第21話 ラビリンス、王都ガルディア
2人を貰え、それが決闘の報酬だった。アスモはそれを聞いてとても満足そうに頷いている。
ナナシは心の中で大きなため息をついた。『やっぱ予想通りだったか…』と。
隣に立つ元『賢人』のサラも特に驚きもせず、エレン達を見ていた。
ただエルだけはその言葉を聞いて、一人アワアワと狼狽えていた。
この世界はナナシが生前暮らしていた世界とは違い、一夫多妻制、多夫一妻制が当然である。
エルはベルモンド家という貴族の出身だが、夫婦一人ずつでこれまでを過ごしていたため、『自分も一夫一妻なのだろう』と思っていた矢先のことである。
「はぁ…やっぱりそう来ると思ってたよ。俺に拒否権が無いことは決闘で決まってるから拒否はできないが…そうだな、エルには俺からプロポーズして婚約はした。それは俺もエルが好きになったからだ。
だからといって俺はお前らが嫌いなわけじゃない。だから時間をくれ。結婚となれば俺もどうせなら式を挙げてちゃんとした形で迎えたいんだ」
「何よそれ…そんなの狡いじゃない。そういう言い方されたら待つしかないじゃないのよ…」
「ナナシクンって意外としっかり考えてるんだね、もっと軽いかと思ってたよ?
こんなに美人に囲まれて誰一人として手を出さないし、そもそも気づいたら増えてるし…これはまだまだお嫁さん候補が増えたりしてね!」
「おいおい勘弁してくれ…たかが18のまだ生活も安定していないガキ同然の甲斐性無し男だぞ?
そんなにポンポン増えるほうが困るっつーの…今日一人増えたけどな」
「旦那様、甲斐性なんて冒険者稼業をしていれば勝手について回りますわ。あと2、3人増えても旦那様であれば何も問題はございません。その為の冒険者なのですから」
「マスターであれば世界征服はおろか生命を創造することも後にできるようになるでしょう。
ですが、私はマスターがどういう存在になろうとも永遠にともにいます、ご安心ください」
「ナナシさん…私は本当に結婚できるのでしょうか?婚約は果たしましたが、少し不安になってきました…」
ナナシの下に集まった5人の美女たち。
魔法使いのぺったんこツンデレ娘エレン
隠密を得意とする金色の毛並みを持つ狐人族の亜人シルビィ
ナナシの召喚に応じ呼び出された最上位悪魔『色欲』アスモデウス
お互いに一目惚れし、婚約を果たした元ギルド受付嬢エル
ナナシを脳内からサポートし続け、スキルによって生み出された元特殊スキル『賢人』サラ
そして彼女らの意中の男となり、今までもそうだがこれからもアプローチを受け続けることが確定した『転生者』ナナシ。
ナナシは思った。『相談相手になる同性の仲間が欲しいな…』と。
その機会は思っていたよりも早く訪れるのであった。
アスモ達の決闘が行われた日から数日後、ナナシ達はとある理由で冒険者ギルドを訪れていた。
エルから聞いた話によると、この世界には『ラビリンス』と呼ばれるダンジョンが存在するそうだ。
追加されたサラの分も含めて冒険者プレートが完成したとの報告が届いたので、それを受け取るついでにそのダンジョンに挑んでみよう、という考えに至ったそうだ。
ここファスターの町から徒歩で2日ほど街道を進んだところにある都市にそのダンジョンの一つがあるという。
多少鈍った身体を動かすのに丁度いいということで、全員一致でラビリンスのある都市『ガルディア』へ向かうことになった。
王都ガルディア。人口およそ30万の大都市である。
ファスターの町の人口はおよそ2万となり、その大きさが人口からわかるだろう。
大きな湖の畔には大きな城が聳え立ち、背後は湖に守られているため、天然の要塞とも言えるだろう。
大きな城とともに存在する城下町も広く、昼夜問わず人々の喧騒が聞こえるほどにぎわっている。
ナナシ達は馬車を借りて王都へ向かっていた。エルが御者の経験があり、徒歩より早いため野営が1回で済むからである。
そんな中で、ナナシは正式にパーティ(婚約者)として加わったエルにスキルを与えようと考えていた。
これがエルの現在の能力値である。
名前:エル・ベルモンド
種族:人族
状態:正常
特殊スキル:無し
常用スキル:『気配察知』『戦闘知識(弓・剣)』『魔法知識(光)』
ステータス
腕力:C
魔力:D
敏捷:B
抵抗:B
幸運:A
剣と弓が使え、前衛後衛両方ともこなし、光魔法で回復や支援もこなせるオールラウンダーだった。
ここにナナシは『念話』『経験上昇』『魔力感知』の3つを『贈与』スキルによって付与したのだ。
最初にスキルを付与すると聞いたエルは『何言ってるの?キューブもないのに…』とさすがに信じなかったが、ナナシが終わったぞ、と声をかけてすぐ確認して、驚きのあまり倒れてしまったのだ。
婚約した以上死なせるわけにはいかないと考えての行動だったのだが、さすがに衝撃が強すぎたようだ。
エレンやシルビィにも『スキルを付与してよ!』と言われたのだが、後日まとめて全員に付与すると約束して一時的に事なきを得た。
ナナシは平気な風を装ってはいたのだが、スキル付与の際にかなりの魔力を消費したため、かなり疲れていた。
ナナシの魔力総量換算で15%ほどである。常人には想像を絶するほどの量の魔力を消費したのだった。
「ナナシさん、みなさん、見えてきましたよ。あれが王都ガルディアです。
早馬を使って事情を手紙にて説明してあるので、すぐ王都へと入れると思います。こういう時貴族って便利ですよね」
「おお、そういえばエルの実家はあの町の貴族だったな。助かるよエル、ありがとな。
だけど…なぁ、俺の目はおかしくなったのか?なんか兵士が武器を構えて待機してるように見えるんだが」
ナナシ達一行を乗せた馬車の前に100人は下らない全身を銀の鎧で固めた兵士が道を塞ぐように立ちはだかる。
ファスターにいた衛兵は軽い胸当てや簡単な籠手を装備した、動きやすさを重視した装備だったが、明らかに衛兵ではないことをナナシは瞬時に把握した。
一糸乱れぬ動き、切れ味の良さそうな大剣や殺傷能力の高そうな長い槍を携えている。そう、彼らは王都直属の軍隊であった。
その中から金の装飾が施された一際目立つ装備の兵士が馬車の前に出る。
おそらく隊長クラスの兵士であろうその人物がおもむろに兜を脱ぎ、跪く。
鮮やかな黄緑色をした髪は纏められているが、おろせば腰まである長さをしているであろうその人物は驚愕の女性だった。
「ファスターから来られたベルモンド家ご息女エル・ベルモンド様とSランク冒険者、ナナシ様一行とお見受けします。
私はガルディア王家次女、リスティル・ガルディアと申します。
第15代ガルディア王の命により、お迎えに上がりました。エル様及びナナシ様一行には、王城へ案内せよ、との指示が出ております。
無礼を承知で申し上げますが、我々に従い王城までご同行願いませんか」
ナナシ達を迎えに来た人物はこの王都ガルディアの姫と名乗る人物だった。
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。