第6話 野営準備、フラグ建築
ナナシ達が移動を始めて2時間ほど。
辺りは鮮やかな夕暮れのオレンジ色に染まっていた。
戦闘を走る狐人族のシルビィは平気そうな表情をしているが、その幼さの残る額には汗がびっしり。
大盾を構えながら走るドルフに至っては、ゼェゼェと息も絶え絶え。
魔法使いのエレンは既に力尽きており、ナナシが仕方なくおんぶして走る。
ただそんなナナシだが、人一人抱えながらも汗水一つかくことなく、その走る速度がゆるむ様子もない。
傍から見たら魔法やスキルを使って移動しているようにも思えるのだが、ナナシにとっては『荷物が増えた』程度にしか思っていなかったのだ。
そんな中、ちょうどいい岩場を見つけて野営地点に選んだ際の出来事である。
「ウチについてくるだけで十分すごいのに、疲れた様子もないどころか一切汗もかいてないなんて…
いくらぺったんこなエレンとは言え人一人抱えながらなんて、人かどうか怪しいよナナシクン」
「シルビィ…あなた…魔力が回復したら覚えておきなさいよ…」
顔に怒りマークが出そうなほどの怒気を纏わせて、シルビィの胸を睨みつけるエレン。
そこにナナシの追い打ちが入る。
「あー、確かにゴツゴツした感触が背中にずっとあったな。鎖帷子でも着こんでんのか?
ダメージは一切ねぇし重さも幾ばくか感じた程度だが」
「く、鎖帷子…ゴツゴツ…ぶふっ…くふふ…」
「ナ、ナナシよ…くふっ…それは…言葉にしちゃ…ダメ、だろ…くっ…」
「ば、バカぁ!あたしは前衛じゃないの!そんな重くて硬い装備着てるわけないでしょ!
ローブの中は普通にシルクの下…着…」
笑いを堪えきれずプルプルしている二人と、ナナシに言われ自分の服装を暴露し、それに気づいて顔を赤らめるエレン。
遠回しに『凹凸や柔らかさが無い』とぶっちゃけたナナシであるが、当の本人はというと。
「鎖帷子くらいは着ておいた方がいいぞ?不意打ちで近距離戦闘に持ち込まれる可能性もあるしな。
というかたかが胸が小さいくらいで何を恥ずかしがってんだ?それも個性だろ…っておい。なんで魔力溜めてんだお前」
「…彼の者を鋭利な刃で切り刻め、ウィンドカッター」
『胸が小さい』発言を受け、憎悪と憤怒の表情で風魔法をナナシに向け撃ち放つ。
魔力を込められた周囲の空気が圧縮され、うっすらと見えるブーメラン状の鋭い刃が5つほど形成される。
エレンの得意とする空気で対象を切断する、低級魔法『ウィンドカッター』である。
エレンに対して『貧乳』発言は、彼女に対して禁止ワードであり、殺意を向けられる行為であった。
「あたしは貧乳じゃない!まだ『成長期』なんだ!殺す!行け、風の刃!あいつを切り刻め!」
そのセリフの直後、5つの刃が意志を持ったようにナナシに襲い掛かる。
正面から、左右から、上空から、足元から。
ゴブリンやオーク程度の魔物や、Cランク冒険者クラスの人族までならば、四肢を切り刻まれる速度だろう。
自足にして200キロはくだらない速度、それをナナシは回避するのでも防御するのでもなく、
「あっぶねぇな、こんなもの人に向けて撃つんじゃねぇよ。軽く人を殺せる攻撃じゃねぇか」
そう言いつつ、5つの風の刃全てを右手一本で『掴んで』みせた。
直接掴めば切断されるほど鋭利なため、『魔力操作』で掌に薄く魔力を纏わせ、切られることを防いでみせたのだった。
エレンを背中に抱えて移動する際、ナナシは『そのうち使えるだろう』と思い、エレンの『魔力操作』のスキルを『吸収』し、練習がてら移動中足の裏にのみ限定して発動していた。
『魔力操作』のスキルを持つエレンでさえ、全身に魔力の鎧を纏わせるくらいの使い方しかできていなかった。
身体の一部分に限定的に、『魔力感知』にギリギリ引っかかるレベルで使いこなすなんてありえない、とスキル所持者のエレンは驚き、目を見開いていた。
「あ、あたしの魔法を掴むなんて…しかも『魔力操作』があんなに薄く右手だけなんて…」
「おいおいこいつは本当に冒険者じゃないのか?あんな真似、Aランク冒険者でさえ一部だぞ?
俺の盾でさえおそらく2発の防御で壊れちまうってのに」
「ウチは速度には自信があるから回避ならできるけど…魔力の塊である魔法を防御どころか掴むなんて、『魔力操作』を圧倒的に使いこなしている証拠。
うーん、やっぱナナシクンかっこいい!抱いて!」
「『魔力操作』、練習しといてよかったわ。その気になれば魔力を直接放って攻撃にも使えそうだな。
純粋な個人の魔力だからおそらく…被弾した対象の持つ体内魔力を搔き乱すような使い方もできそうだ。
魔力で構成された肉体や、魔法を封じるような効果を持たせることもできそうだ。
貧乳発言は悪かったが、俺はそれも個性だと思ってる。
デカけりゃいいってもんじゃねぇしな。逆に言うがお前はそれ以上の魅力もあると思うぜ、顔立ちもなかなかかわいいと思うしな。判断材料は恐ろしく少ないが、少なくとも俺はそう思う」
「かっ、かわっ…!?いきなり何を言って…!?あたしが、かわいい…!?そんな、そんなこと…」
あからさまに顔を真っ赤にして、両手で顔を隠しながら、しゃがみ込んでしまうエレン。
肩までかかる綺麗な薄い水色の髪の中から、真っ赤な耳がチラチラと目に映る。
ナナシに対して向けられていた負の感情が消え去り、込められていた魔力は霧散し、風の刃もいつの間にか消えていた。
---マスターに対する敵対意識が消失。現在は別の感情がマスターに向けられています---
脳内に響く『賢人』の声。風の刃の情報も『鑑定』していたのだが、エレンを状態を勝手に調べていたようだ。
(敵対心が消えたのはいいが、『別の感情』だと?めっちゃめんどくせえ気がしてきたんだが…)
---はい、おそらくマスターの予想通りです。男勝りな性格、容姿に対するコンプレックス、そして普段一緒にいるシルビィに男性が寄るのでしょう。自身が褒められたことが無いのだと思われます。マスターに負の感情を最初から保有していたのは明らかですが、それを補い余りあるほどの好意的感情がエレンを支配しております---
(やっぱそう見えるよなあ…シルビィは裏の顔も所々見えているからあり得ないが、エレンは腹芸できそうな感じじゃねぇし)
「ナナシクン、ウチは?ねぇねぇウチは?かわいい?どう?ニヒヒ」
「おわっ!?なんつー速度で近寄ってきやがる!つーか少し怖えよ!
そうだな、お前は…尻尾と耳がチャームポイントだろ。正直、思いっきりモフモフしたい。
顔はエレンと違ってかわいい、というよりは綺麗系だな。美人、って言えばわかるか?
しっかり化粧して、それなりの衣装を着こめば引く手あまたにはモテるだろうよ」
「わ、あわわ…予想外な回答が来た…美人、かぁ…嬉しい、な。
今までの男は胸ばっか見てそれで判断してきたような下心丸出しな下品な奴ばっかだったからなあ…
もちろん、そこにいるドルフも」
「な、ななな何言ってやがる!?お前の胸なんてこれっぽっちも…」
「そう言いながらウチの胸を暇さえあればチラチラ見てたじゃない。『気配察知』でわかるんだから」
テントを作り終え、食事もひと段落したところの出来事であった。
もちろん、思考停止状態のエレンはテントから動けず、図星を突かれたドルフは女性陣に近づくことを許されず、テントから追い出される形で近くの岩の窪みに一人でいじけていた。
ナナシは『実験がある』と唯一元気なシルビィに伝え、野営地から少し離れた岩場に来ていた。
「さて、魔法の練習をしようと思うんだが…『賢人』、魔法について教えてくれ」
---火、水、風、地、光、闇。これらが『元素』と呼ばれ、そのうち光と闇以外の4属性が最も簡単な属性『元素属性』と呼ばれます---
「ふむ、なるほど。ちなみに俺はどの属性の適性があるんだ?」
---全て、です。文字通り全属性の魔法が使えます。その他に、通常ではありえない『合成魔法』、『召喚魔法』、『時空間魔法』の適性も感じられます---
「全属性でも驚いたってのに、『合成魔法』、『召喚魔法』、『時空間魔法』だって?
召喚は何となく使い魔的なのを呼び出すってのでわかるんだが…合成と時空間ってなんだ?」
---『召喚魔法』は魔物の中で、意志ある魔物を呼び出す魔法です。契約には個々人によって違いますが、一度契約を結べば魔力を使用し呼び出すことが可能です。
『合成魔法』は複数の属性の魔法を使用し、別の属性を生み出し、それを使役する魔法になります。適性がある属性の合成が可能で、マスターは全属性に適正がございますので、ありとあらゆる剛性が可能です。ただし、複数の魔法の合成なため、使用する魔力も増大します。
『時空間魔法』は、その名の通り時空を操る魔法になります。ある地点を指定し瞬時に移動できる『瞬間移動』、範囲を指定し空間を固定する『結界』等、使い勝手がいい魔法になります。
これらの魔法は、この世界では『古代魔法』と呼ばれ、『死者の蘇生』と同じ分類に扱われます。ただし、少数ながら使い手が存在するので、悪人に存在が判明してしまった場合、マスターを捕縛しようとする輩が現れるのは明白です---
「なるほど、ね…バレなきゃいいってことは、気安く使うなってことだな。
早速だが『召喚魔法』を使ってみようと思うんだが、何か必要な物とかあるか?」
---召喚の為には『詠唱』が必要になります。契約を果たした召喚獣は、以降詠唱抜きで呼び出すことが可能です。詠唱のための言葉は、最後に『我の前に姿を現せ』でございます---
「割と適当でいいんだな…まぁいいか。早速やってみるとするか」
そういうとナナシは自身の魔力を『魔力操作』にて操り、一種の結界のように円を描く。
「俺の名はナナシ。力ある者、俺の右腕となる者よ。我の前に姿を現せ!」
ひと際多く魔力を使い、円の中心に強力な魔力を送り込む。
中心部から炎のように紅く蠢く魔力の動きをナナシは見つめる。
その魔力の蠢きが弱まると同時に、魔力の送り込んでいた円の中心部にサークルとサークルに沿うように文字列が浮かび上がる。
魔力の色と同じ紅の光がサークルから発生し、サークルから何かがゆっくりと姿を現す。
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。




