第86話 『奴』からの着信、目覚め始めた無名
自分でさえも存在を忘れてました。あの物体の存在を。
『ピリリリリリ』
突然鳴り出す謎の音が空間に響き渡る。音の発信源はナナシの懐に入っている、ナナシ本人すら存在を忘れかけていた『iPh〇ne』だった。
聞いたこともない、そして何の前触れもなく鳴り響いた音に敏感に反応したのは人狼だった。
当のナナシは傍から見てもげんなりした表情になり、出るまで鳴りやまない可能性を感じ渋々着信に応じることになる。
『あ、やっと出た。急にナナシ君の気配が世界から消えたから大丈夫かなって思って電話してあげたんだよ、ボク優しいでしょ?』
「無事っつーか…まぁ異空間を創ったからその世界とは別の次元なのかもしれないな。今俺はその空間に敵の2人と一緒にいるんだが…一体何の用だよ?」
『なるほど、今君は別次元に干渉して新しい空間を創り、戦おうとしていた…と。いやあ邪魔しちゃったかな?これでも君の存在って特別でね、早々君が死んだりすることはない…あ、一度死神に殺されかけてたか。まぁそれは置いといて。『神』に近い君が死んでしまうとボクはとても悲しいんだよ?せっかくできた対等な友人なんだからさ』
「はあ…つまりお前の暇つぶし相手がいなくなって寂しくなるのを危惧して慌てて電話してきたってとこかよ…わざわざ無駄な魔力使って更に結界を張って損したな、なんか疲労感凄いし」
『あ、それでね。今君がいる君が創ったその空間内にはほとんど魔力が存在しないんだ。だから君が今新しく張った結界は魔力じゃなく、君自身が持つ『神力』と呼ばれるものだよ。まだ神として昇華しきっていないから総量が少なくて、そうだな…今の君の大体7割くらいは消費しているかもしれない。今その空間内で能力を使うと生命力まで使ってしまいかねないから、その空間の乱用は禁物だよ』
「相変わらず過保護だなお前は…俺はそこまでヤワじゃないし、特段頭が悪いとか勘が鈍い方でもない。自分のことは自分が一番わかってるさ。…そろそろ限界だな、切るぞ『ミコト』」
『ふふっ、つれないなあボクの友人は。今度は直接会いに行くよナナシ君』
ナナシが通話中、ひたすら新しく生み出された結界を破ろうと人狼が殴り続けていた。
その両拳は血がとめどなく流れ、一部の骨は砕けているのじゃないかというほど歪んでいた。
だがそれでも攻撃の手は緩めず、それどころか苛烈さを更に増していく。
ナナシが通話を終える頃には既に結界の耐えきれるレベルを超え始めるダメージを受けており、衝撃波が時たま貫き始めていた。
「悪いな待たせて…というか苦しめて悪い、安心して意識を断ってくれ。…ってかこいつは既に理性を失っているのか?あっちは…既に戦意を喪失しているみたいだな。主に人狼のせいか」
「脆弱ナ人族ヨ、コノヨウナ魔法ヲ使ワナケレバ我ノ一撃カラ守レヌノカ?コノ程度ノ拳ノダメージナゾ我ハ痛クモ痒クモナイ、サッサト死カ降伏カヲ選ベ!」
「…まぁそうだよな、弱体化に進入禁止効果の結界なんて『普通は』自分の身を守るための手段と思うよな。だが勘違いをしているぞ?俺は一度も『魔法が本気』だなんて言ってはいないし、そもそもSランク冒険者になった時の経緯を知っているのは僅か数人だけだからな。…『解除』それと『解放』…これで弱体化はおろか今までお前が殴っていた結界も外した。殴れるもんなら殴ってみな、オオカミモドキ」
「キ、キサマ…我ヲ舐メテイルノカアアア!?オ望ミドオリニ殴リ殺シテヤル!」
叫びながら人狼は『人族なら』目で追えない速度、ステータス表記にしてSランク程の敏捷性でナナシに向かって走り出す。
…もし彼が『鑑定』系のスキルを所持していたならば冷静さを取り戻していたのかもしれない。
なぜなら人狼である彼はナナシが『Sランク冒険者のただの人族』であると未だに誤認しているからだ。
そんなナナシはこの世界に来てから何度も自身の異常なステータスに慣れるためにリミッターを外した状態で夜な夜な訓練していた。この人狼の出した『人族にとっては』驚異的なスピードさえも今のナナシにとっては早歩きしているぐらいのスピードなのだ。
そしてそのようにリミッターがない状態での特訓により、ミコトから告げられていた『神と同じ肉体になる』期間もまた大幅に短縮されていた。そして種族も『半人半神』から変わっていた。
名前:ナナシ
種族:亜神
※亜神:人を超え、その身に神と同じ能力を宿す者。魔力とは別の力、『神力』の行使も可能だが代償が必要となる。




