第43話 再びミコトの下へ、ナナシの決意
「皆さん、マスターが倒れました。急ぎ容体確認と安全確保の為に私は向かいます、後はアスモに頼みます」
「なんと!?旦那様が突然気を失うなど…むう、仕方ありませんわ。旦那様のことは任せましたわ。
この娘らは私が責任をもって面倒を見てやります」
ナナシが意識を失ったことに唯一気づけるのはサラだけである。元々ナナシのスキルとして存在していたため、常時どこにいるか、何を考えているかなど筒抜けになっていた。
だがそんな情報が突然送られなくなる。その場合、どちらかが完全なる異世界へ飛ばされたかもしくは意識そのものが存在しなくなった場合である。前者はまだ生命に危険性が無いと思われるが、後者は気絶・睡眠以外に死亡の可能性もあるのだ。
今回は死亡とまではいかないが、危篤状態には違いなかったのだ。他の女性たちであれば冷静に行動できないだろうと考えたサラは、その状態のナナシを見せることを良しとせず自分が見届けようと思ったのだ。
サラにとってナナシという人物は『自身の生みの親』である。
ナナシがミコトによって蘇生された際に生み出されたただのスキルでしかなかったが、『思念融合』によってナナシの目の前に召喚された時に自我を持った。
そんな彼女だが、自身がスキルだったことを既に忘れかけていた。
ナナシによって与えられた命、人生というものが彼女を満たしていったのだ。
そして彼女には『感情』も芽生え始めていた。無意識のうちにナナシを少なからず想い始めていたのだ。
「マスター…戻って来てくれると信じています。皆さんも待っています、もちろん私も…」
ナナシは暗闇の中にいた。だが腕や足に感覚を感じない。それでも何かに吸われるように移動していることだけは感じるのだ。
やがて光を放つ場所が見えてくる。そこは見覚えのある場所で、見覚えのある人物が待っていた。
「ナナシ君、君は『掌握』を使ってしまったんだね。そしてその正体も知ってしまった。
だから君はここにまた来てしまったんだ…死神の手によって、ね」
(お前はミコト…って声が出ねぇ!?話ができないのか…というか俺の身体はどうなってんだ?)
「ああ、ナナシ君、会話はできるよ。君が思ったことが僕に通じるようになってる。『念話』と同じだね。
声が出ないのは今、君は魂だけの存在になっているからだよ。身体組織が存在していないんだ」
(魂だけの存在…!?まさか俺は『掌握』の代償としてあの死神に殺されたってことなのか?)
「解釈としては間違っていない、かな。だけど君は死んだわけではないから安心して。
アレは正確には死神ではないんだ。神ではあるけど神の座を追われたはみ出し者、ってところだね」
ナナシに驚愕の事実が伝えられる。『掌握』が元は神であると。
ナナシにスキルや能力を与えたのはミコトである、そのミコトが言うから間違いはないのだろうとナナシは思った。
『ごめんね』と真剣な表情で謝るミコトの姿が珍しかった。謝られることはあったが、その時は悪気があると思っている謝り方じゃなかった。
今回は違うようで、ミコトにとっても想定外の事態が発生してしまっていたようだった。
「実はその『掌握』から出てきた死神なんだけど…ボクの仕業ではないんだ。どうやら君の邪魔をしたいと思っている他の神々の誰かが画策したらしい。
ボクじゃない他の神が蘇生させた人物だったなら確実に死を齎していたと思うけど、ナナシ君はボクの加護がある。だから神の仕業によって魂が壊されることはないんだ」
(ミコトの…加護だって?それで今意識を持ったままここにいるということなのか?
だとして…俺のあの身体はどうなった?さすがに身体が無いと何もできないぞ)
「ああ、身体は大丈夫だよ。あの死神に身体を壊す能力はないんだ。言ってしまえば魂だけを刈り取ることができるってだけだね。
身体は君が生み出した女の子がとても大切そうに保護しているから大丈夫。
ふふ、ボクがあげたスキルをあの子の為に最初に使うなんてね…本当に君は面白い」
(俺が生み出した?サラのことか…あいつにはいつも迷惑かけちまってるよな…戻れたら労ってやるか)
「そのことなんだけど…少しボクに時間をくれないかい?あっちの世界とは時間の進み方が違うけど、体感的には一日ほど。元の世界だと数分ってところだね。
理由としては君に手を出した神が誰だか突き止めてこようと思ってね」
(なんだ、やり返そうとか考えているのか?ミコトらしくないな。まぁ俺は構わないぞ)
「やり返すのはボクじゃない、君だよナナシ君。神同士が争うのは厳禁なんだ、創造神が黙っていないからね。
あ、創造神っていうのはボクたち神々を生み出した超存在のことだから。ボクらを消すのだって朝飯前だよ」
ミコトたち神と呼ばれる存在の更に上に、神を生み出した『創造神』という存在がいるらしい。
創造神が動けばミコトと言えどタダでは済まないらしいのだ。
そんな危険性があるにも関わらずミコトは犯人を捜すという。
だがそれ以上にナナシが驚いたのは『ナナシがやり返す』ことだ。
一体どうやって?と疑問に思うナナシだったが、その答えはすぐに出た。
「何簡単なことさ。その神が召喚した『転生者』もしくは『勇者』を殺してしまうんだ。
実は神とその召喚された人は魂で繋がっていてね、甚大なダメージを負うことになるんだ。
実力差次第では神の座を剥奪どころか存在を消滅させられてしまうほどに…ね」
(俺に人殺しに手を染めろって言うのか!?しかも下手すれば神殺しまでしてしまうのかよ…)
「はっきり言うね、ナナシ君。君に傷を負わせるような実力を持つ者はいないよ。
まぁそこらへんは君なら気づいているだろうけれど。それが例えボクら神だとしても…ね」
(なっ…神でも俺を物理的に殺せないだと!?それじゃまるで俺はミコトの言う『創造神』じゃねぇか!そんなことあり得るわけないだろ!)
「それがあり得る…って言ったらどうするかい?まぁいいや、そのうちそれが嘘じゃないとわかるだろう。
それじゃボクは犯人を見つけに行ってくるね、しばらくここで待っててね」
(あっ、おいミコト!…って消えやがったか。こんな何もないところで丸一日何してればいいんだよ)
ミコトのいる世界は相変わらず真っ白で何もなかった。そんなところに24時間以上放置されるのだ。
暇で暇でしょうがないだろう、と突っ込まざるを得なかった。
だがそれ以上にナナシはショックが大きかった。神でも自分を殺せないという信じたくない事実を聞かされたからだ。
一度夢の中で話された時には『不老だが不死ではない』と言われている。
それが真実だと思っていた。ここにきて不死にまでなったのなら、永遠とも思える時を孤独に過ごさなければならないのだ。
婚約した3人、今は奴隷のリスティルに救助したマリアは少なくとも数十年しか生きられないだろう。
サラやアスモ、ユキは長命であるが不老不死ではないためいつかいなくなってしまう。
故にナナシは孤独になるのだ。『家族を失うのは嫌だ』という気持ちがナナシに芽生えていくのだ。
ナナシの身体を保護しているサラは同じく気を失っているマリアを見ていた。
汚れてはいるが洗えば綺麗な金髪になるだろう長い髪、痩せて細くなっている白い腕、そして綺麗な顔立ち。
『彼女も婚約者にしてしまうのでしょうか』と1人首をかしげるのだった。
毎朝10時に投稿しております。1日1話確実に投稿しております、楽しく読んでいただければ幸いです。




