第61話 現れた地龍、30%の実力
「マスター、認識阻害の結界を張ります。もう間もなく地龍が現れます、よろしいですね?」
「ああ、頼む。アスモとユキは無理をするなよ、魔力がまだ回復してないんだ。
そうだな、少なくとも…出国の時までは魔力の使用禁止な」
「むう、旦那様の命令とあらば仕方ないですわね…ですが旦那様の言う通り、私もユキも一度枯渇限界まで魔力を消費してしまったため休息は必要ですわ」
「主よ、我は動ける!地龍なぞ赤子の手をひねるようなもの、我が龍族として誇りを保つために…」
「ユキ、俺の言うことが聞けないならこれからずっとアスモの抱き枕な」
サラだけは至って冷静に状況把握と防衛のための行動を起こしていたのだが、アスモとユキ、それにナナシまで普段の雰囲気を作っていた。
アスモもユキも特級魔法を使用し残存魔力が10%未満まで減っていたため、魔法を使うことが困難なほどになっていたのだ。
アスモのような悪魔や魔族は魔力が枯渇してしまうとその肉体を構成することができなくなり、肉体に死が訪れてしまうのだ。
復活は可能とはいえ、その期間は長い年月を要することになる。アスモのような最上位悪魔ならおよそ1000年はかかるだろう。
ユキの場合は理性を失う。すなわち暴虐の化身となってしまうのだ。
理性を一度失ってしまえばもう戻ることはない。それが龍族の特徴でもあったのだ。
ユキとてそれは理解しているため、自身の肉体で戦おうとしているのだ。
だが身体も傷だらけで失った血は戻っていない。半分ほどの体力しか残っていないのだ。
「あ、主よ…それは酷な選択というものではないか。それならば我慢するとしよう…」
「ユキ、私が嫌いなんですの?では今夜も一緒に寝てあげましょう。そうすればお互い理解が深まるというものですわ…ふふふ」
「よかったな、ユキ。…そろそろ来るな。
サラ、わかっていると思うが…お前に任せた。頼んだぞ」
「ふう…私もそこそこ魔力を消費しているんですがね。他でもないマスターの頼みですから断りませんよ。
任されました、では…『ベリアも助けてまいります』」
ナナシが思うこと、考えることは全てサラに伝わっている。だがそれも数十mまでのようだ。
ナナシがサラに任せたのはそう、既に戦意も生きる力も失いつつあるベリアの救出だった。
命の奪い合いをした相手にも関わらず、『シルビィの母』だから助ける。それだけで十分だった。
ドスン、ドスンと大きな足音を立てて地龍が戻ってくる。
その目は血走っており、ギョロギョロと獲物を探しているようだ。
やがて血の匂いの元に気づき、既に動けないことを確認した地龍は嬉しそうに大きな口を開きベリアに近寄る。
そしてベリアを食おうとしたその時…突然頭が上を向き、バランスを崩し倒れこむ。
地龍とベリアの間には…サラが立っていたのだ。
「マスターの命令を遂行するため、彼女を餌にさせるわけにはいきません。
面倒ですが…戦闘の意志が消失するまで貴方を攻撃させていただきます」
「グ、ガアアア!」
「サラ!今少しだけ魔力の流れがおかしい部分がありましたわ!詳しい位置はわかりませんが…おそらく背骨付近だと思いますわ!」
「さすが悪魔だな、俺でも気づけなかったが…サラ、わかってるな。
おそらくというか…確実にそいつは操られている。その解除を目的にして命は奪うな!」
「かしこまりました。では…30%ほど解放します!…行きますよ、地龍」
そういってサラは少しだけ力を解放する。30%ぐらいで事足りる相手だと分析しているからだ。
体格差やリーチは歴然としているが、サラには魔法や技術がある。それに…ナナシから一部受け継いだ能力値もある。
一部とはいうものの、それでもこの世界でナナシを除き1、2を争う強さを誇るのだ。
そんな彼女の30%は…アスモを優に超える強さになっていたのだ。
「だ、旦那様…サラはどれほどの実力を隠し持っているのですか?
私はおろかユキよりも強いのではないですか…?」
「ん?ああそうか言ってなかったな。サラは俺の力を少しだけだが引き継いでいるんだ。
俺が強くなればそれに比例して成長する。まだ俺も強くなるはずだし…サラもどんどん強くなるぞ。
アスモとユキが束になっても今のサラの本気には勝てないんじゃないか?」
「ウチ…すごいものを見てる気がする。サラがまるでナナシクンのような動きをしてる。
まるでナナシクンが2人いるかのような…」
「さすがシルビィだな、あいつは俺のスキルも一部供用しているんだ。
俺の中にいたスキルだから当然っちゃ当然だ。だが…何か違和感があるな」
サラは動きを封じる為に様々な手段を用いて拘束、および体力の消耗を狙っていた。
だが何か動きが硬く感じられるのだ。まるで何かによって阻害されているか、はたまた別の事柄に気を取られているかのような…
そこでとある事実にナナシが気づく。サラの視線が地龍に向けられていなかったのだ。
サラの視線の先には…片腕片足を失ったベリアがこの場から逃げ出そうと移動をしていたのだ。
それを地龍に気づかせまいとするため集中しきれていなかったのだ。
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