」
「ローズ!!」
流れに逆らって人を掻き分け、必死に手を伸ばす。もう少し、あともう少し……!
「ジャック!!」
「ああ、ローズ……!!」
互いに懸命に伸ばした手を捕まえ、ローズを強く強く抱き寄せた。
「ジャック、もう離さないで……!」
「離すものか!」
そう、二度と離さない。例えこの瞬間がこの世の終末なのだとしても、最愛の女性と共に朽ち果てるのなら本望だ。
僕は縋るローズを抱いて雑踏から遠ざかった。天から落ちる巨大な火球が明々と夜空を照らしている。不思議と直前まで感じていた恐怖はもうなかった。最愛の女性を腕に抱き、過るのは彼女が愛おしいという想いだけ。
最期にローズの傍に居られるのなら、これ以上幸せな終わり方はないだろう。
恐ろしいだけだった火球が、まるで僕らを祝福する福音のように思えた。
「ローズ……君を愛してる」
「ジャック……?」
「こんな時にすまない。でも、ちゃんと伝えていなかったと思って。僕は君と出会えて幸せだった。君の美味しそうに食べている姿を見るのが好きだった。これからもずっと、僕は君だけを愛している。最期の瞬間を君と過ごせて、僕は幸せだ」
「ジャック……わ、私も、私もあなたを愛しているわ。あなたが話してくれるたくさんの経験談に、いつもワクワクしていたの。まるで私も一緒に冒険をしているようで、本当に楽しかった。これからも愛するあなたと共にいられるのなら、これが最期でも構わないわ」
「ローズ……」
「ジャック……」
明々と照らされながら、僕らは口付けを交わした。最初で最後の、とても幸福な口付けだった。
◇◇◇
「――っていう、壮大な愛の物語が繰り広げられてるのかな」
落としたアイスに群がる蟻を眺めながら、妹がそんなことを言い出した。
オレは最後の線香花火の火がぽとりと地面に落ちたのを見届けてから、水を張ったバケツにポイと捨てる。
「まあ確かに蟻にとってススキ花火は流星群に見えなくもないかもな。線香花火の牡丹だって、落ちれば火球のように見えるかもしれない」
「でしょ? きっと蟻目線だと天変地異に見えると思うんだよね」
「先週のマカロンを蟻にやられたこと、まだ根に持ってるのか」
食べようと冷蔵庫から出したマカロンを放置して、突如襲った腹痛でトイレに駆け込んだ妹は、スッキリした顔で戻ってきた直後、絶叫したのだ。ラズベリーのマカロンに群がる蟻の大群に。
「チョコ味じゃなくて良かったじゃないか。保護色化して気づかないまま食べるよりマシだろ」
「チョコレートマカロンを食べられなくなりそうな発言は止めてくれないかな!」
おっと。それは失敬。
「でも何で壮大な愛の物語なんだ?」
「災害とロマンスは映画の基本でしょ」
「そうか?」
「そうよ」
「ふ~ん。でもな、妹よ。お前は二つ勘違いをしている」
「勘違いって?」
「キャストの名付けから察するに、お前は氷山にぶつかって沈没した豪華客船の映画を真似ているんだろうけど、生憎とここは地上だ。どこにも氷山や豪華客船はない」
「バケツの水が海原で、浸けてある花火の残骸が氷山だよ」
なるほど。理屈は通るか。やるな妹。
「豪華客船はどれだ」
「……………バケツ?」
「……………」
妹よ。それじゃすでに最初から沈没していることにならないか。しかも地上で。氷山も船内に発生している不可思議現象はどう説明する気でいるんだ。
「あとの一つは?」
そうか、矛盾を完全に無視する気だな。嫌いじゃないぞ。
「お兄ちゃん? あとの一つは何よ」
「働き蟻はな、雌しかいないんだ」
「え?」
「ローズはいるかもしれないが、ジャックは存在しない。つまり、壮大な愛の物語は不成立だ」
「……ジャ―――――ック!!」
―――――了。
お、怒らないで~~~っっ