第57話 4尾の狐、ユキの戦い
「さて、黒幕も倒したことだし盗賊は捕まえたし、一件落着…じゃなさそうだな」
「マスター…彼女の様子がおかしいです。魔力の流れが暴走していますね、まるでこれは…」
アスモがベルゼブブを倒した後、魔力の異常な膨張が狐人の女性から感じられた。
何かに抵抗しているように見えるが、その抵抗は弱々しく段々と彼女から意思が奪われていく。
やがて魔力の渦ができ、目視できるほど色濃くなった魔力が彼女を包み込む。
まるでユキが人型から龍へと姿形を変えるかのように。
上空から彼女を警戒していたユキが慌てた様子でナナシ達の下へ降りてくる。
ユキの口からとある事情を伝えられる。
「主よ、アレは『妖狐化』するぞ。しかもこの気配は昔我が封印される前戦った奴と同じだ。
当時の我がかなり苦戦したほどの強さを持っている…今もなお成長していれば勝てるかわからぬ」
「へえ、あのユキが本気で戦って苦戦するほどか…だがお前も成長しただろう?
丁度いいな、アスモの全力も見れたしユキの全力も見てみたい。どうだ?」
「旦那様、それは名案ですわね…私も興味があります。この可愛いユキが全力で戦う姿を見てみたい」
「か、可愛いは余計だ!…だが力試しするに最適なのは違いない。主、戦闘許可を貰っても良いのか?」
「ああ、思いっきりやってこい。周りの被害は気にするな、俺とサラが結界で隔離してやる。
それに俺が見たいんだ。前は俺が一方的にボコボコにしたから見てないしな」
ナナシはユキがまともに戦う姿に興味があった。ダンジョンで召喚してから人型の戦闘は何度か見たが、龍形態ではナナシが時空をゆがめた世界で心が折れるほど甚振っただけである。
だがそのユキが苦戦したという相手だが、ナナシと主従関係になった時に全能力が1段階上昇しているためおそらく勝てるだろう…そう考えていたのだ。
魔力の球体となっていた狐人の女性の魔力が小さくなり、獣の形へと変わっていく。
そこから姿を現したのはただの大狐ではなく、尻尾が4本生えた妖狐だった。
名前:ベリア
種族:亜人族(狐人族)
状態:妖狐化、狂乱(奴隷化)
特殊スキル:『妖狐化』
常用スキル:『万能感知』『威圧』『魔法知識(火・風・幻)』
ステータス
腕力:SS
魔力:S
敏捷:S
抵抗:A
幸運:C
「マスター、この状態はかなり危険です。まだ何者かの奴隷状態も継続している上に狂乱なんて…」
「大丈夫だ、ユキを信じろ。俺たちの3番手の実力者だぞ?2番手はサラ、お前だがな。
スキルやステータスは確かにすごいが、意思のない獣だ。まともに使えるわけがない」
ナナシとサラは冷静に会話しつつもアスモの時以上の強度を誇る結界を展開していた。
ユキは既に龍形態へと変化していて戦闘態勢を整えていたため、かなり広大な範囲の結界となった。
野球場3つ分ほどの大きさだが、それでもユキの巨体では少し狭く見えるようだ。
妖狐がユキに向けて走り出す。さすが敏捷Sなだけはあり、20mは離れていた距離を一瞬で詰め寄る。
だがそれを読んでいたユキは既に空中へと飛んでおり、迎撃としてブレスを吐く。
だがあまりの素早さに直撃させることができず、辺り一面の木々を燃やすだけになった。
「ほー、なかなかの速さだな。ユキを翻弄するとはさすがに意外だったな。
だがユキは特に慌てた様子でもないし…まずは機動力を奪おうとしてるな」
「森を燃やして移動範囲を狭めていく。確かに効果的ですね。でも…風魔法で消されるのでは?」
「いや、それはないな。魔力の流れを良く感じてみろ、常に駄々洩れになっている。
魔法を行使するほどの知恵が無いということだ。ただ突撃を繰り返し、そして移動可能な範囲を狭められている。
ユキは戦うというよりは捕縛しようとしているらしいな」
「そうですわね…何か考えがあるように思えますが、どう見ても獣を追い込む猟のようなことをしていますね。
何やら陣を描いているような魔力の流れも感じます」
ユキはとある魔法を使おうとしていた。
実は現在吐いているブレス全てに魔力を乗せており、その炎で魔法陣を描いていたのだ。
大狐が何度も突撃を繰り出し、それをかわしながら作っているため少し歪んでいるが、発動には問題ないようだ。
最後とばかりに大狐のいない方向へとブレスを吐く。そうして出来上がったのは直径15m程の大きさの魔法陣だった。
完成した魔法陣の中央にユキが降り立ち詠唱を始める。
「我、龍族の王。天空の覇者たる我が命ずる、光を司りし存在よ、我が敵を貫く槍となれ!召喚、『オーディン』」
「おお!?ユキもアスモと同じく召喚したぞ!どんな奴が出てくるんだ!?」
魔法陣が白く輝き、その中から騎馬に乗り巨大な槍を携えた騎士が現れる。
槍を大狐に向けて構えると、その槍に雷が纏い始める。そして一度引き…そして馬と共に駆けだした。
先ほどの大狐の速度より数段早い速度で突撃したため、反応が遅れた大狐が槍に串刺しになる。
だが血は出ておらず、何かを貫きそのまま空中へ現れた魔法陣へと入っていく。
眩い輝きが結界内を覆い尽くし、何も見えなくなるのだった。
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