第79話 魔封陣、サラとアスモの本音
「旦那様、何があったかしっかり説明していただけますわよね?」
屋敷について早々、ナナシとサラを正座させるアスモ。さすがにくノ一の恰好からは着替えてはいたが、それでも2人の間に流れる空気が若干変わっていたことに気づくのはさすがと言わざるを得なかった。
だが問題はそこではない。マリアが失踪した今回の件でなぜ2人だけで行ってしまったのか、ということだった。
「さっきも言っただろ、最初は俺1人で行く予定だったんだ。俺1人なら危険性も無いと思ってな」
「マスターを単独で行動させるわけにもいきません。他のメンバーは全員休んでいたので私しか即座に行動できる人員もいませんでした。
それが何か問題でもあるのですか?アスモ」
「当然ですわ!旦那様と2人きりなんて羨ま…じゃなくて、私にも活躍の場を与えてほしかったのですわ。
先日確かに戦いはしましたけど…魔力や魔道具に関しての知識ならば誰にも負けませんわ」
「そうだ、そのことについてアスモに確認が取りたかったんだ。
魔力を一切封じ込め、特定の範囲のみ魔力を全て失わせる魔道具…なんて聞いたことあるか?」
「えっ、魔力を全て封じ込める…?それってまさか…」
アスモは何かを知っているようだった。だが表情を暗くし何やら考え込んでしまう。
正座させられたまま放置されてしまったので、崩していいものか少し悩んだ結果、当人が上の空だから崩すことにした。
数分間の正座だったが、普段から正座に慣れていない2人の足はしびれ始めていた。
「おーいアスモー?戻ってこーい…だめだ、無反応だな。どうすれば戻ってくるか…」
「なにか大きな刺激があれば…そうですね、抱きしめるとかどうでしょう?
大半の女性はマスターになら抱きしめられると喜ぶと思われます」
「はぁ?そんなんで喜ぶやつが…いたわ。エルとかめっちゃ喜んでたわ。というか…サラ、お前もだろ?」
「え!?あ、はい…そうですね、マスター以外は消滅させてもいいくらいには嫌ですが。
マスターであればむしろお願いしたい…いえ、なんでもありません。
とにかく試してみてはいかがでしょう?」
半信半疑になりつつも、何か考え事をして上の空になっているアスモの背後から優しく上から覆いかぶさる形で抱きしめる。
ビクッと身体を震わせ、恐る恐る振り返るアスモ。抱きついていたのがナナシだとわかると途端に顔を真っ赤に染め、口をパクパクさせている。
「お、ようやくこっち向いたか。…おいアスモ?大丈夫か?」
「だ、旦那様…急に抱きしめるなんて卑怯です。私が喜ぶことをわかってやったんですね?
こんなことされては今日のことを許すしかないですわ…」
「お、おう…そうか。んでさっきのことだが…何か思い当たる節でもあったのか?
すぐさま何やら考え事をしてたみたいだから聞くに聞けなくてな…些細なことでもいい、何か教えてくれ」
「あ、そのまま抱きしめ続けてですわ…そのですね。過去に私の提案で『魔封陣』なる魔法を使わせないための陣を制作していたことがありました。
その研究は頓挫してしまい、結局完成もせず破棄することになったのですが…その時携わっていた研究者の一部が突如失踪したことがありましたの。
もしそれが流出していて完成していたら、と思いまして…」
「やはり魔族の研究の一環だったか。それもアスモが携わった研究だったとはな…
だが未完成だったんだろ?それが魔界から出て完成する、なんてことがあり得るのか?」
「旦那様…悪魔や魔族というものたちは力でなんでも解決しようとする、と言っても過言ではない種族なのです。
対して人族は力こそそこまで無いものの、魔族を優に超える知識と知力を兼ね備えております。
そこを利用した可能性も否定はできないですわ…」
「なるほど…ところでマスター、後で私もお願いしますね。見てたら我慢できなくなりました」
そう言いながらサラはナナシの後ろに立ち、服のすそをちょんっとつまむ。
彼女が見せた精いっぱいの甘えである。そしてそれが彼女にできた感情のコントロールの限界であった。
アスモを抱きしめているナナシからはサラの表情を確認することはできないが、声が普段よりも上ずっていたため照れているのがわかる。
ナナシの腕の中で喜んでいたアスモもその変化に気づき、『やはり…』と満足げな表情を浮かべていた。
「それでな、アスモ…その空間なんだが侵入したとして何かしら異変が起きたり不利な状態になったりはしないか?
魔力を封じ込める、ということだろうから魔法が使えないのはわかる。それ以外で何かあるか?」
「そうですわね…純粋な魔族はその空間に入るとともに即座に動けなくなるかと思います。
ユキやサラ、もちろん私もその影響は受けてしまうでしょう。
エル、リスティルなどの純粋な人族は問題ないと思います。シルビィは亜人種であるため不安はありますね」
「そうか…やはりサラを行かせなかったのは正解だったな。ありがとうなアスモ、これで明日の予定もうまく立てられそうだ。
それじゃ夜も遅いし寝るとしよう。サラは…わかったからそんな悲しそうな顔をするな。
アスモも…わかったって、2人とも俺の部屋に来い。3人で寝るぞ」
サラは甘やかすため、アスモは腕を離さないため一緒に部屋に連れていくことにした。
2人の気が済むまで甘やかすことに決めたのだが、ナナシは後にその行為を後悔することとなる。
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