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ナナシの使い(仮)  作者: りふれいん
第四章 それぞれの決意と失踪
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第89話 尋問(物理)、消えた真実

「そういえば旦那様、何やら戦闘があったとサラが言っておりましたがそちらは問題なかったのですか?旦那様であれば問題ないとはいえ、連れて行った者たちでは相当手に余る強さの気配をしておりましたが…」


「そ、そうだぞ主。我と同種のような気配がしていた。…だがその反面生命力は感じなかった。一体何と戦ったのだ?龍種であることはおそらく間違いないと思うが…」


「ああ、そういえばドラゴンゾンビがいたな。俺以外のメンツで戦わせて勝っていたな。…俺は俺でその召喚者、それと協力者の制圧に向かってたんだがな…」


「そこでマスターが神力に覚醒した、ということですね。ドラゴンゾンビとの戦闘についてはクラウあたりに聞くとして、マスターは追跡した先でどのような戦闘を?」


「うーん、それなんだが…『決着はついたがつかなかった』、って言っても伝わらないよな。

 まぁわかりやすく言うなら話ができる程度まで弱らせたんだが、質問を投げかけた直後に苦しみだして…そのままお陀仏だ」





 強靭な肉体、鋭い爪を振り回してナナシに襲い掛かる獣人だったが、如何せん既に理性を失っているため、攻撃を当てるどころかかすりもしない、ただ暴れるだけのケモノになってしまっていた。

 だがそこはナナシ、どんな攻撃が来ても捌く。避ける。受け流す。自分でも驚くほど正確に、そして確実に。

 『これも自分の知らない記憶の一部なんだろうな』と内心複雑な気持ちで。


 ナナシは魔法で気絶、もしくは戦意喪失させようとして何度か低級魔法を限界まで『手加減』して当てていくも一切ひるまず向かってくる獣人にてこずっていた。

 その獣人の後ろでは既に恐慌状態に陥りガクガク震えるだけの奴隷商人もいる。そちらは逆に死なないように結界で覆っていた。



「グウウウ…ゴロズ!!ミナゴロジダ!!」


「チッ、完全に理性を失ってやがるな…。全力で手加減してるとはいえ、魔法を食らっても無視して突っ込んでくるのはただただ面倒臭いな…っと。【炎の弾丸(ファイアバレット)】…毛皮が少し焦げただけか」


「コンナモノキカヌゾ!ワレコソガサイキョウナノダ!」


「ふー…仕方ないな、ぶん殴るしかねぇか。ん-、どう殴るか?ただ殴るだけじゃすぐ向かってくるだろうし…アレで行くか」



 喋りながら高速で移動し、あえて大げさに回避、バックステップで距離をとる。

 右半身を後ろに、左手を掌底の形で前に向け、前後に足を開いて右手を握りしめ、脇を締める。

 その体勢のままナナシは【魔力操作】を発動、右こぶしに対し薄い魔力の膜を幾重にも重ねていく。それはまるでボクシンググローブを形どるように。



「こんなもんでどうかな?さて獣人君、先に言っとくが骨を何本か折らせてもらうぞ?それと結構いてぇからな、諦めて気絶してくれ。…ハッ!」


「グゥ!?ガハッ…」



 野生の本能か、瞬時に脅威を感じ取り防御姿勢をとる獣人。…だったが、ナナシはあえてその防御の上から捻りをつけつつ拳を真っ直ぐに突き出す。螺旋の勢いも付き、貫通力を高めたそのパンチは防御としてクロスで構えられていた両腕の骨を砕き、衝撃波で肋骨を折り、各種臓器を痙攣させた。

 痙攣した臓器は一時的にマヒ状態に陥り、強靭な肉体となっている獣人の身体を内側から行動不能にする。

 ものの数秒とはいえ、心臓でさえもマヒ状態に陥ったために即座に獣人の意識を刈り取ることに成功したのだった。


 恐慌状態になっている奴隷商人も(物理的に)落ち着かせ、そのうち使うだろうと買っておいたロープで2人を縛り、行動の自由を封じていく。

 そして縛り終えて話を聞こうと2人を(物理的に)起こし、尋問していく。


 だが、そうは問屋が卸さなかった。



「よう、気分はどうだ?…って言っても骨は折れてるだろうから力も入らねぇはずだ。無駄に暴れて自分を痛めつけるなんてこともしなくていいだろうから、俺からの質問にサクッと答えてもらいたいんだが」


「俺たちが話すことなんてなに、も……うぐあぁぁぁ!?」


「なっ!?おいどうした!…これは、呪い?捕まっても何も話させないための…くそっ!

 奴隷商人の方は…既に死んでいたか。胸糞悪い…一体誰がこんなもんを?…駄目だ、俺一人じゃさすがに解決できそうにない。

 …それと、俺の身体から出てる『コレ』もどうにかしないといけないな」



 奴隷商人が恐慌状態に陥っていた原因は、ナナシが無意識的に発していた『神力』による威圧感だった。

 ある程度強い意志力があれば耐えることができるとはいえ、戦闘力その他が一般人同等である奴隷商人には到底耐えられるようなシロモノではなかった。

 獣人は強靭な肉体、そして戦士として生きてきた年数もある。そのうえでただ暴れるだけの存在となっていたため威圧感を無視して戦いに挑んでいた。もし理性が残っていたならば即座に敗北を受け入れていたかもしれないが、物言わぬ屍となってしまった以上、真相は闇の中である。





「とまぁ俺の方はそんな感じだ。ただこの国ではない別の国が魔族、そして魔物を使って狙っているというのは間違いなさそうだ。

 …俺の予想だとその犯人はおそらく魔界と人間界を繋ぐ扉を破壊、もしくは封印を解いた奴だろう」


「なるほど…つまりは我ら悪魔たちもその旦那様がおっしゃっている計画に加担している可能性がある、ということですわね。

 まず間違いなく『暴食』の一派はそこに入っているでしょう。あとあり得るとしたら『強欲』でしょうか」


「となるとこの前アスモが『暴食』を退けたからには、現在指揮を執っているのは『強欲』だろう。

 あの塔にいれば手っ取り早く決着がつきそうだが、さすがにそれはないだろうな。とりあえずはマリアを…あん?」


「どういたしましたかマスター…マリアの気配が何処にも存在しない?」




 ナナシとサラの2人が感じた違和感、それは既にマリアが『この世に存在していない』事実だった。

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