閑話 アスモの城の一日
「おい!アスモデウス様はまだ戻らないのか!」
「何の音沙汰もなく失踪して既に数日経っているんだぞ!?あの方が無断で旅なんて今までになかったのに!」
「アスモデウス様…一体どこへ行ってしまわれたのですか…」
アスモが暮らしていた魔界にある城では、アスモが失踪したことにより混乱が発生していた。
書置きや言付けもなく、かといって魔界随一の魔法使いでもあるアスモの結界に侵入することができる輩などいるはずもなかったため誘拐もあり得なかった。
だがここである1人の研究者が1つの予測を思いつく。
「あり得ないことではないが…アスモデウス様は悪魔召喚によって呼び出されたという可能性もあるのではないか?
だとするならば召喚主の命令さえ遂行すれば戻ってくるのだろう?」
「悪魔召喚だって!?アスモデウス様ほどの悪魔を召喚なんて、1国の民全てを犠牲にするほどの贄が必要だろう!
そんな大馬鹿者が人族の世界にいるとでもいうのか!?そんな無謀をするような愚策を使う奴が!」
「実はその件について1つ心当たりがある。なんでも『転生者』らしき人物が現れたそうなのだ。
それもアスモデウス様が失踪した当日に…だ。
なんでもその『転生者』は膨大な魔力を内包しているとの情報もある。
その者1人で、とは考えにくいが…儀式の贄として使われたのならば呼び出されていてもおかしくない」
「『転生者』か…今回はなんでも回数が多すぎないか?例の『勇者』の集団も呼び出されていると聞く。
まさかとは思うが、アスモデウス様が人族の軍勢として魔界に攻めて来たり…しないだろうな…」
「そ、そんなことあるわけがないだろう?はっはっは…はは…だとしたら戻らないのも理解できてしまうな…」
配下の悪魔たちは『アスモが敵となってしまった』と思うようになり、その強さからどれほどの脅威であるか、どれだけ被害が出るかなど計算する部門が増えてしまったようだ。
元々そこまで領地は広くないので意味がないと言えばそこまでだが…
「そういえば、あの職務怠慢でいつも叱られてたあの悪魔も姿を見ないな…あいつはどこ行った?
まさかまた仕事を放棄して…はぁ、いつも通りか。
アスモデウス様…我らはお帰りになるのを待っております。早くお戻りくださいませ…」
「お前また玉座に向かって祈りを捧げているのか。ほら、見回り行くぞ?あの仕事放棄野郎のせいで今日も増えてやがるんだ…ほら、行くぞ」
「はーあ、今日も残業になるのか…たまには早帰りさせてほしいよ、全く」
中級悪魔の部下たちは既に職務怠慢の上司を咎めることを諦めるほど呆れられており、姿を消しても『いつも通りか』と流されているのであった。
どちらかというとアスモが職務怠慢、中級悪魔が悪魔召喚に応じて仕事中になるのだが…それを説明したところで信じてもらえることはないのだろう。
玉座の間にはもう一つの影があった。その影は玉座の裏に隠れており、泣いて目をこすったのだろう両目は赤くなっており、衣類はしわくちゃ、髪はぼさぼさだった。
まるでアスモをそのまま幼くした見た目をしている。彼女はアスモの妹である。
「アスモデウス姉さま…私は、ゴエティアは姉さまを必ず見つけに参ります。
一緒にこのお城でずっと暮らすと決めたんです。必ず連れ帰りますから待っててください」
彼女の名はゴエティア。アスモデウスの妹だが、いつまで経っても姉離れができずにいた。
見た目こそ幼いが、それでも300歳は超えているのだ。それでも悪魔の中では子供らしいが…
子どもとは言えど、ゴエティアは上位悪魔である。悪魔は基本的に名前がなく、名前が付けられるのは上位悪魔以上か特殊な能力を所持していて主となる7柱から認められた者たちのみに限定される。
ゴエティアの場合は後者であり、悪魔の中でも特別珍しい『魔眼』を所持しているのだ。
本人はまだ使いこなせていないが、過去に所持していた悪魔は7柱にさえ匹敵する強さを誇ったという。
周囲の気配を感じ、誰もいないと確認してゴエティアは窓から飛び降りた。
…といったところで、カラスの集団に掴まれてしまう。どうやら使い魔たちのようだ。
「ゴエティア様…脱走してアスモデウス様を探しに行こうなどできませんって。
そのカラスたちは私の使い魔たちです。常に城の周囲にいるんですからバレて当然ですよ」
「くっ…お前は侍女の…えっと…なんだっけ?」
「はぁ、いい加減私の名前を憶えていただけますでしょうか。私はアスモデウス様の侍女として名前を頂いたメイです。
ゴエティア様の監視も仰せつかっておりますので、覚えておいていただきたいものです」
「そ、そうだメイドのメイだ!うー、姉さまを探しに行かせてよお…こんなに長い時間会えないのは数十年ぶりなんだよ?
寂しくてしょうがないよ…」
「私もお世話できずに手持ち無沙汰で困っております…が、ゴエティア様の監視がございますので。
とにかく、城からは出ないようにしてくださいね」
使い魔を使役していたのはメイと名乗ったメイドであった。彼女に名前があるのは強さでも能力でもなく、アスモが『名前で呼ぶ方が私が楽』という理由なのだ。
侍女や執事に名前を付けるなど他の6柱の最上位悪魔には考えられないことではあるが、アスモはその方が親身になって世話をしてくれるだろうと思ったそうだ。
「そういえばゴエティアは何をしているのか…またメイに迷惑をかけてなければ良いが…」
「ん?どうしたんだアスモ、何やら考え事か?」
「旦那様には仰ってなかったですね。私には妹がいるのです。ただ性格が問題でして…」
ナナシにゴエティアの存在を教えるアスモ。そのうち出会いそうだなと嫌な予感が頭を過るナナシなのであった。
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