第90話 荒れる会議室、『勇教国家』
「会議中失礼いたします!王都ガルディア郊外の森林にて大規模戦闘の痕跡を斥候部隊が発見いたしました!それだけではなく昨夜未明、森林奥地にて未確認の巨塔も確認されております、いかがなさいますか陛下!」
早朝から慌ただしくなる王城会議室。ガルディア王をはじめとする各大臣、それに騎士団長、都市の守備隊長、そして冒険者ギルドから副所長が集まっていた。
ギルド所長であったアインズ・サリヴァーンは混乱を招かないために『クエスト失敗による戦死』と王都ガルディアに属する冒険者たちには通達されているが、この会議室にいる重役たちには既にことのあらましから全て通達済みである。
朝日が昇り始めると同時に会議は始まり、王都在住の住民の混乱を最小限に食い止めること、一時的な流通麻痺が懸念されるために貧困層へ炊き出しなど行うことなど最低限できることをまとめていた。
その会議中に駆け込んできたのはちょうど森林側を目視にて警戒していた守備隊の班長である。
その守備隊からの報告に一気にざわつく会議だったが、王が一度咳払いをして場を収めるとともに発言する。
「ふむ、よく伝えてくれた。だが案ずることはない、今まで通りの警戒任務にあたっていてくれて構わぬ。
…おそらくだが、その戦闘は既に終結どころか魔物一匹たりとも生存しておらぬだろうな。どうだ?」
「…ハッ、陛下のおっしゃる通りです。木々が破壊されていたり、地面がおそらく魔法だと思われる衝撃で窪んでいたりなどの程度はあった模様ですが、被害として言えるのはその程度かと。それどころか魔物の死体がひとかけらさえも見つからなかった、との報告が上がっております」
「それは少々見過ごせないですね。魔物の出現数によっては変わりますが、我が国にとってはある意味で一番の損害ともいるかもしれません。その斥候の見立てではどの程度の数と?」
「ハッ…それなのですが、にわかには信じがたいのですが…数十程度では収まらない、とのことです。少なく見積もっても2~300、それもBランク以上の魔物の足跡が確認された、と。
その大群ともいえる魔物の軍勢を退けた者を捜索、及び拘束して王城へ連行し事情聴取に当たるのが得策化と存じ上げますが、いかがなさいますか?」
「ばっ、馬鹿者!そのような愚行できるわけがない!仮にそういう行動を軽々しくとってみよ、彼はこの国を…いや、この王都を滅ぼすかもしれぬのだぞ!」
「は?『彼』とは一体誰のことを指しているのでしょうか、陛下?まさかただの冒険者風情が我ら守備隊でも抑えられぬとでも申されるのですか?さすがに過大評価しすぎなのでは?」
ガルディア王が不用心に『彼』と発言してしまったためにさらにざわざわとしてしまう会議室。
会議に参加している大臣、そして守備隊長はあからさまに憤慨しているが、王が示す『彼』に心当たりのある騎士団長は顔を青ざめ、王自身も冷や汗を流していた。
2人の脳裏に浮かんだ共通の人物、それは当然ナナシであった。
「と、とにかく連行はおろか捜索も断じて許さぬ。その話はこれで打ち切りとする、次に塔についての報告を頼む」
「何か腑に落ちませんが…わかりました。突如現れた巨塔ですが、斥候曰く『どこからも侵入経路が見当たらない。窓すらも存在しなかった』とのことです。
用途不明、存在理由も出現した条件も不明。少なくとも先ほど報告しました大規模戦闘とは何かしらの関連があると思われる、とのことでした。戦闘痕がその塔に向かって続いていたことから無関係ではないだろう、と」
「そうか…ではここは魔物の専門ともいえる冒険者ギルド側からの見解を求めることとしよう。
今の報告を聞いてどう思ったか、それと何か聞きかじったことでも構わぬ、副所長頼む」
「は、はい…ええと、報告の通りその謎の塔との関連性は極めて高いと思います。
ただここで疑問があるとすれば、その数百はくだらない軍勢をどこからかき集めたのか?そしてそれをどのようにそこまで誰にも気づかれず輸送してきたのか?という点です。
私はあくまでも冒険者、対人・対国家における戦術は皆無であるため予測にしか過ぎないのですが、冒険者の視点から申し上げますとおそらく『魔物使い』…つまり何者かにテイムされていたのではないか、と思います」
「なるほどテイマーか…だがもしテイマーだとして、そのような大規模ともいえる数をテイム、従えるなど可能なのか?それも説明できるか?」
「結論を申し上げますと、その数全てをテイムし使役するのは不可能だと思われます。
あくまでも可能性ですが…圧倒的上位者、つまり何か強力な個体をテイムし、間接的に多数を従えていたのではないかと…それならば理論上は可能ではあります」
「王よ、疑問がございます。副所長殿が申し上げたことが事実であるならば、それは他国もしくはこの国に何かしらの不利益をもたらそうとする第三者の明らかな敵対行為と捉えることができてしまいます。
できうる限りの善政を敷き、隣接国家とは友好関係を築き続けた我が国を攻める国など存在するのでしょうか?その点を踏まえたうえで王の見解を求めます」
「なに、とてもわかりやすいではないか?我が国が掲げている方針で一つだけ、明らかに敵対されてもおかしくない物があるではないか。
…『勇者支援を行わない』、つまり勇者第一のあの国だと儂は考えている。むしろそれ以外考えられぬ」
「『あの国』…勇教国家『レジェンディア』ですか…確かにそれならば強力な魔物くらいテイムできてもおかしくはないし、『勇者支援』を認めさせる為に力押ししてきても違和感はないですね」
勇教国家『レジェンディア』…世界で初めて勇者召喚を成功させ、その勇者の力を利用し世界で魔族及び魔物を退けることを強要してきた国である。
勇者至上主義ともいえる国家体制で、勇者支援を拒否した国を滅亡まで追い込むことも歴史上で幾度も行ってきた。
現在でも示威行為は行われているが、国を直接攻め滅ぼしたりは少なくとも数年間はしてきていなかった。
勇者否定国家はガルディア以外にもいくつか存在するが、この世界の人類とはかけ離れた戦闘力を誇る勇者複数を抱えているレジェンディア相手に戦争を起こそうとはさすがに思えず、少ない食料や国家予算の数パーセントをレジェンディアに送り付けることで事なきを得ていた。
ガルディアだけは周囲を友好国で固めており、直接被害を受けないようにしているため堂々と『反勇者国家』を宣言している。




