第81話 悪だくみ、『賢王』の覚悟
「今から行くということも考えたが流石に夜も遅い。俺やサラ、アスモは問題ないが他のメンバーが急な行動に耐えられないと思う。
今から夕方までは自由行動、各々で休息をとってほしい。
戦闘もあるとは思うが物資に関しては俺がまとめて保存してあるからそっちは気にしなくていい。
ま、要するに英気を養うってことだ。それはクラウ達もだ。今晩は仕事せず休んでほしい」
「本来であればそのようなことは我ら使用人には不必要なのですが…雇用主からの指示は無視するわけにはいきませんな。
ナナシ様のご指示とあればこの会議の片付けの後に不躾ではございますが休憩をさせていただきます。
それとは別にナナシ様に1つご要望があるのですがよろしいでしょうか?」
本来であれば使用人が雇い主に要望などできる立場ではないことは提案したクラウ自身も承知していることではある。
だがナナシはどんな要望を理由もなく断ることはしない、とクラウやテスタ達に伝えているため提案してきたのだ。
ナナシの後ろに移動しボソボソと伝えるクラウに対し、ナナシは面白そうに笑顔を浮かべ、『問題ない』と伝えるのだった。
他に伝えるべき事案も特になく、眠そうにしているエルやエレンの体調を考えて解散するように全員に伝える…のだが。
サラ、アスモはナナシの部屋にピッタリついてきて『一緒に寝る』ということを頑なに譲らなかった。
ナナシとしては自身でやりたいことがあったため拒否したかったのだが、2人の圧力に耐えかねて仕方なしに自室へと連れて行くことにしたのだった。
「あー、すまんが俺は今夜は寝ない。それと…今回はそうだな、ウルティマ!」
「はい、お呼びでしょうかナナシ様。…はい、畏まりました。では失礼いたします」
「旦那様、ウルティマに何を依頼したのですか?私にもお教えくださいませんか?」
「そうだな…サラは隠しようがないしアスモはそもそも契約で他言無用にできるから問題ないな。
実はさっきクラウに要望として聞かれたことなんだが…」
クラウの『要望』を一部隠してアスモに伝える。それを聞いたアスモも面白そうに笑みを浮かべ、『それは実に愉快ですわ!』と太鼓判を出した。
ナナシと2人で黒い笑顔になっているのだが、それに気づいたのはサラだけだった。
ナナシの指示を受けたウルティマが向かっていたのは他でもない王城だった。
メイド服を着て堂々と正門から向かう彼女は本来であればとても目立つため門番に止められるのだが、直前にナナシから『気配遮断』というスキルを付与されていた。そのため視界に入ろうが存在が意識されるまで気づくことがないのだ。
物音や声、威圧感や殺気などを出してしまえばそこまでなのだが、一流のメイドであるためそんな失態を犯すことなく城へと侵入を果たす。向かう先は王がいる執務室である。
「全く…アリウスの馬鹿者が。王家転覆なぞ考えるとは何を考えておったのだ。
おかげで後処理や今日の分の執務が一切終わってないではないか…
それにしてもナナシ殿には頭が上がらなくなってしまったな『失礼致します』…むっ、何奴!?」
王しかいないはずの執務室に突如として声が響き、声の方向を見るとメイド服を着た女性が立っている。もちろんウルティマである。
「夜分遅くに申し訳ございません。我が主、ナナシ様より言伝と書状を直接お届けに上がりましたメイド部隊が1人、青のウルティマと申します。ガルディア王でございますね?」
「あ、ああそうだが…一体何用なのだ?明日にはもう旅立つとでも言うのか?」
「いえ、まずはナナシ様からの言葉をお伝えいたします。『明日の夜、王都近くの森にて大規模な戦闘を起こす可能性がある。決して邪魔はするな』とのことです」
「大規模な戦闘…?魔物の大討伐か盗賊団を潰すということか?深くは聞かずに了承しておく。
朝にでも我が兵士に伝わるようにウルティマ殿が帰った後に宣言しておこう」
「それとこちらが書状になります。では確かに言伝と書状はお渡し致しました」
それを伝えると執務室からウルティマの姿と気配が消える。
ザイラスはウルティマを見失うとキョロキョロとその姿を探すのだが見当たらない。侵入した痕跡も一切残っておらず、会話した内容と一通の書状だけが王の元へ届けられた形になったのだ。
やがて探し回っても見つからず、ふぅと息を吐きながら渡された手紙を読む。
『急にメイドの1人をけしかけて悪かったな。
ウルティマから聞いたと思うが、王都の外れにある森の中で戦闘行為を行う。
理由だが、何をされたかは不明だが聖女が失踪した。場所がその森ということだ。
ウルティマが急に現れ消えたのはスキルだ。だがそれに似た魔道具が使われているだろうと思われる巨大な塔が向かう先に存在するのを確認した。おそらく聖女もそこに向かったのだろう。
俺としてはどうでもよかったことだが、エルが仲良くしていたというのもあって一応救助しに向かう。
そこで何があるかはわからないが、急に塔が現れて王都が混乱する可能性があると思ってな。
高さに関してはよくわかっていないが王城よりは確実に高いだろう。
既に国外へ向かうことは決定しているが、リスティルのこともある。戻れる家が潰れていては申し訳なく思ってしまうからな。
どんな手を使ってでも混乱を防ぐようにしろ。それくらい国王であるあんたなら余裕だろう?
本来ならば明日か明後日には別天地を目指すつもりだったが、そういうことになった以上もう少し期限が伸びることになる。
王直筆の推薦状は俺が直接城に取りに行くつもりだから準備だけはしておいてくれ。
くどいようだが何度でも言うぞ。俺たちを利用しようなどといった考えはやめておくんだな。
まぁあのアリウスとかいう無能とは違うと思ってるが、次は無い。いいな?
それじゃ兵士と王都の人々の暴動やらなんやらを止めるために全力を注いでくれよ。
ナナシより』
手紙を読んだザイラスはわなわなと手を震わせながら怒りを出さないよう努めていた。
片や一国を治める『賢王』と呼ばれた人物、片や突如として現れた謎のSランク冒険者の若者。
相手がナナシでなければ『不敬罪』として切り捨て、即刻身柄を確保して処刑するのが当然である。
だが謁見の際に自慢の兵士や近衛隊が身動き一つ取れなかった事実があり、自身は戦闘能力を一切持たないただの人であるのだ。
何もできず首を失うような事態は避けなければならない。
そこからの王の行動は早かった。
執務室前にいる兵士に事柄を伝え、即座に全兵士に伝えるようにし、使用人を呼び寄せ王都中に混乱を起こさないよう触れを出すようにした。
未曽有の混乱を防ぐための『賢王』として。




