第75話 再び城へ、リスティルの決意
魔族の襲撃があったその日の夜は、エルの疲労が激しいことと、出国を2日後にすることにしたため早めに休むようにした。
丸薬の方はエルが半泣きになりながら舐めて…あまりのおいしさに騙されたことに気づき、顔を真っ赤にしてナナシに怒るのだった。
頬を膨らませて怒るエルは怖くなく、むしろ可愛い姿にナナシは癒されるのであった。
「実は明日、俺とエルの2人が王に呼び出されて城に行くんだ。だから明日は全員で買いだしと装備の手入れをしておいてほしい。
買うリストはサラに渡してある。量も多いから二手に分かれて行動してほしい。人員の配備はクラウに任せる」
「畏まりました。では私は屋敷に残り後片付けと清掃活動を主に行います。
メイドをテスタ・カレラ・ウルティマの3名とシルビィ様・エレン様の5名で一組。
ベレッタ・エスプリのメイド2名とサラ様・アスモ様・ユキ様の5名で一組。
リスティル様とマリア様はナナシ様に同行してくださいませ」
「さ、さすがクラウだな…人員配備は完璧だ。
だがリスティルはともかくマリアまでなぜ城へ連れていく必要があるんだ?」
「マリア様は『聖女』と呼ばれるお方とお聞きしました。そのような人物をナナシ様の一存で連れ回すことになりますと、マリア様を求める刺客やらが頻繁に訪れるのではないかと。
それならばガルディア王に判断を仰ぐというのはいかがなものか、と思いまして」
「なるほど…それは確かにそうかもしれないな。ありがとうクラウ。だが刺客なんて相手になるのか…」
クラウの采配により、即座に人員配備が完了した。ナナシの同行者はエル、リスティル、マリアとなった。
リスティルは王に最後の別れのため、マリアは今後の行動の判断のため。実に理にかなっていた。
ナナシはここではクラウの意見に肯定していたものの、自室に戻ってから少し嫌な予感がしていた。
ナナシのその予感はある意味的中するのであった。
翌日昼頃にそれぞれ目的の為に分かれて行動を開始。ナナシは3人を引き連れて城へと転移魔法で移動した。
たまたま運が悪かったのだろう、衛兵がちょうど見回りに来ていて囲まれることになってしまった。
「お、おい!俺だ、ナナシだ!それにリスティルもいるぞ、怪しい奴じゃない!
そもそも王様に言われて来たんだ、武器を下げろ!」
「り、リスティル様!?こ、これは失礼いたしました。王が謁見の間にてお待ちです、お急ぎください」
「え、ええ…見回りご苦労様です。ではナナシさん、急ぎましょう…私ももうこの城に未練などありませんから。
ここからは私が案内いたします、後に続いて来てください」
「リスティルさん…寂しくないのですか?お家が無くなるなんて私にはとても…」
「無くなるわけではありませんよ。皆さんのいるところが私の家なのです。そうさせてくださったナナシさんには感謝しかありませんわ」
「そうか、リスティルもダンジョンへ行ってから変わったんだったな。
まぁ…ついて来る来ないは別にしても、ここはお前の家に変わりはないんだ。帰ってきても暖かく迎えてくれるだろうさ」
「いえ、私はもう戻らないと決めたのです。父上にも母上にももう呆れの感情しか残っておりません。
わかってくださいませんか、ナナシさん」
「父上、母上って言ってるじゃないか。いいんだよ、無理しなくてさ。俺は無理させるためにダンジョンへ連れて行ったり出国も反対しなかったわけじゃないんだ。
リスティルがまだ父母と認めている以上、無理に切り捨てる必要なんてないってことさ…
それはそこにいる王様自らが教えてくれるだろうよ」
ナナシ達が城の裏庭へ転移して謁見の間へと向かう途中、1つの柱を指さしてナナシが言う。
その柱の影から姿を現したのは紛れもないガルディア王その人だったのだ。
その表情は真剣で、昨日までとは違い王たる雰囲気をその身に纏わせ、一般人なら平伏するであろう堂々たる立ち居振る舞いをして見せた。
「待っていたぞ、ナナシ殿、エル殿。それにマリア殿にリスティル、よく来てくれた。歓迎しよう」
「こんなとこで待ち伏せとは…周りに気配も感じないし諜報部隊もいないとなると随分挑発的じゃないか?
一国の王たる者が無警戒にもほどがあるだろう」
「よいのだ、これで。この方がナナシ殿に無駄な手間を取らせずに済むからな。
渡すべきものを渡す、それだけのつもりだったが…マリア殿がいるということは何かあるのか?」
「ああ、マリアは『聖女』だったんだろ?それなのに王様の判断無しに連れ回していいものか、とクラウに言われたのでな。
一応その判断を仰ぎに来たというのも追加で用事だ」
「なんだ、その程度のことか。好きにするがよかろう。ナナシ殿たちに手を出すような者は痛い目を見るどころか…あの世を見るかもしれぬのだろう?
むしろ世界中でどこよりも安全とも言えるのではないのだろうか」
「ははっ、体のいい厄介払いの間違いだろ?まあそれでこっちの要件は…おっと、リスティルがあったな。
王様、ちゃんとリスティルの話を一言一句聞いてやってくれ。その上で俺たちはこの国を出て行くから」
リスティルはナナシの後ろで俯いていた。決心が少しずつ揺らいでいたのだ。
だがそれでも最後の一線を越えることはなかったのだ。
「ガルディア王…私はこの国を出て行きます。今までありがとうございました」
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