第60話 突然の決着、シルビィの覚悟
右腕を失い自身の魔力と妖気が漏れ出したままのベリアの姿が少しずつ縮んでいく。
自身の『妖狐化』を維持することが不可能になって来ていたようだった。
だが、そんなことよりも彼女はナナシの力の源、そして失われた武器を所持していることが気がかりだった。
ユキが封印される前、とある『妖狐化』を使用した者と戦ったことがあると言っていたが、ユキは苦戦しつつも勝利を収めたが、正確にはその狐人族の人物が逃走したのが真実である。
三日三晩続いていた戦闘が急に終了した理由がナナシが持つ妖刀の気配を感じたからだ。
龍であるユキには妖刀の効果は一切効かないが、亜人種である狐人族のその人物にとっては天敵そのものなのだ。
その所持していた人物とユキがその後戦闘し…ユキは封印されたのだった。
「くっ…『妖狐化』の維持ができぬ…やはりそれは本物の妖刀だったか。
片腕を失っていてはこれ以上『誰が片腕だけ切ったと言った?』…何?」
「おい、いくらなんでも鈍感すぎるだろ。左足が切れていることも気づいてないのか?
それとも…寸分違わずズレていないからまだ神経とか通ってんのか?」
そう言われたベリアは恐る恐る左足を動かそうと一歩踏み出した。…つもりだった。
その瞬間、バランスが崩れ身体が倒れこむ。辛うじて左腕で支えたものの、左足の腿から先の感覚が無くなっていたのだ。
ふと足を着いていた場所を見ると…そこには紛れもなく自分の足が『立っていた』。
血は出ているが不思議と痛みはない。それどころか妖刀に切られたような妖気の放出や魔力の損失が無い。
右腕の傷口からは未だに妖気や魔力が漏れてはいるものの、いつの間にか漏れ出す量が少なくなっていたのだ。
「まるでどうやって切ったか聞きたそうだから教えてやる。低級風魔法『ウィンドカッター』だ。
ここまでの切れ味は普通ならあり得ないだろうが…それが使い手が俺たちとなれば話は変わる。
その足を切ったのは刃渡り10cmほどだが、視認するのが難しいほどの薄さと魔力の密度に弄ってある。
下手すれば上級魔法クラスの威力になってると思うぞ?」
「て、低級だと…!?そんな馬鹿な話があるか!亜人種が反応すらできない魔法などあってたまるか!
お主からは魔力の流れを感じ取れなかった、それは間違いない。だがなぜ魔法を使えるのだ!?」
「簡単さ。その『ウィンドカッター』を撃ったのは俺じゃない、サラだからな。
妖刀にしか意識が行ってないことは明白、なら不意なんて簡単に突けるだろう。
それほどお前がこの妖刀を恐れているということだ。わかったか?」
「マスター、大変です…ってお気づきでしたか。ベリアさんの為にお教えします。
もう間もなく先ほどの地龍が戻ってきます。どうやら獲物を獲ることができなかったようですね。
さて、ここには足を片方失い逃げることも戦うこともできなくなった格好の獲物がいますね」
「ま、待て!我を奴の餌にするつもりか!?我が死ねば狐人族の長がいなくなる!
里が…狐人が滅んでしまうぞ!シルビィがそれを望むというのか!?」
「ん?なんだ、そんなことか。…っと、これで繋がったな?ほら、答えてやれシルビィ。お前の口から直接、な」
そう言うとナナシはおもむろに魔法陣を描き出し、シルビィをその場に召喚したのだ。
どうやら状況を逐一聞いていたらしく、目の前の風景が急に変わったことには驚いていたが、ベリアを見下ろすその眼は冷酷で…憎悪が宿っていた。
「母上…いや、もう違う。母上はウチを捨てて里を飛び出し、そのまま消息不明になった。
だから今ウチの前にいるのは母上じゃない…母上の姿をした偽物だ。
そんな偽物に情なんて湧かない。だから…さようなら、『ベリアさん』」
「ま、待ってシルビィ!貴女を忘れたことなんて一度もなかった!
そんな…ようやく会えたのに…なんでこんなことに…」
別れを告げられて落胆するベリアをよそに、ナナシ達はアスモとユキの治療、それとシルビィのケアをしていたのだ。
アスモには魔力譲渡を、ユキはサラが治癒魔法をそれぞれ施し、2人ともかなり回復していた。それでもまだ休息が必要なようで、戦闘行為は避けるべきだと感じていた。
実の母に別れを告げたシルビィは気丈にふるまっていたものの、やはりどこか辛いものがあるのだろう。
普段はナナシのそばから離れないのだが、今回は木に背を預けて難しい顔をしていた。
そんな姿を見てナナシは横にしゃがみ込み、そして…優しく頭を撫でたのだ。
それがトドメとなったのだろう、シルビィの目からポタポタと涙があふれだす。
「よく頑張ったな、もう我慢しなくていい。シルビィ、お前はもう里から出て旅してきたころとは違う。
エレンがいる。エルも、リスティルも、クラウやメイドたちもいる。
俺が召喚したサラやアスモ、それにユキもいる。そして何より俺がいる、そうだろう?」
「へ、へへ…相変わらずナナシクンはズルいなぁ…そんなこと言うからたくさんお嫁さんができるんだよ?
リスティルちゃんや…サラ、アスモさんもきっとそう」
「おいおい勘弁してくれ…ってサラも?まさか、そんなわけないだろ。
まぁそれでも…全て受け入れるのが俺だからな。だから今は無理せず泣くといい」
冗談を挟みつつ会話するも、シルビィの目からは涙が止まらなかった。
そんな一行の下に少しずつ近づいてくる地龍。ベリアは呆然としており、既に諦めているかのような表情をしたまま自分の切られた足を見つめているのだった。
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