第50話 アリウスの意地、決着
「な…何が起こったというのだ…私の兵たちが…」
「先ほども申しましたように、全員残らず戦闘不能にしております。それと二つほどお伝えしなければならないことがあります…後ろをご覧ください」
クラウディウスがそう言ってアリウスの背後を指さす。アリウスが振り返るとそこにはナナシ達『虹の輝き』が全員並んで立っていた。ナナシは腕を組んで眉間に皺を寄せているが。
おもむろにサラが前に出て、とある『帽子』をアリウスの前へと投げつける。その帽子はアインズが愛用していた帽子だが、血塗れで赤黒く変色していた。
アリウスの襲撃が失敗に終わった証拠である。それを見てアリウスは思わず膝をつくのだった。
「そちらが一つ目の事実でございます。我が主はアインズ氏の強襲をも跳ねのけ、現在こちらに戻っております。
そしてもう一つは私どもの後ろにございます、その目で…その耳でご確認ください」
「これ以上何を…!?ま、まさか…ガルディア王!?なぜこのような野蛮な所へ…」
「黙れ、アリウスよ。儂はナナシ殿に手を出さないと先日決めたであろう。
儂の名を騙ってギルドや各拠点兵を動かすなど…国家転覆同様であるぞ。このような事態が起こるほどならば、もっと早くに解雇しておくべきだったやもしれぬな…
逃亡も自害も許さぬ、大人しく敗北を認め牢屋にて裁判の時を待つがよいアリウス」
そこに現れたのは他でもないザイラス・ガルディアその人だった。
突然現れた主君に狼狽するアリウスに対し事実上の『有罪』宣言をしたのだ。
だがそれでもまだアリウスの眼は死んでいなかった。顔は下を向いているが、ナナシ達は魔力が蠢くのを感じ取っていた。
耳をすませば何かをぶつぶつと唱えているらしく、陣は無いが何かを呼び出すのだろうなと直感したナナシはあえてそのまま行動を起こさせる気でいたのだ。
だがそれは裏目に出てしまうこととなった。
「ククク…王よ、いや偽王、愚王よ!私の補佐無しでこれから先この国を守って行けるとでも言うのかね!?
だとするならば今ここで私の命を失ってでもこの国を消し飛ばして見せよう!
既に悪魔召喚の儀式は整った、出でよ!魔界を統べし大悪魔よ!」
「なっ!?早まったなアリウス!貴様さえ改心すれば免罪も辞さなかったというのに、愚かな…!」
アリウスは己の魔力全てと命を引き換えに、『悪魔召喚』を行った。アリウス1人では足りなかった為、アリウスの直属の兵士15名も儀式の供物となって命を失った。
本来の悪魔召喚の儀式はこのように数名~数十名の命を犠牲に悪魔を呼び出し、それを召喚した悪魔に遂行させることが可能となる。
悪魔の階級や強さ次第で供物となる人数は増減するが、強い負の感情や膨大な魔力の持ち主ならば単独で呼び出すこともできる。ただしそれでも呼び出せたとして下級悪魔、C~Bランクの悪魔となるが。
アリウス自身やアリウスの配下の兵士たちはそれぞれ羨望や恨みなどが強く、アリウス自身は魔力もかなり多かったため、今回は中級悪魔が呼び出されたようだ。
「フフフ…私を呼び出すとはなかなかの強い意志の持ち主が供物となったようだな。
さて、今回の相手…は…ってアスモデウス様!?」
「なんじゃ、お主だったのか…というかお主、召喚されるほど暇しておったのか?
私が不在になったからやること増えたであろうに…」
「なんだ、アスモ知り合いか?というかもしかして元配下の悪魔なのか?」
「ええ、その通りですわ旦那様。こ奴は人族の世界で言うところの兵士長や衛兵長あたりの地位ですわ。
強さもそれなりではありますが、如何せん職務怠慢でしたのよ…」
「あ、アスモデウス様、そのくらいに…というか『旦那様』とは一体?その男と婚姻を結ばれたから魔界から失踪したのですか?」
「そういえば何も伝えずこちらに来たのでしたわね。私は旦那様…ナナシ様に召喚され、従属契約を結んだ今では使い魔のようなものになってますの。
旦那様と呼ぶのは私が一方的にべた惚れしたからなのですわ…圧倒的な強さ、それと美しい魔力に」
なんと呼び出されたのはアスモの元配下の名もなき悪魔だったのだ。
職務怠慢、常に真面目にならない性格で昇級できないままの情けない悪魔だったようだ。
この悪魔はたまたま暇してた(サボってた)ようで、こうして召喚に応じたらしい。
アスモが抜けてからその統治していた地域はかなり慌ただしくなっているらしい。それもそのはず、城にいるはずの王と同様の存在である最上位悪魔が突然失踪したからだ。
現在の状況を配下の悪魔たちに伝える手段もなく、どうにかしてくれるだろうとアスモは考えていたためまさか配下が現れるなんて思っていなかったのだ。
いくらBランク上位クラスの戦闘力があるとしても、この場にいるのはSランク以上の実力者数名にAランクのリスティル、そして何より上司であるアスモがいるのだ。戦闘などできようもない。
「それで…私はどうしたらいいのでしょうかね?召喚に応じたとはいえ召喚主が既に去っているし…何よりアスモデウス様と戦って生き残れる自信がありません。
えーっと…この男の上司はどちら様で?」
「あ、ああ悪魔殿…儂はその男が側近を務めていたこの国の王、ザイラス・ガルディアと言う。
突如呼び出されて困惑しているやもしれぬが、私が直属の上司、ということになるだろう」
「おお、王様でございましたか!では代理としてガルディア王から命令を頂くことにしましょうかね。
アスモデウス様、それでよろしいでしょうか…?」
「うむ、お主がそれでよければ好きにするとよいぞ。酷な言い方かもしれぬが…もう魔界に戻る気は無いのだ。
他の6柱がうるさくて適わぬ、お主が魔界に戻った時に代理で皆にそう伝えてくれ」
悪魔召喚により一時騒然となった戦場だったが、終わってみれば和やかな雰囲気になっていた。
王は頼りにしていた臣下を失い、これからの国政をどうしていくかを悩みつつも、目の前に現れて指示を待っている悪魔の存在もどうしたものかと頭をひねることになるのだった。
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