第72話 才能開花、複合魔法
本日分になります。お騒がせして申し訳ございません。
中級魔法『ウォータープリズン』で魔族を水で作られた檻に閉じ込めることに成功したエルとクレア。
だがそれだけで終わるほど易しい相手ではなかった。
もしこれがただの魔物や人族相手ならば決着としてついていただろうが、相手は魔族。魔力の扱いに長けた種族である。
勝利を確信したエルは油断してしまったが、クレアはまだ警戒していた。
なぜならエルはまだ『魔力感知』を持っておらず、相手の魔力の流れを知ることができない。
だがクレアは自身が魔力でかたどられているため、魔力の流れには敏感なのだ。
≪エル様、まだ終わってはおりません。檻の拘束が急速に弱まってきております。警戒を≫
「ほ、ほんとに?自信あったんだけどなあ…魔力も結構使っちゃったし。
でも…まだ試してない魔法があるから丁度いいかもね。クレア、またお願いね!」
≪ふふ、エル様が楽しそうで何よりでございます。では命令を遂行いたします≫
「コ、コノテイド…マゾクノチカラヲナメルナ、ヒトゾク!」
その一言と共に魔族が檻を破壊して飛び出してくる。
狙いはもちろんエル、傷つけられた恨みを返そうとエルの姿を探す…が、視界にその姿は確認できない。
魔法か何かで隠れたのだろうと『魔力感知』で探すもどこにも引っかからない。
不思議に思う魔族だが、クレアの姿は確認できる。クレアに乗っているわけでもない。
どこに行ったかと探していると、背後から低級水魔法『ウォーターガン』が直撃する。
「ゲゲ!?イツノマニウシロニ…イナイ?」
「ふふ、さすが『アサシンダガー』だね…これは使えそうだよ!」
≪ですがエル様、もう間もなく短剣の魔力が切れてしまいます…そろそろ決着を≫
「え、もうそんな時間なの…しょうがない、それじゃとっておきで倒しちゃうね!」
「ゲゲ…コザカシイマネヲスル!ツギマホウガキタラゲイゲキデタオシテヤルゾ!」
「次があればいいけどね…我、エル・ベルモンドの名において命ずる。彼の者を風と水の槍で貫き葬れ…複合魔法発動、『サイクロンスピア』!」
エルが放ったのはオリジナルの魔法、しかも2属性を混ぜるという驚きの技術だった。
複数の属性を同時に発動し1つの魔法として使役する実例はいくつかある。
火と土属性、水と風属性の二通りを組み合わせるのが過去に確認されている。
だがそれを使いこなすには複数の属性に魔力を振り分ける集中力とセンスが必要とされており、召喚魔法以上に難易度が高いとされていたのだ。
エルは戦略を組むのと同じ感覚で魔法の構成を弄れないか考えていた。
冒険者ギルドで働く前に冒険者をしていた時も、安全にそして効率的に戦闘ができるように軍師として活動していた。
その応用として、水で作られた槍を風が誘導する攻撃、というコンセプトで考えて魔法を組み合わせた結果が『サイクロンスピア』である。
「ゲゲゲ!?ナンダコノマホウハ!?デ、デカイ…カイジョハムリカ、ナラバカワスノミダ!」
≪そうはさせません!と言ってもあなたには聞こえないでしょうが…エル様、私には構わずそのまま放ってください!≫
「うん、ありがとうクレア。魔族さん…これが今の私の全力です。『たかが人族』でも技術を応用すればこんなことだってできちゃうんです。それでは…『サイクロンスピア』、発射!』」
「グッ、コノケダモノメ、ハナセ!ワタシハホコリタカキマゾクナノダ!
コンナヒトゾクゴトキノマホウデシヌワケニハイカナ…ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
クレアは魔族の翼に噛みつき、逃がさまいと必死にふんばっていた。
クレアは魔力により作られたため、依代となる短剣に付けられた宝石さえ無事であれば何度でも身体を取り戻すことができる。
エルとクレアによるクレアの捨て身の連携は魔族にとって屈辱的で…そして強大な威力を誇っていた。
複合魔法は使用された複数属性を同時に操る魔法で、ナナシが可能な合成魔法とは全く性質が違う。
合成魔法は『新たな属性魔法』を生み出すことが可能である。だがまだナナシはそれをしていなかった。
ナナシは自身が強くなるより仲間たちが強くなるための方法を模索していた。
その案としてエルに複合魔法を使って見るのはどうか、と提案したのだ。
エルは見事それをやってのけた。エレンやシルビィよりも早く才能を開花させて見せたのだ。
「ははっ、やっぱ俺の第一婚約者はやる時はやってくれると思ってたよ。
見てたぞ、エル。よく頑張ったな。今は聞こえてないかもしれんがクレアも初めてにしては上出来な連携だったぞ、お疲れさん」
「あわわ、ナナシさん…お恥ずかしい。まだまだです、もっと効率よく扱えるように…ってあれ、他の魔族さんたちは?」
「ん?とっくに倒してるぞ。な、リスティル。何かいいヒントになったか?」
「は、はい…正直ナナシさんがあそこまで凄いとは思っていませんでした。
でもおかげで何か新しい技を閃いた気がします、ご教授ありがとうございました」
「え…えええ!?私とクレアがあんなに苦戦したのに…一体いつから見てたんですか!?」
「ん?そうだな…檻に閉じ込めたところから見てたぞ。ちゃんとリスティルに見せれるように時空を歪めてたから割と長い時間戦っていたけどな」
そう言ってナナシが後ろを指さす。その先には2匹の魔族の死体が並んでいた。
どちらも傷だらけ、というわけではなくとても綺麗だったが…両方とも首だけが無くなっていた。
ポカーンとするエルを見て、悪戯したくなったナナシは邪悪な笑みを浮かべながらエルの背後に回り、後ろからギュッと抱きしめるのであった。
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