第20話 相馬沙羅、アスモの狙い
「マスター、初めまして。この姿はマスターの脳内により生成された姿になります。
どうやらマスターはこういった趣味の女性が好みの見た目なのですね」
ナナシが作り出した『女性』、その姿はナナシの思い描いたタイプの女性そのものを表現した、事実存在しない外見の持ち主であった。
銀髪ショート、切れ長で青い瞳を持ち、Dカップくらいの大きさの胸、健康的な褐色の肌。
ナナシの趣味を把握した上で、『賢人』自ら選んだという。自我が芽生えた状態で召喚されたので、『賢人』は好きな外見、性別を選べたのだが、その事実をナナシは知る由もない。
「マスターにお願いがございます。『賢人』という名前はスキル名にすぎませんでした。
なので、マスターによって創られた私に名前を頂けないでしょうか」
「それはわかった、名前は付けてやる。いいか、とりあえず何か着ろ!目のやり場に困る!」
そういいながら『収納』から毛布を取り出し、投げつける。身体は生成されても、身に纏う衣類は無く、生まれたままの姿、すなわち真っ裸で隠すことなくナナシの前に立っていたのである。
ナナシは目の前の己の理想の女性の裸に、別のモノが立ちそうだったのだが…
ここは屋上、そして朝である。少しずつだが町人の声が聞こえてきていた。
ちなみに、ナナシは両手で顔を隠しているが、指の隙間からチラチラ見ていたのであった。
「そうだな…実は考えていた名前があってな、それをやるよ。お前の名前は…」
名前:相馬沙羅
種族:ホムンクルス
状態:正常
特殊スキル:『収納』『鑑定』『隠蔽』『無名の加護』
常用スキル:『万能感知』『言語把握』『魔法知識(元・光・時)』『戦闘知識』
ステータス
腕力:S
魔力:S
敏捷:S
抵抗:S
幸運:S
「お前の名前は、相馬沙羅。こっちの表記だとサラ・ソウマだ」
「サラ・ソウマですね。なぜファミリーネームがあるのでしょう?マスターはナナシというファーストネームしか存在しませんが、何か理由が?」
「ああ、それは…なんでだ?うーん…記憶にその名前があったらしい…
どうやら、俺の中ではかなり大切な名前…だったらしい。思い出せないが…」
ナナシの封じられた生前の記憶。『相馬沙羅』という存在、そしてナナシの好みの姿。
思い出そうとするナナシだが、何か記憶に封印が施されているようで、それ以上の情報が引き出せなかった。
だがナナシは確信していた。その名前と外見が、自身にとってかけがえのない誰かであったということを。忘れてはいけない存在だったということを。
「そろそろ戻るか…エルたちが起きているかもしれないし、お前のことも紹介しなくちゃならんしな」
「了解しました、マスター。衣類はマスターの『収納』と共有されているようですので、そこから見繕います」
そうしてサラが着た服は、七分袖の白いジャケット、見た目はデニムの青いショートパンツ、そして茶色のロングブーツだった。
褐色の肌によく似合っているファッションをしていた。なお、この衣類はエルの私物である。
自室に戻るとエルとアスモは起きていて、ナナシと一緒に入室してきたサラにとても驚いていたが、ナナシは自分が新しいスキルを手に入れたからそれで呼び出した、と事実を伝えた。
衣類に関しても色々言われたが、エルよりサラの方がよく似合っていたため、諦めて譲ることにしたようだ。
サラを召喚してから既に3時間ほど経過していたため、時刻は11時前になっていた。
今日の午後はアスモ対エレン、シルビィペアの決闘をするため、急いで準備と食事を済ませ、サラの冒険者登録も済ませてしまう。
ギルドに入ると、『また新しい美人を連れてるぞあいつ』といった嫉妬と羨望の眼差しが突き刺さっていたが、対応するのも面倒なため無視する4人組であった。
サラも冒険者登録しようとしたが、なぜかSランクとして登録されるようだ。『ナナシが連れてきた人物』ということで、所長からお達しがあったようだ。現在はナナシ、アスモと同じくBランク扱いである鉄製のプレートを受け取る。
そうこうしているうちに約束の時間になるため、待ち合わせ場所の町の入り口に向かう。
既に2人とも到着しており、何か気合の入った表情でナナシを見ていた。アスモは何故か嬉しそうである。
「よう、待たせたな。こいつは新しく俺が呼び出した仲間、サラだ。今日の事情も説明してある。
お前らが何を考えて今日の決闘を挑んできたかもなんとなく予想はついているが、今回戦うのはアスモだ。
俺は結界を作って周りに被害を出さないようにサポートに徹する。その結界の範囲で決着をつける、それでいいな?」
「ええ、それでいいわ。それじゃ早く行きましょう」
「やけにあっさりしてるな…まぁいい、転移魔法を使うから俺の作る魔法陣の中に全員集まってくれ」
直径10mほどの魔法陣を描き、そこに全員が入ったことを確認した直後、ナナシは転移魔法を起動する。
前回と違い、ナナシの指定した範囲の人物及び物質のみを瞬時に転送することが可能になっていた。
決闘、婚約、ミコトとの再会など色々あった中で、サラとなった『賢人』と改善方法を模索し、現在のような効率の良さを持った転移魔法が使えるようになったのだ。
「よし、こんなもんか。んじゃ結界を張るが3人とも、準備はいいか?決闘の合図と決着の判断はエルに任せる」
「ウチらはいつでもいいよー」「私も問題ないですわ」
「んじゃ結界発動!死なない程度に頑張れよ」
直径30mほどのドーム状の結界がナナシによって生成される。だいぶ狭く感じるが、アスモが魔法でやりすぎないようにこの大きさにしたのである。アスモ自身がそれを求めていた。
そして結界が張られ、決闘開始の合図が送られる。
「では…決闘はじめ!」
その合図とともにシルビィが走り出す。敏捷Aの速度でのダッシュはなかなかのスピードがあった。
ウサ〇ン・ボ〇トよりも早いのではないだろうか、と暢気な考えをしていたナナシである。
そんな速度でもナナシは当然、サラも楽に対応できる速度だが、アスモは魔力に特化したタイプのため、やりにくそうだ。
その上、ナナシにより『低級魔法』のみ使用しろと言われているため、決定打が打てない。
シルビィに翻弄され苦戦しているアスモだが、急に魔力の高まりを感じ視線を動かす。
その視線の先には、詠唱を終え『中級風魔法』のトルネードを放つ直前のエレンの姿があった。
気づいた時には既にシルビィは距離を取っていた。魔力に気づき迎撃しようと試みるアスモだったが、時既に遅く、アスモを中心とした直径10m程が分厚い竜巻によって囲まれていた。
しかし、それも僅か数秒だった。急に竜巻が全て消え去ったのである。
消したのはもちろんアスモだが、満足そうなな表情をしていた。その後、エルより宣言がなされる。
「アスモさんによる『中級』以上の魔法の使用を確認、反則負けとして勝者エレンさん、シルビィさんペア!」
「か、勝てたの?アタシたち…あのアスモさんに」
「ウチ、走り回って疲れたよ…これ以上は無理ぃ…」
「制限付きとはいえ、2人に負けるとは思いませんでしたわ…すみません旦那様」
「お前、まさか…はぁ、反則は反則、勝ちは勝ちだ。エレンにシルビィ、お前らの勝ちだ」
「「や、やったぁ…」」
「んで疲れてるところ悪いんだが、お前らの報酬は確か『2人による決定権』だったよな。
何を決定させたいのか教えてくれ」
魔力の使いすぎで座り込むエレンと、走りすぎて肉体的疲労が溜まって草原に寝そべるシルビィに向かって報酬の話をするナナシである。
だがナナシは大体の予想はついていた。だからこそ2人を急かすのである。
「え、えっと…その…アタシたちを…ええと…」
「あー、じれったい!ナナシクン、ウチとエレン2人とももらってよ!これがウチらが貰う報酬!」
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。