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ナナシの使い(仮)  作者: りふれいん
第二章 王都を乱す男
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第36話 エレンの夢、過去の真実

 気を失ったエレンは夢を見ていた。深い森に1人で泣いている茶髪の少女が見える。

 その少女は幼い姿のエレン本人だった。だがその幼いエレンの姿を現在のエレンが見ている。



『これってどういうことなの?まさかアタシの古い記憶を思い出させてる…?あれ、でもこの後って…』



 少女のエレンの背後から何かの気配を感じる。だが1人になった心細さにより泣き続けている少女はその背後の気配に気づくことができなかった。

 そこから姿を現したのは一匹の大きな狐だった。一見すると魔物のように感じるが、明らかに敵意は無かった。

 むしろ優しい母のような目つきでエレンを見ていたのだ。



『そうだ、あの時…妙な安心感を感じて泣き疲れて眠っちゃったんだっけ…

 その安心感の正体はあの大きな狐さんだったんだ』



 現在のエレンがそう言うと、幼い姿のエレンは倒れこみ、すやすやと寝息を立て始めた。

 その頬には涙の流れた後がくっきりと残っており、目元は手で擦っていたのだろう、赤く滲んでいた。

 少女が眠ったのを確認するように大きな狐は表情を窺うように回り込む。

 そして体が冷えないように自身の体毛で覆ってあげていた。

 すると突然木陰から覗くようにして見ていたエレンの方を向き声をかける。



「そこの娘よ…娘はこの少女の未来の姿だな?隠れていて姿は見えずとも気配でわかる。

 我は狐人族の長をしている。この姿で人族と話すのは初めてなのだが、恐れることは無い」



 まさか話しかけられると思わなかったエレンが思わず息を呑む。

 だがこちらにしっかりと向き、まるで存在を確信しているかのような大狐は話を続ける。



「何、心配することなど何もない。そもそも我が何かしているのであればこの少女であるお主が現れることもなかっただろう。

 もう気づいているのだろう?お主が過去の世界に意識が飛び、幼いころ起きていた事実を確認していることを」



 そう、今見ているエレンの夢は10年も前の記憶。ただ、なぜか思い出せないでいたのだ。

 その事実に驚きを隠せないエレンが思わず答えてしまう。



『やっぱり、ここは昔アタシが迷子になったことのある森なのね…でもなんで思い出せなかったの?』


「ほう、会話も可能なのか。では娘に真実を伝えるときが来たようだな。

 お主の幼き頃、この森で遊んでいたお主は迷子になった。そこまでは良いな?」


『は、はい。でもそこから先がどうしても思い出せなくて…思い出そうとすると白いモヤのようなものがかかるんです』


「それは当然だ。なぜなら我が思い出せないように幻術をかけたのだ。我ら狐人族のこの姿は広まってはならぬ。だからといって幼子に手をかけるわけにもいかぬだろう?

 長である我でもそこまで非道な行為はしたくないのだ。記憶を消す以外に良き方法が無いのだ」



 特殊スキル『妖狐化』。狐人族の長が代々引き継がれていくと言われるスキルである。

 ごくまれにその才能を開花させる者もいる。シルビィは後者、才能により発生した。



「未来から来た娘よ。実はこの記憶はお主が絶望の淵に立たされることになった時、思い出すようにしてある。

 おそらく現実で何かしら起き、それで今我と話をしているのだろう。

 我からの助言と言うほどでもないが…娘の気分を少しでも良くなるような言葉を伝えよう」



 大狐はそう言うと目を閉じ何やら呪文を唱えだした。

 すると魔法陣が地面に現れ、とある人物をその場に召喚した。

 見慣れた黒髪のオールバック、そして長身とも言える背丈。

 エレンの現在愛する人物であるナナシ本人だった。



「おわっ、なんだ!?ってここはどこだ…森?それに狐?で、寝てるのは…エレン?だがこれは…」


『な、ナナシ!?なんでアンタがアタシの夢の中に!?』


「ん?エレン…って夢の中?ははぁ…つまりは俺がこの狐さんに召喚されたと見ていいんだな?」


「ほう、頭の回転がとても早いのだな。それに落ち着きもある。如何にも我がお主を召喚した。

 誰が召喚されるかわからなかったのだが、この娘の状況を救える存在として召喚したのだ。

 どうやら成功のようだ、お主はこの娘とどういう関係なのだ?」


「俺か?俺の名はナナシ…というか記憶喪失で本来の名前が無い。関係は…そうだな。

 俺の作った冒険者クランのマスターとメンバー、それに婚約者ってとこだ」


『ちょ、ちょっと!何あっさりと答えてんのさバカナナシ!恥ずかしいじゃないの…』


「ほう、婚約者か!確かにそれは娘を唯一救えるやもしれんな。

 ここは我にとっては現在だが、お主や娘にとっては数年前の世界となる。

 そしてこの眠っている少女がそこの娘の過去の姿となる」


「なるほど、時間を超えてわざわざ召喚したというわけか。エレンも同じなのか?」


「いや、娘は違う。娘が現実で絶望を感じた時、夢としてこの世界に現れるようにしたのだ。

 そしてその絶望を振り払うために、このように少々手を込んだ所業となった。

 狐人族のこの姿は…お主は知っておるのだな」


「ああ、知っている。シルビィがそのスキルを持っているからな。…ってこれは話してよかったのか?」


「何、シルビィだと!?あの娘がお主の下にいるというのか!それに…『妖狐化』まで持っているだと!?」


「なんだ、知らなかったのか?というか数年前ともなるとまだスキルに目覚めていない可能性もあるか。

 シルビィもエレンと同じ立場だ、メンバーであり俺の婚約者でもあるぞ」


「そ、そうか…あの小娘がお主と結ばれるのか。ただの人族であれば許しはしなかったが…お主はただの人族ではあるまい」



 大狐はナナシが人族でないことを初見で見抜いていた。

 規格外とも言える魔力、一切の隙の見せない立ち振る舞い。

 一目で見抜かれたナナシは珍しく驚いていたのだ。



「ほー、さすがは狐人族の長さんだな。だがそう言いながらも幻術をかけようとしないでくれよ。

 一々解除するのも面倒だし、何より長のアンタの魔力が尽きちまうぞ?」


「な、なるほどな…だが我が一族の者を嫁に取ると決めた男がどの程度の者か確かめざるを得なかったのでな。だが…発動しようとすればすぐさま妨害されるなど思わなかったぞ」



 狐人族の長はナナシに対し会話をしながら幻術をかけようと何度も試みていた。

 だが魔力を込め始めた直後、ナナシがその度に『魔力操作』の応用で『対象の魔力集中を阻害』させていたのだ。

 その技術を思いつき、自らのモノにするナナシの頭脳は天才と言わざるを得ないだろう。



「あー、だからといって攻撃魔法もだめだぞ?俺には通用しないのはわかっているはずだ。

 いい加減止めてくれないかな…エレンと話もしたいんだからさ」


「む、むう…我が手も足も出せぬとは…まぁよい、お主と戦闘行為をするために呼んだわけではないからな。

 エレンとやら…このナナシという男がお主に伝えたい言葉があるそうだ。しかと聞くとよい」


『あ、あはは…何が何だか分からなくなってきたよ。で、伝えたい言葉?って何?」


「ああ、そうだった。本当はお前が目を覚ましてからちゃんと言おうと思ってたんだがな…

 だがその前に『防音結界』っと…さっきからあの狐が聞き耳を立てていやがったからな」


 結界の外では大狐が何やら叫んでいる。とても悔しそうにしており、よっぽど聞きたかったようだ。


「実はお前らの班が出発してからシルビィにはちゃんと伝えていたんだがエレンには言ってなくてな。

 エレン…俺はお前を本当の婚約者と思ってるぞ?それを覚えていてほしいんだ。

 だから全部隠さず出せとまでは言わないが…それでも頼れると思うところは頼ってほしい。

 エレンはなかなか素直になれない性格だっていうのもわかってる、だからこそ少しずつでもいい。

 俺のことを信じてほしいんだ」



 エレンにそう言うナナシの表情は真剣で、まっすぐにエレンを見つめていた。

毎朝10時に投稿しております。体調が戻り次第14時にも投稿しますので、いつも読んでくださる方々にはご迷惑をおかけしますが、最低1日1話投稿しますので、これからも読んでいただけると幸いです。

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