第58話 シルビィの予感、ベリアの目論見
時は遡りユキが狐人の女性ベリアと戦闘を開始した頃、王都ガルディアではシルビィに異変が起きていた。
何かを探すようにきょろきょろし、常にソワソワしているような様子だった。
「シルビィ、あんたどうしたの?なんか落ち着きがないわよ。ナナシがいなくて寂しいのはあたしも…って何言ってるのよ、あたしは!」
「えっ!?あ、うん…寂しいと言うより、その…同族、もとい里の人の気配が濃くって。
なんだろう…懐かしい、けど恐ろしいというのかな。どこかから見られているような…」
「奥方様方、紅茶が入りました…どうかなされましたか、シルビィ様?顔色が優れないようですが…」
「あ、クラウ…大丈夫、なんともないよ。ただ特殊な気配を濃く感じちゃってね、だから大丈夫…って何してるの?」
「気配を感じるということはこのお屋敷の防衛がまだ甘いということです。
怪しい気配や視線を感じぬよう強力な結界や防衛機構を組んでしまおうと思いまして」
エレンがシルビィを心配しているところに執事の仕事をしに来たクラウディウスが現れる。
そして軽く話を聞いたところで急に空中へと両手をかざしたのだ。
エレンが気になって『魔力感知』で確認してみると、まるで蜘蛛の巣のように糸を張り巡らせた結界が幾重にも重なっているのが感じ取れた。
既に10層ほどの結界を構築しているのだが、まだ追加するらしく魔力の流れが途切れない。
だがクラウは無理をしているのか、その額には汗が流れ始め僅かだが眉間にしわが寄っていた。
「クラウ、ウチのためにありがとう。でもこれは多分…うん、減ってない。
ウチと同じ狐人族の…それも『妖狐化』の気配。なんだろう、苦しんでる?」
「それって…まさかあの大狐?でも『妖狐化』って使える人がそもそも少ないんじゃ…」
「多分今この世界で使えるのはウチを含めて4人だと思う。
1人は里の長、もう1人はその娘。あと1人は…消息不明と言われた前の長、そして…ウチの親」
シルビィの予想は的中していた。何故ならその大狐は消息不明と言われているその人だからだ。
『妖狐化』の気配は感じれても、それが誰のものなのかはわからない。
ただそれでも『妖狐化』を所持する者同士で感じ取ることができるのだ。
同じころ、他の2名もその気配を感じていることだろう。
時は戻り、ユキが召喚した『オーディン』の一撃により白に染められた結界内ではとある異常が起きていた。
光が収まるとそこには…倒れているユキの上に立つ大狐が3人の眼に映ったのだ。
頑丈な白い鱗に覆われた身体は血で染められ赤くなり、多数の裂傷が覆っていたのだ。
既に役目を果たしたオーディンは消え去っている。ユキは傷だらけにはなっているもののまだ息はあり、辛うじて意識も残っているようだった。
「ユ、ユキ!大丈夫か!?旦那様、今すぐ結界解除を!」
「いや、待て。ベリア、だったか?もう意識は戻っているんだろ?」
「ほう…よく気づいたな、人の子よ。我を解放したのも主の身内か?」
「マスター、警戒を解かれぬよう。まだ攻撃をしてくる意思が感じ取れます」
「ああ、わかってるさ。ベリア、あんたを解放したのはそこの龍…ユキだ。
だがそもそもあんたはなぜここにいる?あんたほどの実力なら捕まることもないだろ。
そうだな、まるで…『誰かを探している』とかか?」
ベリアはユキの上から降り、結界に隔たれた向こう側から聞こえたナナシの声に応じ反応する。
だがオーディンによって奴隷から解放されたにも関わらず、依然攻撃的な意思を切らさない。
いつユキにとどめを刺してもおかしくないほどの殺気を放ったままなのだ。
当のユキは治癒魔法を自身にかけ、動けるようにはなったようだが龍形態から人形態へと変わっていた。
既に戦闘する気はなく、痛みが残っているのか少し辛そうな表情をしつつもベリアから距離を取っていた。
ユキがベリアから距離を取ったのを確認したナナシとサラは気づかれぬよう細心の注意を払いながら結界を瞬時に狭め、ベリアの周囲10m程までに縮小していたのだ。
「ふむ、鋭いな人の子よ…だが探し人はもう見つかったも同然よ。
主ら全員からその匂いが感じ取れるからの…無論、同族のシルビィだ」
「やっぱシルビィが目当てだったか。まさかとは思うが…シルビィを里に戻しに来た、なんて言うんじゃないだろうな?」
「そこまで知っておったか。その通り、あの娘を里へ連れ戻しに来たのだ。
そのため不本意ではあるが奴隷として探し回っていたのよ。想定外にも呪いのようなモノをかけられてしまっていたがの」
ベリアはシルビィを里に連れ戻しに来たようだ。エレンの夢の中で出会った大狐は既に一族の長から退いた証拠でもある。
シルビィが言っていた『妖狐化』のできる人物の中で今回現れたのは…長の娘、次の長その人だった。
当たってほしくない予想が的中してしまったナナシはあからさまに嫌な顔を見せる。
そして1つ大きなため息を吐いた。
「はぁ…めんどくせえな。1つ教えといてやる、シルビィは俺の嫁となる。だから…手を出そうものなら今すぐにでもあんたを消し飛ばすこともやむを得ないから覚悟しろよ」
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