第15話 報酬、結成
応接室に着き、ナナシはエレン達3人から色々と質問攻めにあっていた。
抜刀術とは何か、その技術はどこで入手したか、あの速さはどうやって身に着けたか…などである。
一々まともに答えるのも面倒なため、そういうスキルを持っていた、ということにしておいた。
のらりくらりと適当に質問に答えていると、応接室にエル、そして顔色が悪いグリーグが入ってくる。
「ナナシ様、大変お待たせ致しました。所長が目覚め、事態を把握させるのに時間がかかってしまいました。一先ず報酬の件からお話させていただきます」
「あ、ああ…ナナシ殿、正直今でも私が負けたという事実が認識しかねている。だが、気が付いた時にはベッドの上に寝かせられていたため、何とか理解したつもりだ。
そして報酬だがまずは金貨200枚、この袋に入っている。これは決闘によりナナシ殿が正当に勝ち取った物になる。
それともう一つの方だが…冒険者ランクをBランクにするという件、あれが少々変わる。
曲がりなりにもAランクの私を一撃で倒したことをこのエルが認めている。既にAランク以上の実力がある、ということだ。
ランクアップには指定の魔物を狩ってくる以外にも方法があり、格上の冒険者に決闘で勝利する。もしくは、ギルド所長に認められランクを上げさせる。もちろん私にもその権限がある」
「ちょ、ちょっと待て。なぜ俺がそんな好待遇になるんだ?少なくともランクに関しては依頼を受けてナンボだろ、俺は一度も受けてないぞ?」
「依頼云々はほぼ建前に等しくてな。もちろん依頼によってランクも上がる。だが実力主義である、ということが現実だ。
ナナシ様、それに奥方のアスモ殿の両名はBランクはおろかAランクすら軽いものだと私は見た。直接決闘した私が言うのだ、間違いはなかろう。
それにランクが上がれば、ギルド管轄の店舗で割引、報酬金額割り増しなどあるのだぞ?
それでもナナシ殿は辞退するというのか?」
「いいえ、旦那様も私も喜んでお受けしますわ。店では安くなり、以来達成で報酬増加ですもの。
お金はいくらあっても困りませんわ」
「アスモ…まぁそれもそうだな。だが忘れるなよ、しばらくの間俺らが自主的に依頼を受ける以外は全てお断りだ。
少なからず俺らにはやることや知るべきことがありすぎるんだ。それだけは譲れない」
「あ、ああわかった。それと忘れていたのだが…冒険者登録に関わることだが、配布されるプレートもBランクまでは鉄製プレートなのだ。だが、Aランク以上でプレートの素材が変わる。
Aランクで銀製になり、Sランクともなればミスリルのプレートとなる。ここ数年Sランク以上の冒険者と認められる存在がいなくてな、加工に時間が欲しい。暫定的にBランクとして鉄製のものを用意した。
それとBランクでは先ほど教えた割引や報酬増加はないが許してほしい」
「それは構わない。その代わりにといってはなんだが、俺たちはまだ滞在予定の宿を決めていないんだ。どこかあれば紹介してもらえると助かる」
「その程度であれば、ギルドの目の前の宿はいかがか?そこはギルド管轄でな、私の紹介状を見せれば問題ないだろう。
それにこちらが時間をもらう側だ、私の権限でナナシ殿とアスモ殿の2人をプレート配布まで無料で利用できるようにしておこう。ただし、宿泊費のみに限らせてもらう。食費は自腹で頼む。
これはギルド側としてできる最大の譲歩なのだ、理解してほしい」
今回急遽決まった決闘による報酬は思いのほか良いものとなった。
金貨200枚、Sランク冒険者、そしてSランクプレート配布までの滞在場所の確保及び宿泊費無し。
破格といっても過言ではなかった。
紹介状代わりにグリーグの実の娘であるエルが同行し、ファスターの町案内及び各施設の説明を担当することとなった。
ナナシとしてもありがたい話ではあったのだが、一番喜んでいたのはエル本人である。
ギルドの受付として1日中座って対応するのも面白くなく、仕事として扱われつつ町を散策できる上に、イケメンで父親より強くSランク冒険者となったナナシと一緒にいれることが何よりも嬉しいようだ。
紹介された宿は、ギルド管轄とだけあって冒険者が多く利用しており、汚れることも少なくないため徹底した清掃が毎日行われている。そのため内装や部屋自体も綺麗にされていた。
ナナシとアスモは夫婦扱いのため同室で部屋を借りることとなった。
「同室なのは我慢しよう。だがなぜベッドをピッタリとくっつける必要があるんだアスモ?」
「そんなの決まっていますわ。夫婦が同じ部屋で同じベッドで寝る、そしてその流れのまま…うふふ」
「よし、お前を亜空間に閉じ込めておくか。んでそうそう、お前らにも大事な話があったんだ。
来てくれてありがとな、エレン、シルビィ」
「え、ええ…何かしら?アタシたちもこの宿を拠点にしているから何も問題はなかったのだけれど」
「ウチも同じ宿で嬉しいなー!これでいつでもナナシクンに夜這いがかけれる…ニヒヒ」
「よし、シルビィの扱いはエレンに頼んだ。…じゃなくてだな、結構真面目な話だ。
これから俺とアスモだけで行動することになるんだが…お前らが良ければだがしばらく俺らにいろいろ教えてくれないかと思ってな。要するにパーティを組んでくれないか…ということだ。
もちろん無理にとは言わないし、予定があるならそっちを優先してくれて構わない。依頼も言ってくれれば手伝うが…どうだ?」
「ウチは大歓迎!というかずっと一緒にいると思ってたよ?エレンはどうするー?」
「あ、アタシは…その…そう、シルビィが心配だから!仕方なく付き合ってあげる!
アンタのためじゃなく、他でもないシルビィのためだからね!わかった!?」
「お、おう…アスモもそれで構わないか?」
「もとより旦那様の意見に否定するつもりもございませんわ。この者たちであれば、私もある程度信用できます。信頼に足るかは別の問題ですが」
「そうか、なら問題は無いな。一応明日はエルに町の案内を頼んであるから、明日は休みというか自由にしてくれ。2人から聞きたいことはあるか?決闘の件以外で」
「ちぇっ、先に潰されちゃった…そうだなー、このパーティの名前とか考えてたりする?
もしないならウチとエレンで明日考えておくけど…どう?」
「パーティ名か…まぁ任せる、エレンも頼むな」
「わ、わかったわよ…それじゃ今日は色々あってアタシも疲れたし今日は休ませてもらうわね。
シルビィ、鍵は渡しておくからちゃんと戻ってきなさいよ」
「はー『はーいじゃねぇ、お前も帰れ』ちぇー、仕方ないなあ。おやすみ、ナナシクンっ」
しばらくの間だが、エレンとシルビィ2人を加えた4人パーティが結成されることにした。
携帯電話を使って調べることもできるのだが、ナナシは風情を楽しみたいと考えているためほとんど使ってこなかった。
というより、『賢人』に教えてもらうまで存在を忘れていたのだが…
---マスター、私も一緒にいることをお忘れなく---
そんな『賢人』の声が脳内に響いたような気がした。
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。