第53話 異変の正体、グリーグ再会
森の奥地にある山にできた洞穴の中で1つの大きな影が動き出す。
その瞬間、近くにいる小鳥や魔物ではない動物たちが一目散に洞穴から離れ始めた。
どうやら命の危険を動物的直感で感じ取りその場を後にしたようだった。
洞穴を巣にしている大きな影が姿を現す。茶色の鱗に全身を包まれ、短い前脚には太く発達した鋭い鉤爪が左右に2本ずつ生えている。
後ろ脚は太く筋肉が発達しており、2本の脚で15mはある身体を支えられるほど力強い。
尻尾は太く長く、同じく筋肉が発達しているようだ。尻尾を武器のように振り回して戦闘することも可能なほど強靭なのだろう。
首はそれほど長くなく、ユキの龍形態の半分ほどの長さだが、そこから生える頭部はかなり恐ろしい形相をしていた。
長く前後に伸びた顎、その口には鋭い牙が上下にびっしりと生え揃っている。
眼は黒目が縦長に鋭く、左右を広く見渡せるようになっている。
そう、地龍とは『恐竜』と呼ばれる存在である。
ナナシのいた世界では遥か太古に絶滅したのだが、こちらの世界では上位の者は知識を蓄え意思の疎通を取る者もいる。
一説によると鳥類のように脳が小さく発達しづらいと言われているが、地龍は身体が大きく育つため脳の機能が大幅に強化されているようだ。
だがこの地龍はまだ年若く、意思の疎通を取ることもせず弱肉強食を貫いているのだ。
本能のままに狩り、戦い、食し、休む。まさに動物の本能を体現していたのだ。
鱗の一部は裂けたような傷があり、その顔には剣のようなもので切られた傷跡もあった。
どうやら人との戦闘の傷跡らしいのだが、それでもなお生きていることから勝利したことがわかる。
今頃は血肉と化し身体の一部となってしまっているのだろう。
「とまぁ、こんな見た目をしているな。ユキ、やっぱこいつの派閥はさっき言っていたやつのか?」
「うむ、若い龍ゆえ確かめるまでは半信半疑だったが間違いない。
鱗の色からして暴力的な派閥の子孫に違いないだろう」
「マスターの世界だと『恐竜』という名で伝わっている種族ですね。
そちらの世界では数億年前に絶滅したと記録されているので出会うことは無いと思っておりましたが…」
「ああ、その通りだ。少しばかり会うのが楽しみになっている俺がいる。
はく製にして飾ってみるのも面白いかもしれないな」
「旦那様…さすがにそれは趣味が悪いですわよ?そもそも、あんなのがあればエルが怯えてしょうがないかと」
趣味が悪いとアスモに言われてあからさまに落ち込む表情を見せるナナシ。
当然のように討伐することが前提の会話をしているのだが、同じ龍族として少しだけ違和感を感じているユキの姿がそこにあった。
地龍の眼は血走っていた。その頭部には何かの痣のような小さな円が刻まれているのだ。
ナナシ達はまだ気づいてはいなかったのだが、この若い地龍は何者かに操られているのだった。
だがそんなことは知らないナナシ達は森の異変の正体を冒険者ギルドへ報告するためにファスターの町へと転移魔法で移動するのだった。
その地龍の姿を遠くから見つめる謎の影がいたことにも気づかずに…
そしてナナシ達はファスターの町の冒険者ギルドの会議室へと通されていた。
そこでグリーグ・ベルモンドに森の異変とその正体について事の顛末を伝えたのだ。
「というわけだグリーグさん。本当はギルドで規定とかあるかもしれんが、あんたでも手に余る相手だ。
報酬とかは別にいらないからこいつの相手は俺たちに任せてくれないか?」
「ふむ、地龍か…まさかSランクに近いAランクの魔物がこんな森に住み着くとは聞いたことが無かったな。
確かにギルド本部に報告して討伐任務を作成するのが正しい手順ではあるが、事情によってはその地域のギルドに判断を委ねられている。
あの森はここのギルドが担当している、よって緊急としてナナシ殿達に任せるのが正しい。
無力化に成功したならば報酬は出す。事が事なので量はわからぬが…それでも少なくないことは約束しよう。
面倒な手続きはこちらでやっておく、報告してくれたこと感謝するぞナナシ殿」
「お、話が分かるなグリーグさん。本当はエルにも会いたかっただろうが…さすがに危険性が高くて今回はガルディアに留守番させてきた。
それと今更だが…エルは俺が守り抜いて見せるから安心してくれ」
「ふん、ナナシ殿の隣より安全なところなぞこの世界にあるわけが無かろう。
エルが選んだ男なのだ、そこは心配なぞしておらぬ。だが…せめて出立する前に言うべきだろう」
ナナシは今の今までグリーグに会うことを避けていた。決闘で圧勝したり、エルとの婚約の報告をすることをためらっていたのだ。
本当であればエルとナナシ2人で報告するのが筋というものではあるが、今回は別件だったためナナシ1人での報告となった。
地龍の処理に関してはグリーグがナナシに一任すると書状を書き留めてナナシに手渡し、何やら別の書状を書き始めた。
『森危険につきBランク未満の冒険者の立ち入りを禁ずる』そう書かれていた。
この町でBランク冒険者というもの自体が4、5人程度しかいないため実質的進入禁止となる。
若い冒険者たちを見殺しにしない措置として仕方ない、そうグリーグは目を伏せながら言うのだった。
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