第39話 アインズ合流、アジト反乱
「やぁナナシ君、急に君の声が聞こえだすからもうダンジョンから帰ってきたのかと思ったよ」
「うお、早かったなアインズ所長。連絡してから2時間くらいだぞ?」
アインズから出発する連絡を受けて僅か2時間で19階層へとやってきたアインズ。
だが後続は無く、単独で先行してやってきたようだ。
ギルドにいた時と同じスーツを纏い、息も切らさず返り血も浴びず綺麗な服装だった。
「あれ、数人とくるって言ってなかったか?まさかあんた…」
「ああ、彼らは置いてきたよ。私が先行する旨は伝えてある。だが彼らも相当の実力者さ、そんなに時間はかからず追いついて来るだろう」
「はぁ…やっぱかなりの自由人なんだな。ギルド所長ってのはそういう人しかいないのか?」
「おっと、私をグリーグと一緒にしないで頂きたい。無断でギルドを抜け出すなんてことはしない。
ちゃんと書置きをして急ぎの仕事も終わらせた状態で行動しているのだからね」
グリーグ所長は一切の書置きや言付けもせずギルドを抜け出すことが多いようだ。
その話を後ろで聞いていたエルは頭を抑えて『あの父は…』と愚痴をこぼしていた。
元職員なだけあって、アインズの仕事の早さが少しだけ羨ましかったようだ。
「挨拶はこれくらいにして…そこで眠らせてある集団が今回捕縛した盗賊団の連中かな?
ふむ…ざっと50人ほどだが、この中には手配書の者はいないようだね。だが少しでも減らせているのは好都合だとも言えるか」
「ああ、そのことなんだが…ここ19階層に奴等のアジトらしき場所がある。
どうせならそこも制圧してトップも捕縛してしまおうと思うんだ。その時にあんたがいれば楽だろと思ってな」
「ほう、この階層にそんな場所があったとは…確かにここより先は冒険者もほとんど進んでいないと聞く。
どうやらその原因がここ19階層にあるからだということなのだな。お手柄だなナナシ君」
「へえ…あんたはどうしてその情報を知ってるか聞いたりしないんだな、そこもあの所長とは違うな」
「先ほど私に連絡を取った時のように魔法か感知系のスキルで捜索したのだろう?
一々そんな野暮なことを聞きまわったりするほど収集家ではないのでね」
ギルド所長ともなればどういったスキルや魔法を使ったのか知りたいのが普通なのではないかと疑問に思うのだが…とナナシやエレン、シルビィは考えていた。
だが実際のギルドはそうではなく、感知系の魔法やスキルはさほど珍しくないため管理したりはしなかったのだ。
新しいスキルや新魔法ならギルドが調査、場合によっては管理・使用者の捕縛を行ったりすることもあるが、ナナシには元職員であるエルがいるためそこまで縛ることは良しとされなかったようだ。
仮に捕縛するような手に出たところでナナシには一切通用しないようだが…
「へえ、そうなんだ…まあそんなことよりも、さすがに部下たちの合流を待つべきだろ?
50人もここにいるし、アジトにはまだいるんだからあんただけじゃ手が足りないだろう」
「うむ、そのつもりだが…それよりもナナシ君、もう1人増えているのは誰か説明してもらってもよいかな?
ダンジョン突入時の人数より増えているのはさすがに所長という立場上見過ごすことはできないよ」
「あ、そうだったな…ひとまず紹介だ、名前はユキ。えーと…一応天空龍だ。主は俺になってる。
人の姿をしているが、本当の姿は白龍だ」
「我がユキだ。主であるナナシ殿に敗北し軍門に下ったというべきだろう。主には解放してもらった身だが…数千年ほど生きておる、よろしく頼む」
「ちょっと待ったナナシ君。今『天空龍』って言ったかい?大昔に封印されたと伝えられていたが…」
「ああ、なんかスキルとして封印されていたみたいでな。俺が解放したんだ。
こいつこう見えて俺の次に強いぞ?Sランク冒険者クラスの実力は優に超えてるはずだ」
「君の次に強い、か…その可愛らしい見た目からは全く想像がつかないが、君が言うなら間違いないのだろうな。
それならばこうしよう。私の部下が合流し次第アジトを壊滅させに行くのだが、その戦闘をユキ君1人に任せようと思う。
その出来次第で私の権限を使ってSランク冒険者と認めよう、それでどうかなナナシ君」
「おお、そいつは話が早い。だが一応契約上俺も同行させてもらう。こいつを止められるのも俺だけなんだ。
やりすぎたりしたら目も当てられないからな、それも同意してくれればありがたいが…」
「それはもちろん。というか全員同行してもらうつもりだよ、ただし戦闘はユキ君ただ1人。
ギルド所長アインズの名においてこの契約は果たされるだろう」
アインズにユキの紹介を済ませ、アジト壊滅の名目でユキの戦闘行為を判断材料として冒険者ランクを決定するという約束までしてくれたのだ。
天空龍の名は伊達ではなく、アインズも知っているため有名なのは間違いないのだろう。
雑談を交わしておよそ1時間ほど経過したころ、アインズの部下4名が返り血にまみれつつ汗だくで現れた。
その表情はかなり険しく、疲労が見て取れるほどだった。
『まだこれからが本番だよ』とアインズが笑顔で事実を伝えると、がっくりと項垂れていた。
中には杖を持った女性もいたのだが、地面にへたり込む形で座り込んでいた。
「それじゃ君たち4人はここで待機していてくれ。そこにナナシ君が捕縛した盗賊団の一部が寝ているから、くれぐれも魔物に食わせないようにしておいてね。
私はナナシ君たちとこれからアジトを潰しに行ってくるから、戻るまで頑張ってねみんな」
「そ、そりゃないぜ所長…人使い荒すぎるぜ…」
「ふふ、君たちは特別任務で今回同行しているからその分手当は出すからね、生きて帰ったら渡すから生き延びるんだよ」
部下と一言二言会話を済ませたアインズは改めてナナシに向き合い、『じゃあ行こうか』と先ほどまでのにこやかな表情とは違い真剣な表情で言う。
それは人当たりのよさそうな老紳士の風貌から、まるで老練な戦士のような鋭さを持っていたのだ。
彼は武器を持たない。その装備は両腕の袖に隠された籠手だけだった。
己の肉体そのものが武器となる、格闘家スタイルで戦うようだ。
魔物との戦闘のみを今回行うのだが、その立ち振る舞いは戦争に出向く兵士によく似ていた。
その頃、19階層の盗賊団のアジトではとある動きが起きていた。
集団の前に立つ3人のフードを被っている人物に対し、30名ほどが囲んで武器を構えていた。
どうやら下克上のような反乱が起きかけていたのだった。
「今まであんたらの指示を聞いてきたが、今回はそうもいかねぇ。俺たちは捕まるわけにはいかねぇんだ。
だからあんたらを餌に俺たちは助けを求める、大人しく捕縛されてくれや!」
「ふむ、やはり所長と思わしき人物まで現れたか…狙いは俺たちのようだな。
大人しく捕まるとおそらく処刑は免れない、か…まぁこいつらを黙らせてから考えるとしよう」
一番背の高いフードを被った人物が喋る。その直後、その人物の姿が消え、辺りにいた盗賊団の部下たちの首から大量の血が噴き出すのが確認された。
辺り一面血の海となり、そこら中に鉄の匂いと血の色が染み込んでいく。
悲鳴1つ鳴らず、喧噪で騒がしかったアジトが静寂に包まれる。3人のうち2人の姿が無くなっていた。
その場にただ1人残された人物は何を喋るでもなく、近くにあった椅子に座りジッと何かを待つのだった。
ナナシ達が到着したころには血の海が乾き始め、赤い染みを作り始めていた。
部屋の中央に置かれたソファーのような椅子に1人だけ座っているのが見える。
その人物が来ている服装から見えた右肩には『奴隷紋』が確認できたのだ。
毎朝10時に投稿しております。体調が戻り次第14時にも投稿しますので、いつも読んでくださる方々にはご迷惑をおかけしますが、最低1日1話投稿しますので、これからも読んでいただけると幸いです。




