第87話 亜神化の代償、一時の凱旋
パキン…
何かが割れる音が小さく響く。聞こえたのはナナシが連れてきたメンバーの中でもクラウだけだった。
そして聞こえたクラウは直感する、ナナシ側で何かが起こったのだと。直前でナナシの気配が『この世界』から消えたことも関係しているのだと。
音が響いてからおよそ5分、一つの影が森の奥から歩いてくる姿をクラウ、そしてメイド部隊が捉えていた。
気配が復活していたこともあり、ナナシだと気付くのは容易であった…が、全員が確認した気配はナナシだと確信が持てないほど圧倒的な『生物として』格が違う存在になっていたことにより、一瞬たりとも気が抜けないほどになっていた。
「ナナシ様、お帰りなさいませ…ですが、その気配というか、威圧感を抑えていただくことは可能でしょうか。メイドたちはおろか、私クラウでさえも正直を申しますと立っているのですら厳しいのです」
「あー、あー…すまん。実はまだ慣れてなくてな、これでも1/10くらいにはしてるんだがまだきついか…」
半神半人から亜神に種族が変わってしまい、ナナシの身体…そして無意識に発してしまう神のオーラがクラウ達を襲っていた。
このオーラを抑えるために、時間の流れる速度をさらに早めた亜空間で数か月訓練していたのだが、それでもまだ足りないという事実にナナシは少なからずショックを受けていた。
「むっ………これくらいでどうだ?10%程度には抑えてみたが、今の俺にはこれが限界に近いかもな。
あとは『気配遮断』とか覚えるしかないが…どうだ?耐えられそうか?」
「申し訳ございませんナナシ様…私共使用人が迷惑をかけるなど痛恨の極み、ですがありがとうございます。この程度であればエル様方もなんとか耐えていただけるのではないでしょうか。
それにしてもいかがなさったのでしょうか?おひとりで追撃なさった時とは比べ物にならないほどの存在感を感じますが…」
「事情はとりあえず戻ってから全員纏めて話す。今はそうだな…王と面識があるウルティマにもう一度言伝を頼もうか。それとこの魔物の死体だが…見た感じほとんどの魔石は回収済みか。他のメイドたちに死体処理を頼む。アンデットにならないように燃やして埋めてほしい。
それとドラゴンゾンビの死体は俺が預かる。クラウはエルたちに付き添いで屋敷まで連れて行ってくれ」
「畏まりました。…ナナシ様は如何程に?使用人としては休んでいただきたいのですが、何か重要案件があるのでしょうか?」
「ああ、俺は先に屋敷に戻る。待機組、というかサラに用事が出来たんだ。ウルティマも一度俺と一緒に戻ってから城に向かってもらう。俺からの指示と行動予定はそれくらいだ。んじゃクラウ、あとは頼んだ」
そう言ってメイドの一人ウルティマを携えて屋敷へと転移していくナナシ。指示をもらったメイドたちは既に焼却作業を速やかに行っていた。
クラウも見送りの際にはしっかりとお辞儀をしていたのだが、その額と背中は汗でびっしょりだった。
エル、シルビィ、リスティルの3人は初めての大連戦、そしてドラゴンゾンビ戦による疲労と怪我で泥のように眠りこけていた。それを見てクラウに介抱及び屋敷への帰還の付き添いを指示していた。『今の』ナナシが起こして連れ帰ろうとしても3人の精神的負担が大きくなりすぎることを考慮して。




