第70話 3匹の襲来者、伝説級
「ナナシ殿、何が来ると言うのだ?儂に説明してくれぬか、さすがに説明無しに従うことなどできぬ」
「あー、王様が持ってきた荷物を狙って刺客が向かってきてる…狙いはおそらく本だな。
何故なら…って見たほうが早そうだ、ほれもう見えてきたぞ」
ナナシが空に向けて指を差す。そこに見えるのは3つの影。人型だが、背中から翼が生え、額には一対の角が生えていた。
そう、彼らは人族ではない。魔族、しかし悪魔では無いようだ。その姿を見てアスモが眉を顰める。
「あれは魔族ですわね。ですが魔界とこちらは扉で固く封じられているはず。
だけどもしその封印が解かれているとなると、ベルゼブブがこちらに来ていたのも納得がいきますわ…」
「アスモ殿は詳しいのだな。確かにこの世界と魔族の世界…魔界は扉で分けられていた。
だが数日前にその封が破壊されているのが確認されたらしい。
まだ大きな被害は出ていないようだが、再封印するにはかなりの時間が必要らしいのだ…」
「そ、そんな!あの封が解かれたならば魔族はすぐにでも流れ込んできます!だから私もベルゼブブも…」
「アスモ殿も?それにベルゼブブとは一体…?」
「深入りしたら寿命縮めるぞ、王様…さてエル、クレア、準備はいいか?」
ナナシは静かに瞑想していたエルに声をかける。
その表情にはダンジョンで修行する前のような怖気は無く、強い戦う意思が感じられた。
クレアはというとエルの横に大人しく座っている。だが視線は空からやってくる3体の魔族に向けられていた。
その姿を見てナナシは準備ができたと感じ、自身も少しだけ戦えることに喜びを感じていた。
ナナシは戦闘を行う相手の力量に合わせて仲間たちを戦わせていた。だが今回は相手の強さも不明、それにこの場にはガルディア王がいる。いくら味方ではないとはいえ、簡単に死なせてよい人物ではないのだ。
リスティルの実の父でもあるが、それ以上に一国の王である。王が跡継ぎを指名せず亡くなってしまった場合の被害は想像もつかない。
それでなくとも腹心のアリウスの死後である。立て直すことなど不可能になるだろう。
「キキキ…ドイツガエモノ?アノオヤジ?」
「ギギギ…チガウゾ、アノオンナのモッテルホンラシイゾ」
「ゲゲゲ…デモナンダアイツラ、タタカウキミタイダゾ」
「へえ、人の言葉が話せるのか…賢い奴らだな。アスモどうだ、見覚えや聞き覚えは?」
「いえ…少なくとも私の下にいた者ではないのは確実ですわ。私を知らないようなので。
…ですが、そうなるとおかしいのです。私を知らぬ魔族などいないはず…」
「ゲゲ?アノオンナ、マゾクのニオイガスルゾ…イヤアクマ?」
「ギギ、ホントウダ。コンナトコロニイルナンテキイテナイゾ」
「キキキキ…コロシテクッテシマエバイインダ、ヤッチマオウゼ!」
3匹の魔族は愉快そうに笑いあっていた。ナナシはおろか、最上位悪魔であるアスモさえも眼中にないらしい。
ただアスモを悪魔だということには気づいたようだ。だがそれでもなお怖気づく様子もなくナナシ達の方へと向かって飛んでいく。
「エル、クレア。お前らで一匹仕留めろ。二匹は俺がやる。
いいか、手加減とか被害とか考えなくていい。何かあったら俺が何とかしてやる。
だから思いっきりやってやれ、そして王様に実力を見せつけてやれ」
「ナナシさん…はい、わかりました。クレア、よろしくね。ベルモンド家が娘、エル出ます!」
「おお…あのグリーグの娘がここまで勇ましくなったとは。グリーグに見せてやりたいものだ」
「さ、俺も行くか…今回はこいつだ、『魔剣テンペスト』。…ん?どうした、みんなして固まって」
ナナシが取り出したのはミコトから送られた伝説級の剣、『魔剣テンペスト』である。
ムラマサと同じく伝説級ではあるが、知名度がそもそも違ったのだ。
『魔剣』と名の付く剣は数多くある。だがそれらのほとんどが特上級に上級魔法を付与された物で、中には中級魔法の魔剣も存在する。
『テンペスト』は伝説級の剣の中でも最上級に位置するもので、存在そのものが伝説とされていた。
ムラマサと同じく失われた存在とされていたため、実物を見ることができるとは誰も思っていなかったのだ。
だが本来ならばその魔剣は偽物、もしくは模造品と思うのが普通である。だが剣から溢れ出る魔力は『魔力感知』が無くとも見えるほど色濃く、まるで竜巻のように刀身の周囲を覆っていた。
伝説級以上の武器はそれぞれの属性の色の魔力を武器に纏うことが多い。
ナナシの持つ伝説級以上の武器全てが魔力を持つため抜刀すれば一目で本物とわかるようになっている。
「だ、旦那様…先日もムラマサを使ってましたわよね?なぜそんなにポンポンと伝説級の武器が出てくるんですの?」
「ナナシ殿…そのような武器を持っているのであれば儂からの贈答品は不要だったのではないか…?」
「あーその話はまたあとでな。…さて魔族ども、覚悟はいいな?」
テンペストを抜き放ち、その切っ先を3匹の悪魔に向けながらナナシは語り掛ける。
ナナシは表情を変えずにいた…つもりだったが、その口元は少しにやけていたのだった。
毎朝10時に投稿しております。1日1話確実に投稿しております、楽しく読んでいただければ幸いです。




