第40話 アジトでの出会い、『聖者』マリア
「ナナシ君…君の言った通りのことが起きたようだね。ちょっと行動が遅すぎたようだ」
「ああ…まさかここまで早く反乱が起きるとは思わなかった。感知系を封じる魔道具も使ってたようだし気づけないのも無理はないが…」
ナナシはアジトの位置は把握していたのだが、内情までは知ることはできないでいた。
ただ、アジトに戻っていく盗賊たちが各々武器を構えて戻っていくのを感じて反乱が起きると予想していたのだ。
だがその発生と収束が思った以上に早く、捕縛して盗賊団の活動を終わらせたかったアインズは目の前に広がる惨状を見て悔しそうにしていた。
「まぁ、『ほぼ』全滅だな…あとはあそこにいるやつに聞くしかないが」
「うむ…だが簡単に教えてはくれなさそうだ。肩を見ただろう?奴隷契約がある以上喋らせられぬのだ。
まぁ解除してしまえばそれまでなんだが…奴はなかなかの手練れの様だぞ?」
「ん?あー、まぁユキなら余裕だろ…というかもう決着ついてると思うぞ?」
中心に置かれた椅子に座ったまま動かないフードを被った人物の身体がゆっくりと前に倒れる。
アインズがふと右を見ると左手を前にかざしているユキの姿があった。どうやら魔法を使い動きを止めたようだ。
ただ今回は睡眠ではなく、麻痺を付与する中級闇魔法『パライズ』だ。意識を奪わず行動不能にしたのだ。
通常のパライズは直接触れたり杖などの魔力媒体を通して付与するのだが、ユキはそのパライズを遠距離射撃のように放って直撃させたのだ。
「主よ、指示通り意識を奪わず行動を封じたぞ。これでよかったのだろう?」
「ああ、早かったな。というかまさかそんな使い方をするなんて思わなかったぞ、少し勉強になった」
「ナナシ君、君の言うようにユキ君は確かにSランクで間違いなさそうだね…正直私も目を疑ったが、戦闘を行わずして勝利するとは脱帽だよ。さて…それじゃ奴を捕獲して解除をしてみよう」
ナナシ達3人が近づき奴隷紋の付いた人物のフードを外す。その表情は暗く、絶望にも似た負の感情をありありと出していた。麻痺状態が解けたら今にも噛みついてきそうなほどの憎悪と憤怒が渦巻いていたのだ。
ただ…男性ではなく女性だったのだ。所々に嬲られたであろう惨い傷跡が目立っていた。
「ふむ…かなりひどいケガと病を患っているようだね。ナナシ君、彼女の鑑定はできるかな?」
「あんたは鑑定できないのか?まぁレアスキルだから持ってる方がおかしいとは思うが…」
「あいにく鑑定系のスキルを持つ職員はここガルディアのギルドにはいないんだ。
君なら持ってると思ったんだが予想通りだね、それじゃよろしく頼むよ」
「ちっ、誘導されたか…だが他言無用で秘匿してくれよな?『鑑定』…は?」
名前:マリア
種族:人族
状態:麻痺・性病・猛毒・衰弱(奴隷化)
特殊スキル:『聖者』
常用スキル:『魔力感知』『魔法知識(光)』『戦闘知識(短剣)』『念話』
ステータス
腕力:C
魔力:S
敏捷:A
抵抗:S
幸運:A
「アインズさん…こいつ、『聖者』らしいぞ?それに急がないと死んでしまう」
「『聖者』だって!?なんでまたそんな人物がここにいるんだ…それに治療を急がなくては。
私の部下を『いや、俺ができる』」
「俺も一応色んな魔法を使えるからな、この程度の治療なら俺1人でも十分すぎるくらいだ…
んじゃ行くぞ?まずは体力回復から…『ヒール』次に状態異常回復で『クリア』…どうだ?」
低級光魔法『ヒール』…対象者の体力、疲労を回復
中級光魔法『クリア』…対象者の病気、状態異常を回復
回復系の魔法自体は珍しくないのだが、その魔力消費量が攻撃系魔法よりも数倍多いため使うのをためらうのが普通の冒険者である。主に緊急時に使用する。
ナナシは無詠唱で発動しているが、本来はかなり長めの詠唱を必要とするのだ。
ヒールの黄色い光がマリアを包み、失われた体力を回復させる。
クリアの白い光が患部に纏わりつき、病気の元となる部位を治療する。
火傷などの外傷はまだ治療していないため残ってはいるものの、性病や猛毒は治癒されたようだ。
「ナナシ君…君は一体何者なんだい?今すぐにでも君を王に献上したくなったよ」
「人をモノのように言うんじゃねぇ!だが…おそらくしばらく口は利けないみたいだな。
何かあっても喋らせないように舌を切られたようだ。だが…俺なら会話ができる」
「もしかして『念話』かね?それならば君に彼女との会話を任せよう。私を酷く警戒しているようだからね」
マリアは治療行為が行われている間からずっとアインズを睨んでいた。
アインズがギルドの関係者であると知っていたからだ。
声は出せないが『捕まるくらいなら死んでやる』と目で訴えているようだった。
≪あー…聞こえるか?『聖者』マリアさん。俺はナナシ、あんたを治療した男だ≫
≪なっ!?あ、あなたも『念話』スキルを持っていたのね…『聖者』なんてもう蔑みでしかないわ。
私はあの盗賊団の頭と思われる人物に無理やり奴隷契約させられたただの奴隷よ≫
≪ああ、そのことについて話を聞かせてほしいと思ってな。だが大方その人物についても契約上離すことができないんだろ?だから奴隷契約を上書きしてやろうと思ってな、どうだ?≫
本来の奴隷契約の解除の方法は3つだが、契約の上書きによって新しい主人となることができる。
今の状況では解除のために『主人の死亡』『契約の満了』『主人により解除』はできない。
だが上書き契約をすればそれら全てがリセットされ、新たに解除することも可能なのだ。
そんな荒業ができるのは神かそれに次ぐ実力の持ち主。そう、ナナシのみである。
≪契約の…上書き?そんな方法聞いたことありません。万が一それができるとしてもあなたに何の得があるというのですか?
あの男…冒険者ギルドからの刺客でしょう?その男から報酬を貰うのがあなたの得とでも?≫
≪あー、別にそういうわけじゃないぞ?あんたは強制的に戦わされた。それを俺が伝え、俺が身元保証人となればいい。
俺の得は言うならあんただ。美女を仲間にできる、それだけで十分得だろう?≫
マリアは美女だった。だが顔も傷だらけでかなりボロボロだったのだ。
ケガが癒え身なりも整えば、それは絶世の美女とも言える風貌だと予想できるのだ。
だが…ナナシの周囲には美女集団がいるため、そこまで目立つほどにはならないのだろう。
≪ふふ、おかしな人…でもあの男には何も言いたくありません。ギルドは自分勝手ですもの≫
≪あんたが喋る必要はない、俺に話を合わせてくれればそれでいい。簡単だろう?
それじゃ俺からの提案は可決ってことでいいな?上書きするが問題ないな?≫
≪はい、構いません。ではよろしくお願いします≫
「待たせたな、アインズさん。今から奴隷契約を上書きする。主人は俺、で『念話』の内容をあんたに伝える。これでいいか?」
「奴隷契約を上書きだと!?なるほど、その手が使えるのか…君は本当に規格外なんだね。
君に身元保証人になってもらう方がギルドとしても好都合ではある。奴隷をギルドが匿うわけにもいかんのでね」
「まぁ、俺くらいしか使える奴はいないだろう。それじゃそういうことで奴隷契約を始める。
他のメンバーを呼んできてくれアインズさん」
ナナシの指示を受け、他の仲間たちを呼びに行くアインズだったがその表情はどこか不敵な笑みを浮かべていた。
まるで新しいオモチャをもらった子供のようにも見えるが、どこか悪意のある笑顔だった。
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