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ナナシの使い(仮)  作者: りふれいん
第一章 目覚めと出会い
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第16話 勇者、エルの思い

 ナナシは静かに寝れる気がしなかったため、自身が使う予定のベッドに対し『時空間魔法』による簡易的な結界を作り、1日の疲れを癒すべく眠りについた。

 案の定別室でエレンと寝る予定だったシルビィが器用に窓から部屋へと侵入していたのだが、ナナシによる結界を破ることができず、渋々と自室に戻るといった案件が起きていた。ナナシは知る由もない。

 翌朝、食堂と酒場を兼ねている受付へ向かうと町案内の約束を果たしにエルが待ち構えていた。

 その目元には少しばかり隈ができており、手元には何かのメモを纏めた書類を持っていた。



「あ、ナナシ様、おはようございます…ふう」


「お、おはようエル…というかなんか眠そうだぞ。隈もできてるし、ちゃんと寝てないんじゃないのか?

 まさかとは思いたいが、今日の町案内が楽しみで寝ずに案内する店やら名所やらを纏める為に頑張った、なんてことはないよな?」



 ギクッとした表情をし、目線をわかりやすく横に流しながら「そんな訳ありませんよ」と言っていたエルであったが、あからさまにバレバレでナナシは苦笑いを浮かべていた。



「それでは、今日は町の案内をさせていただきます。ナナシ様の言う通り少し眠いですが、ギルド受付では徹夜で作業することも時々ありますし、夜中に以来の報告をしてくるアホ…冒険者もいらっしゃいますので、この程度造作もありません」


「アホって聞こえたぞ、エル…それと『様』なんて俺にはつけなくていいぞ。

 いくらSランク冒険者になったとはいえ、俺自身敬語を使うのも苦手だし、使われるのも釈然としない。

 そもそも18の若造だぞ?もっと気楽にしてもらいたいもんだ」


「は、はあ…ナナシ様は不思議な方ですね。私は17ですが、数日後に18になります。

 この世界では16で成人扱い、そして大抵の男女は14までに許嫁や婚約者を持ちます。18を超えると、『行き遅れ』とまで言われてしまうんですよね…もれなく私も相手がいないまま18になってしまうのです」


「18で行き遅れ扱いかよ…ってん?『この世界では』ってどういうことだ?エル、お前何か知ってるのか?

 例えば、そう…誰かが『別の世界から来た』とか、ここの言葉とは違う言葉を話していたとか、見たこともない文字を使っていた、とかか?」


「え、ええっと…ナナシ様は鋭いですね。というか8割がた当たってます。残りの2割については後程説明させていただきますが、今ナナシ様が仰った通りの出来事が今までに何度もありました。

 そういった方々のことを、『転生者』なんて呼ばれています。出身も不明、身元も確認できない。そして何よりも、圧倒的な強さを持ち、他者を貶めたり好きなように暴れまわったりしております。

 圧倒的な力と身元不明という意味ではナナシ様も当てはまりますね?」



 そういうとエルは怪しげな笑みを浮かべて、身長差があるため見上げる形になるのだがナナシを睨むような視線で『あなたもそうですか?』と訴えているようだった。

 当のナナシはというと、聞いた話の通りであれば自分も『転生者』であることは違いないのだが、突如力を持ったが故に暴れまわる、ということに引っかかりを覚えていた。

 ナナシの場合は『ミコト』がいたため、自重するように心がけていた。ならその『転生者』たちはどうだったのだろう?という疑問が頭から離れなかった。



「『転生者』ねぇ…確かに俺に類似しているな。そこを怪しまれるのも仕方は無い。だが俺は暴走していないだろ?わざわざ面倒を起こすようなことはしたくないんだよ」


「それもそうですね、失礼いたしました。では残りの2割についてお話します。

 実は、『勇者召喚』という名目で、この世界ではない『異世界』からの人々を呼ぶ行為により、『転生者』ではなく『召喚者』、または『勇者』と呼ばれる人々が存在します」


「な…勇者だって?それに『人々』ってことは複数人も同時に召喚しているのか、この世界は!?」



 勇者。それは圧倒的な力を持ち、人々から多大な応援や援助を受け、魔物討伐以外にも魔界を制圧するために呼ばれると伝わっている。

 某有名ゲームのとあるセリフには『勇者だから何かを成すのではなく、何かを成したから勇者』という名言があるのだが、この世界では違う。

『勇者なのだから悪しき者を討伐し、魔界及び魔族を滅ぼす』為に存在している、とエルは言うのだ。

 ただ、エルはこの教えに対して疑問を持っており、「魔族にもいい人がいるかもしれないし、人族のこの世界を攻めてきていないのだから脅威ではないと思ってます」と付け加えていた。

 この一連の話を聞いていた最上位悪魔のアスモは不満を浮かべた表情をしていたが、エルの一言を聞き、エルに対しては嫌悪感を抱くのをやめたようだ。

 アスモは人族に対し偏見を持っておらず、魔界では数少ない『人族との交流』を願う悪魔だった。



「待て、エルとやら。その召喚された勇者はこの時代にも存在して、魔界を滅ぼそうと考えているのだろうか?」


「はい、その通りです。周りに囃し立てられ、魔族は滅ぼすべき悪だ、と。

 本来私が言ってはならない発言をしますが、私は勇者を勇者と認めておりません。あれは愚か者です。

 自分で考えず、ただ言われるがままに思考を誘導され、ひいては命を命と思わず、好きなだけ女性を食い物にしているんです。そんな英雄は認めたくありません…例え実力があったとしても」



 そのエルの目は赤く涙が滲み、肩が震えていた。

 その姿を見たアスモは優しい笑顔でエルを抱きしめていた。

 傍から見ると親子である。だがアスモは魔界から来た悪魔であった。

 ナナシとアスモはまだ『勇者』という存在に出会ってはいないのだが、2人には共通した認識があった。

『そんなクズどもは滅ぼしてやる』

 ナナシもアスモも最初はただの受付嬢としか思っていなかったのだが、魔族に対する心情を聞き、心底気に入ってしまったのだ。



「す、すいません、急に泣いてしまって…あの、アスモさん?放していただかないと…案内ができないのですが…」


「旦那様、この娘を連れ帰っても良いか!?私は気に入ってしまった!」


「気に入ったのは俺も同意するが…ペットを飼うわけじゃないんだぞ、グリーグさんが黙ってないだろ。

 そもそも、エル自身が自分で自分の人生を決めるのが筋ってもんだろ?俺らが勝手に決めるのはお門違いってやつになる」


「それもそうですわね…でも旦那様、本当に気づいていないのですか?」


「気づいていないって…何がだ?さっきからグリーグさんがそこの路地から覗いていることか?」


「え、ちょっとお父さん!?何してるのこんなところで!ギルドの仕事はどうしたの!?」


「む、むう…エルがナナシ殿に何かされるのではないかと気が気でなかったのでな…というかナナシ殿もアスモ殿も最初から気づいてはいたようだったが…」


「まぁな。殺気とは違うがあれだけ邪念が混じっていれば気づきたくなくても気づくさ」


「そんな男の話ではないぞ、旦那様。これは本当に気づいておらんのだな…エルよ、耳を貸せ」



 アスモはエルと何やらごにょごにょ秘密の話をしているようだった。途中からエルが耳まで真っ赤にしてオロオロしていたが、ナナシは気にも留めず出店で買い食いを楽しんでいた。

 グリーグは近くにいたギルド職員に気づかれ、連行されていった。

10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。

読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。

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