第73話 守りの技術、我流の剣技
エルの戦闘が始まると同時にナナシの戦闘も開始していた。
ナナシはクレアが1匹の魔族の気を引き距離を取ったところで結界を張った。
ユキに躾を行った時と同様に時間の流れを外より早く進ませる、時空間魔法を織り交ぜた特殊な結界である。
今回はリスティルも一緒に結界内に入るため、外での1分が1時間となる60倍の速度で時間が進むようにしたのだ。
あくまでリスティルに剣術指南として見て学ばせるための措置である。
本来ならば一瞬、もしくは魔法一発で戦闘行為そのものをさせずに終わらせることができる。
だが仲間を、家族を大切にするナナシだからこそリスティルを強くすることを選んだのだ。
「さて…リスティル、これからお前の技術でもできる技をいくつか見せてやる。主に守りになるが、それでも命を守ることはとても大切だ。よく見ておいてくれよ」
「は、はあ…『攻撃は最大の防御』ではないんですね。ではしかと拝見させていただきます」
「キキ、コイツヒトリデオレタチトタタカウツモリラシイゾ?」
「ギギギ…ドウヤラシニタイミタイダゾ。オノゾミドオリコロシテヤロウゼ」
「はっ、力量も測れない三下のくせに口だけは達者だな。ほれ攻撃してきてみろよ。
ま、俺に一撃でもダメージが入れれるかどうか試してみるといいぞ」
ナナシが魔族たちに向けてあからさまな挑発をする。その効果は抜群で、怒り心頭に達した魔族は無策にも突撃してきたのだ。
だがナナシは動かない。避けるのでもなく、魔族の鋭い爪に対して剣の刃を当て滑らかに受け流した。
遅れて2匹目の魔族も両手でひっかきを繰り出すも、丁寧にその爪に切っ先を添えて方向を変え受け流してみせた。
もちろんナナシには一切攻撃は当たっていない。これがリスティルに伝えたかった防御技である。
「よく見たか?これがリスティルにもできる技術の1つだ。相手の攻撃に逆らわず、力の方向を変えさせる。
ここまで正確にできるようになるまでは相当な鍛錬が必要だが、リスティルの才能ならきっとすぐだ、俺はそう信じてる」
「キキッ!?ナゼアタラン!マルデクウキヲコウゲキシテルヨウダ」
「ギギ…マホウデモナイノニナゼダ!ニンゲンフゼイガ!」
「魔法でもない、かといって幻覚や分身でもない…これがナナシさんの剣術の1つなのですね…
まるで舞踊のように繊細で、それでいて力強い。騎士団とは大違いです…」
「おっ、早速そこまで見通せたんだな。そう、結局騎士団は力押し、数で押す…多少の傷は名誉。
そういった考えの戦闘しかしてなかったはずだ。だが俺はケガを許さない。
傷一つ付くことはおろか、攻撃そのものを受けてしまうのもダメなんだ。
命は結局一つしかないんだ、それをたった一度のケガ、たった一つの傷で棒に振りたくはないだろ?」
「確かに…騎士団の中には腕を失ったものや足を失って戦場に立てなくなった兵士がいました。
そうはならないように先手必勝で今まで鍛錬してきたのですが…ナナシさんの言う通りですね。
その技、その技術…騎士団で鍛えた技といくつか合成できそうです。ありがとうございます」
ナナシはリスティルと会話をしつつも魔族たちの攻撃を軽々と捌いていた。
達人でも一度や二度の受け流しが限界だが、来る攻撃全てをその剣一本で全て受け流していたのだ。
攻撃が通らないと知りつつも、頭に血が上っている魔族たちは戦略的に攻撃をしてこない。
そうなるようにナナシが挑発行為を行ったのだ。
「さて、そろそろ教鞭を打つのは終わりの時間だ。
正直ここまでずっと受け流し続けるのも大変なんだぜ?俺以外だとすぐへばっちまうだろうからな。
んじゃ…覚悟はいいな、魔族ども」
「キキ!?ナ、ナンダコノオカンハ!?」
「ギギ…ヤツカラトテツモナイイアツカンヲカンジルゾ…コレハボウギョユウセンダ『もう遅い』」
「我流、一の太刀…『閃』」
一の太刀『閃』。そう言ったナナシの姿は一瞬にして魔族たちの背後に移動していた。
魔族にも、もちろんリスティルにもナナシが瞬間移動したようにしか見えなかった。だがナナシは嘗てグリーグとの決闘で行った高速移動を今回は元の位置に戻らずそのまま魔族たちを通り過ぎたのだ。
ナナシが何をしたのかは一目瞭然、剣を横に薙ぎ払ったままのポーズで移動していたからだ。
そう、わずか一閃。それで決着がついたのだ。
閃光のように速く鋭い一撃、それが一の太刀『閃』の名前の由来である。
ナナシが剣に付いた血を振り払うように剣をその場で振る。その直後…魔族たちの首が地面に転がり、宙に浮いていた身体も力が抜けたように地面へと落ちていく。
ナナシが見せた剣術、リスティルは心奪われたかのように目をキラキラさせながらナナシを見つめるのだった。
「ま、こんなとこだ。んじゃエルの戦いぶりを…ってリスティル?どうした、なんか雰囲気が違うぞ?…おーい?」
「…はっ!す、すみませんお見苦しい姿を…あまりにも美しい太刀筋と攻撃を全て無力化する剣技に思わず見惚れてしまいました。
ナナシさんはやはりすごいお方なのですね…感服いたしました」
「お、おう…まぁ何はともあれその技術を身に付けるまで道のりは険しいぞ。
さて、それじゃあエルとクレアを見に行くとするか」
ナナシもリスティル本人も気づいてはいないのだが、今まで戦い一筋だったリスティルにも新たな意識が芽生え始めていた。
憧れにも似た別の何か。気づく日はそう遠くないのだろう。
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