第54話 怪しい再会、盗賊団の主
「そんじゃグリーグさん、討伐か捕獲かはわからないが、いずれにせよどうにかしてくる。
冒険者達に俺たちが戻るまでは入るなってことをしっかり守らせてくれよ?」
「無論だ、仕事を抜けだしたりはするがそれでも冒険者を守る立場の役職だ。
ナナシ殿らが出立したら即刻触れを出すことを約束しよう。その上森側へは誰も立ち入らぬよう私自らが門番役として立ち塞がろう」
実はここ数日、グリーグは家に帰らずギルド内で寝泊まりしていた。正確には部下たちの策で帰らせないように大量のデスクワークを処理させていたのだ。
ナナシ達がダンジョン攻略に向けて出発した直後、エルの代わりとして入った受付係が見事なやり手で、急がなければギルド本部から査察が入ってしまうほどの重要書類をわざと提出しなかったのだ。
『急げばギリギリ間に合う』ラインを見極め、縛り付けることによって現在円滑にギルドが回っているらしい。
食料や着替えなどは用意されていたため問題はなかったのだが、それでも一歩も外を出歩くことは許されていなかったグリーグはこれ幸いにと嬉々として森への進入禁止書類の制作及び部下への指示をテキパキと行った。
相手が地龍と聞き、グリーグ以外の職員だと危険が伴うことも理解せざるを得なかった職員たちは『また所長がいなくなる…』と落胆の雰囲気を出していた。
だが彼らは所長室の机の上にある書類の山が既に処理されていることをまだ知らない。
グリーグや数人の職員に見送られ、ファスターの町から出発したナナシ達は地龍の下へ向かう…のではなく、地龍が巣穴として使っている洞穴へと向かっていた。
ここに何かしらの手がかりがあると踏んでいたのだ。その読みは正しかったのだが…
「それにしても腐臭というか死臭というか…あの地龍が食い散らかした残骸の臭いがすごいな。
これを辿っていけば確かにすぐ着きそうだが、シルビィなんかは鼻がいいから連れてこなくて正解だったな」
「エルやエレンもですわね。あの子らはまだこういった血の惨劇はダメなようですし…旦那様はなぜそんなに平気でいられるんですの?
エルやエレンと年齢も変わらないのに…」
「んー、なんでだろうな?ゾンビの時もそうだったが別になんとも思わないんだよな。
嫌悪感を抱いたり吐き気がしたりなんかもないからこっちの世界に来て体質が変わっ…止まれ」
「マスター、3名です。どうやらかなり高等な認識阻害系統の魔法か魔道具で追跡してきたようですね。
100m以上離れてるとはいえ、私たちの感知をここまでかいくぐるとは…」
「ふむ、この臭いも問題であろうな。向こうの方が風下な上、こうも強い臭いでは他の獣の臭いですらかき消されている。
だがそれでも我の鼻ならば嗅ぎ分けることなど…むっ、これは…」
「どうした、ユキ。何かわかったのか?」
「主よ、これは…追跡してくる者どもはあのダンジョンにいた盗賊どもの根城にあった臭いだ。
数名姿を消した、とあの口の利けぬ女から聞き出したのであろう?おそらくそやつらだ」
ナナシ達を追ってくる人物たちはあのダンジョンの盗賊団のトップたちだった。
だがその際逃走したのは2人だった。つまり、新しく奴隷を手に入れたかもしくは合流したか…である。
まっすぐナナシ達へと向かってくるため、ナナシは全員が入る認識阻害の結界で待ち伏せをすることにした。
身体がウズウズして今にも飛び出さんとするユキやアスモを無理矢理留める為にも結界で覆う必要があったのだ。
かなり高度な認識阻害を使用しているため、その顔は今のところ確認できない。
つまり目視でどのような人物なのか見極める必要があったのだ。
やがて木々をかき分けるようにして現れる3人。1人はやはり奴隷なのだろう、2人の後ろを歩いていた。
3人ともフード付きのローブを被っているが、奴隷と思わしき人の顔を確認することができた。
なんと狐人族の大人の女性だったのだ。
ナナシは彼女を見たことがある気がしていた。だが今までに出会った亜人族はシルビィだけである。
だが顔も体形もシルビィとは似ても似つかない、それに腰にぶら下げている武器が短剣ではなく手斧だったのだ。
だがそれでも既視感を覚えていた。まるで夢の中で出会ったような…
そう考えていると、その女性の視線がこちらに一瞬だけ向く。まるで『そこ』に誰かがいることを感じたように。
だが何か行動を起こすわけでもなく2人の後を歩いていたのだった。
そして3人組がそのまま洞穴の方へと歩いていく。ナナシ達も結界を維持したまま50m程離れて追跡を開始した。
「主よ、先ほどあの奴隷を見てから何やら表情が険しいが何があったのだ?」
「ああ、いやな…会ったことがあるような気がするんだがそれでも出会ってないことに違和感があってな。
認識阻害のせいなのか、それとも俺の勘違いなのか…くそ、よくわかんねえ」
「だがあの奴隷はかなりの手練れと見えましたわ。リスティルと同等…いえ、もっとかもしれません。
それに一瞬ですが旦那様の方を見ていたような気もしましたし…一体何者なのでしょう」
「マスター、まもなく洞穴へ到着するようです。それと…どうやら彼らはあの人物に呼ばれたようですね」
サラがそう言って指を差す。その方向を見ると洞穴のある壁の上に空間が歪んでいるかのような渦が現れる。
そこから出てきたのは…アスモと似た魔力を持つ謎の男性だった。
「あれはまさか…なぜこんなところに…」
「どういうことだこれは…アスモ、お前と同じような魔力を感じるぞ。あいつはまさか…」
「旦那様、あれは…あの悪魔は私と同じ最上位悪魔、大罪の1人です」
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