第41話 アインズの策、愚王の試み
ナナシに頼まれ、『虹の輝き』メンバー全員を呼びに行ったアインズの後ろ姿を見てナナシはサラ、アスモ、エルに『念話』で警戒しておくよう促した。
アインズは気づいていないと思っていたようだが、ナナシはアインズが出した一瞬の笑みを逃さなかった。
今何かを行動するとは限らないが、念には念を入れて行動すべきだと思ったのだ。
「ナナシ君に言われて皆を呼びに来ました。中は血まみれになってるから気をちゃんと保ってね」
「はい、ありがとうございますアインズ所長。あの…そんなに悲惨な状態なんですか?」
「ああ、そこら中血の海だよ。死体もたくさん転がってる…おそらく盗賊団の頭以外の全員分」
「ぜ、全員…そんな…」
「エレン、別に無理しなくても大丈夫です。マスターは自分の身を第一に考えてほしいと願っていますから」
「うんうん、ナナシクンならきっとそう言うと思うよエレン。ウチも一緒にいてあげるからここにいてもいいんだよ?」
「あ、ありがとうサラ、シルビィ…でもナナシが呼んでるんだ、行かなきゃ。血なんて魔物でいっぱい見てるんだし、死体も魔物だと思えばいい。頑張るよ、アタシ」
「ふふふ…さすがナナシ君の建てたクランのメンバーたちだね。とても強く綺麗な意思を持ってる。
願わくばその意思、思いを持ち続けられるといいね」
ニヤっと笑みを浮かべながら言うアインズに嫌な予感がしたサラとアスモはすかさず結界を身に纏う。
全員分はさすがに間に合わなかったが、変な気配を感じたシルビィは距離を取り『何か』から回避したようだ。
だが不意打ちとなったためエレンとリスティル、エルの3人は『何か』の効果を受けてしまったようだ。
「ほう、まさか効かないとは…それに回避するとは思わなかったよ。だけど残りの3人は効いたようだね。
私の闇魔法『魂縛』、意志は封じ込めさせてもらったよ」
「ぐっ…サラよ、これはどういう魔法ですの!?私の結界で何とか守れるなんて…」
「おそらく中級クラスの精神干渉系魔法でしょう。気配で回避したシルビィはさすがですね」
「褒められても嬉しくなんかない!エレン達が動かなくなったよ!声かけても反応しないし!」
両手をだらんと下げ、頭を垂れる3人。表情は一切見えないが、どうやら防ぐことができた3人の声は全く届いていないようだった。
だが1人、エルは違った。ブルブルと体を震え、次第に両腕が動き始め、両手で頭を抑えて苦しみ始めた。
ナナシがエルに渡していた左手薬指の婚約指輪が光りだす。
ナナシはいざというときに役立つよう、精神保護の魔法を指輪に込めていたのだ。
少し発動が遅れているが、効果は出ているようだ。段々と震えが無くなり、その瞳には意思の光が芽生え始めていた。
「な、なぜ解除できる!?なんだその指輪は!くっ、こうなったら『そこまでだ』…なっ!?」
「アインズ所長、そこまでだ。あんたはやはり王と繋がってたんだな。リスティルのランクの件で予想はついていたが…王の指示で間違いないな?」
「ふっ、そこまで予想がついているか。だがもう遅い、ナナシ君も術の範囲内だ。『魂縛』!」
「あんた…俺が何の対策も無しに出てくるとでも思ってんのか?本当にあのグリーグのおっさんと同等の実力者なのか?
さすがに実力を見間違えすぎだと思うぞ。それにそこにいるサラとアスモから情報は届いてるんだ。
同じ魔法が効くわけないだろ」
突然アジト内から現れたナナシに『魂縛』の魔法を仕掛けるも、完璧な対策を取っていたナナシには全く意味がなかった。
それどころかナナシは会話の最中にリスティル、エレンにかけられた魔法の解除まで行っていた。
エルは指輪の力で自力解除が済んでいたため、フラフラとはしていたが問題はなさそうだった。
自分の自慢の魔法に抵抗、解除までされ明らかに狼狽えるアインズに更に追い打ちをかける。
「ああ、それとな…さっきまでの会話だが、『全て』最初からグリーグに届けてある。
それともう一つ。あんたの部下も既に解除してあるし、そこの物陰から聞いているぞ?
その上結界であんたを亜空間に閉じ込めてある。逃げ場はないぞ」
「ぐっ…私を捕まえてどうするつもりだ?ギルドは私の言い分を聞き入れる。それにガルディア王もだ。
王都にいられなくなってもいいのか?」
「ああ、俺というか俺たちに手を出したらどうなるか王はわかってないんだな。
それにあんたにも城での出来事が伝わってないと見える。
簡単に言おう、王にも王都にも興味は無い。それどころかこの国を潰すのも容易だ。
いくら実力を見間違えたからといってもその発言が嘘ではないとわかるだろう?」
ナナシは家族に手を出されたことを許さなかった。それが例え奴隷となったリスティルでもだ。
リスティルは未だに奴隷として、と言い張っているが、ナナシは絶対に奴隷扱いはしない。
あくまでも『家族』の一員なのだ。
ナナシは謁見の間で『この国を滅ぼす』ことができる、と公言したはずだったのだ。
それを真実ととらえずこうして手先を送り込んでくる王は賢王ではない。むしろ国を貶める愚王に成り下がっているのだ。
ナナシはほとほと呆れていた。この国の王は頭が悪すぎると。
そしてこんな野望持ちを所長にしている冒険者ギルドも使い物にならないとまで思っていた。
「あんたは王の命令のせいでここで命を落とす。俺は『手先は全て返り討ちにする』と言ってあるからな。
恨むなら愚策を選び、俺たちに執着したあの王を恨むといい…手を下すのは俺たちじゃないがな」
「な、なにを言っているんだ…まさか、貴様、アンデットを召喚したのか!?
あの盗賊団の死体を媒介にして!」
「俺は呼び出してはいないが…勝手にアンデット化したようだぞ?既に隔離してある。
あんたの装備とかも気づいていないだろうが没収済みだし、魔力も使えないよういじらせてもらった。
つまりアインズさん、あんたは丸腰なんだ。この亜空間は特別製でな、どんどん酸素を失っていくぞ」
ナナシが作った結界はこれまでと違い、空気の循環を行っていなかった。
これはナナシの意思により操作が可能で、サラやアスモも同じことが可能だった。
応用すれば水中でも呼吸が可能となるだろう。常人なら数分と魔力が持たないのだが…
「さて、アンデット達も動き出したようだ。ギルドの職員たち、見届けは任せたぞ」
「なっ!?お前ら…私に逆らうというのか!?くっ…息が苦しく…許さんぞ!覚えていろ、ナナシ!
生きて出られたら…きさ、まを…殺…す…」
「だんだんと酸素が無くなってきたようだな…早いとこアンデットたちを入れてやるか…
サラ、アスモ、シルビィ。3人のケア頼むな。俺は早いとこ用を済ませてくる」
「かしこまりましたわ、旦那様。後程マリアという女性の紹介もお願いしますね?」
「マスター…女性はほどほどにお願いしますね。マスターの心労が気にかかりますので」
「お、おう…んじゃちょっくら行ってくる、大丈夫だと思うが魔物に気を付けておけよ」
サラ、アスモ、シルビィに魔法の影響を受けた3人を任せ、アジト内部へと戻っていくナナシ。
そこには死体となり動けないはずだった盗賊たちがノロノロと動き出し、立ち上がり始めていた。
その皮膚の色は肌色から紫や青へと変色しており、血の気を全く感じなかった。
その集団をアインズを隔離している亜空間へと転送させ、アインズの間接的な処刑を行う。
時折悲鳴が聞こえてきていたが、その声は段々と弱弱しくなっていき、遂には聞こえなくなる。
アインズの肉体に『死』が訪れたのだった。
かつてグリーグとパーティを組み、名だたる冒険者として栄光を浴び続けたアインズ・サリヴァーン。
引退後はギルドから勅命を受け、王都ガルディアの冒険者ギルド所長の座に就く。
王からの直接の命令によりSランク冒険者ナナシとその一行を捕縛を試みるも、『ラビリンス』内にてあえなく死亡するのだった。
遺品として残されたのは彼の愛用していた血塗れの帽子だけだった。
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