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植物の世界  作者: 遠野悠
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はじまり1

 葉っぱの間から差し込む光が顔にかかりテガウはゆっくりと目を開いた。清々しい朝だ。


「着替えるか……」


 今日から新しい生活が始まろうとしていた。テガウは今日から新しい高校に入学することになっていた。今日になるまであまり実感がわかなかったが、鏡に映った制服姿の自分を見るとそわそわしてきた。期待半分不安半分といったところだろうか。


 テガウには昔からもち続けている一つの夢があった。それはプランツプロフェッショナルの称号をとること。それは世界に数えるほどしかいない資格を持った人物で、数ある植物の資格の最上位にあたる。


 プランツプロフェッショナルとは、人類の先駆者となった人物に贈られる称号だった。ある者は植物を使って自動車を作った。また、ある者は難病といわれていた病気を治す成分を植物から発見した。そういった偉大な人物の一人にテガウもなりたいと思っているのだ。プランツプロフェッショナルとなった人物はこれまで百人といない。


 そのための第一歩がプランツスクールへの入学だった。プランツスクールは過去に十名の植物プロフェッショナルを輩出している名門校だ。


 それだけ優秀な学校だということを意味している。もちろんそこを目指している学生は多いため、難易度はかなり高い。テガウは猛勉強をして、なんとかプランツスクールに合格できたのだった。


「テガウ、朝ご飯できてるわよ。今日入学式でしょ?」


 試験のことを思い出していると、下から母親の声が聞こえた。そうだ、急がなくては遅刻してしまう。入学式に遅刻するなどプランツスクールの生徒としてありえないことだ。テガウは慌てて階段を降りる。


「テガウも今年一六歳になるのか。ときが経つのは早いもんだ」

 席に着くと先に朝食を食べていた父親が話しかけてきた。


「高校での生活はあっという間だ。できるだけ多くのことを吸収するんだぞ」

「わかってるよ。俺には植物プロフェッショナルになる夢があるから」

「おう、夢は大きいほうがいい。頑張れ!」


 父親も昔植物プロフェッショナルになりたかったそうだ。だから、成し遂げられなかった父親のためにも頑張ろうとテガウは思った。


「それじゃ、行ってくる」


 テガウは庭に植わっているたくさんの植物にそういい残し、走って家を飛び出した。道路は草で覆われていて緑色をしている。草はすべてが均一に整えられていて、毎日草を均一に整えている職人の腕の良さがわかる。昔の人は整備していない草道を歩くのにかなり苦労したらしい。踏みしめるたびに草独特の香りがするのもいつもの光景だった。全てがもう見慣れた光景だ。



「……でかい」


 テガウが通う学校はかなりの大きさだった。学校を支えている木はかなりの太さだ。何度も見ているがやはりその大きさに圧倒されてしまう。周りの学生も同じように圧倒されている。


「新入生はこちらへ向かってください」


 ふといい香りがしたためそちらを向いてみると、教員らしき人物が大きな花を持って新入生を案内していた。香りの正体はあの大きな花であろう。おそらく自分に注目させるために持っているのだ。テガウは興味をそそられてその教員らしき人物に話しかける。


「すみません、それはなんていう花なんですか? トレイス草の香りに似ているなあと思ったんですが」

「うん、これはここで生みだされた花なんだ。多くの人を引き付ける香りを出す。それにしてもよく勉強しているね。この花はトレイス草を改良して作られたものだ」


 教員に褒められてテガウは嬉しくなった。


「私は植物実験を担当しているチオドアという。君みたいな真面目な学生には期待しているよ」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします!」


 テガウはお礼を言ってチオドアと別れ歩き出す。たくさんの教員に認めてもらえるよう、テガウはますます頑張ろうと思った。



「――でさ、うん」

「…………」

「わかってくれる? そうなの。もー緊張しちゃうんだよね」

「…………えと」


 テガウは目の前の光景を見て反応に困った。これはどうすればいいのだろう。


 チオドアに示された方向に歩いているときのことだ。道端から声が聞こえたため何気なく意識をそちらに向けると、そこには地面に咲いている小さな花に向かってなにやら楽し気に話しかけている少女がいた。笑顔を浮かべたり不安そうになったり。まるでその花と会話しているようだ。道を歩く学生は奇異な視線を少女に向けていた。テガウは見なかったことにして歩き出そうかと思ったが、なぜだか興味をそそられて少女をじっと見つめる。


 髪を後ろで結んでいる少女は見た限りどこにでもいそうな普通の女子生徒だ。

 今日この時間にここにいるということはテガウと同じ新入生だろう。


「あ、もうこんな時間だ。そろそろ行かな――」

「あ」


 立ち上がろうとした少女とばっちり目があってしまった。テガウがどう話しかけようか迷っていると、

「えっと、その……あーっと」


 少女は顔を赤くして言葉にならない言葉を発している。


「えっと……見ました、か?」

「んと」


 少女はテガウの様子をちらちら窺いながら話しかけてきた。テガウはますます反応に困る。


「その、私入学式で学生代表の挨拶があるのでその練習をしてたんです」

「は、はぁ」

「だから、そのあの――見なかったことにして下さい!」


 少女はテガウの言葉を待つ前に駆け足で行ってしまった。テガウは茫然としながら少女が挨拶の練習をしていたという花を見つめる。とても練習をしていたようには見えなかった。


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