第38話 19階層、新魔法
19階層に着き、魔物がたくさん沸いている小部屋を発見したナナシ達はそこで戦闘の特訓を行うことにした。
相変わらず昆虫型が多いが、鉈を持ったオークや巨大な刃物を持つオーガもいて、特訓にかなり向いているとわかる。
大きな鎌を両腕に生やしているカマキリの魔物『ラージマンティス』が先頭を切って突っ込んでくる。
だがナナシが部屋に入ると同時に展開していた結界によって侵攻が止められ、キシキシと関節から音を出しながら何度も切りかかってくる。
悉く弾かれ、その姿を見ている後方の魔物たちも進むのをためらっているようだった。
その隙にサラ・アスモペアが戦闘準備を終え、左右に分かれて各々結界を張り、魔物を20体ずつ程度で分断していた。
ラージマンティスは相変わらずナナシの結界に夢中になっているため戦闘候補から外れたようだ。
「いいか、今からサラが近接、アスモが魔法主体でそれぞれ戦闘を開始する。
シルビィとリスティルはサラを、エレンとエルはアスモを主に見てどう戦っているか学ぶんだ。
冒険者歴や対魔物戦闘の回数は4人よりはるかに少ないが、それでも学ぶべきことの方が圧倒的に多いはずだ。
戦闘技術はもちろん、魔物の特性に応じた効果的な攻撃、その他諸々を見て学ぶんだ」
ナナシがサラとアスモを同じ組み分けにしたのは4人の教師役となってもらうためだった。
ナナシが話している間に戦闘が開始される。
サラはオールラウンドで戦えるため、シルビィのように短剣、リスティルのように大剣を使いつつ理解が追いつく速度で淡々と討伐していく。
アリ型の魔物には頭と胴体の関節部を狙い切断、甲殻を持つ硬いカブトムシ型の魔物は柔らかい腹を切る。
1体に集中しているように見えるが、『万能感知』により常時周囲の状況を把握しつつ囲まれない位置を選び移動している。
そんな姿を見てリスティルは何かを掴んだかのようにぶつぶつと自問自答を繰り返していた。
シルビィは短剣の扱い方が自分に合わせていることに気づいたらしく、『ウチの技術を超えちゃってるなあ…』と悔しそうな表情をしていた。だがその視線はサラを離すことはなかった。
一方アスモはというと、戦闘開始直後に『ウインドカッター』を3つほど投げつけ、移動の早い魔物の機動力となる脚や羽を切っていた。
狙いは的確だがとどめとならないよう威力も制限して使っている。それでもエレンと同じ程度の威力だった。
機動力を奪い余裕ができたアスモだったが、それでも立ち止まることは一切なかった。
同じ魔法を主体とするエレンの為に魔力を込めながら移動する技術を学ばせるためだ。
普段のアスモなら機動力を奪うことなく移動しながら魔法を行使することができるが、今のエレンの実力でもできる範囲の技術として機動力を奪うことを最初に行ったのだ。
それを目撃したエレンは『あー、そういう方法もあったなぁ』と気づけない自分に歯噛みしていた。
エルはというと、本来は弓での後方援護がメインなのだが接近された際の回避方法、回避する方向を主に確認していた。
基本は後ろに下がるも、時に左右に、時に懐へと入り込む。その動きはとても流麗で美しかった。
サラ、アスモ共に被弾もなく、サクサクと討伐していく。だがお互い一切の油断もせず、囲まれない立ち位置を確実に確保し、1つのミスもなく弱点部位や急所を的確に攻撃していくのだった。
10分ほどでほぼ同時に20体前後討伐完了する。本来の実力ならば数秒で全滅させているだろう。
あえて魔物の攻撃や行動をさせ、それに対応した攻撃や回避を見せつける為にここまで時間をかけたのだ。
結界を解いた2人が戻ってくるも、瞬時に新しく結界を展開する。それは魔物がいる部屋の中央に向けたものではなく、自分たちが入ってきた入り口側に向けてだった。
その直後、火魔法と思われる爆発が結界に当たる。おそらく中級魔法クラスだろう。
だがそれ以降いくら経っても攻撃が行われなかった。むしろ恐ろしいほど静かだったのだ。
静かになった原因は…姿の見えなくなったナナシとユキだった。
「よう、お前ら…気づいてはいたが何もしなければ無視してやったんだ。
だが降りかかる火の粉は払わせてもらうぞ?盗賊ども」
「ケツ、たった2人で強がっても無駄だぜ?ここにいるのは50人はくだらねぇ。それでも勝てると思ってんのか?」
「ん?50人?もうお前だけだが?」
「な、何言ってやが…お前ら!?もう1人のあのガキが何かしたのか!?」
「む、我をガキ扱いだと…まぁよい。全て意識を刈り取らせてもらった。暫くは起き上がれぬだろう」
「さーて、お前らがこれで全員じゃないことくらいは知ってるからな。
残りの奴等の居場所も教えてもらおうか?さすがにこんなところではお前も死にたくないだろう?」
戦闘行為が行われようとした直後、既にユキが全員に対し低級闇魔法『スリープ』を無詠唱にて放っていた。
先頭にいた小太りで大柄な男だけ対象外にし、情報を聞き出そうとしたのだ。
その作戦は『念話』にてナナシから伝えられており、戦闘がしたかったユキは不満そうだったが殺人を犯すわけにもいかないので渋々従ったのだ。
「へっ、あいにく俺らは仲間としてお互い思っちゃいねぇ。ただ目的を同じにする隣人ってもんでな、そこに仲間意識なんてないのさ。物資を奪い合うのも日常茶飯事、中には殺し合いまで発展する奴もいるくらいだからな」
「ふーん、そう。じゃあいいわ、お前も寝てろ。場所はそもそも知ってるからな」
「なっ…てめぇ!きたねぇ…ぞ…」
「主よ、こ奴らはどうするのだ?縛って放っておくのも我は構わぬが、主の寝ざめが悪かろう?」
「ああ、それについては大丈夫だ。既に魔法でここのギルドの所長さんに伝えてある。
4~5時間程度でここまで来れるんだと。その程度なら修行してればあっという間に経つだろうさ」
「ほう、いつの間に…それならば問題は無いか。ならば娘どもの下へ戻ろうぞ主」
ナナシは風魔法の応用で音を指定した場所へ運ぶという新魔法を発明していた。
即座に内容が届くというほどではないものの、音速で届けたい地点に声として届けることができるので使い勝手がかなりよかった。
盗賊を見つけたら試しに使ってみようと思い、18階層で戦闘音が響いた時点でアインズへと使っていたのだ。
その風魔法は名前はまだないが、時間差はあるものの会話も可能なため、盗賊捕縛の報告、こちらに向かうという連絡もできたのだ。
サラと共に発明したのだが、『時空間魔法も併用すれば時間差も無く作れそう』と助言を貰っていたため、ナナシとしては未完成なのであった。
「おう、戻ったぞ。盗賊はとりあえず眠らせてあるから大丈夫だ。何も気にすることは無いぞ、早速修行再開といこう」
「さっすがナナシクン!頼れるウチらの旦那様だっ」
「ほんとあっという間に終わらせてきたのね…敵にならないで味方というか身内になれてよかったわよ」
「ナナシ様、お怪我は…あるわけないですよね、失礼しました。でもさすがです」
「ナナシさん…でも盗賊団はまだいるんですよね?どうするつもりで考えているんですか?」
「ああ、そのことだが…既にアインズ所長がここに向かっている。捕縛しに来るまでここで修行しながら待機って形になる。
そのあとはまたアインズ所長と直接話してから決めるつもりだ」
「ほう、あの油断ならぬ男がここへ来るのですか…旦那様、念のため警戒はしておきましょう」
それから数時間後、アインズが4名の元冒険者のギルド職員を引き連れて合流するのだった。
毎朝10時に投稿しております。体調が戻り次第14時にも投稿しますので、いつも読んでくださる方々にはご迷惑をおかけしますが、最低1日1話投稿しますので、これからも読んでいただけると幸いです。




