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ナナシの使い(仮)  作者: りふれいん
第四章 それぞれの決意と失踪
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第83話 屍龍戦、外れる目論見

累計1万アクセス、ありがとうございます!

マイペースに執筆している中、読んでいただけることが嬉しいです。

「ど…ドラゴンゾンビ…確かSランク『災厄』指定…」



 そう口にしたのは冒険者になることを夢見ていたリスティルだった。

 彼女も魔物討伐は幾度となく参加しており、冒険者ギルドから取り寄せた魔物図鑑や王城に保管されている歴史書で数多の魔物の情報を記憶していた。

 各種魔物の弱点属性や対抗策、それに生息域や攻撃方法など多種多様な情報を学んでいたのだ。

 ゴブリンを始めとするEランクから亜龍と呼ばれるワイバーン、それに龍種と括られる各種ドラゴンまで。


 その中でも情報が少ない魔物のランクがあり、『災厄』と指定されるSランク以上の魔物である。

 情報が少ない理由として、まず出現した地域周辺の村や都市は一月もあれば壊滅、大規模な討伐隊が組まれても生存者は1%にも満たない。過去には全滅し、その地域一帯を封印するといった事例もある。


 中でもドラゴンゾンビは特殊で既に『死んでいる』。

 アンデットは火属性で燃やす、聖属性で浄化するのがセオリーだがドラゴンゾンビは違う。

 ドラゴンの種族であるため火属性は通りにくく、ドラゴン自体が聖なる者として世界を守っていると伝えられている。そのため聖属性も通用しないと伝えられているのだ。

 討伐はおろか浄化すら受け付けないと伝えられてきた死と破滅を齎す最悪の存在、それがドラゴンゾンビなのだ。



「ナナシ様、指揮や作戦などですが『クラウに一任する』…よろしいので?」


「さっきも言ったが俺は手を出さない。修行の成果を発揮するのに丁度いいだろ?

 それはダンジョン組だけじゃなくこっそり訓練していた使用人たちにも言えることだ。

 だったらそれを俺に見せてほしい、そして危なげなく倒して見せろ」


「これは手厳しい…畏まりましたナナシ様。エル様、リスティル様、シルビィ様。使用人風情の指示など聞き入れたくないかと存じ上げますが、ナナシ様による命令のため、私クラウの指揮の下行動をお願いいたします」


「わ、私は大丈夫です!ナナシさんを信じてますから!」


「エル様に同じく、ナナシさんの命令であれば意義はありません。適切な指示をお願いします」


「うー、ウチはそもそも指示される側だから嫌なんて言わないよ!よろしくね、クラウ!」


「我らメイド部隊は元よりクラウ様の指揮下でございます。皆様の足を引っ張らないよう誠心誠意務めさせていただきます」


「うっし、んじゃクラウに任せたぞ。とりあえず今は結界であいつを閉じ込めてるが、俺はこのドラゴンゾンビを呼び出した奴に用事がある。

 作戦会議の時間を与えるか考えたが術者が移動を始めた。ということで【解放】…んじゃ頑張れよ」



 ナナシが指をパチンと鳴らすとドラゴンゾンビが雄たけびを上げる。

 ナナシは全員が戦闘態勢に入ったのを横目にドラゴンゾンビの横を駆け抜けていく。

 まだ身体能力に慣れていないためSクラス程度まで敏捷性を下げてはいるものの、ドラゴンゾンビが一瞬でナナシを見失うレベルとしては十分な速度であった。

 横を通り過ぎざまにちらっとドラゴンゾンビの身体を眺めるナナシが思ったのが『ユキより二回りくらい下のサイズか?』ということだった。

 ユキのサイズもかなり巨大である。それよりはいくらか小さいのだが、それでも16~7mはあるだろう。成龍と呼ばれるレベルには違いなかった。


 ナナシが消えたと同時にドラゴンゾンビがその巨大な口を開き、息を吸い込む。

 空気を吸うのではない。大気中に存在する魔素を溜め込んでいるのだ。

 狙いは正面。大剣を前に構えるリスティル、後ろで手を組み優雅に直立するクラウ。2人は回避しようとする気配が一切感じられなかった。

 何故ならそのブレスが『放たれない』ことを知っているからだ。

 口から紫色の毒々しいブレスを吐こうと首をのけぞらす。だがのけぞらした体勢のまま動きを止める。

 正確には止められたのだ。その下顎に巻きつけられた細い糸によって。



「クラウ様、リスティル様。私とシルビィ様で首を固定しました。頑丈な糸で固定したとはいえ、30秒も経たずに切断されるかと思われます。対処を願います」


「他のメイドさんたちも飛べないように翼を固定したよ!急いでリスティルちゃん、クラウ!ウチとウルティマちゃんの力じゃもう20秒で限界!」


「よくやりました皆さん。それじゃクラウさん、胴体部分を狙います、カバー願います!」


「畏まりました。僭越ながらリスティル様の援護をさせていただきましょう。では…むん!」


「Guruaaaa!?」



 クラウの掛け声とともに右手で正拳突きを繰り出す。一歩も動いていないはず…だが、ドン!という音ともに剥き出しになった腹に強烈な衝撃が加わる。突きの衝撃波『だけ』を飛ばしたのだ。

 右手、左手と交互に突きを繰り出す。その度に腹に衝撃が加わりどんどん凹みができていく。


 1撃目が届いた直後リスティルがドラゴンゾンビに向けて走る。大剣という武器の重さ、大きさを苦にしない姿勢。自身が最も慣れた左下段に刀身を向けながらの前傾姿勢。

 クラウの衝撃波による援護がなければ前脚のひっかきで近づけないだろう。

 クラウの初撃から5秒、ドラゴンゾンビの懐へ侵入したリスティルは左下段から右上段へと大剣を振り上げる。

 焔剣イフリートに魔力を込め、赤い炎とともにクラウの攻撃して凹ませた腹部へと斬りつける。

 鱗のない腹部はゴム杖で柔らかく、あっさりと大きな切り傷を残すことに成功する。

 既に死体となっているため血の一滴も出ない。アンデット化の影響だ。



「これならいける、もう一撃っ…」


「むっ…リスティル様、急ぎ退避を!拘束が解けます…むぅん!」


「も、もうウチは限界…リスティルちゃん離れてぇ…」


「も、申し訳ございませんリスティル様…私も抑えきれません…これほどとは…」


「そんな!せっかくの好機だというのに拘束がもう解けるとは…わかりました、退きます!」



 拘束してる2人の指示通りリスティルが急ぎ離脱する。予定では2撃入れて心臓の位置を把握、そして一斉に攻勢に出るはず、だった。

 だがその目論見は失敗する。ドラゴンゾンビはブレスのために溜め込んだ魔素を体内に循環、身体能力の強化に回していたのだ。

 その結果30秒の拘束時間が20秒まで短縮、龍種の弱点である心臓の位置の把握ができずに攻撃の手を止めざるを得なくなってしまった。

 龍種が賢いのは周知の事実、だがアンデットである。知恵などないはずの魔物。その事実が覆されたのだ。

 この事態に一番驚いていたのはクラウだった。アンデット化した魔物が自分の意思でスキルを使うなど、冒険者ギルドにも独自で仕入れた情報にも存在しなかったからだ。

 ナナシに召喚される前でもドラゴンゾンビとの戦闘経験はある。討伐もしている。

 だがこれは異常だ、そう捉えるしかなかった。

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